僕と里香の周りにはそんな風に、実に和やかな雰囲気が流れていたが、
ふと、確認しておかねばらならないことを思い出した僕は、口を開いた。
「そういや、里香の方は何かあった? 留守電とかさ」
普段なら、里香の方から自発的に、僕の留守中に何があったかについて報告してくれることが多いので、
僕の方からこのようにわざわざ問いただすのは珍しいことだった。
すると、里香は自らの口に手を当てて、『あたしとしたことが、しまった』という顔をした。
里香の表情から、そんなに深刻なことに気付いたワケではないと推し量った僕は、
僕の留守中、彼女に何があったのかを聞いてみた。
「ん、何かあったの?」
すると、里香は少し申し訳なさそうに眉毛を下げて、僕に真相を語ってくれた。
僕はベッドの上の、里香の隣のスペースに腰掛けて、彼女の話を聞くことにした。
「実は、病院から電話で連絡があってね――」
……その後の里香の話をまとめると、
『産婦人科での戎崎里香さんの入院受け入れ態勢が整ったので、
入院する準備をした上で、前からの予定通りの、来週の木曜日に夫婦で病院に来てください』
という内容の電話が、病院からかかってきた、とのことだった。
里香から、そのことを聞いた僕は、
「おいおい、そういう大事なことは、もう少し早く教えてくれよ」
と、苦笑しながら里香に文句を言ってしまった。
「裕一が、帰ってきてからも忙しくしてたから、言う丁度良いタイミングを見つけられなかったのよ」
里香はちょっときまりが悪そうにしながらも、強気でしっかりと言い訳はするのだった。
「まぁ、里香のことだから、大事なことは忘れずに言ってくれるとは思ってたけどさ」
そんな風に、僕が一歩譲るようなことを言うと、里香は調子に乗って一歩踏み込んできた。
「あらっ、よくわかってるじゃない。あたしは、裕一とは違って記憶力がいいからね」
「お前って……昔からホントに生意気だよなぁ……」
僕の口から思わず出てきた暴言を、里香は素知らぬ風に聞き流した。
「ん、何か言った?」
僕も彼女と同じように、知らんぷりをした。
「いや、何でもないです」
……ちなみに、里香が産婦人科に入院して出産しようと決めたのには、理由が二つある。
一つめは、過疎化に苦しむ自治体が、住民の出産や育児に多めの補助金を出していることである。
せっかくだから、もらったお金は有効に使おうということで、僕たち夫婦の意見は一致した。
二つめは、これは他の妊婦さんにも言えることだが、出産に関わる不測の事態に備える為である。
特に里香の場合は心臓の持病の件もあるので、臨月の1日前の日に入院という、
早め早めに行動を取ることとなったのだ。
一通り僕との話を終えた里香は、多少疲れたような顔をしながら、大きいお腹をまた撫でさすった。
綺麗で長い里香の右手の指が、丸いお腹の頂点から少し上の辺りを触っている。
「ふぅ……それにしても、来週の金曜日から、臨月なのね」
と、感慨深く愛おしげに言う里香の気持ちは、男の僕にはどうにも完全には理解出来ないものではあったが、
とても幸せな気持ちなんだろうな、という風に想像は付いた。
僕は里香の気持ちを邪魔しないように、穏やかな口調で話しかけた。
「入院用の荷造りは、もうだいたい終わってるんだっけ?」
聞いておくべき事は、やはり聞いておかねばならない。
「うん。今用意出来る分はね」
僕に問いかけられた里香は、同じ体勢をずっと続けているのが辛いのか、少し座り直しながらそう答えた。
女座りをし直した時に、マタニティ用ワンピースの裾からチラリと覗いた、
里香の少しムチッとした太股は、僕にはとても艶っぽく見えた。
「それならよかった。流石に準備が早いな。
あ、もちろん、入院した後は出来るだけお見舞いに行くから、寂しくてもあんまりワガママ言うなよ?」
僕が里香をたしなめるように言うと、彼女は思いも寄らないことで言い返してきた。
「寂しくなんかないよ。あたしにはこの子がいるし、あたしと裕一のお母さんもたまに来てくれることになってるもの。
……それよりも、これからは家族が一人増えるんだから、裕一には、あたしの為だからって休まないで、ちゃんと働いてもらいたいわ」
お金が無くてはとにかく何も立ちゆかないので、里香の言うことはもっともだった。
「はぁ……ほんとはさ、愛する妻子の為に、育児休暇でも取りたいくらいなんだけどなぁ……。
実は最近、職場でも散々脅かされてて困るよ。子供が生まれてからは、お金に羽根が生えて飛んでくぞ〜!って」
僕が自重気味に、大袈裟に肩を落としてそう話すと、里香は素直に笑ってくれた。
「ふふっ……まぁ、産まれる時だけでも来てくれれば、あたしは構わないわよ」
「里香にそう考えててもらえると、俺もありがたいぜ」
すると、僕がそう言い終わるか否かの時に、里香の身体が急にピクッと震えた。
「……ッ!あっ、また動いた‥‥!」
胎内で赤ちゃんが動いたのを感じて、身体を小さく震わせた里香は、
嬉しそうに目を細めながら、両手をお腹に当てて、
赤ちゃんの動きをより明確に感じたいようだった。
「なんだか、早く生まれたがってるみたい……あたしと裕一に、会いたいのかしら」
新しい命が宿る自分のお腹を見ながら、里香は僕と赤ちゃんに問いかけるようにそう言った。
僕は里香に相づちを打って、話を少し膨らませた。
「あぁ、俺も早く、赤ちゃんの顔見たいなぁ……でも、その前に名前を決めなくちゃな」
「そうね……候補はもういくつかあるけど、なかなか絞り込めないのよねぇ」
検査で女の子ということが確定して以来、夫婦二人であれこれと案を出してはいるのだが、
里香の言う通り、まだ名前を決めることまでは出来ていなかったのだ。
「産まれた時の勢いで考えて付けちゃうと、後で後悔するかも知れないから、
やっぱり出産予定日一週間前には決めておいて、ちゃんと紙にでも書き出しておきたいわね」
里香がやたらと真面目に言うので、僕も思わず両腕を身体の前で組んで、首をかしげて考えてしまう。
「そうだなぁ……最近は色んな名前があるけど、あんまりにも恥ずかしい名前は付けたくないよなぁ」
と、その時、僕が両腕で自分のお腹に触れたせいか、急に胃がグゥ〜ッと鳴るのを感じた。
ハッキリ言ってしまえば、空腹を感じたということである。
(朝ごはんは一応食べたけど、ちょっとお腹減ってきたなぁ……)
……そう言えばそもそも、僕は昼食をどうするかということを里香に聞こうとしていたのだ。
それが気付けば、お守りの話になって、次に入院予定日の話になって、今は赤ちゃんの名前の話をしている。
なんだか、随分とタイミングを逃したものだと感じた。
また、僕はともかく、里香は赤ちゃんの健康の為にも、一日三食の食事をバランス良く取らなければならない。
もう臨月が近いとはいえ、依然母体が摂る栄養には気を配る必要があるだろう。
そういうことに気付いた僕は、少しばかりわざとらしく腕時計を見ながら、里香にこう促した。
「あれ……もう昼過ぎなのか?
里香もお腹空いただろ? 赤ちゃんの名前を考えるのは、ご飯食べてからにしようよ」
「うっ……うん」
里香はまだ話し足りないのか、少し歯切れの悪い返事をよこした。
彼女の気持ちはわかるが、これも赤ちゃんの為だと思ってもらうより他ない。
「じゃあ俺、少し料理してくるからさ、里香はここで待っててくれよ」
僕がそう言って、ベッドから立ち上がろうとして――
「待って」
切なげな声がしたかと思うと、僕の左の袖が何かにグイッと引っ張られていたのだ。
「えっ、里香……」
切なげな声の主である、里香の顔を見ると、彼女はやたらと初々しく、頬を朱く染めているではないか。
「ねぇ、裕一……」
どこか熱に浮かされたように、里香は蕩々とした口調で、僕に語りかける
「……裕一もわかってると思うけど、あたしが入院して、赤ちゃんが産まれてからじゃ、
もうこんな風に、二人だけでゆっくり過ごすなんて、当分は出来なくなっちゃうでしょ?」
里香の口調は蕩々とはしていたが、しかし僕が口を挟むことを許さないような、ある種の迫力があった。
「だから、裕一もあたしも……その、今の内にスッキリしておいた方が、いいんじゃないかと思って……」
まるで新婚初夜の時のように、顔を赤くし、熱情に黒く深い瞳を潤ませた里香が、上目遣いで僕を求めてきた。
その時と違うのは、里香のお腹が大きくなっているということだ。
「……したければしたいって言えば良いのに、里香は相変わらず、こういう時は素直じゃないなぁ」
さっき、彼女の返事の歯切れが悪かった理由がわかった僕は、
里香の求められるのが嬉しいながらも、苦笑してしまった。
けれども、里香はそれを侮辱のように感じてしまったらしく、眉毛を釣り上げて反論してくる。
「何よ! こうやって、素直に言ってるじゃない! だいたい裕一は……あんっ……!」
急にお腹の赤ちゃんが動いてびっくりしたのか、話している最中だというのに、
里香は膨らんだ腹を押さえて、少し艶っぽく震えた。
「ん、大丈夫?」
僕が彼女に近寄って身体を抱きかかえてやると、里香は赤ちゃんの様子を確かめるようにお腹を撫でながら、
僕に向かって返事をしてくれた。
「うん……大丈夫。赤ちゃんが、お腹を蹴っただけみたいだから。もう……元気過ぎても困るわ」
嬉しいような困っているような口調をして、里香はそう言った。
「なら大丈夫だけどさ……でもきっと、お母さんが怒ると、お腹の赤ちゃんにも悪いよ?」
僕が彼女に向かって、諭すように言ってやると、里香も少し優しい表情になった。
「もう、わかったから……あたしも、早く裕一としたいから、その……んっ……!?」
里香が言葉を言い終わる前より早く、僕は彼女の上品な唇を奪った。
粘着質な唾液を舌で絡ませながら、僕と里香はお互いの口内を存分に味わった。
「はぁ‥‥ふぅ……」
短く激しい口づけが終わった時には、里香も僕も息が荒くなっていた。
それは単純に、キスをしていると呼吸が出来なくて苦しかった、というワケではない。
里香は多少羞恥心を残しながらも、すっかり上気した顔でベッドに座っていた。
高校生の時の僕なら、それだけで十分オカズに出来そうな絵面だった。
「……やっぱり、里香は可愛いなぁ」
僕はそう言うと、スッとベッドから立ち上がった。
近隣住民に物音が無闇に聞こえないように、
雨戸やカーテンを閉めたりして、事を始める為の準備を始める為だ。
(えーと、暗くて危ないと困るから、確か電気は付けたまんまでいいんだよな……)
そんなことを考えている僕の頭の中からは、今更お昼ご飯を作って食べるなんて考えはなくなってしまっていたし、
きっと、里香もそういう気分だっただろう――。
――用意を整えた僕と里香は、早速お互いの愛を確かめ合っている。
なかなか久しぶりのことなので、僕と里香は最初から昂ぶりを隠せないでいた。
「んあっ……!」
僕に首筋を舐め上げられ、ベッドの上で仰向けに寝ている里香は、身体を小さく震わせながら喘ぎ声を上げる。
昔に比べ、大きく膨らんだお腹と乳房が、マタニティ用ワンピースの上からでもよく目立つ、立派な曲線を描いている。
次に僕の舌は、彼女の胸元に浮き出ている鎖骨に向かって伸ばされた。
「っく……!あんっ……あん……!」
里香はいじらしい快感に、思わず身をよじる。
が、僕が彼女の身体を抱きしめて強引に愛撫を続けたので、喘ぎ声を上げ続けてしまう。
僕はそんな里香が可愛くて、彼女のお腹の赤ちゃんに体重をかけないようにしながら、側面から里香を抱きしめた。
すると、僕の手が里香のお腹に当たり、その中の温もりや鼓動を感じた。
ふと、僕の頭の中で、ある問題が浮かび上がってきた。
(そういや、本番までしちゃうかどうか、まだ決めてなかったなぁ……)
赤ちゃんへの影響を考慮するなら、本番までするべきではないことくらい、僕にだってわかる。
でも、今のタイミングで、そんなことを里香に聞くのはムードを台無しにしてしまうことだとも感じた。
(まぁ、後で里香に聞けばいいか)
僕はそう楽観的に考えながら、里香の両乳房にスッと手を這わし、服の上から優しく揉みしだいてやる。
感触からして、どうやらブラジャーはしているものの、
よもや里香の乳房に、手でモミモミ出来るくらいのボリュームが出来るとは、正直想像していなかった。
明らかに安定期の頃よりも大きくなっているが、もちろんこれも、妊娠に伴う身体の変化である。
「やぁっ……!ん……っ!」
以前から敏感な乳首はわざと避けているのに、里香は甘い吐息を隠せないでいる。
僕が面白がってもう少し続けようとすると、里香は急に僕の手を押さえた。
僕が何かと思っていると、里香はすぐにこう言った。
「こ、これ以上は……ね? ほら、裕一も‥‥服着たままじゃ、窮屈じゃないの?」
里香は懇願するような、しかし半ば蕩けた表情で、お互いが服を脱ぐことを提案してきたのだ。
なるほど、どうせ本格的に、しかも家の中で愛し合うのなら、服なんて着ているだけ邪魔なだけた。
里香の言いたいことはもっともなので、僕は彼女の提案を受け入れることにした。
とりあえず、脱ぐモノ脱がないと、始まらないのだ。
「わかった。そうだなぁ……確かに服着たまんまじゃ俺も窮屈だし、
里香もパンツがびしょ濡れになっちゃうもんな」
僕はそう皮肉混じりに言いながら、里香との抱擁を一時解くと、
ベッドの上で立て膝をして、身に纏っている衣服を黙々と脱ぎ捨て始める。
「……バカッ。どうしてそういう事言うのよ……」
里香は僕の皮肉に困ったような顔をしながら、しかし少し楽しそうに、
僕と同じ立て膝の体勢で、身に纏っている衣服を自らの手で脱ぎ捨て始める。
彼女はまず、自分の身重の身体をゆったりと覆い隠して守っていたマタニティ用ワンピースを、
脱皮していくようにスルリスルリと脱いでいく。
すると、僕の目の前には、
白いブラジャーで覆われた乳房と、
新しい命を宿した大きく丸く膨らんだ下腹部、
そして、飾り気の無い白いショーツで隠されている秘部が現れた。
上半身の衣類を全て脱いでいた僕は、パンツの中の愚息がゾワリと騒ぎ出すのを感じた。
次に里香は、自分の背中に手を回し、ホックを外してブラジャーを外した。
すると、ポロリと外れたブラのカップの中から、あられもない里香の乳房が現れる。
(おおっ……!)
僕が思わず心の中で声を上げたのは、里香の乳房が、以前と比べて明らかに変化しているからだった。
まず、触った時にも感じたことだが、サイズが明らかに安定期の頃より大きくなっている。
それでもやや小振りではあるものの、十分に母性を感じさせてくれる乳房であった。
また、乳輪が大きくなり、乳首は以前の桜色ではなくやや褐色になり、ツンと張って強く自己主張をしていた。
たとえ赤ちゃんでなくても、思わずむしゃぶりついて、吸ってみたくなる造形美だった。
そんな風に、僕が乳房に見入っている時に、里香は今度は飾り気の無い白いショーツを脱ごうとしていた。
昔に比べ、随分と肉付きがよくなった里香のお尻や太股を、里香の手によってショーツがすり抜けていく。
すると、里香の頭髪と似たような質感を持った恥毛が控えめに生え揃った、里香の秘裂が僕の目に露わにされた。
既にじんわりと湿り気を帯びているらしいスジが、僕を誘っているようにも思えた。
すぐ上に大きくなったお腹があるので、従来ほど目立ちはしないが、しかし里香らしい秘部だとつくづく思った。
……そうこうしている内に、僕も下半身を覆っていた服を脱ぎ捨てたので、
僕と里香は二人して、まさにほぼ生まれたままの姿となっていた。
いや、実は厳密に言うと、そうではないのだが。
(そういや……里香はこういう時でも、何故か髪留めは外さないんだよなぁ。その方が可愛いとは思うけどさ)
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