帝人は売れ残りだった。
黒い耳と尻尾が気味が悪いと言われて買い手がつかないロップイヤーのまだまだ手乗りサイズの子供。
だが帝人はそれをまったく気にしていなかった。
一緒のケージにいた友達の正臣がいなくなってしまったことは寂しかったが可愛らしい、大事にしてくれそうな女の子に貰われていった為に幸せになってね。と笑顔で見送ることが出来た。

帝人もいつかいい人に出会えたらいいなぁ。とほんのり思いながら今日もケージの中でぬくぬくとお昼寝を楽しむのだ。








「あ、わりぃ静雄。煙草切れたから買ってくる。ここでしばらく待機な。」
「うす。」

本日は何事もなく取立ての仕事が終わって一息ついた公園。
上司であるトムを見送りながら静雄は自分の煙草に火をつけて燻らせる。
さて、今日の仕事はこれで終わりだろうかと思案していると視界の端にペットショップの建物。
ケージの中には可愛らしい子犬や子猫の姿が見える。

(あー…)

静雄は基本的に小動物が好きだ。
出来れば部屋で飼いたいとも思っているが何分この力のせいで何時殺してしまうかわからない。
次第に苛立つ気持ちを抑えようとその店から視線を反らそうとしたその時だった。

黒い塊が静雄の瞳にとまったのは。

ゆっくりゆっくりと見えない何かに誘われるように静雄はペットショップへと近づいていく。
そこにいたのはまだ赤ん坊らしい小さなうさぎ。
黒い兎耳が垂れていて動くたびに揺れている姿が純粋に可愛いと思った。
ロップイヤーという種類らしく、特価と書かれた札から察するにどうやら売れ残ってしまったらしい。
ダメだダメだと思いつつガラスケースに手を触れる。
するとそれまで食事に夢中になっていた子うさぎがとことこと静雄の手に己の小さな手を重ねて、


ふわり、と笑った。


それが決定打だった。
気が付けば静雄は店の中に入っていてその小さなうさぎを購入していた。






初めまして、ご主人様。

壊すしか出来ない俺の手を見て、お前が笑ったから。(欲しいと、ただ純粋に思ったんだ。)









「おい、静雄。その胸ポケットに入ってるのは何だ?」
「や、つい…」


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