魂筆使い草助
第一話 後編
〜天邪鬼〜



 市内では、夜中の家に町のあちこちが破壊された事件で騒ぎになっていた。現場に集まった野次馬の人だかりでは様々な噂が飛び交い、これは無差別テロだと主張する若者や、暴走したトラックの仕業だという中年もいれば、一方で昼の買い物前の主婦たちが集まって、山から下りてきた熊や猪の仕業じゃないかなどと勝手に喋り合っている。
 草助は八海老師と鬼が戦った工場跡に赴き、そこに群がる人だかりから少し離れた場所に愛用のスーパーカブ(90cc二人乗り仕様)を停めた。この緑色のスーパーカブは、祖父の形見でもある年代物だが、とにかく頑丈さが売りなだけあって、消耗品の交換や整備を続けながら、今でも立派に走ることが出来ている。馬力は低く大した速度は出せないが、日頃の足代わりとして大いに役立っており、草助はレトロな見た目も含めて気に入り、移動の時は常に愛用していた。

「それで、まずはなにをしたらいいんだ?」

 草助はバイクに跨ったまま、タンデムシートに座るすずりに訊ねる。

「奴らのねぐらを探す。鬼ってのは人の陰から生まれる妖怪だから、明るい場所が嫌いな奴が多いんだよ。だから大抵、昼間はどっかに隠れて寝てるんだ」
「へえ、詳しいな」
「ま、草助よりは知ってるよ。まずはそこら辺の連中に話聞いて、アイツがどっちに逃げたか手がかりを掴まないと」
「あ、ああ」

 草助はヘルメットを脱いでバイクから降り、野次馬から事件の噂について色々と聞いて回った。しかしそのほとんどがいい加減な憶測や関係のない世間話ばかりで、肝心な鬼の行方に関しては、ほとんどまともな情報を得る事が出来なかった。

「はあ……なんか聞くだけ時間の無駄だったような」

 草助は疲れた表情で、肩を落としてため息を付く。

「だらしないねー。ちょっとくたびれたくらいで」
「なにを言う。おばちゃんの長話を延々と聞かされ、切り上げようとしても引き留められるあの苦痛がお前にはわからんか」
「そうやって手を抜いて人が死んだら、全部草助のせいだかんね」
「うぐっ……わ、分かってるさ」
「まだ話聞いてない奴もいるだろ。ほら、あっちでカメラ持ってる奴とか」

 すずりが指した先には、バックパックを背負い、一眼レフカメラを構える痩せた男の姿があった。伸び放題の髪に猫背で撫で肩、水色に近いほど色褪せたジーンズ。四角いメガネの奥から、辺りをキョロキョロと見回していてまったく落ち着きが無く、異様な雰囲気を醸し出している。彼は破壊された街灯や工場の壁にレンズを向け、薄笑いを浮かべながらしきりにカメラのシャッターを切っていた。

「うーん、なんというか……非常に話しかけにくいんだが」
「ま、まあね。とにかく話だけ聞いてみなよ」

 草助は仕方なく、夢中でカメラを覗き込んでいる男に近づいて声を掛ける。

「あのう、なにか面白い写真が撮れるんです?」

 と訊ねると、男はカメラから目を離して草助を見た。男の顔もまた貧相で、血色もあまり良くない。口元は引きつったままで、眼鏡越しにじっと見られた草助は、思わず背筋が寒くなってしまう。

「袴の男と小さな子供……ふーむ、ちょっと違うな」
「なんの事です?」
「ああ、いやいや。こっちの話ですよ。昨夜事件があった時間に、この辺りで老人と子供が一緒にいたという噂を聞きましてねえ」
「そ、そうですか」

 それは八海老師とすずりの事に違いない。草助は動揺を悟られぬよう、平静な態度に努めた。

「お宅はこの事件に、怪奇な匂いがすると思いませんか?」
「はあ、怪奇……ですか?」
「私は大衆雑誌の記者をしてまして。天野という者です」

 そう言いながら、男はずり落ちた眼鏡を指で直す。

「レトロな服装のお宅は、この近所に住んでいらっしゃるので?」
「ええ、まあ」
「さっきから、しきりに事件の噂を聞いて回っていたようですね」
「見てたんですか」
「今時そんな服装していたら、嫌でも目に飛び込んで来る。いや、別に馬鹿にしている訳じゃありませんよ。お宅はなぜ、事件について知りたがっているんです?」

 天野と名乗る男の質問に、草助は言葉に詰まる。目を泳がせながら、草助は適当な言い訳を考えて答えた。

「ああ、えーっと……犯人が野放しじゃあ、いつ自分の家の方に来るか分からないじゃないですか。早く犯人を突き止めて、のんびり寝れらるようにしたくて」
「なるほど。ところでお宅はこの事件、人間の仕業だと思いますか?」
「どういう意味です?」
「ここだけの話、夜中に正体不明の巨大生物がうろついてるのを見たって人が結構いるんですよ。それに物の壊され方だって、どう見ても人間業じゃあない。その時間、現場に重機があったなんて証言はありませんし。巨大生物の存在が本当なら、大スクープ! 私も一躍有名になって大もうけですよ、フフフ」
「そ、そうですか。しかし巨大生物だなんて、そんなのがうろついていたら安心して眠れないな」

 天野は話に頷く草助をまじまじと見つめ、それからニヤリと笑みを浮かべた。その表情は、どことなく嬉しそうにも見える。

「お宅は私を笑わないんですね。この話をすると大抵は、変人扱いされてしまうんですが」
「いやあ、祖父が信心深かったもので」
「ふーむ、なるほど」

 周囲をキョロキョロと気にしながら、天野は草助に近づき小声で言う。

「実はですね、ついさっき有力な目撃情報が寄せられましてね。夕べの事件の後、港の倉庫街でも例の巨大生物を見たって報告があるんですよ」
「港から……それが本当なら、どこを通って朝比奈市まで来るんだろう。歩いていれば時間も食うし、目立って仕方がないはずなのに」

 朝比奈市にも海はあるが、大部分が砂浜か公園になっていて港は無い。港があるのは隣町であり、草助たちが暮らす朝比奈市の住宅地から十キロメートル以上も離れている。

「おお、いい所を突きますね。巨大生物は姿を目撃されていながら、いつも忽然と姿を消してしまう。なぜだと思います?」
「えっ、うーん」

 草助は考え込むが、なかなか質問の答えが浮かんでこない。首を傾げる草助に、天野は靴のつま先で地面を叩いて見せた。

「奴は我々の足下、つまり下水道を通って移動してるんですよ。この街の地下には網目のように下水道が広がっているし、一部は港方面にも通じている」

 天野はバックパックから地図を出して広げ、草助に見せる。地図は朝比奈市周辺のもので、縦横に走る無数の線と、赤い印があちこちに書き加えられている。

「これは下水道の位置と、事件が起きた場所を重ねてみた物です。ほら、港から伸びる下水に沿って、事件が起きているのが分かるでしょう。これなら話の説明が付くと思いませんか」
「おおっ、なるほど!」

 手をポンと叩いて感心する草助に、天野は突然真顔になり、ぐいっと顔を近づけて来た。

「ところでこの業界、情報より高い物は無いと言いましてねえ。私の極秘ネタを聞いた以上、出す物出してもらいましょうか」
「ええっ、急にそんな事を言われても」
「今回の情報だと、値段はこれくらいかなー」

 と、天野は指を一本ずつ折りたたみ、三本を残して立てて見せる。

「えっと、三百円?」
「んなわけないでしょうよ」
「じゃあ三千円?」
「ふっ。そんなの端金にもなりゃしない」
「さ、三万円ですか!?」

 青ざめていく草助を畳み掛けるように、天野はさらに首を振る。

「いいですか、スクープですよスクープ! このネタがモノになれば、一攫千金間違いなし! そのネタがたった三万ぽっちな訳がないでしょうがっ」
「てことは、さんじう……そ、そんな大金ありませんよ!」
「ま、そうでしょうねえ」

 と、天野は顔を離し、冷めた口調で言う。草助は見逃してもらえたのかと思って安心したが、世の中はそんなに甘くできてはいない。

「代わりに、ひとつ頼みを聞いてもらいましょうか」
「ど、どんな?」
「私は巨大生物が実在するという証拠が欲しい。けれど危険な目に遭うのは嫌いでして。やはり命は惜しいですからねえ。そこで代わりに調査をしてきてほしいんですよ」
「なんか……上手くハメられた気がするんですが」
「はっはっは。この世の中、口が達者な奴が得するように出来てるんですよ。巨大生物の居所を掴んだら、また連絡しますから。では、くれぐれもよろしく」

 天野は草助の電話番号を手帳にメモした後、自分の名刺を草助に手渡して去っていった。

「とっほっほ」

 その場に残され、両膝を抱えて座り込む草助の肩を、すずりが慰めるようにポンポンと叩く。

「まーまー落ち込むなって草助。向こうも鬼の居場所を探してくれるっていうんだし、逆にラッキーじゃん」
「どこがラッキーなんだ。いきなりあんなお金を要求されるなんて、理不尽極まりないだろう」
「んなもん踏み倒せばいいんだよ」
「お前……頼もしいな」
「草助がヘタレなのっ」
「ていうか、すずりは老師の妖怪退治にも関わっていたんだろ? 鬼の居所の目星くらい付いているんじゃないのか?」
「いつも同じ場所に隠れてる馬鹿はいないよ。あいつら毎回違う場所から出て来たし、じーちゃんだって地道に探して見つけてたんだぞ。こっちはこっちで、しっかり鬼を探さなきゃ」
「わ、わかったよ」

 すずりに叱られつつ、草助は気を取り直して聞き込みを続けて回った。昼は立ち食い蕎麦屋で腹を満たし、太陽が西に傾くまで人々から話を聞いて回ったが、結局大した情報は得られなかった。夕方になり、すっかりくたびれた草助は、朝比奈市が一望できる公園のベンチに腰掛けて、茜色に染まってゆく街をじっと眺めていた。
 ――夜が来る。
 昼と夜との間にある夕暮れ時には、この世とあの世との境目が曖昧になり、その隙間から魔物や妖怪が這い出してくるのだという話を草助は思い出す。夕暮れ時は仕事や学校帰りの人々の中に、人間ではない黒い影が混じっているのを何度も見かけ、ゾッとする悪寒を感じたものだが、昨夜見た鬼から発せられていた嫌な気配は、今まで感じたそれらを遙かに超えている。

(それがまさか、こっちから連中を探すことになろうとは……)

 草助は自分の隣で、退屈そうに足をぶらぶらさせているすずりに目をやる。いつも赤い着物を身に付け、子供のくせに妙にませた所はあるが、黙っていれば可愛い娘である。背中で束ねた髪は大きな筆先のような形をしていて、それが一目で分かるすずりのトレードマークでもあった。八海老師はすずりを連れて巻物に鬼を封じろと言ってはいたが、草助には言葉の意味がまるで分からない。確かにすずりは鬼を相手に、怯えた様子など微塵も見せなかったが、彼女の小さな身体に鬼を退治する力があるとは思えず、巻物にどうやって鬼を封じればいいのかも、まったく見当が付かなかった。

「どーした草助? どんよりした顔しちゃってさー」
「すずりは気楽でいいよなあ、って考えてたんだ」
「おまけに誰かさんの後始末を手伝う優しさもあるしね」

 皮肉を返されて、思わず頬の筋肉が引きつる。

「あのなあ、お前はもうちょっと子供として……」

 可愛げを持ったらどうなんだ、と言おうとしたその時、草助の懐で携帯電話がブルブルと震えた。滅多に電話が掛かってこないおかげで、常にマナーモードにしてある安物である。草助が通話ボタンを押して携帯電話を耳に当てると、慌てた様子の声が聞こえてきた。

「あ、わ、私です、天野です。聞き込みだけのつもりで港に来てたんですが、そしたら出たんですよアレが! それで私だけ逃げ遅れてしまって、倉庫街の北東の使われてない……うわっ、見つかっ――!」

 緊迫した声を残し、電話は切れてしまった。草助は驚いて天野の電話番号に掛け直すが、電話が繋がらないアナウンスが流れるばかりである。

「すずり、港に例の鬼が出たそうだ。天野って記者が襲われてるかも知れない」
「よーし、急ぐよ草助!」

 草助はスーパーカブに跨り、すずりを後ろの荷台に座らせて走り出す。目指すは港の倉庫街――勢いを付けて坂道を下りながら、草助は北東の空に黒い雲がどんよりと広がっているのを見た。




 倉庫街に辿り着いた草助は、現場の惨状に言葉を失った。港を走っていたであろう自動車やフォークリフトが軒並みひっくり返され、無残に踏み潰されている。幸い死者は出ていないようだが、辺りは騒然とし、赤色灯を回した警察のパトカーや救急車が、けたたましくサイレンを鳴らしながら行き来していた。

「これはひどいな……急ごう、天野さんが心配だ」

 人が多く集まっている場所を迂回してスーパーカブを走らせ、北東の端にある使われていない倉庫の前までやってきた。この倉庫は他と比べてずいぶん古く、先日の廃工場と同じくらいに風化し痛んでいる。建物の周囲はコンクリートの塀と錆び付いた金網の扉で仕切られ、窓や扉にも木の板が打ち付けてあり、通用口から人が出入りしている形跡は無い。草助は金網に近づいて敷地を覗き込むが、奥からひんやりとした空気が流れてきて、思わず身震いをする。だがそれは、寒さを感じたからという理由だけではない。

「倉庫全体から嫌な気配が漂ってる……」
「あのトロい黒鬼、妖気を消して隠れるなんてつもりは無さそうだね」
「ああ、なんだか気分が悪くなってきたよ」
「なあ草助、あそこに落ちてるのって」

 すずりが指した先には、見覚えのあるカメラが転がっている。近付いてそれを手に取ってみると、天野が首からぶら下げていた一眼レフカメラに間違いなかった。

「天野さんのカメラだ。彼はここにいるのか?」
「食われてなきゃいいけどね」
「こら、不謹慎なことを言うな」
「冗談だってば。大きな声出さなくてもいいじゃん」
「もしそうだとしたら、早く助けないと」

 草助は慎重に、金網の扉に手を掛けた。鍵は掛かっておらず、錆びた鉄が擦れる耳障りな音を立てて扉は開いた。倉庫のシャッターは固く閉ざされ、外側には開閉のスイッチも見あたらない。横には人が出入りするための扉があるのだが、ここは木の板が打ち付けてあり、中に入れそうな入り口が見あたらないのである。

「うーん、困った。どこから入れば……」

 と、シャッターの前で草助が考え込んだその時、シャッターを内側から突き破って黒く太い腕が飛び出し、草助の身体をわし掴みにして倉庫の中へと引きずり込んだ。

「うわああああっ!?」

 草助の目の前には、巨大で醜い顔をした鬼が、涎を垂らしながら立っていた。草助は必死でもがくが、指の一本一本が自分の腕よりも太く、まるでビクともしない。

「げへへへ、捕まえだあ。い、言われた通り待っでだら、本当に人間が来だぞお」
(い、言われた通りって、どういう意味だ……?)

 鬼が口にした言葉が引っ掛かったが、全身を握りしめられていては、それを考える余裕も無い。

「あれぇー? お、おめえあのジジイじゃねえなー。こ、これじゃ仕返じにならねえじゃねえがあ!」
「がはっ!?」

 鬼の指に力が込められた途端、強烈な圧力によって全身の骨が軋み、呼吸すらままならなくなったその時だった。

「その汚い手を放しな、でくの坊!」

 聞き覚えのある甲高い声が響き、同時にきつい締め付けから身体が解放され、草助は地面に投げ出されていた。なにが起きたか分からないが、草助は四つん這いになって鬼の元から逃げ出した。倉庫の壁際まで離れて振り返ってみると、視界に飛び込んだ光景に一瞬目を疑う。すずりが拳を握り、彼女の目の前で黒い鬼が仰向けに倒れているのである。赤い着物に身を包んだ少女の身体からは、姿にはとても似つかわしくない程の威圧感が漲っている。

「な、殴り倒した……すずりが鬼を?」

 自分で呟きながら激しい違和感を感じていたが、すずりをよく見ると、それが気のせいではないことに草助は気付く。すずりの握りしめている拳が身体よりも大きく、あからさまにアンバランスなのである。しかも色は真っ黒で、あたかも墨で塗りたくられているように思えたのである。

(ち、違うぞ……手じゃない。か、髪の毛!?)

 手だと思っていた物は、すずりの髪の毛だった。背中から正面に回り込んで伸びた髪の毛は、支えもないのにまっすぐ立ち、ふわふわと浮かんでいる。

「すずり、お前は一体……!」
「アタシが一緒なら、なんとかなるって言ったろ。ほら、シャンとしな。こいつを封じるには草助の力が必要なんだよ」
「ぼ、僕の力……?」
「ちっ、やっぱり図体がでかいだけあってしぶといね」

 すずりが忌々しげに舌打ちをすると、倒れていた鬼が顔をさすりながら身体を起こした。

「い、痛でえー。このチビ、いぎなりなにずるんだあ」
「アタシの連れを握り潰そうとしてたくせに」
「あー? お、お前はごないだも見だぞう。な、なんでオラと同じ妖怪のぐぜに、人間に味方ずるんだあ」

 その言葉を、草助はすぐに理解することが出来なかった。聞き違いだろうと思ったが、自分の数倍以上もある鬼を目の前にして微塵も怯える様子もなく、さらに髪の毛が生き物のように変形し、まるで意志を持っているように動いている姿を見ると、心の中で彼女に対する疑念とそれを信じたくない気持ちが激しくぶつかり合う。

(す、すずりが……妖怪?)

 二年前に八海老師がすずりを連れてきた日から、草助も身近で彼女を見てきた。一緒に遊んだ事もあり、幾度もつまらないことでケンカをしたりもしたが、幽霊や目の前にいる鬼が放つ、背筋が凍るような禍々しい気配を、すずりから感じたことは一度もない。それだけに、草助にはどうしてもすずりが妖怪だとは信じることが出来なかった。

「ふん、一緒にしないで欲しいね。オマエらみたいな馬鹿が見境なしに暴れてくれると、関係ないアタシが迷惑するんだよ」

 すずりは目をつり上げ、鬼に向かって吐き捨てるように言い放つ。

「ざ、ざっぎがら馬鹿にじやがっで。お、おめえなんが嫌いだあ」
「だったらどうすんのさ」
「ひ、ひねり潰しでやる!」

 鬼は倉庫の柱に立て掛けてあった鉄棒を手に取り、すずりめがけて振り下ろす。しかしすずりは素早く横へ飛び、鉄棒の重い一撃を難なく避けた。その跳躍は両足で行ったのではなく、手のように変形して動く髪の毛を使っている。髪の毛で天井や柱を器用に掴み、人間では不可能な速さと高さですずりは飛び回った。鬼の目を攪乱しながら草助の隣に駆け寄ってきたすずりは、彼の手を取って飛ぶ。すずりと草助は鉄で作られた中二階の通路に降り立つと、二人を捜してうろつく鬼を見下ろしながら呟く。

「すずりお前……本当に人間じゃないのか?」
「なんでもいいから、さっさと立ち上がるんだよ草助。アタシ一人だけじゃ、妖怪を封じられないんだから」
「ぼ、僕になにが出来るって言うんだ」
「アタシを使うのさ。使い方は今から教えてやるよ」

 すずりがそう言った刹那、彼女の全身を髪の毛が覆い隠していく。やがて全体が黒い塊になったかと思うと、それはねじれて細くなり、一本の筆へと姿を変えた。鮮やかな赤漆(あかうるし)の柄に金色の模様と文字が刻まれた、実に見事で美しい筆だった。

「うわっ、ふ、筆になった!?」

 筆は草助の目の前でゆっくりと、上下にふわふわと動きながら浮かんでいる。目の前で起きた出来事に戸惑う心の中に、聞き覚えのある声が響いてきた。

(さあ草助、アタシを手に取って。妖怪を封じるのは、アタシを使う人間の仕事なんだから)
「そ、そんな無茶な」
(大丈夫、そんなに難しいことじゃないよ。ほら、男なら勇気を出して立ち向かいな!)
「いや、ちょっ、心の準備が……!」

 その時、話し声に気付いた鬼は、草助たちがいる中二階めがけて鉄棒を投げつけた。回転しながら飛ぶ鉄棒は鉄骨の柱を二、三本もへし折り、壁に突き刺さる。同時に支えを失った足場は大きく傾き、上にいた草助は空中に投げ出され、頭からコンクリートの床に落下していった。

「わああっ!?」

 だが、草助の身体は地面に叩き付けられなかった。なにかが腹に引っ掛かり、しなやかな弾力で草助を受け止めていたのである。それは、長く伸びた赤い筆の柄であった。

「の、伸び縮みもできるのか。なんでも有りだな……とにかく助かったよ」
(あーもー世話が焼ける。ほら、モタモタしてると次が来るよ!)

 草助が顔を上げると、鼻息を荒げた鬼が頭の角をこちらへ向け、突進してくるのが見える。草助は慌てて地面に着地、すずりが変化した筆を掴むと、一目散にその場から逃げ出した。鬼は中二階の瓦礫に頭を突っ込んだ後、投げつけた鉄棒を拾い上げ、今度はそれを激しく振り回しながら草助を追い始めた。

「わっ、わわっ、危な……たっ、助けてくれっ!」

 草助は必死になって逃げ回り、鉄棒の一撃を避けることだけで精一杯だった。鬼は壁や柱を見境無く砕いて回り、その威力は倉庫全体が軋んだ音を立てて傾いてしまう程である。このままでは建物が自重を支えきれなくなり、潰れてしまうだろう。しかも疲れを知らない鬼とは対照的に、運動不足の草助はすぐに息が上がり、鬼の攻撃を避ける体力が尽きかけていたのである。

「ぜえ、ぜえ……も、もうダメだ。これ以上避けきれない」
(逃げてばかりじゃアイツを封じられないよ。反撃するんだ草助)
「反撃するったって、僕には戦う技なんか」
(じーちゃんから教わったことを思い出してみな。アタシが合図するから、その通りに手を動かすんだよ)
「絵や習字でどうしろっていうんだあっ!」

 疲れと追い詰められた恐怖で足の止まった草助に、鬼が迫る。鬼は草助が身動きが取れないと見て取るや、ニタリと笑みを浮かべ、舌なめずりをする。そして彼に止めを刺すべく、両手に構えた鉄棒を振り下ろしたその時だった。

(止めっ!)

 すずりの声が心に響くと同時に、手が無意識のうちに動いた。目を瞑って迫り来る鉄棒に筆先を向けた瞬間、草助の目の前で鉄棒がぴたりと止まった。恐る恐る目を開けた草助の目の前には、空中で固定されたように動かない鉄棒に向かって、鼻息を荒げながら力を込めている鬼の姿があった。

(次は跳ねっ!)

 なにが起きているのか理解出来ないうちに、次の言葉が心に響く。とにかく言われた通り、書道で文字を跳ねるのと同じように筆を跳ねると、微動だにしなかった鬼の鉄棒が、甲高い音を響かせ天井まで跳ね飛ばされた。

「うが……!?」

 これには鬼も驚いた様子で、目を見開き両手を上げたまま硬直している。草助もまた、自分が振るった不思議な力に戸惑いを隠せない。

「こ、この力は一体」
(魂筆さまの話は知ってるよな草助)
「な、なんだこんな時に。老師からよく聞いてるよ」
(旅の坊主が妖怪退治に使った筆があるだろ。あの筆は本当に存在してて、今でも妖怪を封じ続けているのさ!)

 突如、筆は鬼の妖気を跳ね返すほどの霊気を帯び、草助の体中に力がみなぎってくる。鬼に対する恐怖も消え、今ならすずりのように堂々と渡り合える気がしていた。

「すずり、お前は……」
(今だ草助、鬼の身体を一文字に払え!)

 心に声がすると同時に、草助は筆を水平に振り払う。筆先が鬼の身体に触れた瞬間、強い力が相手に流れ込む手応えを草助は感じていた。

「……あれ?」

 が、それだけでなにも起こらない。鬼は筆先が触れた腹回りを、指先でボリボリと掻いているだけである。

「なんだあ〜? そんなもんで撫でられだら、か、痒くなるじゃねえがあ」

 平然と立っている鬼に、再び草助の腰が引けてしまう。

「お、おい、大丈夫なのか!?」
「まあ見てなって。あいつはもうお終いだよ」

 すずりがそう答えた直後、鬼の身体は筆に払われた部分から溶け始め、墨のように真っ黒な液体となって地面に流れ落ちていく。

「うがぁぁぁ! なんじゃごりゃぁぁぁ!? お、おで……ま、まだ人間食っでねえのにぃぃぃぃ!」

 最期に残った鬼の頭は断末魔の叫びを残し、黒い水たまりの中に消えてしまった。あまりに信じ難い目の前の出来事に、草助はただ口を開けてぽかんとするばかりであった。

(さあ、仕上げだよ。その妖怪が溶けた墨で、巻物に鬼の絵を描くんだ。そうすれば妖怪を封じることが出来る)

 草助は懐から白紙の巻物を取り出し、目の前に広げる。そして筆先を墨溜まりに浸し、目に焼き付いた鬼の姿を紙に描いた。全てを書き終えたその瞬間、絵が金色の光を放ったかと思うと、残っていた墨が全て絵の中に吸い込まれて行き、鬼だった存在は跡形もなく消えてしまっていた。

「こ、これは……」
(アタシには妖怪を墨に変え、絵に描いて封じる力があるんだよ。だけどこの力を使うには、持ち主の強い霊力が必要でね、だから草助に一緒に来てもらったのさ)
「自分一人じゃ力は使えない、か。そう都合良くは行かないんだな」

 草助は巻物を巻き上げて紐で固く縛ると、ぺたんとその場に腰を下ろしてうなだれた。

「はあ〜。とりあえずこれで終わりなんだろう?」
「初めてにしちゃなかなか上出来だね。アンタ才能あるかもよ」

 声がした方に目をやると、いつの間にか元の姿に戻ったすずりが立っていた。赤い着物を着たあどけない少女の顔を見ていると、彼女が鬼と渡り合い、不思議な力を持つ筆に変身したことが嘘のように思えてくる。

「ボーッとしてるけど大丈夫?」
「ああ、その……頭が混乱してしまって」
「最初はみんなそんなもんさ。特に草助は素人だしね」
「な、なあすずり」
「ん?」
「お前は本当に、あの魂筆さまなのか?」

 すずりは一瞬表情を曇らせたが、すぐにいつも通りのあっけらかんとした表情に戻って頷いた。

「昔話じゃ神様の授かり物みたいになってるけど、アタシは元々ここに住んでた妖怪なんだよ。あの坊さんにしつこく頼まれて、暇つぶしに協力してやっただけさ」
「暇つぶし……なんか夢が壊れる発言だな」
「現実なんてそんなモンだよ。それよりさ、アタシが妖怪で驚いた?」
「そりゃ驚くに決まってるだろう。今までずっと人間だと思ってたんだぞ」
「……人間じゃないと、やっぱり怖い?」

 そう言って見つめてくるすずりの瞳に、わずかな不安の色が混じっているのを草助は見逃さなかった。少女の姿をしていても、すずりは妖怪。彼女は決して人と交わらぬ、この世ならざる者と同じなのかと考えた時、草助の感覚はそれを明確に否定する。

「いや、すずりはすずりさ。上手く説明はできないけど……さっきの鬼や、人に取り憑く幽霊とは違う……と思ってる」
「へへっ、そっか。分かってるじゃん草助!」

 すずりはにんまりと笑顔をみせ、嬉しそうに草助の背中をばしばしと叩く。

「こ、こら、手加減しろ。痛いっての。それにしても、我ながらこんな凶暴な妖怪をよく退治できたもんだ」
「だってザコだもん、アイツ」

 平然と言い放つすずりの言葉に、草助はぎょっとする。

「あれがザコだって!?」
「そうだよ。まあ、馬鹿力だけは認めるけどさ」

 草助は軽く目眩を覚え、指で眉間を押さえて嘆息する。

「と、とにかく天野さんを探さなきゃ。無事でいるといいんだが」

 袴の埃を払って草助が立ち上がると、穴の空いたシャッターの向こう側から声がした。

「いやー、驚いた驚いた。物陰から一部始終を見させてもらいましたよ」

 今までどこに隠れていたのか、眼鏡を掛けたなで肩の男、天野がひょっこりと姿を現していた。彼は興味深そうに顔を突き出し、じろじろとすずりを眺めている。

「巨大な怪物にも驚きましたが、それ以上にこっちのお嬢さんが実に興味深い」

 草助は天野の視線からすずりを庇うようにして、彼に聞こえないよう小声で囁く。

「なあ、もしかしてお前が筆に変身する所を見られたんじゃないのか? だとしたらまずいぞ。もし記事にでもされたりしたら……」
「平気平気、誰も信じやしないってこんな話。適当に誤魔化して帰ってもらえばいいんだよ」

 と、すずりが余裕の表情で言い返したその時、すずりの言葉が聞こえたかのように天野が口を挟んだ。

「そうはいかない。やっとチャンスが巡ってきたんだからな」

 突如、天野の声から人間味が消えていく。まさかと思い草助が顔を上げた瞬間、目にも止まらぬ速さで伸びてきた腕が、すずりの首根っこを掴み締め上げていた。

「くくく、ついに手に入れたぞ」
「お、おい! 子供相手になにをするんだ! 手を放せ!」

 草助が怒鳴ると、天野はポカンと目を丸くした後、突然大声で笑い始めた。

「くははははははっ! あれを目の当たりにしておきながら、まだこいつを子供と呼ぶのか。ははは、実に傑作だ」
「天野さん、どうしてこんな事を」
「この小娘を自分のものにするためさ」

 天野の返事に、草助は後ずさりして苦笑いを浮かべる。

「おや、私が恐ろしくなりましたか、くくく……」
「へ、変態趣味の人には近付くなと祖父の遺言で。特に幼女趣味の人とかはちょっと」
「違うわっ!」

 興奮してずり下がった眼鏡を外し、横に捨てながら天野は言う。

「想像以上に素晴らしい力だ。手下を使っておびき出した甲斐があったぞ」
「天野さん……いや、天野! お前は一体何者だ!」
「天野なんて人間は元からいやしないのさ。俺の本当の名は天邪鬼。妖怪封じのジジイから聞いていないのか? 街で暴れる鬼どもには、連中を束ねる頭目がいると。この俺がそうなのさ」

 冷酷な表情と共に、天野の口調も豹変する。しかしそれでも、草助はその言葉をすぐに信じることが出来なかった。

「ば、馬鹿な……どこから見たって人間だし、それにあの嫌な気配をまったく感じないのに……そんなはずは!」

 天野からは黒い鬼から感じたような、肌がヒリつくほどの恐ろしい殺気や妖気、威圧感といったものが感じられない。人一倍霊感が強いはずの草助には、目の前の天野がどう見ても痩せた普通の人間としか思えなかったのである。

(そ、そうさ。きっとこいつは口が上手いだけなんだ。ひょろひょろしてて僕より弱そうだし、隙を突いてすずりを取り返してやる)

 タイミングを見計らい、草助は天野の腕に飛びかかる。すずりの首を絞めている手を振りほどこうと力を込めたが、すずりが草助の行動に驚き、かすれそうな声で叫ぶ。

「よ、よせ草助! こいつはさっきの鬼とは比べものに――」

 言葉が耳に聞こえた刹那、草助の身体に自動車で跳ねられたような衝撃が走る。草助の身体は弧を描いて後方に飛ばされ、積み上げられていた段ボール箱の山に突っ込んだ。

「がはっ! げほっ、ごほっ……!」

 強烈な衝撃のおかげで呼吸が出来ず、草助は床をのたうち回る。天野はすずりの喉を掴んだまま草助に近付き、彼を見下ろした。苦しみに悶えながら草助が顔を上げると、天野の左腕は服の袖が破れ、異常な太さの鬼の腕へと変化していたのである。おそらくこの腕で、草助の身体を薙ぎ払ったに違いない。

「お前、俺が弱そうな人間だからなんとかなると思ったろう。馬鹿力だけが取り柄の鬼どもを束ねる頭目が、なぜこんな格好をしているのかと、少しでも考えなかったのか?」
「うぐっ……」
「下等な鬼どもと違って、上等な鬼ってのは知恵が回るんだよ。妖気を完璧に消し、人間に化けて貴様らに近付くなど、わけもない事だ。貧弱な人間の姿をしているのはな、お前みたいに油断してくれる奴がいるからさ」
「だ、騙していたんだな……全部!」
「そうとも。街に手下を放ち、ジジイと戦わせたのも、お前らをここへおびき出したのも、全部俺の仕組んだことさ。おかげでようやく、この小娘を手に入れることが出来た。礼を言うぞ……くくく」
「すずりをどうする気だ!」

 手の内でじたばたともがくすずりを眺めながら、天野は歪んだ笑みを浮かべ言った。

「こいつは妖怪の天敵と呼ばれていてな、使い方次第でどんな妖怪だろうと封じることが出来るのさ。今までこいつにやられた妖怪は、数えたらキリがない程だ。しかし逆に、こいつを自分の物に出来たらどうなる? そう、俺に逆らえる妖怪はこの世からいなくなるって事だ。つまり今、俺は無敵になったんだよ!」
「な、なんて事だ」
「お前には感謝してるぜ。こいつを連れていたジジイは手強くてな。手下どもと戦って弱った頃合いを見計らい、奴を始末し小娘を頂くつもりだった。ところがどういうわけか、お前みたいなザコと一緒にうろついてくれていたおかげで、楽に目的を果たせたよ」
「くっ……」

 悔しさに唇を噛む草助を、天野は愉快そうに眺め、さらに続ける。

「ん? お前が持っているのは、手下を封じた巻物か。そいつをよこせ」
「ふ、封印を解く気か。そんな事はさせないぞ」
「お前は俺の言う通りにするしかないんだよ。さっさとよこせ!」

 天野は草助から巻物を力ずくで奪い取ると、ニヤニヤと笑みを浮かべながら眺めた後、手を離して足元に落とす。なんのつもりかと草助が不思議に思っていると、天野はポケットから金属製のオイルライターを出して火を付け、巻物の上に落としたのである。巻物にはすぐに火が付き、あっという間に全体が炎で包まれると、すぐに灰となって燃え尽きてしまった。

「これでよし、と。くっくくく……」
「そ、それはお前の仲間のはずだろう。なんて事を」
「用が済んだら、ゴミは始末するのが当然。違うか?」
「外道め……仲間への情けってものは無いのか」
「鬼にそんなモンがあってたまるか、はーっははははは!」

 狂気を孕んだ笑い声を響かせながら、天野の姿はみるみる鬼のそれへと変貌していく。全身は鬱血したような紫色の皮膚に覆われ、瞳は炎のように赤く、背骨が大きく曲がった醜怪な怪物だった。髪は伸び放題になって垂れ下がり、五十センチほどの真っ直ぐな角が頭の中央から伸びている。体格は人間より一回り大きい程度で、黒い鬼と比べると小さな体付きである。だが目の前の鬼が放つ妖気は凄まじく、気を抜いたらそれだけで吹き飛ばされそうな圧力で押し寄せて来た。

「さて、そろそろ話も飽きた。てめえの皮でも剥いで食ってやるとするか」
「あわわわ、ま、待ってくれ。僕を食べても美味しくないぞ」
「んんー、そう言われると逆に美味そうな気がしてくるな」
「きっとお腹壊すから、止めた方がいいと思うっ!」
「俺は昔から、人間を食うと腹痛が治るんだよ」
「ハゲるから!」
「んー、人間の肉は毛生え薬にもなるって聞いた気が」
「な、なんて天邪鬼な奴だ」
「ククク、光栄だね。まさに仰せの通りだ」

 天邪鬼とは、人がやろうとしていることと正反対の行いをしたり、嘘をついて他人の邪魔をするという鬼の一種で、昔話などに多くその名を見る事が出来る。性格は乱暴で欲深く、人を切り刻んで食い殺すという残忍さや、剥いだ人間の皮を被って本人になりすます狡猾さなども語り継がれている。この天邪鬼が、舌先三寸で言葉巧みに他の鬼たちを従わせたのは想像に難くない。

「むっ?」

 その時、首を絞められてもがいていたすずりの髪が伸び、天邪鬼の腕に絡みつく。天邪鬼がそれに気を取られ、力を緩めた隙に、すずりは言った。

「逃げな草助! アタシのことは放っておいて、じーちゃんに伝えるんだ。きっといい方法を考えてくれるから」



「ば、馬鹿な事いうなっ。お前一人置いて逃げられるもんか」
「アンタに心配されるほどヤワじゃないよ。それよりも、アタシは草助が食われる所なんか見たくないんだ。だから――!

 早く行け、とすずりが言いかけた刹那、天邪鬼は髪の毛を造作もなく引きはがし、すずりごと強引に地面へねじ伏せた。

「うぐ……ち、ちくしょ……!」
「さすがに反抗的だな。まあいい、誰が主人なのか、これからじっくり思い知らせてやる」

 天邪鬼はすずりを抑え付けたまま、草助に目線を移す。

「お前は小娘を心配してるようだが、こいつに肩入れしない方が身のためだぜ」
「ど、どういう意味だ」
「さっきも言った通り、こいつは妖怪退治に絶大な力を発揮する。故にその力を巡り、昔から人間と妖怪の間で争いが絶えなかった。時には人間同士、妖怪同士ですらこいつを奪い合い、殺し合ったのさ。この小娘と一緒にいるという事は、妖怪と人間、両方から狙われ続けることになるって事だ。それでもいいのか?」

 草助は驚いてすずりを見る。地面に這いつくばったままのすずりは、目を逸らして視線を合わせようとはしない。

「人間にも妖怪にも狙われ、そこにいるだけで災いを呼ぶ。こんな奴と関わっても、お前には不幸が増えていくばかりだ。だから大人しく帰れ。そうすれば、今回だけは特別に見逃してやってもいい。どうだ、悪くない話だろう」

 髪に隠れて表情は見えなかったが、すずりの小さな手が震えていた。彼女にそんな事情があったとは知らなかったが、その話を聞いた草助は、尚更にすずりを見捨てたくないと強く思ったのである。

(同じだ……立場は違うけど、僕もすずりも同じなんだ)

 草助も霊感が強いおかげで、幼い頃から回りに疎まれ、仲間外れにされてきた。筆塚草助に関われば祟りに遭うと噂され、遠巻きに噂され冷たい視線を浴びてきた。新しく友達を作っても、やがて草助を気味悪がって去って行ってしまう。八海老師の元で絵や書道に打ち込むことで気持ちを紛らわせてきたが、自分が一人であると感じた時には、どうしようもないほど寂しく、そして悔しくてたまらなかった。だから今ここで、すずりを見捨てて逃げる事だけは、首を縦に振るわけにはいかない。

(考えろ、考えるんだ。こいつを相手に、僕になにが出来る? 力じゃ絶対に勝てないし、罠を仕掛けてる時間もない。説得するくらいしか出来ないけど、天邪鬼なこいつが僕の話を聞くとは……天邪鬼……そうか!)

 それはイチかバチかの閃きだったが、それに賭けるしか道は残されていない。草助は覚悟を決め、顔を上げて天邪鬼に言った。

「いやあ、さすが先生! その強さと頭脳には参りました。ひと目見た時から、妖怪の頂点に立つのは天邪鬼先生しかいないと思ってたんです。さあ、すずりの力を使って妖怪どもを征服しに行きましょう」

 草助が早口で鬼をヨイショしまくると、辺りはしんと静まりかえって気まずい空気が流れる。

「こ、この薄情者! 裏切り者! 草助のバカーーーーっ!」

 と、すずりは涙目になって草助を罵るが、天邪鬼の顔には隠しきれない動揺の色が浮かんでいた。

「う……ぬぬぬ……!」

 天邪鬼は目を泳がせ、顔中に汗が滲む。狙い通りになったと見て取った草助は、さらに畳み掛けるように芝居を打つ。

「本当は大した事のない天邪鬼先生でも、すずりが手に入れば百人力! こうなった以上は絶対に、なにがあろうと絶っっ対にすずりを手放したりしませんよねー天邪鬼先生。いやあ活躍が楽しみだなあ!」

 倉庫に響く大げさにな言葉に、天邪鬼は歯を食いしばり、脂汗を浮かべながら草助を睨む。

「お、俺が弱いとでも言うのかっ! こんな小娘がいなくても俺は強いんだああっ!」

 天邪鬼は目を血走らせながら叫び声を上げ、同時にすずりを抑え付けていた手を離した。草助はすかさず、圧力から逃れたすずりに向かって叫ぶ。

「今だ、こっちへ!」

 すずりは手の形にした髪の毛で地面を叩き、草助の元へと跳躍する。すずりは服の埃を素早く払い、感心した様子で草助を見上げる。

「助かったよ草助。でも、一体どんな魔法を使ったんだ?」
「はは、魔法じゃないさ。あいつは天邪鬼だろ? 人が言う事とあべこべな事をしないと気が済まない性格だって聞いたのを思い出したんだよ」
「へえ、やるじゃん草助。ちょっと見直したよ。さーて、今度はアタシの方からたっぷりお返しさせてもらうかんね!」

 すずりは啖呵を切り、鮮やかな赤漆の筆へと変化し、草助の手に収まる。

「ぐぐぐ……俺が口先だけで鬼どもを手下にしたと思うなよ……お前をひねり殺し、もう一度小娘を手に入れてやる! 天邪鬼の本当の恐ろしさを思い知れ!」
「う……!?」

 黒い鬼とは比べものにならない強烈な殺気に、草助の全身からどっと嫌な汗が噴き出してくる。

「も、ものすごい邪気だ……うぷっ」
(大丈夫か草助?)
「い、胃液が逆流しそうだ」
(気をしっかり持ちな。意識を失ったらお終いだよ)
「ああ、わかってる」

 草助はみぞおちを左手でさすりながら、筆を握りしめて身構える。天邪鬼は姿勢を低くし、角を突き出して突進してきた。角は正確に心臓の位置を狙って来たが、嫌な予感を感じた草助はとっさに筆で胸の前を払い、角を逸らして跳ね飛ばす。

「なにっ!?」

 天邪鬼は驚いた声を上げ、血走った目を見開く。

「運が良かったな人間。だが次こそは心臓をひと突きだ!」

 言いながら、天邪鬼は丸太のような両手を振り上げて草助に殴りかかるが、草助は頭上から迫る天邪鬼の両手を、筆の柄で受け止め、横に受け流した。

「く、くそっ、どういうことだ。お前はド素人のはず……!」

 苛立ちを含んだ声を上げる天邪鬼が、草助には不思議だった。天邪鬼が迫る瞬間、殺気を感じた場所に夢中で筆を振った結果、二回とも運良く攻撃を避けられただけである。

(その調子だよ草助。あいつの言葉は無視して、殺気を込めて狙ってくる気配だけに神経を集中するんだ。直撃さえ受けなきゃ、チャンスはあるよ!)

 心に響くすずりの声に頷く草助の目に、着物の懐に縫い付けられていたお札が目に入る。それに気を取られた瞬間、天邪鬼はさらに妖気を膨らませて飛びかかってきた。

「これならどうだっ!」

 天邪鬼は目で追えない速さで、草助を殴りつけた。咄嗟に筆が伸びて拳を受け止めはしたものの、草助の身体は軽々と吹き飛ばされ、近くの鉄骨の柱に叩き付けられた。黒い鬼が暴れたおかげで、傾いた倉庫の重量が一点に集まっているこの柱は、軋んだ音を立てて大きく揺れた。

「ぐはっ……!」
「くくく、筆は強力でも、持ち主はただの素人ってわけだ」

 天邪鬼は疾風のように駆けて草助に近付き、その首を掴んで柱に押しつけ、言った。

「ここまで手こずらせてくれた褒美に、死に方を選ばせてやる。このまま首の骨を折られるか、心臓をひと突きにされるか、どっちがいい?」
「ううっ……ど、どっちも勘弁してくれないか。僕はまだやりたいことが一杯あるんだよなあ」
「くくく、そうかい。じゃあ俺がお前の皮を剥いで成り代わり、思う存分楽しんでやるよ!」

 天邪鬼はナイフのように鋭い爪を振りかざし、草助の首を落とさんと振り下ろした。その刹那、草助の手が無意識に筆をかざし、跳ねの技で爪の軌道を逸らした。爪は草助の頭上をかすめ、後ろの鉄骨を深く切り裂いて止まった。天邪鬼は「往生際が悪い!」と草助を罵るが、その途端に身体が硬直してまったく動けなくなった事に目を見開いた。

「ぐぐぐ……う、動けん!?」

 草助が咄嗟に突き出した左手には、一枚のお札があった。八海老師がお守りにと着物に縫い付けてくれた、妖怪を足止めするための法力が封じられた物である。草助は天の邪鬼の心臓にお札を貼り付けて難を逃れると、朱に輝く筆を水平に構えた。

「もう逃げられないぞ。老師に代わって、僕がお前を封じてやる。覚悟!」
「うぐぐ、おのれぇぇぇぇぇ!」

 天邪鬼はまさしく鬼の形相となって歯を食いしばり、全ての妖力を放ち始めた。その強烈な波動に倉庫は揺れ、ついにあちこちが崩れ始める。思わず気圧された草助は、天邪鬼の胸に貼り付けたお札の端が、妖気に押されて赤く燃え始めているのを見て戦慄した。

「こ、こいつ、お札を焼き切るつもりか!?」
「ぐおおおおおおおおおおお!」

 お札の火は次第に燃え広がり、半分くらいが焼けてなくなってしまった。もしもここで天邪鬼を逃がしたら、草助にはもう勝ち目がない。しかも、天邪鬼が切り裂いた鉄柱が折れて大きく傾き、太い鉄骨を組んで作られた天井の一部が草助の頭上に迫っていた。

(お、落ち着け草助、ここで焦ったらお終いだぞ……この状況を切り抜ける一番いい方法はなんだ……!)

 必死に知恵を巡らせた草助は、あと少しでお札を全て灰にしてしまおうと言う天邪鬼に向かって叫んだ。

「よく聞け天邪鬼。お前がどんなに強くても、この筆の力には勝てはしない。観念するんだな」
「ふ……ざけるな……俺をそこらのザコ鬼と一緒にするんじゃねえっ」
「強がりを言うな。お前は筆の一撃に耐える事もできないはずだ」
「お、俺がそんな筆ごときに負けるわけねえだろうがあっ! やれるもんならやってみやがれっ!」
「天邪鬼、破れたり!」

 お札が燃え尽きた瞬間、草助の筆が天邪鬼を真一文字に薙ぎ払う。草助の言葉に釣られ
て虚勢を張ってしまった天邪鬼は、棒立ちになってそれを避けようともしなかった。次の瞬間、天邪鬼の下半身が墨となって溶け始め、その上に鉄骨の屋根が落ちてきた。草助は間一髪で横に飛び退いて難を逃れたが、天邪鬼はそれを両手で受け止め、膝の上まで無くなってしまった足を踏ん張って持ち上げていた。

「ち、ちくしょう、あと少し、あと少しで妖怪の頂点になれたのに……この俺が、こんな人間如きにぃぃぃぃッ!」

 天邪鬼は絶叫しながら、ゆっくりと溶けて墨となっていく。草助が急いで脱出すると同時に、倉庫は天井の重みによってぺしゃんこに押し潰され、後には大量の瓦礫と、天邪鬼がいた場所に黒い水溜まりが残っているだけだった。

(一時はどうなるかと思ったけど、やったな草助。さあ、こいつも封じてやろう)

 すずりの言葉に従い、草助は最後の巻物に天邪鬼の姿を描いた。背骨は大きく折れ曲がり、焼け爛れたような赤い肌と長い角を持つ、狡猾で醜い姿の鬼である。絵が完成し、残りの墨が全て紙の中に吸い込まれると、漂っていた妖気も全て消え失せ、辺りには静けさが蘇っていた。

「恐ろしい怪物だった。あんな奴が僕に化けて悪さをしていたらと思うと……」

 寒気を感じながら、草助は天邪鬼の巻物を紐で固く結ぶ。筆から娘の姿に戻ったすずりは、草助と目が合うとなにやら照れくさそうに背を向けた。

「どうしたすずり? どこか痛んだりするのか?」

 あれだけ攻撃を受け止めているのだから、と草助は心配したが、それについては草助の妖力で身体に強靱さと柔軟さを持たせてあるため、なんともないとすずりは言う。

「――あのさ草助。あいつの言ったこと、結構ホントの事も混じってるんだ」
「ん、なんの話だ?」
「アタシが人間にも妖怪にも狙われてる、って」
「ああ、その事か」
「じーちゃんはそれを知った上で、アタシが悪い奴に狙われないように守ってくれてたんだよ」
「そうか、老師が……」
「でもやっぱり、アタシは人の前に出てくるべきじゃ無かったのかな。アタシがいると、またいつか狙われて、じーちゃんや草助がひどい目に……」

 草助は膝を曲げてすずりの前に屈むと、彼女のほっぺたを指でつまむ。

「あ、あにふんらよっ!」
「人間は一人じゃ生きられない。お前だって、妖怪を封じる強い力があっても、自分一人じゃ戦えない。だから誰かの助けがいるんだろ?」
「う、うん……」
「天邪鬼は恐ろしくて手強い奴だったけど、あいつは人や仲間の鬼さえも騙して利用するだけで、助け合う味方がいなかった。だから僕とすずりに勝てなかったのさ」

 草助はすずりの頭を軽く撫で、眼を細めてこう言った。

「お前は一人じゃないよ。僕や老師が付いてる」
「そ、草助……」

 すずりは目元をごしごしと拭いながら、何度も頷いた。

「さあ、今の騒ぎで警察が来るかも知れない。急いで帰ろう」

 草助はスーパーカブに跨り、すずりを乗せて倉庫街から走り去って行った。




 草助とすずりが梵能寺に辿り着いた頃には、とっぷりと日が暮れていた。自宅で布団に伏せていた八海老師は、黒鬼と天邪鬼を封じた巻物を見せられて目を丸くしながらも、草助の大手柄を喜んでいた。

「まさか鬼を二匹も、それも天邪鬼までもを退治してしまうとは。あやつはかなり厄介な相手なんじゃがのう」
「ええ、恐ろしい相手でした。それでこの巻物は、これからどうなるんです?」
「昔から荒ぶる鬼や妖怪は、神社などに奉られることでその性質を逆転させ、氏神や土地神となって人々を守り、幸福をもたらす存在となっておる。この巻物もそれと同じように、妖気を清めてから魔除けとして奉るか、あるいは焚き上げて天に返すのじゃよ」

 八海老師は「世の中には珍品のマニアもいてのう、結構高く売れたりもするんじゃぞ」と、指で輪っかを作りながら下品な笑みを浮かべる。まずこの人を清めるべきだろうと草助は思ったが、口には出さずにおいた。

「じゃあそっちは老師にお任せしますが……まさかすずりが魂筆さまだったなんて、想像もしてませんでしたよ」
「うむ。言ってなかったがのう、この梵能寺こそ魂筆さまが奉られた寺なのじゃよ。二年前まで、すずりは別の土地で過ごしておったが」
「そうだったんですか。だけどすずりが筆になるだなんて」
「この事は他言無用じゃぞ。噂が広まれば付け狙われるでな」

 草助はこくりと頷き、傍らで座っているすずりを見た。

「なあすずり。お前は有り難いご本尊なわけだし、これからは丁重に敬い奉り候、ってやった方がいいのか?」

 草助が両手をこすり合わせて祈る仕草をすると、すずりは笑って首を振る。

「今まで通りでいいよ。いきなり御輿担がれてもくすぐったいし」
「そうだな。今回はありがとう、おかげで助かったよ。すずりは凄いんだな」
「う、うん。まあね」

 草助に礼を言われて嬉しかったのか、すずりは珍しく赤くなってもじもじとしていた。二人の様子を眺めながら、八海老師はぽつりと言った。

「草一郎には悪いが、お前にはこの道の才能があるようじゃのう。血は争えんという事か」
「才能……って、まさか」
「うむ、魂筆の神通力を以て妖を封ずる者、魂筆使いじゃ」
「いやいやいやいや。無理ですって。今回はたまたま、偶然に上手く行っただけで」

 慌てて否定する草助に、八海老師ははっきりと否定するように首を振る。

「偶然で筆の力を使いこなし、鬼を二匹も封じることが出来る奴などおらんよ」
「し、しかし」
「草助には絵や書道の技法に混ぜて、筆を用いた妖怪封じの基礎を教えてあった。鬼を封じる時に使わんかったか?」
「はい。筆で鬼を払いました。筆に魂を込め、迷いのない心で線を引けと」
「うむ。払うは祓うに転じ、妖怪を封じる技となる。お前にはワシが教えたいくつかの技が、知らず身に付いているんじゃよ」
「ええっ」
「素質はワシなんぞを遙かに超えておるようじゃし、丁度良い機会じゃ。すずりと行動を共にし、この道で本格的に修行せい」
「……あーっと、なんだか急に用事を思い出しちゃったなー、あははは」

 乾いた笑い声を漏らしつつ背を向けようとする草助の肩に、八海老師の筋張った指が食い込む。

「待てい」
「い、痛いですよ老師。そんなに力込めないでください」
「逃げようとしても無駄じゃぞ」
「嫌だなあ人聞きの悪い。明日のご飯の食材が足りないのを思い出しただけですよ」
「草助よ、ワシが死んだら、一人で幽霊や妖怪の相手をせねばならんのじゃぞ。お前がすずりと共に行くと言ってくれれば、老い先短い人生に思い残すこともないというのに……すまんな草一郎。ワシはお前の代わりにはなれなかったようじゃわい」

 背を向けた八海老師の足元に、ぽたりと一滴の滴が落ちる。それを見て、草助は胸の奥をぎゅうっと掴まれるような、悲しい気持ちになった。口答えが過ぎたと反省し、八海老師の正面に回り込んで「すみませんでした」と頭を下げたが、八海老師の手には目薬が握られており、反対の手は小指を鼻の穴に突っ込んでほじっている。草助は八海老師に詰め寄り、ジト目で睨み付けながら言った。

「もしかして老師、僕にすずりを押しつけようとしてるんじゃないでしょうね」
「そ、そんな事はないぞ」
「なぜ目を逸らすんです」
「あー、ほれ。すずりも若い男の方が嬉しいじゃろうし、お前も女っ気があった方が良いじゃろうが、なっ」
「どういう意味で言ってるんです。大体僕は、ちんちくりんの子供に懸想する趣味はありませんよ」
「お前がすずりのお守りをしてくれんと、ワシが秘蔵これくしょんを鑑賞する時間が作れんじゃあないかっ」
「それが本音かっ、この助平じじいめ」
「なんじゃと、毛も生えとらんハナタレ小僧が」
「毛が生えてないのはそっちでしょうが!」
「ぬおお、禁句を! ワシは怒ったぞ!」

 二人が揉み合っているうちに、ふと足元にすずりがやって来ていた。すずりはニコッと可愛らしい笑顔を作り、草助と八海老師も釣られて笑顔を作る。が、次の瞬間、

「押しつけるとかお守りとか、ちんちくりんとか聞こえてきたんだけどさー。そんなゴキゲンな台詞を吐くのはぁ、どの口だコラァァァァァァァァ!」

 と、すずりは八海老師の脛を思いっきり蹴り上げ、草助の腕に噛み付いた。その夜はいつまでもケンカ騒ぎが響き、満月の夜空に吸い込まれていく。月の明かりは優しく、賑やかなれども平和な梵能寺を包み込んでいた。
 尚、筆塚草助は修行を積み、すずりと共に数多の妖怪を封じることになるのだが、それはまた別のお話。

〜魂筆使い草助 第一話 終わり〜





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