僕は、体温計の温度を確かめる為に無防備に近づいてきた里香の隙を突き、
彼女の背中と肩を思い切り引き寄せて、抱きしめた。
僕の下半身は布団に埋まったままだが、それでも十分に里香を抱きしめることが出来た。
里香の細い身体から伝わってくる確かな温もりが、僕の鼓動を一層加速させる。
里香はというと、いきなり抱きしめられて驚いたのか、左手に持っていたコップを落とした。
コップは、絨毯敷きの床の上に落ちて、柔らかい音を立てる。
それとほぼ同時に、僕は里香の唇を奪うと、口内に無理矢理に舌をねじ込んだ。
里香の口の中には、微かにスポーツドリンクの風味が残っているような気がする。
「んっ……! ん……」
里香は身体を強ばらせたりして、反射的に抵抗しようとしたものの、
今までもう何度も身体を重ねているだけあって、次第に向こうから抱き返してきた。
目の前の里香の顔を見ると、彼女は恥ずかしそうに目を閉じながらも、
口の中では舌を絡めてきて、僕との前戯を楽しんでいるようだった。
つまりは、OKということなのだろう。
僕は里香に拒まれなかったことにほっとしながらも、
彼女に熱い口づけと抱擁を続けることにした。
何せ、時間はたっぷりとある。
「ふぅっ‥……んっ、んぅ……!」
熱い口づけと抱擁をしばらく続けている内に、
息継ぎの時に漏れる里香の呼吸は、明らかに熱く色っぽいものを帯びてきていた。
僕の方も、布団の下の下半身に全身の血が集まってきているのが、
もう嫌というほどわかっていた。
――今すぐ布団を剥いで、目の前の里香に襲いかかりたい。
里香に跨って彼女の服をはぎ取り、
ガチガチに勃起したペニスを彼女の秘裂にあてがって、思い切り腰を振りたい――。
そんな欲求に突き動かされて、僕はとりあえず長く続いていた口づけを中断することにした。
抱きしめていた里香の身体を、腕を使って引き離すようにすると、
繋がっていた口同士は、名残惜しそうに粘着質の唾液の橋を架けながらも離れた。
「はぁっ、はぁっ……」
「ふぅっ……はぁ」
キスを終えてからすぐ、僕と里香の口から漏れたのは熱い吐息だった。
「……ははは、ははっ」
「ふふっ、ふふふ……!」
次に漏れてきたのは、二人がどちらともなく発し始めた、妙な笑い声だった。
僕と里香が同時に笑い始めた理由は、正直よくわからないけれど、
里香と一緒にいると、たまにそういう雰囲気になることはある。
そして、里香が紅潮した顔で僕に言ってくる。
「裕一、今日ちょっと急すぎない?どうしたのよ?」
流石に、昔の様にひっぱたかれた上に、
暴言を浴びせかけられるということは無いものの、
里香は僕の行動に少し戸惑っているようだった。
その里香の目を見ながら、僕も少しドギマギしながら答えた。
「いや……そのさ、里香がすげぇ可愛くて、我慢出来なくなって‥‥」
僕がそう正直に答えると、何故か里香は不満げな顔で、
ジトっとした視線で僕を見つめ返してくる。
「ふ〜〜〜ん……」
……どうやら、ただ可愛いかったからという理由だけで襲われたのでは、
里香にとっては割りに合わないらしい。
僕は発熱と欲情のせいで、6割くらいしか動かない頭を動かして、
里香が納得してくれそうな理由を、脳からひねり出した。
「それと、里香が俺のために色々してくれたのが嬉しくて……、
あぁなんか、上手く言えないんだけどさ……!」
僕が必死になって思いを言葉に変換していると、
不意に里香が人指し指をまっすぐ立てて、僕の唇に当ててきた。
「んっ……!」
里香は僕の口を不意に塞ぐと、微笑みながら言う。
「……うんうん、裕一にしては上出来だね」
そして里香は、今度は甘い視線で僕を見つめ返してくる。
僕はゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込むと、いよいよ劣情を催してきた。
「里香、その……いいよな?」
僕は里香の肩に右手をかけて、彼女の上の服を脱がそうとした。
が、その手は里香によって、さらりと剥がされてしまう。
「それでも良いんだけど、今日の裕一は調子が悪いから、
全部あたしに任せておいて……ね?」
淫靡に微笑みながらそう言う里香に、僕は一瞬で魅了されてしまった。
「あ……あぁ、わかったよ」
僕がそう言うや否や、里香は僕の身体に覆い被さって、ベッドに押し倒した。
「えっ……ちょっ、なんだよ」
視点が大きく変わって、僕は少し慌てた。
「だから、裕一はそのままでいいの」
僕が里香の真意を推し量りきる前に、
彼女は僕の下半身を覆っていた布団を剥ぐと、
僕の両腕を自身のそれらで押さえるのと同時に、
空いている口でもって、器用に僕のパジャマのズボンを咥えてずり下げてみせた。
すると、僕の股間では、既に勃起しているペニスと、
それに内側から持ち上げられたトランクスによって、
実に立派なテントが張られていた。
「うわぁ……もうこんなに……」
里香は自分で脱がしておいて、恥ずかしそうな声を漏らす。
「俺だって恥ずかしいんだから……あんまり見ないでくれよ」
普段とは逆というか、里香が僕を犯そうとしているかのような、
そんな倒錯的な雰囲気が、僕の頭を甘く毒していく。
次に里香は、また口を使って僕のトランクスを引きずりおろす。
すると、ポロンッと弾かれたような勢いで、
いつもにも増してギンと屹立した肉棒が晒け出される。
里香は、遂に僕の剥き出しのペニスと、目の前でご対面してしまったのだ。
改めて、僕は恥ずかしいと感じた。
その感情を、里香の次の言葉が更に高める。
「……もしかして、凄い溜まってる?」
里香は、僕のペニスが通常よりも激しく勃起していることに気付いたらしい。
里香の妙な勘の良さが、こういう時に発揮されるとは……。
「……お察しの通りで。ここ最近、処理してなくってさ……」
里香が不思議そうにした問いかけに、僕は正直に弁解する。
「‥‥そうなんだ」
「それに、生命の危機を感じると生殖能力が強くなるっていうし……はうっ!」
どうにも言い訳がましいことを言っている僕が、
いきなり少し大きな声を上げたのは、
里香が僕のペニスの先端にいきなりキスをしたからだ。
僕の身体は、予想外の快感にピクッと震える。
そして、里香の息遣いに触れる度に、僕のペニスは敏感に波打つ。
「こんなに熱くしちゃって、可哀想……」
里香は、僕に対して奉仕すると同時に、優位に立てていることを喜んでいるのか、
どこか芝居がかった口調で話し続ける。
「あたしが、すぐに楽にしてあげるからね」
……里香は、かつては嫌がっていたフェラチオを、
状況が特殊とはいえ、率先して行おうとしているのだ。
そのことを考えるだけで、僕はますます顔が熱くなるのを感じた。
「んっ……ん……」
里香はまず目を閉じて、舌の先端を僕のペニスに少しずつ這わせ始めた。
チロチロとした舌の動きが、くすぐったいというにはあまりにも心地良い感触を与えてくる。
射精には到底至らない快感なので、確かに物足りなさはある。
しかし、主導権は里香にあるのだから、
僕も目を瞑って、しばらく舌先で舐められるという愛撫を楽しむことにした。
時折大きく舐め回したり、カリ首の裏をつつくようなテクニックを交えながら、
里香の舌先での愛撫は続いた。
「ふふ……このおち○ちん、ほんとに我慢させられてたのね」
不意に、舌先の動きを一端止めて、里香が笑うように言う。
「えっ?」
僕は不思議に思って聞き返しながら、目を開けて里香の顔を見る。
すると里香は、僕の顔と亀頭の先端に付いている鈴口を見比べながら返事をした。
「だってほら、先っぽから、カウパー液……だっけ?‥‥が、
こんなに漏れてきちゃって、ヌルヌルになってるわ。
味もしょっぱくなってきたし……裕一、感じてるんでしょ?」
年頃の女の子がするには、あまりに直接的な物言いに、またも僕の方が恥ずかしくなってしまった。
「……あのさ、里香があんまりそういうこと言うと、調子狂うんだけど」
バツが悪い感じで僕がそう言うと、里香は意地悪そうな微笑みを浮かべて、
「あたしだって勉強してるんだよ? いつまでも裕一にやられてばっかりなの、嫌だもん」
そう楽しげに言い切る里香の顔が妙に輝いて見えて、僕はなんというか、少々複雑な気分だった……。
さて、里香は愛撫に集中する為に目を瞑ると、僕の肉棒に再び口を近付ける。
ヒクヒクと醜く脈打つ赤黒い僕のペニスが、里香の桜色の小さな口に咥えられる時、
僕は彼女の膣内に挿入する時以上の背徳感と快感を感じて、背筋がゾクッとした。
「うっ……」
僕は声を上げるのももはや気にせずに、里香は容赦なく僕のペニスをしゃぶる。
「んっ……ちゅっぱ、ちゅぱっ、れろっ……!」
肉棒をしゃぶって膨らんでいる里香の頬から、粘膜じみた水音が立ち始める。
「うあ、あっ……」
僕はペニスごと身体をブルッと震わせながら、情けない声を上げるしかなかった。
「ちゅぱっ、ちゅっぱ……!はむっ……」
(くっ、い、痛い……! けど気持ちいいかも……)
天の邪鬼なのに生真面目という、普段の彼女の性格を反映しているかのように、
里香は規則的なフェラチオを繰り返しながらも、
亀頭を甘噛みしたり歯茎で擦ったりというアクセントを交えて僕を責め立ててきた。
「ちゅぱっ……れろ、れろ、れろ……ちゅぱっちゅぱっ」
絶え間ない刺激に、僕のペニスは先走りを里香の口内で止めどなくまき散らす。
先走りは里香の舌の動きによって唾液と混ぜられて、余計に里香の口内をヌルヌルにしていく。
里香の奉仕自体も更にヒートアップしてきて、彼女は僕の股間に深く頭を埋めるようになっていた。
僕の視点からだと、もはや里香が僕のペニスを咥えている部分はほとんど見えず、
ただ彼女のサラリとした黒髪が散らばっているのが印象的だった。
里香の黒髪が揺れる度に、里香の口内全てが僕のペニスに絡みついて、扱き上げてくる。
その度にペニスは痛いくらいに反り返り、精神と理性をえぐり取るような快感を生み出す。
……こんなのをもしも週に何回も味わったとしたら、たとえどんなオカズを使ったとしても、
もうオナニーでは絶対に満足出来なくなるだろうということは、
今の僕の頭でも確実に理解することが出来た。
「はあっ、はっ……」
里香が愛撫を開始してからそんなに時間は経っていないはずだが、
気付けば僕の息は荒くなり、腹の下には今まで蓄積されてきた射精欲が、
じわりじわりと確実に高まってきている。
きっとこのままでは、愛撫されている途中に暴発してしまい、
里香の顔をひどく汚すか、あるいはいきなり飲み込ませた結果むせさせてしまう恐れがある。
(それじゃ、里香にすまないよな……)
残っていた理性でそう考えた僕は、里香の肩を軽く手で叩く。
ポンポンと肩を叩かれた里香は、一体何事かといった風に反応して、僕の顔を見上げた。
ペニスを咥えたままのその里香の顔は、なんだか滑稽なものであったが、
僕はひとまず気にせずに、自らの射精が近いのを里香に知らせることにした。
「あのさっ……俺もうそろそろ限界なんだけど……」
僕が恥を忍んでそう言うと、里香は何故か得意げな顔になった。
そして次の瞬間、ジュボジュボという何かを吸い込むような音と同時に、
今まで感じたことのない快感が僕を襲った。
ペニスが軽く締め付けられながら、吸い込まれているような……!
「うっ、くぁっ……!?」
僕が呻きながら股間を見ると、里香が窄めたままの口でペニスを愛撫しているではないか。
ペニスを吸い込んだことによって、頬が歪にへこんでいる里香の顔の形は滑稽だったが、
それを楽しむ余裕は今の僕にはない。
(……!? これって確か、バキュームフェラって言うんじゃ……)
きっと、里香はネットなり本なりで、バキュームフェラを「勉強」してきたのだろう。
そうでなければ、自力で思いついたとでもいうのだろうか。
(いや、それも里香ならありえなくもないけど……っ!)
次に、里香は窄めた口でペニスを咥えたまま、亀頭の先まで強く吸い上げる。
その一瞬後、勢いを付けて吸い離した。、ちゅぽん、という音が鳴る。
吸引から開放されたペニスがブルンと震え、思わずビクッと腰を引いてしまうくらいの快感が僕を襲った。
「は、あっ……! こんなの、一体どこで覚えてきたんだ、よ……!?」
僕は独り言のように抗弁したが、里香はというとバキュームフェラに一生懸命で聞いていない。
里香は生真面目に、目を瞑って再び僕のペニスを吸い上げはじめる。
……その後、たった3〜4回ほど一連の動作を繰り返されただけで、僕は今にも達しそうになっていた。
しかし、里香が上手いのは、僕が腰を引いたり身体を震わせたりといった射精の予兆を見せると、
すぐにバキューム動作を弱くすることによって、なかなか射精させてくれないことだ。
あまつさえ、舌で亀頭や鈴口やカリ首をチョロチョロとなぶって、快感は継続的に与えてくる。
おまけに、愛撫をしながら、たまに髪の毛をかきあげる仕草を見せるのが、妙に色っぽい。
(もう、気持ちいいんだかなんなんだか、よくわからなくなってきた……)
気付けば、僕の下半身の感覚は股間を中心に曖昧になってきていて、
里香に向かって思い切り射精したいという欲すらも、
脳とペニスを繋ぐ神経を麻痺させられてしまったかのようにおぼろげだった。
けれど、恐らく射精する時にはその神経らしきものが繋がって、
凄まじい快感を生み出すだろうということは予想が付いた。
そして、遂にその時は来た。
「くっ……里香 ホントにもう、許して……出させてくれ、よおっ……!」
僕が情けなく呻きながら懇願すると、里香の方も流石に十分だと思ったらしい。
ラストスパートとばかりに、大きくも速い動きでバキュームフェラを繰り返す。
ジュボジュボッ……ちゅぽん、という音が鳴る度に、
限界ギリギリまで引き絞られていた射精感が、
僕の背筋や腰を震わせながら寸止め不可能なくらいに高まっていく。
「うあ、ぁ……もうダメ‥‥でる!」
僕がそう言うや否や、里香は亀頭を口内の中心に捉えなおすと、
舌を器用に肉棒に絡めてきた。その舌先は、裏筋やカリ首を的確に責め立てる。
……もはや余裕さえ感じさせる里香のテクニックに、
僕は男としてこれ以上ない幸せと、ある種の敗北感を味わいながら、達した。
ドビュッ、ドビュッ!!
解き放たれた快感に、視界が歪む。
曖昧になっていた快感が、ドビュドビュと射精を始めたことによって、ひどく凶暴なものに一転する。
「ひっ……!」
僕は、自分自身が息を細く吸い込む音を聞きながら、
下半身が全て白く迸る快感になって溶けてしまわないか、心配に感じた。
里香の熱心な愛撫と、ここしばらくのご無沙汰のせいもあり、
ペニスが脈打ちながら吐き出すのは、とても濃厚な白い濁流だ。
しかしあらかじめ待ちかまえていた里香によって、
それは口内に注がれる度に、んぐ‥‥んぐ‥‥と喉を鳴らして全て飲み込まれてしまう。
結合部に目をやると、里香は目を瞑り、
むせることもなく一生懸命になって僕の粘っこくで生暖かい精液を飲み込んでいる。
(くっ……きっと、ものすごくマズいだろうに……)
以前、里香の顔や髪を射精で汚してしまった時には、
なんともいえない征服感を感じたものだけど、今度はその逆のものを僕は感じていた。
……やがて、ペニスの脈動が収まってくると、
里香はふにゃふにゃになってしまった僕のペニスを、アメかアイスキャンデーにするように舐め始めた。
あるいは、子猫がミルクを飲むような感じかも知れない。
「ぺろ……ぺろ、ぺろぺろ……」
余韻まだ冷めやらない肉棒に付着している白濁の残滓を、里香の舌が丁寧に拭き取ってゆく。
里香がペニスを浅く咥えているせいで、彼女の黒く長い髪は揺れやすく、たまにサラサラと僕の股ぐらをくすぐる。
「…………」
恐らく、里香はキレイにしてくれているのだろうけれど、どうも僕からは話しかけづらい雰囲気だった。
‥‥というわけで、くすぐったいような感覚にしばらく身を委ねていると、ふとその感覚が消えた。
それと同時に、里香が僕の正面に上体を起こして、顔を見せてくれた。
久しぶりに直視する里香の顔は、とても紅潮していて、いつもより何倍も色っぽく見えた。
一人の男として里香に敬意を表したくなった僕は、素直にお礼を言った。
「……凄く気持ち良かったよ、ありがとう、里香」
「ふふ、どういたしまして」
里香は、さっきまでペニスに奉仕していたとは思えないほど可憐な唇で、そう言った。
その唇の動きを見ていると、改めて里香の先ほどの行動を思い出して、僕も赤面してしまう。
「あんなにされちゃ、俺もうオナニーなんか出来なくなっちゃうよ。ホントに気持ちよくて……」
「うんうん。その方が、あたしにとっても気分が良いわね」
里香は目を細めて、誇らしげにそう返してくる。
僕を気持ちよくする為にしてきた努力が、報われて良かったという気持ちの表れかも知れない。
だが、僕としては先ほどの里香の行動の中で、一つだけ気になることがあった。
「でもさ、あんなにその……精液飲んじゃって大丈夫だったのか? 苦いし、臭いだろ?」
僕がそう聞くと、里香は少しだけ肩をすくめながら答えた。
「だって、成分的には健康に悪くないらしいし、そこらにぶちまけたら汚いでしょ?
それに、服とか髪にかけられるのだって嫌よ。今日はオシャレして来たんだから」
どこまでが本心か、恋人の僕でさえ、いやだからこそ計りかねる里香の答えであった。
「ご、合理的だなぁ」
僕がそう言い終わるや否や、里香は身体を乗り出して、顔を僕の目の前に近付けて来た。
「ねぇ、それより――」
続く言葉を一拍置いて、里香は僕の目を見て言った。
「……裕一も、これで終わりにするつもりなんか、ないでしょ?」
純真そうに微笑みながらそう言う里香は、しかし舌なめずりしているかのようにも見えた。
里香の黒く綺麗な双眸に吸い込まれそうになった僕は、喉を鳴らして、ゴクリと唾を飲み込んだ……。