※誰も報われてません
※死ネタ
※ちょっとカニバ的な表現があります。ここで意味がわからない方はバックプリーズ。
※OKな方は下へスクロール。
別れは酷く突然だった。 静雄に呼び出された帝人は喜び勇んで部屋を飛び出した。向かうのは帝人のバイト帰りによく二人で立ち寄った公園。 入り口に佇む静雄の姿を見つけると帝人は破顔しそのまま静雄に抱きついた。 「静雄さん…?」 いつもなら不器用ながらも抱きしめ返してくれる腕がない。 優しく名を呼んでくれる声もない。 不思議に思い、体を離して小首を傾げた時だった。 「別れよう。」 帝人がこれまで聞いたこともないような冷たい声で別れを告げられたのは。 「…」 ふらり、と帝人の体が傾ぐ。何を今言われたのか理解できない。 耳が、脳が、心が、先ほどの言葉を理解するのを拒んでいた。 「な、…ん…で…?」 弱弱しく掠れた声でそう紡ぐのがやっと。 大粒の涙が帝人の瞳から溢れ出す。それでも、静雄は動くこともせずに視線を帝人から外したまま何も言わない。 「ぼく、何か……わる、こと……」 懸命に言葉を紡いでいく帝人の悲痛な声だけが辺りを震わせる。 「悪ィ。」 ただ一言、静雄が発したのはそれだけ。 それだけだったが帝人は理解した。してしまった。 もう、元には戻れないことに。 「ゃ…ぃ…い、や…だ………」 嫌だ、とすすり泣く帝人を置いて静雄はその場を去ろうとする。 追いかけて行きたいのに帝人の足は何かに縫い付けられたように動かない。 伸ばした腕もただ、空をきるだけ。 そうして遂に静雄の姿が見えなくなるまで帝人はただ、その場で涙を零すことしか出来なかった。 『静雄。』 静雄が帝人と別れてから2週間程経った日。 静雄は池袋の街でセルティに呼び止められていた。 何かと問いかければ打ち込まれたPDAを見せられる。 『帝人を見ていないか?』 瞬間、体中が強張るのがわかった。 だが、それをおくびにも出さずに「見てねぇ。」とだけ答える。 『ここ最近帝人、学校にも家にもいないみたいなんだ。友達の一人が心配して私に相談してきたんだ。』 「いつからだ」と問えば「大体、2週間くらい前だ。」と返ってきた。 2週間前。 それは静雄が帝人に一方的な別れを切り出した日。 『静雄は帝人の恋人だろう?何か知らないか?』 そうセルティに聞かれたときに静雄はすかさず、「もう別れた。」と告げた。 『…は?』 「だから、俺は帝人と別れたんだよ。」 『どうして!?』 「どうしてもなにも、合わないと思ったんだ。」 呆然とするセルティに「というわけで俺は何も知らねぇんだ。悪ぃな。」とだけ言って静雄はその場を足早に去った。 『帝人がいなくなった。』 静雄は取り出そうとした煙草をそのまま握りつぶす。 帝人が姿を消したのが2週間前ならそれは自分のせいだ。 一方的に、ただ自分の我侭で帝人に別れを切り出して、嫌だと泣く彼を置いて去った自分の。 ぐしゃりと髪をかきあげて天を仰ぐ。 あのときの選択が間違えていないと信じたい。 そして、それは唐突に訪れた着信に無残に打ち砕かれることになる。 「やあ、シズちゃん。思ったより早かったね。」 「うるせぇ。余計なことは一切喋るんじゃねぇ。…あの写真はなんだ。」 ところ変わり新宿、折原臨也のマンション。 訪れることはあっても訪ねることはないだろうと思っていた臨也のマンション内に静雄はいた。 「何ってそのまんまだよ。」 言い終わらぬうちに静雄は臨也の襟首を掴み上げる。 「手前ぇ…帝人に何しやがった…!!!」 発端は数分前、見知らぬアドレスから静雄の携帯に送られてきたメール。 何気なくそれを開くと本文は一切書かれていなかった。 あったのは一枚の写真のみ。 着飾って、その瞳をかたく閉じて椅子に座る帝人の姿の。 「…シズちゃんがそれを言うの?」 音を立てて払われる手。臨也の静雄を見る目は普段と違い、汚らしいものを見るソレで溢れていた。 「一方的に帝人君を裏切っておいて『何しやがった』って、滑稽を通り越して不快だよ。ものすごくね。」 はき捨てるように言う臨也にぐっと言葉に詰まる静雄。 「…会わせてあげようか?帝人君に。あっちの部屋にいるよ。」 臨也が閉まっている扉を指差す。 何か企んでいる感が否めないが、今は帝人の無事を確かめるのが先決だと判断し閉じられた扉へ向かう。 背後で臨也が怪しく微笑んでいるのに気づくことなく… 「帝人!!」 勢いよく扉を開ける。 その時に扉が壊れてしまったがそんなことはどうでもいい。 部屋の中心には添付されていた写真通りの帝人が座っていた。 「帝人…」 彼に歩み寄りその肩に手を置いた。 瞬間、 ぞくり、と静雄の背に悪寒が駆ける。 閉じられた瞳。 静雄以外の人の気配がない部屋。 そして恐ろしいほど冷たい帝人の身体。 「あはははははは!!!!残念だったねぇ、シズちゃん。帝人君はもう俺のものだよ。」 その台詞を聞いた刹那、静雄は臨也の顔を殴り飛ばしていた。 臨也の体は軽く飛んでデスクの側面にしたたかに背を打ち付けられる。 「何で殴るのさ。これは帝人君が望んだことなのに。」 「な…!」 徐に立ち上がった臨也はデスク上にあったICレコーダーを手にとる。 そうして、そのスイッチを押した。 『………』 『帝人君、何か食べたら?ここ数日何も口にしてないんでしょ?』 『……………』 『…そんなにショック?』 『………………………』 『妬けるなぁ。』 『………………………………………わからないんです………正臣も静雄さんも何も言わずに僕を置いていく………わからないんです…』 『そんなに泣かないでよ。 『……独りは、嫌なんです…』 『俺がいるよ。』 『………………………………………』 『…ねえ、俺が帝人君を殺してあげようか?きっと楽になれる。』 『ぅ…』 『その代わり、条件があるんだけど。』 『じょう、け…?』 『そう。帝人君が死んだら、その体を俺に頂戴?』 そこでぷつりと音声が途切れる。 「可哀想な帝人君。シズちゃんと別れた後も俺が彼の部屋を訪ねるまでずーっと泣きっぱなしだったみたいだよ。 俺が行った時には泣きすぎて目は真っ赤だし、声は掠れて酷いものだったし、眠ってもいないしご飯も食べてなかったみたいだからすごい衰弱しきって。」 「黙れ…」 「本当、愚かだよね、シズちゃん。大事な大事な帝人君を、他の誰でもない自分から守る為に遠ざけたのに結局帝人君を壊して、死なせちゃったんだから。」 「だまれ!!!!」 バキッと音を立ててデスクが真っ二つに割れる。 握った拳から血が滴り落ちるのを冷めた目で一瞥し、臨也は再びICレコーダーのスイッチを入れた。 聞こえてくる帝人の声はいつもの優しさも、温かさも感じない機械的で、掠れたガラガラな声だった。 『…そ、したら…ころしてくれますか…?』 『うん。いいよ。』 『ありがと、ございます…』 そこで録音は終わり。 「そのときの帝人君の笑顔、本当に可愛くて綺麗だったよ。 約束どおり、あの子を殺してからその中身を抜いて、あの綺麗な瞳がなくなっちゃうのは残念だったけど、腐ったらいやだから眼球を抜いて。 もちろん全部俺が食べてあげたんだけど。死体に防腐処理を施して。で、ああして人形みたくしてずーっと俺の傍にいてくれるんだ。」 恍惚といた笑みを浮かべる臨也にどうしようもなく吐き気と殺意が静雄の中に込み上げる。 だが、臨也はそんな感情を抱くことすら許さないというように言葉を紡いだ。 「言っておくけど、そこまで帝人君を追い込んだのはシズちゃん。君だよ。」 (あぁ、一体どこで何を間違えた!!) fin. |