「お帰りなさいませ。ご主人様」
驚いた。本当に驚いた。
いつもと同じように学校へ行き、いつもと同じように里香と一緒に帰ってきた。
いつもと同じように写真を現像した後に、いつもと同じように里香と並んで写真を見るはずだった。

ところが暗室を出て部屋に戻った僕を出迎えたのが里香のこの言葉。
しかもいつの間にかメイド服に着替えている。
驚きのあまり凍りついていると、里香がいきなり睨みつけてきた。
「なによ」
「えっ? 何って、何が…」
思わずわけの分からない反応をしてしまう。
「似合わないかな…。こんな短いスカートなんて初めてだし…」
そういえば里香とミニスカートという取り合わせは珍しい。
病院ではパジャマだったし、制服のスカートも取りたてて短いというわけでもない。
普段着も長めのワンピースとかが多い気がする。

「いや、似合ってると思うけど…。でも何でメイド服なの?」
正直に聞いてみる。本当は「似合ってる」ではなくて「かわいいよ」と言ってやりたかったけど、
なんだか妙に恥ずかしい。
見慣れた自分の部屋にメイド姿の里香というあり得ない取り合わせだしな。

「ん。今度の文化祭でうちのクラスがメイド喫茶をやることになったの。『里香先輩なら
絶対に似合いますよ』とか言われて拝み倒されちゃった」
少し困ったように里香が言う。
「それでね、『衣装は作ったので、まずは着てみてください』と言われて押し付けられちゃった」
今日の帰りに大きな紙袋を抱えていたのはそういう理由か。
「どうかな。似合わないかな。断ったほうがいいと思う?」
里香にしては珍しく迷っている。
病院暮らしが長かったせいか、里香は人前に出るのが好きではないみたいだ。
「ん〜、どうかな。よく似合ってるよ。でも…」
「でも、何?」
「いや、こんなかわいい里香を他の男たちに見せたくないな、と思って」
こう言った僕の顔はたぶん真っ赤になっていたのだと思う。
それを聞いた里香も俯いたかと思うと、徐々に頬を染めていって…。

「裕一〜、入るわよ」
いきなり母親がやってきた。どうやら麦茶を持ってきてくれたらしい。
「あらぁ、里香ちゃん。どうしたの、かわいらしい服を着て」
「え〜と、今度の文化祭で喫茶店をやるんですよ。そのお店でみんなでこれを着ようという
ことになって。あ、よろしければ遊びに来てください」
「そうねぇ、お邪魔しちゃおうかしら」
いきなり僕の部屋で世間話が始まった。
さっきまでのほんわかした雰囲気はどこへいったんだ!?


結果から言うと文化祭での里香のクラスは大繁盛だった。
特に里香が店に出ている時間は恐ろしいほどの行列で、暴動が起きるのではないかと冷や冷やした。
何故かその行列の中に鬼大仏が居たという噂を聞いたが、怖くて真相は確かめていない。

そういえば例のメイド服だが、女子の希望者へ配布となったそうだ。
だけど里香の分だけは満場一致で「里香先輩が持って帰ってください」ということになったらしい。
そのうちまた里香の「お帰りなさい。ご主人様」という台詞が聞けるのではないかと、少しだけ楽しみにしている。


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