白い夢





たとえばそれは、一瞬で焼きつく白昼夢。
フィルムの表面を撫でて焦がす、まっしろな光。




『悪い、』

扉を開ける、地面をたたく雨の音、白いシャツ。

『遅くなった』

すっとする外の空気、黒い髪、濡れた。

(………ああ、)

ああ、濡れたシャツ越しの肩、腕、それと、

赤いくちびる。





「……、」

目を開けると白い天井だった。
つけっぱなしにしたテレビの向こう側で雨が窓を滑っている。
手のひらを握ったりはなしたりしてみた。
現実味を、思い知ろうとして。

(なんの夢みてんだ、なんの、)

思い出して、笑えなかった。
テレビから流れるBGMにもなんとなく馴染んでいる。
おかしくないか、おかしいだろう、あんな。

(あんな風なとこ、見たことないよな)

だとすればあれは自分の中から出てきたってことになる。
あんな、………………あんな風に濡れて。

(…今のはちょっとエロくないか)

思わず頭を抱えてしまう。
俯いて閉じた目の奥で、ひとつなにかが光ったような気がした。

(白いシャツ、光?)

…ちがう、今日はほんとにあいつが来るんだ、ここへ。
来るんだ、何時だっけ? 時計、……今2時って、

「……、」

……さっきまで雨なんか、降ってたっけ?





混乱した頭にチャイムの音は鮮明だった。
テレビも秒針も、雨の音さえも遮った。

(…、)

ドアに1歩1歩近づいていく。触れた壁の冷たさ。
遠くなっていくテレビの音。近づくはずの雨の音、それから。

(正夢、だったりして)

さっきの映像を思い出す。一瞬で目蓋を焼いた白。
自分の中でそんな風になっている友だちのはずのその肩。

「……………………、」

ロックの外れる音。
ドアノブは予想以上に冷たかった。
開くドア、暗い室内にさす光に一瞬、目を閉じた。


「悪い、遅くなった」



目蓋をあげれば、
雨の音にまみれた黒い髪と白いシャツと赤い…………。





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