(痛いなぁ…) バイト帰りにチンピラに因縁をつけられ、路地裏に連れて行かれてからどれくらい経っただろうか。 先ほどから喚き散らす言葉から察するにどうやら平和島静雄にやられたことがあるらしく、たまたま静雄と一緒にいた帝人をみかけてこうして逆恨みにきたというわけである。 話し合いが通じるわけもなく一発殴られてしまった頬が痛い。 大体、本人に敵わないからって弱いものに八つ当たりなど人として終わっているのではないか。それに平和島さんはそんなに悪い人じゃないんだから(ただ沸点が低いだけで。)怒らせることをする方が悪いんだと思うんだけど… などと現実逃避していると一番前にいたリーダー格の男がキレた。 「てめぇ!聞いてんのか!」 びゅ、と空気を切る音がして拳が振り上げられる。 殴られるのを予期して縮こまるがいつまで経っても予想した痛みは振ってこなかった。 (あれ?) 恐る恐る目を開けてみれば『大丈夫か?』と書かれたPDAの文字が見えた。 そして足元にはつい先刻まで帝人に絡んでいたチンピラたち。 「セルティさん!」 ぱぁっと帝人が破願する。 首なしライダーを前にしてここまで安心されても、とセルティは思うのだが、帝人にとってセルティは池袋にきて出来た友人なので怖いという感情は既に消えていた。 「助けてくれてありがとうございます。」 傍に落ちていた鞄を拾い上げ一礼する。 帝人を痛めつけることが目的だったようで、財布の中身には手がつけられていなかったのが唯一の救いだ。 『仕事帰りに通りがかっただけで、たいしたことはしてないよ。』 「それでも、助かりました…ったぁ…」 最初に殴られた時に切った口の中が安心したせいか急に痛みを持ち始め、思わず顔を顰める。 『!怪我をしているのか?何があった。』 おろおろとPDAに打ち込まれる文章に帝人は苦笑いを浮かべる。 「いや、どうやら前に平和島さんにやられた人たちが僕に因縁つけてきて、何とか落ち着かせようとしたら逆に殴られちゃって。」 男としてちょっと情けないですよね。なんて言って乾いた笑みを零す。 そんな帝人を見ながらセルティは静かにそして冷ややかに静雄に落とし前をつけさせようと心に決めた。 『とりあえず、知り合いの医者に診せるから乗って。』 「え!?いや大丈夫ですよ!そこまで迷惑かけられません!」 『ダメ!化膿したりしたら大変なことになるから。…変人だけどとりあえず腕は確かだから。ね。』 「うぅ…は、い…」 結局、押し切られるかたちでセルティのバイクの後ろに跨る。 すると影で出来たヘルメットが頭を覆う。 『変な感じがするかもしれないけど、我慢して。』 「そんなことないですよ。ありがとうございます。」 誰かに怪我の心配をされたり、こうして気遣ってもらえることが久しぶりで帝人は正直凄く嬉しい。 そうして音もなく黒いバイク―シューターは走り出した。 「お帰り、セルティ。今日もお仕事お疲れ様…ってあれ?」 両手を広げて二人を、というかどちらかといえばセルティを迎えたのは白衣を着た男だった。 「いらっしゃい、えぇっと、」 「あ、初めまして!竜ヶ峰帝人です。」 一礼すると白衣の青年はにっこりと笑った。 「初めまして、岸谷新羅です。君が帝人君かぁ。セルティや臨也たちから話には聞いていたけど本当に普通の子なんだね。」 「は、はぁ…」 まじまじとこちらを見てくる男にとりあえず、普通と称されたことに文句を言えばいいのか(実際そのとおりなのだが)不躾に見られてることに怒ればいいのか。 だが、とりあえず。 (臨也さんたちと同じカテゴリに属されるのは嫌だな。) とどこか的外れなことを思っているとセルティが新羅を影でつついていた。 『不躾に何をそんなじろじろ見ている。』 「あぁ!セルティ!そんなやきもちを妬かなくても僕はいつだってセルティのことしか考えてない…って本気で痛い!ちょ、マジで穴あくから!」 照れ隠しなのか本気で穴があきそうなくらい新羅をつつくセルティに思わずくすりと笑みが零れる。 『帝人?』 「あ、いや。仲がいいんだなぁって思って。」 「やっぱりわかってくれる!?こう愛情表現が激しいんだけど相思相愛っていうか以心伝心、熟練夫婦みたいで、ってセルティ本気で痛いよ!」 『だ ま れ !!///』 やっぱり仲がいいなぁなんて思いながらほんの少し胸が温かくて、新しい発見と出会いがなんだかとても嬉しかった。 『というわけで、帝人の怪我を見て欲しいんだが。』 あれから部屋へと招き入れられセルティが新羅に事情を説明している間、帝人はちょっと居心地が悪そうにソファに座りながらきょろきょろと部屋の中を見回していた。 自分のところのボロアパートとは段違いの広さ。やっぱりお医者さんって儲かるのか。と比べてみて少し虚しくなる。 「大変だったね〜まあ静雄にちゃんと落とし前はつけさせるから安心して。はい、口あけて。」 なにやら物騒なことを呟いていたがとりあえず何も言わずに言われたとおり口をあける。 軽く中を見られてから、「OK。もう大丈夫。」と言われ口を閉じる。 「とりあえず今日は殴られたところ冷やして、噛み締めてなかったせいで結構中が切れちゃってるから鎮痛剤渡しておくね。」 はい。と小さな袋を受けとって再度お礼を言う。 『何か、初めてお前がまともな医者に見えた。』 マグカップを二つ持ったままソファの後ろでセルティが呆けていた。 PDAに打ち込まれた文章を見て新羅は苦笑い。帝人は小さく笑う。 セルティからカップを受け取る。 「すみません、何から何までお世話になっちゃって。」 『気にすることはない。私が好きでやってることだ。』 「そうそう。それにセルティの友達なら僕にとってもそう。だから大歓迎だよ。」 久々に触れる優しさに帝人はぎゅっと胸を締め付けられる。 「僕一人っ子だから何だか兄姉ができたみたいで嬉しいです。」 ふにゃ、と柔らかい笑みを浮かた帝人を途端にセルティが抱きしめる。 「え!?」 「セルティ!?」 『は!可愛くてつい…』 あたふたと狼狽する様がなんだか可愛らしくて新羅と2人、また笑った。 fin. |