「馬鹿っ、祐一の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ」
里香の怒声が飛んでくる。
「馬鹿みたいに、馬鹿馬鹿言うな」
「祐一が馬鹿なんだからしょうがないでしょ」
里香の凄く冷たい目線が襲ってくる。
今、僕たちは大喧嘩の真っ最中だ。
これは非常に珍しいことだ。
別に喧嘩が珍しいわけじゃない。僕が高校を卒業して、就職して、里香と二人で暮らすようになってからも、里香が怒ることは幾らでもあった。
それでもここまで言い争いになったことはない。
それは僕が悪く、僕がすぐに謝ったことにもあるし、里香がそこまで怒ってなかったこともある。その前に僕に言い返す力がなかったのもある。
でも今は違う。
里香は本当に怒ってるし、僕も引く気はない。
僕のほうはお酒の力もあるかもしれないが。
「人のことを馬鹿みたいに馬鹿って言うんじゃない。俺はちゃんと働いてるし生活費だって稼いでる。なんでたまの休日に遊んできただけで文句言われなきゃいけないんだよ」
「別に遊んじゃダメなんて言ってないでしょ。何処に誰と行くのか教えて欲しいって言ってるだけじゃない。それなのにお酒飲んで馬鹿みたいに騒いで人の言うこと聞かないで。馬鹿じゃないの?」
再度襲ってくる絶対零度の中に灼熱の炎を孕んだ視線。
「だから親方達だって言ってるだろ。なんで信じないんだよ」
それでも僕は引かない。というか痛くもない腹を探られて、引けない。
「信じてるわよ、だから親方さん家に電話していいって聞いてるんじゃない」
里香はそういうと、電話のほうに駆け寄っていく。
「だから恥ずかしいからやめろって」
僕も里香の腕を掴み、電話させまいとする。
里香にそんな電話されたら、親方たちに嫁に尻に敷かれてることがバレバレになってしまうからだ。
いくらなんでもそれを唯々諾々と受け入れるわけには行かない。
「なんでそんなに嫌がるのよ。本当に親方さん達と行ったの?他の人達と遊んだからそんなに嫌がってるんじゃないの?」
「俺が他に誰と遊ぶってんだよ」
僕自身にも検討がつかない。
山口は名古屋。司と美幸は東京。夏目達はアメリカだってのに誰と遊ぶつてがあろうか。
「だ、だから私以外の女とよ。つまり浮気とかしてないなら、親方さんに電話してもいいよね?」
「浮気!?俺が?里香がいるのに?」
里香がここまでしつこくして来た理由はここにあるらしい。
しかし僕が浮気とは……
そこまで信用されてなかったというのは多少というかかなりへこむ。
「いいよ、電話して」
こんな疑いをかけられちゃ潔白を他人に証明してもらうしかない。
かなり恥ずかしいけど、背に腹は変えられない。
親方の評価より、家族の安定だ。
里香は親方の家の電話番号を押す、そして受話器を取る。
「里香、最近現場が何時くらいに終わってるかも聞きな」
たぶん、これも大事だろう。
里香はこっちを一瞥して、コクりと頷くと話始めた。
もしもし、江崎と申します。秋山さんはご在宅でしょうか。
話始めた里香を見ながら、思考を巡らせる。
里香と結婚して一年とちょっと。
里香は今高三で学校に行っているし、僕は生活費を稼ぐために働いている。
最初はむやみやたらに辛かったけど、今じゃそれにも慣れ、仕事もそれなりに楽しかった。
楽しい仕事をして、家に帰れば里香がいる。
僕は間違いなく幸せだった。
でも里香はそうじゃなかったのだろうか。
「はい、ありがとうございました」
里香は誰も見てないのに頭を下げると、チリンと小気味よい音を立てて電話を切った。
「なんだって?」
「うん。裕一みたいなへたれで甲斐性無しに浮気なんて出来ないってさ」
満面の笑みでそう言いやがった。
「ふーん」
いくらさっきまで里香のことを思っていても、いい気分はしない。
「そうだよね、裕一なんかに浮気できる訳無いよね。裕一だもんね」
凄くご機嫌な里香。対して僕の心内はどんどん冷えていく。
「ふーん」
「裕一?どうか……した?」
里香は僕が冷たい目をしているのにやっと気付いたらしい。
「いや、いくら必死に働いても、そのために浮気とか疑われて赤っ恥欠かされて、仕舞いにはへたれで甲斐性無しとか言われる男らしいよ。君を一生懸命に養ってる男は」
「あ……」
里香はかなり、後悔に囚われた顔をしている。
言い過ぎたという表情だ。
逆に僕は驚いていた。並べてみるとたいしたことない。入院していた頃は、もっと酷いこと言われまくってたぞ。
昔と変わらず罵声は飛んで来たと思ってたけど、中身は随分と軽くなってたってことらしい。
「ごめんなさい」
そして昔はこんなに素直に頭を下げる里香も見られなかった。
里香も僕と伊勢で暮らして変わった。そう思うと、そういうことだろう。
「いいよ、里香。でもなんで浮気してるなんて思ったんだ?」
僕はさっきから気になっていたことを聞いてみる。
「俺は里香以外の奴を養う甲斐性なんて持ち合わせてないぞ?」
これ本当。僕のやすい給料じゃ里香との生活が精一杯で、ちょっと遊ぶお金もない。
今日だって、親方が奢ってくれるというから行ったんだ。
「だって……最近私の抱いてくれなかったし。仕事だってわかってても、帰ってくるの遅かったし、不安になっちゃって……飽きちゃったのかなって」
里香は俯き加減でそう言う。
こんな些細なことで悲しませているなんて気づきもしなかった。
ならば、その不安の元を断ってやればいい。僕は里香に飽きてなんかいないって事を示せばいいのだ。
僕は里香に無言で近づく。
「よっと」
「きゃあ」
そして里香の体を掬い上げるように抱き上げる。俗に言うお姫様抱っこというやつだ。
そのまま布団まで運び、ゆっくりと下ろす。
「裕一?ん」
そのまま里香の唇を奪う。
舌で唇をつつけば、里香は待ち構えていたように唇を開き、舌を絡めてくる。
「んぅ…ちゅる……あむっ」
里香の口内はマグマのように熱く、柔らかい。
「んあ…ゆういちぃ…もっと」
「るむ…里香、かわいい」
貪欲に求めてくる里香に答えるように、僕も里香の感触を貪る。
「あむ…るらっ……ああっ…そんなっ……いきなりっ」
ほんの少しパンツの上から摩っただけなのに、里香はこれ以上ないほど敏感に反応してくる。
それだけ溜まってたってことだろう。
「里香、万歳して」
口を離し、里香に万歳させる。
下からワンピースを捲り上げ、雪のような肌と、局所を隠す空色の下着を露出させる。
「里香、もう感じてるね」
里香の秘部を隠す布は既にグショグショに濡れていた。
「やぁ、裕一がこんなにしたんでしょ」
「あれ、僕のせい?里香が勝手にこんなに淫乱になったんじゃないの?」
多分鏡で見たら、今の僕は酷く下司な顔をしてるだろう。
「裕一の馬鹿」
いつもの僕ならひどく恐怖させるその声も、紅潮させ、潤んだ瞳で言われては、なんの意味もない。
「里香、自分で弄ってみて」
何気なく口を開いたら、そんな言葉が口を突いていた。
「えっ?」
「一人で弄ってみてよ。里香がそういうことやってるところ見てみたい」
里香の顔が真っ赤になっていく。
何で僕はこんなことを言ってるんだろう。どこかでそう思ってるのに、口は次々と言葉を紡いでいった。
「やだ、恥ずかしいし」
「恥ずかしいなら、俺も見せるから」
待て、今僕は何を口走った?言うに事欠いて、自分の自慰を見せるとか言わなかったか?
「ん。わかった」
しかも里香は、コクリと頷いてしまった。
こうなったら仕方ない、覚悟を決めるしかない。
僕は寝ている里香の横に座り、既に限界まで大きくなったそれを外気に晒した。
それを見た里香の目が、一瞬で淫蕩なそれに変わる。
「すごい、裕一の大きい」
里香はそういうと、右手をそろそろと、パンツに覆われている秘所に、伸ばしていった。
「ふぅっ……ぅん…」
パンツの中で里香の指が動くたびに、喘ぎ声を漏らす。
「あぃ…裕一もっ…ああっ……」
里香はクチュクチュと淫蕩な音を立てながら、僕に迫ってくる。
「ん、わかった」
僕は自分のものを握り、少しづつ上下させていく。
僕は里香の恥態を見つめ、里香は僕を視姦する。
どこか倒錯的な関係だ。
「ゆういち…うんっ……ひぁ…ゆういち」
「里香…里香」
互いに名前を呼び合い、高まっていく。
「裕一、わたしっ……もう…うああっ」
里香はどこか辛そうな声とは裏腹に、激しく胸と秘所を刺激する。
その乱れ方に、僕も連れていかれる。
「ゆう…いち、ん…一緒に…」
「うん…はぁ一緒にイこう」
僕らは一気に行為を激しくしていく。
「あっ…うぁ……ゆういちぃ…わたしもうって……うあああぁああっ」
里香が全身を痙攣させるのと同時に、僕も溜め込んだ欲望を解放した。
「あっ…裕一、すごい」
放心している里香に、僕の欲望の証が降り懸かっていく。
里香の白い肌と漆黒の髪が僕の物でコーティングされ更なる淫靡さを漂わせていた。
「裕一のかかっちゃった。これ、どうしよっか」
里香はにやりと笑いながら、そんなことを言ってきた。
「う、ごめん」
「別にいーよ。それより、続きしよ?」
「うん」
僕は胡坐をかく。そして里香をその上に乗せる。そしてそのまま里香の体を抱きかかえるようにして持ち上げ、入り口にあてがう。
「里香、いくよ」
「うん」
僕は里香の許可を取ると、ゆっくりと里香の体を下げていく。
「ふうっ…裕一のあつい……うぁ」
僕の物が膣の壁を削るたびに里香は敏感に体を振るわせる。
そのまま進めていくと、僕の物がコツンと何かにぶつかる感触がする。
「里香、全部入ったよ」
「ん、分かる。裕一の熱くて、あったかいのが私の中を全部埋めてる」
里香は赤い、でも真面目な顔でそう言った。
僕は恥ずかしさにいたたまらなくなる。
「里香、動かすよ」
だから僕は一応宣告だけして、里香の返事を待たずに動き始める。
「うぁっ…そんな……いきなああっ」
僕は里香の体を前後左右に少しづつ角度をずらしながら抜き差しする。
「ひゃうっ……裕一、はげしっいあ…」
「里香、可愛いっ」
「うんっ……やあぁ…ばかぁ」
僕の突然のほめ言葉に、里香はもともと赤い顔を更に紅潮させ抗議してくる。
その姿も今の僕には愛おしさを増す燃料としかなっていないんだけど。
「うあああっ…そこ駄目っ……やああぁっ」
「里香、ここがいいの?」
「だめっ…そこばっかうあっ…だめぇ…ひゃうっ」
里香はまるで連続してイっているかのように過敏な反応を返してくる。
どうやらここは一番感じるところらしい。僕はそう判断すると、さっきよりも激しく、その一点を突き始めた。
「ひゃうっ、うあっ……うああ」
僕は懸命に上に乗った里香を弱い所を突き上げる。
「だっだめっ、もうっイっちゃう、ふっう…裕一…イっちゃうよぉ」
里香は全身を細かく振るわせる。
「いいよ、里香イって良いよ」
僕は、そう言って止めを刺すように大きくストロークする。
「う、あ、あ、あああ、ダメ、ダメ、ダメぇぇ」
「いくよ、里香っ」
僕は里香を全力で突き上げる。
里香の一番感じる場所から、そのまま滑っていき、最奥まで一気に突いた。
「うあああぁああぁっ」
里香の上半身が大きくのけぞり、僕の物が激しく締め付ける。
「くぅ、里香……」
「はぁ…はぁ……裕一容赦ないね」
「え?」
「私はやめてっていってるのに、容赦なく虐めてくるんだもん。変になっちゃうかと思った」
里香はそういうと、僕の上からおりて、にやりと笑った。また、僕の背筋が寒くなる笑みだ。
「だから、もう一回ね。私をこんなにしたんだから、責任取ってね」
里香はそういうとくすりと笑った。その表情は無垢な幼女のようだった。
「里香、次は里香がイっても止まらないからね」
「僕はそういうと里香の上に覆いかぶさった」
「うん、いいよ。きて」
僕は里香のその言葉を合図に口付けと挿入をした。
「あむっ…んう…」
ずちゅずちゅと淫靡な音を立てながら前後させていく。
「うあっ…裕一……すごっ」
今度は里香も意図的に締め付けてきて、僕も背筋を這い上がるような気持ちよさを感じていた。
「ひぃ…またぁ、そこばっかりぃ……ああぁっ」
さっき里香をイかせた所を突くと再び里香は敏感に反応してくる。
でも今度はそこに固執せず大きなストロークを繰り返す。
「ううっ…裕一のひぁっ、当たってる」
「里香、俺もう」
さっき出してなかった分だけ、僕のほうが上り詰めるのは早かった。
「裕一もう少しだけ待って、一緒にね」
「ん、分かった」
僕は里香の提案を受け入れると、早く上り詰めらせるべく、全力で里香を攻撃した。
「んんっ…裕一、激し…あうぁ」
「里香、早く……」
「うんっ…もういいよ……わたしもっもう」
「里香、里香あぁ」
里香の中で僕のが大きく脈打つ。
「うあああっ……裕一、ゆういちぃいいあぁあああああああっ」
その刺激がとどめになったのか、里香も大きく身を捩じらせ、締め付けてくる。
「うあ、里香、締めすぎ」
僕は里香に最後の一滴まで搾り取られ、小さくなったそれを引抜くと、里香の横にごろりと転がる。
するとそれを待ち構えていたかのように、里香が僕の胸に頭を埋めてきた。
「里香?」
「ううん、何でもない」
里香はその体勢のまま首を振る。
「そう?ならいいけど」
「ねぇ裕一、大好き」
唐突に発せられたその声に僕は一瞬驚いたけど返す言葉は一つだった。
「俺もだよ里香」
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