開戦狂想曲(帝人が臨也の姉な戦争サンド)


「大丈夫ですか?」


路地裏。
誰も寄り付かない筈の場所で控えめにかけられた声に静雄は伏せていた顔をあげた。

「怪我してるんですね…ちょっと待っててください。」

その少女は静雄の前にしゃがむと何やら鞄の中を漁りはじめた。

(なんだ……)

ぼうっとする頭でその様子をただ見つめる。
アイツとの幾度目かわからない死闘を繰り広げ、疲れ果ててたどり着いた路地裏。
ほんの少し休憩して帰るつもりが一体これはなんなのだろうか。

「はい、ちょっとじっとしててください。」

取り出したのは救急セット。
少女は実に手慣れた様子で静雄の手当てをしていく。
久しぶりに誰かに触れられている気がする。
綺麗に動く指を見ながら静雄はぼんやりと思い、意外と人の温もりに飢えていたことに気付く。

「これでよしっと。」

最後に唇の端に絆創膏が貼られて少女の体が離れる。
満足そうに笑む彼女に静雄は恐る恐る声をかけた。

「何で……」
「え、あぁ。救急セットのこと?うちの弟もよく怪我するものだから常に持ち歩くようになっちゃったんだよね。」
「や、そうじゃなくて…俺のことしらねぇのか?」
「?うん。ごめんね、僕今日池袋に越してきたばっかりなんだ。」

頭にハテナを浮かべながら首を傾げる姿がなんとも可愛らしい。
更に何か話そうとする静雄を遮るように少女の持っていた携帯が鳴る。

「ちょっとごめん。もしもし、いっくん?そんな大きな声で怒鳴らなくても聞こえるしわかってるよ。ちょっと寄り道。…迷子じゃないもん。今から行くって。うん、うん。待ってて。ね。」

ぷつりと通話を切って少女は立ち上がる。

「ごめんね。弟と待ち合わせしてたの忘れてた。怪我、酷いようなら病院に行くようにね。」

そう言って立ち去ろうとする背に思わず声をかける。

「あ、あの…手当てサンキュー!」
「どういたしまして!またね、平和島静雄くん!」

目を丸くする静雄を尻目に少女の姿はもうない。
しばらく去っていった方を見ていた静雄の口から笑い声が漏れる。

「ははっ…何だ、ちゃんと知ってるんじゃねえか。」

つまり彼女は静雄が何者か、何と呼ばれているか知っているか理解していて手当てしてくれたということで…

そっと絆創膏が貼られた唇の端に手を添える。
それは名も聞けなかった彼女が確かにいたという証。
去り際に「またね。」と言っていたということはまた近いうちに彼女に会えるということだ。

「早くまた会いてぇな。」

先程とはうってかわって晴れやかな気持ちで静雄はその場所を後にした。
















(あー……ねむ……)

廊下を一人歩きながら大きな欠伸を一つ。
夕べ夜更かしをしていたせいで静雄の眠気はピークに達していた。
このまま屋上で昼寝でもしよう。
そう思っていた矢先、視線の先に黒い学ランが翻る。
プツン、と音がしたかと思うと感じていた眠気もどこへやら。一直線に駆け出していく。
間違いない。あれは天敵、折原臨也ではないか。
すると黒い影はある教室へと入っていく。

(あれは図書室…?また何か変なこと考えてんじゃないか?)

耳をそばだてていればドアの向こうでやはり臨也の声がしていた。

「…ぇ、…でしょ?」
「……す。…………けど。」

小さくて聞こえづらいが誰かと話をしているようだ。
何かを企んでいるにしろ誰かに絡んでいるのしろやはりここで殺しておかなければ。

「臨也ぁぁ!てめえこんなところで何企んでや、が……」

ガンッと勢いよくドアを開けて中へと踏み込む。
ドアが音を立てて倒れるがそんなことは静雄はどうだっていい。
目の前の害虫さえ殺せれば。
だが、臨也の前にいる人の姿に静雄の怒りの感情は急激に鎮静化していく。
黒い長い髪。幼い顔立ちをした少女。
あれはまさにこの間怪我の手当てをしてくれた少女ではないか。

「チッ。何シズちゃん。今俺相手してる暇ないんだよね。さっさと帰って。ついでに死んで。」

不機嫌を隠そうともせずに臨也はどこからかナイフを取り出して静雄へと向ける。
いつもより余裕がないようにも思えるがいつものことだ。その後キレた静雄が手近な物で応戦する。
そう、いつものことだ。
だが、今日はいつもと違っていた。

「コラ。」

割って入る高い声。
教師ですら逃げ出すような場面においてこともあろうに少女は後ろから臨也の頭を叩いた。
これには静雄も驚く。当の臨也はといえば怒るわけでもなく叩かれた後頭部を押さえている。

「いたい姉さん。これから俺と姉さんの愛の一番の障害となるやつを始末するんだから邪魔しないでよね。」
「同級生に向かってナイフ向けて始末とか言わない。それから学校では『帝人さん』て呼ぶようにと昨日散々注意した筈だけどい・ざ・や君」
「えーだっていいじゃん。姉さんって呼んでおけば牽制にもなるし俺達の関係も吹聴出来て便利!それから愛については否定しないんだね姉さん!俺すっごく嬉しいんだけど!」
「うっざい。まあ、腐っても弟ですから。クルちゃんとマイちゃんと同じくらい好きだよ?」
「………姉さんちょう残酷…でも大好き。」

がくりと膝を落とす臨也の背を少女が撫でている。
すっかり取り残されてしまっていた静雄は混乱する頭で与えられた情報を必死に整理する。

姉さん……?ってことはあの人あれで年上か!?いや驚くべきことはそこじゃなくて、ノミ虫の野郎、弟としか見られてなくてざまあみろ。いや、そうことでもねえ。いやそれはいいんだが、え……え?

何を考えてもたどり着く結論に静雄は目眩を覚えた。
出来ることならすべてが嘘だと言ってほしい。
だがそんな静雄の思いとは逆に死神の鎌が振り下ろされる。

「昨日は自己紹介できなくてごめんなさい。改めまして、そこの折原臨也の姉で折原帝人です。今日からここの司書さんです。よろしくね。」

ふわりと笑う笑顔は可愛らしいのに紡がれる言葉は死刑宣告に近い。
呆然と静雄がしているといつの間にか復活した臨也が背後から帝人に抱き着く。
その行動に慣れているらしい帝人は臨也の好きなようにさせている。

「ダメだよ、シズちゃん。俺の姉さんだから。」

口角を上げて挑発するように笑みを浮かべる臨也にぴくり、と静雄のこめかみが動く。






じょうとうだ、コラァ!!
  (おたがいはつこいなんです。)







轟音をたてて臨也と静雄は校庭へと場所を移動させる。


(うわぁ、いっくんの言った通り本当にゴールポスト持ち上げてる!凄い!)
(死ね、ノミ虫!)
(やぁなこった!何なに、帝人姉さんのこと好きになった?でもだぁめ!姉さんはお前なんかに絶対やらない。それにね非日常に憧れる姉さんはシズちゃんのその力に興味があるだけでシズちゃんを見てるわけじゃないんだよ。)
(っ!黙れ!!)







長いことかかってしまってすみません…
しかもあんなおいしい設定のリクをうまくいかしきれてないという…;;
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