ドロドロに甘やかして、いろいろなものから守って。
俺からしてみたら結構破格の扱いをしていると思うんだ。
だからねえ、そろそろ見返りをもらってもいいよね?



















いつものように帝人が学校帰りに池袋を歩いているといつものように折原臨也に声をかけられた。
軽く挨拶を交わし、冗談を言いつついつものように別れようとした時、

「ねえ、もうちょっとだけ付き合ってもらえる?」

と言われて帝人はちょっとだけなら、と頷いた。
促されるままに少し薄暗い路地の中を歩く。
するとぴたり、と臨也が足を止めた。
「臨也さん?」
不思議そうに帝人が臨也に問いかけると鋭い衝撃が襲う。
その次に背中に鋭い痛み。
「っか…は…!」
激しく背中を打ち付けられ、おかしくなる呼吸を整えようと大きく口を開けるとそのまま口を塞がれた。

近すぎる顔。
口内に広がる熱いぬるぬるとした感覚。

自分が何をされたのか理解した瞬間、口内に侵入していた臨也の舌を噛んだ。
おかげで唇は離れていったが、壁に押し付けられた両手は離れていってくれなかった。

「は、ぁ…っ何するんですか!?」
ぎんっ、と鋭い視線で臨也を睨みつける帝人。
睨みつけられた臨也は何事もなかったかのようにいつもの笑みを浮かべている。
そこで初めて帝人は全身に悪寒を感じた。
怖い。
頭の中に浮かんでいるのはその言葉だけ。
「痛いなぁ、帝人君。」
「…なんで…」
「俺さ、結構我慢したと思うんだよね。」
「…?」
「めいいっぱい俺なりに甘やかしたし、シズちゃんとか帝人君に近づこうとする奴らから守ってもあげた。君の為に結構何でもしてあげたと思うんだ。」
カチカチと歯が鳴る。
嬉しそうに言う臨也がとても信じられなかった。
そこにいたのは自分の知っている折原臨也なのだろうか?という気さえする。
いつの間にか取り出したナイフが首筋にあてられていた。ピリっとした痛みが走ったことで傷つけられたことを知る。
そしてそのまま首筋に顔を埋められ、つけられた傷を吸われた。
「っ…、ゃ…!」
抗いたいのに片手でいくらつっぱねても抵抗にすらならない。
「ねえ、帝人君。」
低音の、女の子なら一発でおちてしまうような声音が帝人の耳を擽る。
「帝人君の好きな娘、園原杏里ちゃんって言ったっけ?」
「!?」
「紀田君は元気?そういえば最近彼に会ってないなぁ…」
「二人に何かしたら許さない!!」
初めて、帝人が大声をあげた。
「うん。」
くるりと臨也の手の中でナイフが踊る。
「君は優しいからお友達の命は大事だよね。そして自殺志願者でもないから自分の命も大事だ。だからさ…」
綺麗な顔が間近に迫り、息がかかるまで近づけられる。
「ねえ、俺のものになってよ。」
いつのまにか拘束されていた手は開放されていて。
力いっぱいその体を押しのけて逃げるということだって出来たはずなのに一歩たりともそこから動けなかった。
それは威圧なのか、恐怖なのか、帝人にもよくわからない。
「…もし、僕が嫌だと言ったらどうなるんですか…?」

聞いてしまったら後戻りなんか出来なくなる。
そんなことわかりきっているのに。

「ずるいなぁ、帝人君は。俺にそれを言わせることで無理矢理自分を納得させる気でしょう?『皆を、自分を守る為には仕方ないんだ。』って。」
「…」
「……まあ、いいや。俺は帝人君のことが好きだからね。許してあげるし答えてもあげる。
君が考えている通りのことになると思うよ。もしかしたら、それ以上のことかもしれない。」
にやりと笑う臨也に帝人はがくがくと膝が崩れ落ちそうになるのを必死で堪える。

おかしい。
おかしい。
何かが。何かがおかしい。
どうして、どうしてこうなった?

「おかしくなんかないよ。」
心の中を見透かされたように言う臨也に今度こそ帝人はその場に崩れ落ちた。
「おかしいことがあるのなら、そうだなぁ…君が俺をおかしくしたんだ。」
「ぼ、く……?」
「そう。君が俺をおかしくした。人ではなく俺は君という個を愛した。だから君も俺を愛してくれなくちゃ。君が俺のものになってくれるなら、他の人間には何もしないであげるよ。」

なんという無茶苦茶な理論なんだろう。
だが、臨也の狂気に触れ、疲弊しきった帝人には己の所為という言葉がぐるぐると回っていた。

「だから、ねえ。帝人君。俺のモノになって。」

その頬に流れた一筋の涙を舐めとり、そのまま臨也は帝人の唇を塞いだ。


















あぁ、やっと手に入れた!!











(例えばそれが、壊れてしまった人形でも)
(手に入れてしまえばこっちのもの!)



fin.



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