きつねうどん横島入り


「おっ、この店だったんだな」

横島の見上げた先に建っている、まだ真新しい店。

事務所から徒歩5分の場所に出来たその店には、懐かしい思い出にある名前の看板が掛けられていた。
大阪にいた頃、よく母に連れられて食べに行ったうどん屋、【白海】の支店だったのだ。

がらがらー、と戸を開け中に入ると、記憶に残る本店と変わらぬ、これも懐かしい数奇屋作りの風景。

出来たばかりの店はまだ壁にも汚れひとつ無く、昼食の時間からもズレているのでそれほど混んでもいない。

と、入った位置から見える独特の纏め方をした九房の金髪。

夢中できつねうどんを食べる少女は、横島の事務所の同僚・妖狐タマモ。
笑顔満開で食べるその姿と、積み上げられた丼の数から、その満足度が十二分に察せられる。

その様子に呆れつつも、空いている隣に座って自分もきつねうどんを頼む横島。
が、タマモは一向に気付いた様子もなく、尚も7杯目となるそれに夢中。

「あれ? 何で横島がいるのよ?」

そうタマモが返したのは、横島が注文したものを受け取り、自身が7杯目を食べ終えた頃。

「ぱちん」と箸を割って、ちょうど食べようとした時に気付いた事は、ある意味作為的にも感じられる。

「さっきからいたぞ、俺……」

やっぱり気付いてなかったんだな、と続けると少々赤くなってそっぽを向くタマモ。
だが、顔は反らせつつも、視線は(横島の)きつねうどんの油揚げに固定されていた。
それを見て、もう一杯食べるかと真剣な表情で考えるタマモに、

「……夕飯、食えなくなるぞ」

苦笑しながら告げる。 ―――既に7杯食べている時点で、夕飯は入らない気もするが…。

「む〜」と唸りつつも、夕食を作ってくれるおキヌに悪いかなと思い直し、おかわりを諦める。
それでも微妙に諦めきれずに誘惑と闘うタマモにまた苦笑しつつ、ようやく自身のうどんを食べ始める。

(―――――あれ?)

懐かしい店のうどんを食べて、何故か首を傾ける横島であった。





「ありがとうございましたー」、という声に見送られ、店を出た2人。
目的地は同じであり、特に急ぐ必要もないので、食後の二人の歩調はいつもより幾分かのんびり。

「ねぇ、あの店のうどん美味しかったじゃない? 何で首を捻ってたのよ?」

どうやら横島が食べ始めた時、首をわずかに捻っていた事に気付いて疑問であったらしい。
「お揚げの誘惑」と闘っていたはずのタマモが、自分の事も見ていたのに少し驚きつつ答える横島。

「―――ここって俺が大阪にいた時、よく連れていって貰った店の支店なんだ。
 それで懐かしくて食べに来たんだけど……」

「充分美味しかったわよ? それなのに何が気になってるのよ?」

「こっちに出来た店だからか、関東風に出汁変わってたからな。 どうもあっちの関西風の時の方が美味かった気がしてな。 ………油揚げも向こうの方が大きかった気がするし」

「あんたの好みが関西風なだけでしょ」と言いかけたタマモだが、最後のセリフを聞いてその言葉を飲み込んだ。

「―――連れてって」

急に足を止めて、無茶を言い出すタマモを、何言ってんだとでも言いたそうな顔で見る横島。

だがタマモの目は―――本気だった。

「無茶言うなって。 美神さんが許可するわけないし、そもそも大阪まで行く金がねーよ」

タマモの方も保護者の性格と横島の経済状況を知っているだけに、その言葉で納得するしかなかった。

「まっ、一緒に大阪に行く機会があったら連れてってやるよ」

と、タマモの頭をぽんぽん叩きながら言う。 「絶対よ?」とタマモのセリフで締めつつ、再び歩き出す2人。 そんな2人の予想外の出来事が事務所で待っていたことなど、知る由もなかった。









「わ・た・し・と・よ・こ・し・ま・が・い・く・の・よ・!」

あまりの火力のため、青を通り越して白い火球を浮かべて言い切るタマモ。
その勢いに反射的にコクコクと首を縦に振ってしまう一同。

その原因は美神の手元にある2枚の依頼書。

横島とタマモが事務所に帰ると告げられた2件の依頼は、片方が北海道、もう一方は大阪での除霊。

出身地の土地勘も考慮し、まず大阪の方に選ばれたのが横島。この時点で美神は北海道行きが決定する。
そして除霊の難易度の関係から、横島組が2名、美神組が3名と告げる美神。

となると、横島について行きたいと主張するのは、彼に恋心を抱くシロとキヌ―――
だが、今回に限って頑なに主張したのはタマモ。

その意思は固く、思わずシロが竦むほどだったが、何とか踏ん張って自分が行くと言うシロ。

普段なら掛け合い漫才で(本人達は真剣なのだが)終わるそのやり取りだが、今日に限ってはそれでは済みそうにない雰囲気を漂わせている。

つい数十分ほど前に成された約束…… 早くもそれが実現できそうな、またとない機会なのだ。 これを逃せば次はいつになるかわからない。 その思いがタマモの眠れる力を引き出す。

轟ッ、と音でも聞こえそうな勢いで出現した炎は一瞬で圧縮され、タマモの周囲を回る無数のビットと化したそれは、1つ1つが横島の文珠に匹敵しそうな勢いだ。

「オーナー、私の結界ではもちません」
 
無情にも告げられた人工幽霊一号の声に、一同は顔面蒼白。

「解ったわ! 解ったから狐火を引っ込めなさい、タマモ」

美神のツルの一声により、横島とタマモの大阪行きが決定したのであった。









「よ・こ・し・ま、約束覚えてるわよね?」

「はいはい、わかってるって」

背後から抱きつかれ、耳元で囁かれるという事をされながらも、普通に対応する横島。

美少女に抱きつかれても反応しない横島を、普段の彼を知る者が見れば偽者と疑うであろうが、これにはきちんと理由があった。

―――大阪行きが決定してから、既に20回以上繰り返されているのだ。

振り分けが決定し、おキヌやシロの視線も「何処吹く風」とばかりに終始ご機嫌であったタマモは、わざわざ横島のアパートにまで確認に訪れ、行われたのが先のやり取りの一回目。

背中に押し付けられる柔らかい感触や、耳に伝わる吐息などに反応していた横島。 壁に頭を叩きつけて「わいはロリコンやないんやー」と自己暗示を施す様は、完全に危ない人であった。

その後も、道端だろうが電車だろうが繰り返された行為に、流石の横島もいい加減慣れたのだった。 ちなみに、公共の場でそういう行為をする彼らを見て、殺意を抱いた者も多くいたとか…









「……ここです」

依頼人の下へたどり着いた2人が案内されたのは、放置された空きビル。 一見まだ使えそうに見えるそれは、悪霊の巣と化していた。

「うわぁ、凄いことになっとるなぁ……」

依頼書に書かれてあった以上に悪霊の巣窟となっているそれは、訪れるまでの数日で、更に数が増えたらしい。 

「建物自体はどうなっても構いませんので、よろしくおねがいします」

その言葉を聞いて、ぴくっと反応するタマモ。 横島が依頼人となにやら話しているが、既に耳に入らない。

この建物、普通に下から登っていけば無駄に時間が掛かりそうである。 だが、依頼人からビルはどうなってもいいという許可が出ている。

「一刻も早くきつねうどんにありつきたい」というその思いが、彼女に事務所で大阪行きを主張し時と同様、非常識な力を発揮させる。

「――――――白き鎖よ」

タマモが呟くと同時に立ち上った白い火柱は、細く収束しビル全体に絡みつく。 横島と依頼人がその火柱に気付き、何か叫んでいるが既に遅い。

タマモの頭の中には、この後横島と行くうどん屋のことしか無い。

右腕を引き、溜めることにより収束する白炎。



「一欠片も残さないわよ〜♪」

その言葉と共に振り上げられた腕から放たれた炎は、一気にビル全体を駆け抜け、白光が収まるとそこには塵ひとつ残っていなかった。

唖然とする横島と依頼人。 「お揚げ」に賭けるタマモの執念に、戦慄さえ感じた横島であった。








「では、これで失礼しますね」

GSって凄いんですね、と微妙に勘違いしていたが特に重要なことではないのでそのまま別れた2人。
予定より大幅に早く終わったため、空はまだ明るく、充分うどん屋へいける時間帯。

「じゃあいくわよ、横島♪」

いよいよ目的地に向かえるとあって、ご機嫌なタマモ。

「そーだな」

言うと共に歩き出す横島。
幸いな事に、この依頼場所は目的地からそれほど離れておらず、15分も歩けば目的地へと辿り着ける。

「お・あ・げ〜、お・あ・げ〜♪」

本来ならば引っ張っていきたいのであろうが、道がわからないため横島の腕に抱きつくような状態でいるタマモ。
ぴったりとくっついているため、歩きにくい事この上ないが上機嫌のタマモを見て「まぁいいや」と結論付けて放置する。
―――――決して押し付けられるものの柔らかさに負けたのではない、と自己暗示もばっちりだ。





「おっ、ここだここだ。結構覚えてるもんだなー」

周囲の景色と記憶を照らし合わせながら、あっさりとたどり着いた目的地。
掲げられた看板には、昨日東京で訪れた店と同じ「白海」の文字。
建物の作りも似通っているが、こちらの方がやや古い。
それでも改装でもしたのだろうか、横島の記憶にあるものよりも、随分と綺麗ではあったのだが。

「ねぇ、早く行くわよ」

思い出に耽っている横島を、抱きついた腕ごとぐいぐい引っ張るタマモ。
急に現実に引き戻されたが、どれだけ行きたかったか知っている身としては、ただ苦笑するだけ。

店の前まで来ると、がらがらーっと扉が開く。

出てくる人の邪魔になってはと、タマモを抱えて下がり、道を作る。

「あら、忠夫じゃないの?」

と、下がった横島にかけられた声。
最近こそ聞く機会は減ったが、以前はそれこそ毎日聞いていた懐かしいそれの主は…

「……おふくろ!? ―――何でここにいるんだ?」

見上げた先に居る店から出てきた女性は、横島の母・百合子であった。







ずるずるずるーっ と、満足そうにうどんを食べるタマモ。
その表情は昨日にも増して、満面の笑みが浮かんでいた。

「それで、何でおふくろがこっちに戻ってるんだ?」

タマモ同様うどんを食いながら、百合子との会話を始めようとする横島だったが…

「……忠夫、食べるか喋るか、どっちかにしなさい」






「母さんの後輩のしーちゃんって覚えてる? あの子が結婚することになったのよ。
 それで一回戻って来たの。それで、あんたとこの娘…タマモちゃんだっけ? は仕事なの?」

「……それ以外にこっちに戻ってくる余裕なんてあるわけないだろ」

「タマモちゃん、お代わり食べる?」

暗に仕送りを増やせという横島のセリフを華麗に聞き流し、タマモのお代わりを注文する百合子。

以前の来日の後、少しは増やしてもいいかと考えていたが、増やてもその分学校には行きそうにないので保留扱いとなっている。
現状では仕送り増加はあり得ないということであった。

「ところで、あんた達はもう帰るのかい?」

あっさり仕送りの話を鮮やかにスルーして、再び話を戻す百合子。 まだ聞きたい事があったらしい。

「除霊も終わったし、そのつ…………はい、もしもし」

百合子に答え要とした時、不意にで鳴り出す横島の携帯。
そこに表示されていたのは美神の名。 何かあったのかと思い、慌てて電話に出る横島。

「―――もしもし、横島クン?」

「美神さん、そっちで何かありました?」

だが、返す美神の声は普段通りのもの。
どうやら急ぎの用じゃないと解り、ちょっと安堵する。

「こっちなんだけど、ちょっと手間が掛かってるの。
 2、3日帰れそうにないからその間タマモのこと頼むわね」

「―――えっ!? 美神さん、どうい……」

う事っすか? と言い切る前に唐突に切れた電話。
慌てた様子も特になかったので、単に電波状況が悪かっただけなのだろう。

「忠夫、どうかしたのかい?」

電話の様子から何かあったのかと思い訊ねる。
タマモも気になっているのか、うどんを食べつつも横島の方に意識を割いている。

「……2、3日帰れそうにないからその間タマモの事を頼むってさ」

その言葉を聞いて目を輝かせるタマモ。

「じゃあ、大阪の(お揚げの)食い倒れツアーができるの!?」

「……何でそうなる」

思わず呆れて返事をする横島だが、百合子の方はタマモの喜びのもうひとつの理由を、それとなく見抜いていた。

「忠夫、あんた学校の方は大丈夫なのかい?」

と百合子が心配するのも当然。
現在の日付は七月初旬の平日、普通に学校があっておかしくない時期なのだ。

「ん、今テスト休みで補講期間だよ。ひのめちゃんの世話しながら隊長に勉強見てもらったお蔭で、補習無しで済んだんだ」

【横島が補習無し】という異常事態に、学校全体が恐慌状態に陥り、教師陣総出で10回以上答案を見直し、某机の妖怪は教室の隅でガタガタと震えていたというのは余談である。

「へぇ。 なら、休みなんだね?」

ニヤリ、と笑みを浮かべる百合子に、何故か恐怖を感じる横島であった。





「あー、たーくん久しぶりー」

横島の手を掴んで大きく振り、喜ぶ少女―――もとい、女性。

「久しぶりっす、紫音さん」

横島より頭一個分低い身長、その喜びの表し方に顔の造り。 どれをとっても横島の同年代以下の少女にしか見えないが……

百合子の後輩で横島もよく面倒を見てもらった女性、日向紫音。 御歳37歳。

「むー。昔みたいにおねーちゃんって呼んでくれればいいのに」

「いや、さすがにその呼び方には違和感が……」と思った横島だが、紫音の全身を改めて見直す。
6年近く経ってるものの、その変化の無さにそう呼ぶことに全く違和感を感じなかった。

「りょーかい、紫音ねーさん」

そんな横島の返事に、紫音は満足気に頷く。



横島とひとしきり話して満足したのか、紫音の視線は百合子の横にいるタマモに向かう。

「それで、あのかわいーこはたーくんの彼女さん?」

「へっ?」

予想外の言葉に意表を付かれる横島と、耐性がないためか顔を紅くするタマモであった。





「ほんとアンタって、変なところで子供っぽいわよね」

「仕事に関してはだけ有能なんだけどねー」、とタマモが言う横で幸せそうにパフェをつつく紫音。

「ふみゃ?」と返す紫音は聞いているのかいないのか全くわからない。

そんな彼女を見て、全く変わってないなと感じる横島とまだ顔の赤みが抜けきっていないタマモ。

彼女達の現在位置はファミレス。
話が長くなりそうな雰囲気だったため場所を移したのだ。

「じゃあ、たーくんもタマちゃんも来てくれるんだ」

何に、とは言うまでもなく百合子の帰国目的でもある紫音の結婚式。

式は明後日であり、美神に言われた期限に間に合うので参加することになった横島。
タマモの方も現代の人間の結婚式に興味があるため、参加する事にしたのであった。





「じゃあ行くわよ、横島♪」

結婚式の参加も決まり、服も昨日あれから決めに行ったため、今日は何の予定もない2人。
百合子の方は他の友人にも会いに行くと言っていたので、別行動である。

上機嫌のタマモが手に持つのは、昨日百合子から教わったオススメの店の簡易地図。
紙にびっしり書き込まれた印、その数は30以上。

「俺もおふくろも引っ越して結構経つから、全部残ってるかはわからないぞ?」

「うん。それは昨日、百合子から聞いたわ。時間も足りるかわからないし、その時は諦めるわよ」

とは言うものの、少々残念そうなタマモ。
そんな彼女を見て、文珠のストックを確認する横島。

それは、いざとなれば美神の折檻覚悟で探すか移動しようと考えての行動であった。





「うん、これも美味しいわね」

先ほど買ったたこ焼きを食べつつ評価を下すタマモ。
横島の方は買った荷物こそ持っているが、既に手をつけるのをやめていた。

それもそのはず。実はこのたこ焼きで13品目なのだ。
運良く全ての店がなくなっておらず、百合子の地図も適切であったため、すんなりと辿り着けていた。
ちなみに横島はうどんやお好み焼きと言った、店に入るものには付き合っていたが、アイスやたこ焼きなどのお持ち帰り品は荷物を持つだけであった。

「しっかし、よく食うなお前も」

という横島の比較対象は、此処にいない人狼の少女。
普段は彼女の食べる量が多くて気付かなかったが、こうやって見るとタマモも案外食べるのだ。

「んむ……私の場合、まだ完全に力戻ってないでしょ?
 だから食べた分だけ補充が出来るのよ。ちなみに、あのバカ犬の場合はただの大食いよ。
 普通、いくら人狼っていってもあんなに食べたりしないわよ」

口に含んでいたたこ焼きを飲み込んでから答えるタマモ。

その答えを聞いて確かに、と思う横島。
以前、人狼の長老や他のものに会った時、一般人よりは食べていたがシロと比べれば少なかった。

しかし、元からシロが大食いであったかと言えば、そういうわけでもない。 彼女の場合は超回復時に体が栄養を欲し、以後その量が通常摂取量と認識されたのが原因であるのだ。

「そんなことより、次行くわよ♪」

いつの間にかたこ焼きも完食し、次に向かう。 14品目のうどん屋はもう目と鼻の先であった。





「あー、おいしかった」

「タマモちゃん、満足できた?」

無事に全部回れてホテルへと戻った2人。
満足した笑みのタマモとは対照的に、ぐったりしている横島。

いくら人並み以上に食べれる横島と言えども、あの量は無茶であったらしい。
その量、合計26品。
全部で43軒周り、そのうち持ち帰りでないのが26軒だったのだ。

それでも、文珠を使って体調を整え付き合ったのが彼らしいと言えば彼らしかった。

「でも、やっぱり一番は【白海】ね。あそこのきつねうどんは伝説と言っても過言じゃないわ」

どうやら、昨日のうどんが彼女の中で最高評価らしい。 それを聞いて、何か思いついたのかタマモに訊ねる百合子。

「あそこのうどんなら作り方知ってるけど、作ってみる?」

「うん!」

即答だった。

実は【白海】は百合子の幼馴染の祖父が先代なのだ。

その当時から料理が得意であった百合子がそれの再現に挑み、近いところまで辿り着いたのだ。
それに驚いた先代が、アドバイスと共にレシピを教えたのだと言う。

「じゃあ、まずは……」

2人の会話を聞きつつも、料理の話しについていけない横島の意識は、次第に遠のいて行った。







「あっ、起きたんだ」

ぼーっとしながらも横島が体を起こすと、目に映ったのはエプロンを着けて料理中のタマモ。
寝る前にも見たはずだが、はっきり意識が覚醒してから見ると、その姿をまじまじと見てしまう横島。

「忠夫、ボケッと見てないであんたも準備を手伝いな」

と、視覚外からかけられた言葉に、あわてて反応し目をそらす。
向いた先に居た百合子にコップや箸、飲み物を渡され準備を手伝う。

「おふくろ、タマモのやつ、うまく出来たのか?」

それほど手伝える事もないまま、席に着く横島。 百合子も残る作業はタマモに任せて、横島の対面に座る。

「初めてにしては上出来よ。あとは繰り返し練習すればばっちりね」

「娘が出来たみたいで、楽しかったよ」と締める百合子は本当に楽しそうであった。

その様子を見て、もうちょっと家事を手伝えば良かったかなと物思いに耽る横島。
と、そんな横島の雰囲気を見て取った百合子の口から

「忠夫。練習の時、ついでにあんたの分も作ってくれるよう頼んどいたからね。
 こういうのは人に味見てもらうのも重要だからね」

えっ? と呆気に取られる横島だが、うどん限定とは言えまともな食事が確保出来るのだ。 更に食費分の仕送りを増やしてくれると言うので、異存は無かった。

―――もっとも、そんな条件がなくても横島が百合子に逆らえるわけなどないのだが…。










「それにしても、今回の帰国は楽しかったわね」

「そうなのか?」

ナルニアに戻った百合子を迎えに来ていた大樹に、今回の出来事を笑顔で伝える。

「しかし話を聞く限りじゃ、案外そのタマモちゃんが義娘になったりしてな」

一通り話を聞いて、大樹が笑いながら告げる。
まさかね、と否定しつつも、ブーケをゲットしたときのタマモの様子から、ある未来の姿が脳裏に浮かぶ百合子。

「おふくろ………出来ちゃった」

とそういいながらおなかの膨らんだタマモを連れて来る横島。



「………大丈夫……よね」と多少不安になる百合子であった。





同時刻、大阪から東京へ向かう電車では…

「くー、すー…」

少年の肩に頭を乗せ、幸せそうに眠る狐少女の姿が確認された。 百合子の予想もそう遠くない未来……かもしれない。

 



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