びっくりした。僕の中で、時間が止まったのがわかる。
 それほどに、目の前の光景が信じられなかった。
「なによ…少しは褒めなさいよ…」
 里香の言葉に意識が戻り始める。
 覚束ない足取りで、僕は彼女に近づいた。
「なんかいってよ…」
 里香の頬はほんのりと朱に染まり、僕と目を合わせようとしない。
 きっと、今までのこととか、慣れない格好のことで訳が分からなくなってるんだろう。
 そんな里香の肩に手を添え、僕は震える声を絞り出した。
「里香…すごく、綺麗だよ。ホントに、どうかなっちまいそうだ」
 里香はハッとしたようにこちらを向く。何度か瞳が揺れ、一度うつむいてから僕を見つめた。
「遅い…裕一のばか」
 それからまたうつむいてしまう。そんな仕草をされては、正直堪らない。
 一点の穢れもない、純白のドレスに身を包んだ里香は、神々しいほどに美しかった。
 僕は彼女を抱きしめたくなった。
 いや、抱きしめることにした。
 ほっそりとした身体を引き寄せ、呟く。
「里香…本当に綺麗だよ。俺、ちょっと泣きそうなくらいだ」
 少し迷ったふうに、里香の腕が宙をさまよう。やがてそれは、僕の背中にしっかりと回された。
「ばか。泣きたいのはあたしのほうだよ…ばかぁ」
 僕の肩にぎゅっと顔を押しつけ、消え入るような声で囁く。
 腕の中の小柄な身体が、たまらなく愛しかった。
「里香…」
 彼女の頬に手を添え、顔をこちらに上向かせる。
 あっ、と里香が何かをいう前に、小さな唇を僕のそれでふさいだ。
 静かな時間が流れる。
 十秒ほど重なった顔を離すと、里香はまたうつむいてしまった。
「ばか…ホントに、裕一の、ばか…」
「お前が悪いんだろ…こんなの見せられたら、誰でも馬鹿になるって」
 ぎゅっ、と里香の腕に力がこもる。
 そのままの格好で、僕たちは抱きしめあった。沈黙が、不思議と苦痛じゃなかった。

「…裕一、当たってる…」
「うぁ、あの…これは…」
 沈黙は、突然破られた。男なら分かってもらえるだろう。
 いつになく可愛い里香を見て、僕の息子は臨戦態勢になっていた。
「が、我慢できそうにないって…いったろ」
「…へんたい」
 我ながら情けないものだが、こうなってしまっては仕方がない。
 式まで時間もないし、賢者のような心で鎮めるしかないだろう。
「…これは、無理だな」
 ああ、無理だよ。
 目の前にはウェディングドレスを身に纏った、とても可愛い里香がいる。
 そして、里香は僕の腕の中だ。
 こんな状況でどうすれば落ち着けるだろう。
 これで落ち着ける人間がいるなら、そいつは人間以外のなにかだ。
 それほどまでに、今日の里香は魅力的だった。
「む、無理ってどうするのよ…そのまんまじゃ、その…」
 最後の方は聞き取れないほど小さな声だ。顔もさっきより赤い。
 そんな顔でそんなことを言われ、僕はますますまいってしまう。
 いったいどうすればいい?いっそ抜いてしまうか?
 いやいや、そんなことはできるはずもない。
 第一、一生に一度の結婚式の直前に抜いたなんて、冗談でも笑えやしない。
 ならいかにして息子を鎮めるかだ。
「…やっぱり無理だ」
「無理なの?」
「ああ、言い切れるくらいに無理っぽい」
 無理かな、無理だよ。
 僕たちの間を、同じ言葉が何度も行き交った。
 そうしてるうちにも、腕の中の里香のせいでクラクラした。
 正直に言えば出してしまいたい。
 できるなら里香の手で。彼女を包む純白の衣装を汚したい。
 けど、それこそ式のぶち壊しだ。
 八方ふさがりだった。
 僕には、何もできない。
「…じゃあ、私がしてあげる」
「え…?」
 今里香はなんていった?
 してあげる?あの里香が?もうすぐ結婚式なのに?
 色々な疑問が頭をよぎったが、そんなことはもうどうでもよくなっていた。
「…頼むよ、里香」
 里香の一言で、僕の理性なんかは吹っ飛んでいたんだから。
「ホント、へんたいだね」
「申し訳な…」
 謝ろうとして、言葉が中断された。
 里香の唇がそれを許さなかった。
「ん…」
 微かに吐息が漏れる。
 なにも考えられなくなり、フワフワした気分になった。
「んっ…ゆういちぃ」
 妙に甘ったるい里香の声が聞こえる。
 ああ、こんな声も出せたんだな、とボンヤリ思った。
「この変態」
「え?」
 ドン、と突き飛ばされた。
 あまりに急なことで、立っていられない。
 僕はその場に尻餅をついてしまった。
「え、どうしたんだよ里香?」
「うるさいわよ、この変態…結婚式の直前だっていうのに、なに考えてんの?」
 あまりの展開で冷静に物を考えられない。
 何が起きているんだ?さっきまでの甘ったるい里香はどうしたんだ?
「里香、何を…」
「うるさいって言ってるでしょ!」
「っぐぅ!?」
 股間から伝わる激痛に、一瞬目の前が真っ白になる。
 里香が僕の息子を、思い切り踏みつけたのだ。
 今度こそ本当に何も考えられない。
 痛いという認識しか脳が受け付けない。
「あ〜あ、こんなに大きくしちゃって…情けないわね!」
「ひぐっ!…やめ、里香…」
「なに?やめてほしいなら抵抗しなさいよ、この変態!」
「ぅあっぐ!!」
 踏みつけにされた息子を、ぐりぐりと攻められた。
 本当に訳がわからない。
 訳がわからないが、どうしようもなく気持ちよかった。
「びくびくしてわね…もしかして感じてるの?」
「あ、ああっ…あ」
 必死で首を動かし肯定する。
 もう式の前だとか、そんなことはどうでもよかった。
 今はただ、直接、もっと強く弄ってほしい。
「じ、直にぃ…直にやって…」
「仕方ないわね…ほら、自分で脱ぎなさい」
 里香の脚から息子が解放される。
 同時に痛みと快感が薄れ、なぜか淋しくなった。
 ああ、僕はマゾだったのか。
 そう自覚すると、痛みが完全に消えた。
 むしろ痛みが全て快感に変わった。
「ほら、早く脱ぎなさいよ」
 里香。なんて眼で僕を見てるんだ。
 ああ…そんな汚いものを見るように、蔑まないでくれ。
 僕を、もっと虐めてくれ…。
「ぬ、脱いだよ…早、くぅっ!」
 ズボンを下ろし終わるのと同時に、また思い切り踏まれた。
 すごく痛い。いや、すごく気持ちいい。
「裕一、あんた恥ずかしくないの?足で踏まれてこんなにして…」
 恥ずかしいさ。でもそれ以上に感じるんだよ。
「なぁに?もう先っぽからカウパー溢れてるじゃない」
 里香が足の指で亀頭をなぞる。
 ネットリとした液体が里香のきれいな指を汚した。
「汚いわね…こうしてあげるわ」
「う、うわッ」
 敏感な部分を足の指で挟まれ、そのまま扱かれた。
 自分の手でするのとは全然違う。
 頭が壊れそうなくらい興奮している。
「どう、気持ちいいの?」
 何も考えられない。
「なんとかいいなさい、よっ」
 指が亀頭に食い込む。
 射精しそうになるのを、必死でこらえた。
「裕一の、変態!」
 今度は爪が、尿道口を刺激した。
 もう、我慢はできなかった。
「…う、ぐぅっ!!」
「きゃっ!」
 溜まりに溜まった白濁が、思い切り飛び出す。
 もちろん里香の足を汚した。
 それだけではなく、飛沫が里香のドレスに、顔にまで飛び散る。
 穢れのない白が、僕の白濁で汚れた。
「もう、出しすぎよ…汚れちゃったじゃない」
 頭がボーっとする。
 まるで熱でも出たみたいだ。
「舐めて、綺麗にしなさい」
 だから、里香の命令にも素直に従った。
 僕の欲望で汚れた里香の足に、僕の舌が触れる。
「…戎崎ぃ、なにうなされてんだー?」
 突然、目の前に山西が現れた。
「え、あ?」
 周りを見渡せば、里香なんていなかった。僕も学生服だ。
 時刻は夜に変わろうとする寸前あたりか。
「ゆめ、か…」
 そうか、あれは夢だったのか。
 なんてことだ。僕は夢の中でマゾに目覚めたのか。
「何度呼んでも起きないしよ…里香ぁ、里香ぁってうなされてたぜ」
「ああ…夢にさ、里香が出てきたんだ」
「なんだ、夢の中で喧嘩でもしたのか?」
 そういって山西は笑う。
 何も知らない山西のバカさ加減に、少しだけ救われた。
「さ、帰るか!」
「おう」
 あの夢は僕だけの秘密にしておこう。
 というより誰にも話せない。
 里香にだって秘密にしなきゃ。
 まさか夢で自分の性癖を思い知るなんて、訳がわからない。
 零れそうな涙を隠すために、空を見上げた。
 沈んでいく夕陽が、やけに眩しく感じた。
                             おわり?


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