ぷにぷに。




洋服越しに脇腹の肉を摘む。同時に漏れるため息。

「何?どうかしたの?」

隣を歩いていた臨也が帝人の顔を覗き込む。その表情は喜色に満ちている。

「わかってるくせに聞かないで下さいよ。ちょっと太ったかなぁって。」
「え〜!まだまだ十分に細いよ。もう少し肉付きあった方が抱き心地もいいしね。」
「大通りで変態発言はやめてください。まぁ、別に女の子じゃないのでいいんですけど、今日クラスメイトにも言われたら少しは気になるじゃないですか。」

そう言って視線を下へと落とす。

「え、何それ。俺以外が帝人君の裸見るなんて許せないんだけど。そいつの名前教えて。ちょっと殺して来る。」
「いい加減にそのよく回る口を閉じろ!それと変な言い回しはやめてください。体育の着替えの時に言われたんですよ。」

不満そうに唇を尖らせる23歳を帝人は一瞥する。

「それもこれも臨也さんのせいですからね。」
「えー、俺?」

ニヤニヤと笑っていることからみるに、帝人が何を言いたいかわかっているのだろう。
その姿に軽く殺意すら覚える。

「そうです。貴方と付き合うことになったせいです。」

そう。
いわゆる帝人と臨也がお付き合いというものをするようになってから、帝人は外食が増えた。
学費以外仕送りのない帝人は当然、三食自炊だった。バイトで稼いだお金は大体が光熱費やプロバイダー等の費用に当てられる。もともとあまり食に執着があるほうではなかったので1番最初に食費を削ることにしたのだ。
それが臨也と付き合うようになってから一変した。
とにかく臨也はグルメだ。帝人の手料理を好んで食べてはいたが帝人が委員会などで遅くなったとき、ふと思いついた時、臨也は帝人を伴って外へ出る。
それがまたファーストフードやファミレスではなく、正装で入るのが当たり前なのではないかというような高級店ばかりで。一介の高校生である帝人にとって一生訪れることはないのではないかというそこは味ももちろん申し分なくて。ついついがっついて食べてしまうのだ。

「小さいときに読んだ絵本の魔女みたいですね。」
「へぇ?」
「お気に入りの子供を太らせてから食べちゃうような。」

そこまで言ってから帝人は思うままに口に出した自分の発言に後悔した。
隣を歩いていた臨也の顔が物凄く楽しそうに(帝人にとっては悪魔のように)微笑んでいたから。
何か言おうとする帝人の腕を掴み、薄暗い路地へと入っていく。
これは非常にまずい。
本能が警鐘を鳴らすが、意外と力強い腕はそう簡単には解けない。
人気のないところへ来たときようやく手が離れるが、すぐさま壁へと押し付けられる。

「い、いざや…さん……?」

恐る恐ると問いかけると先程見せた笑みを再び浮かべた。その瞳の奥には明らかな情欲の色が宿っている。

「そっか言われてみれば確かに、悪い魔女のようだよね。そうしたら魔女に捕まった子供はどうしようか…お伽話のように逃げ出す…?でも残念。俺はそう簡単に逃がさないよ。捕まえた子供は食べ頃か味見してみようか。」
「ん、んん…」

噛み付くように口づけられる。強引に唇を割られ、搦め捕られる舌。耳を犯す水音。飲み込めなかった唾液が帝人の顎を伝う。
喰われている。
そんな錯覚さえ起こさせるようなキスだった。
唇が離れる頃にはすっかりと蕩け、縋る腕が小刻みに震える帝人に満足げな臨也がいた。
今度は軽く啄むようなキスをおくっていた臨也の唇が下へと辿る。

「っ…!や…!!こ、ここ外……!」

裏路地とはいえここは屋外。いつ誰に見られてしまうかもわからないから帝人が止めて欲しいと訴えれば、

「こんなところ誰も通らないよ。それに頑張って声を我慢してる帝人君が見たいから。」

語尾にハートマークでもついていそうなくらい楽しそうな声音に帝人は眩暈を覚える。

「こんの変態…!」

せめてもの抵抗に帝人は臨也の腕に思い切り爪を立てた。

「褒め言葉だね。」

とうとう下腹部へと降りていく頭を眺めて帝人は体の力を抜いた。



















最近ウエストが気になるの。



(悪い魔女が食べごろを判断するのはいつかしら?)









title by 虚言症



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