半分の月はいつもそこにある ver1.5
〈誰かの事を考えて眠れない夜〉

眠るには丁度良い気温の夜も大分更けた頃、
古い民家の二階にある少女の部屋を、半月が柔らかい光でガラス窓越しに照らしている。
その部屋は年頃の女の子らしい華やかな服や、アクセサリーや音楽機器は並んでいない
流行のアイドルのポスターも貼られておらず、
高校の制服や教科書などが目立つ所に置かれているだけの地味な部屋だ。
そういう部屋の中では一層、年季の入った本で一杯になった本棚が目立った。
部屋の主である少女の名は、秋庭里香。
一般的な同年代の女子の顔に比べて希な白さを持つ愛らしい顔を、
少女は眠気に少しだけ歪ませながら机で本を読んでいる。
すると、少女は眠そうに目を擦りながら部屋の時計を見た。
(もうこんな時間なの?)
少女はスタンドの明かりを消しカーテンも閉めて、
親しい少年に借りて来てもらった本をしまうと、明日に備えて早めに布団に入っていった。
(もうちょっと本読んでからでも良かったかな‥‥)
大して飾り気のない布団と毛布に、少女の細い身体と着ている質素なパジャマが包まれる。
腰まで伸びる程の長さで蒼みがかったような長い黒色の、男好きしそうな髪も枕と毛布の間に収まっていく。
こういう形容の仕方なら、何ら問題が無いかも知れないが、
彼女の身体は病魔との闘いを一生続けなければならないものだ。
その痕は身体の様々な所に、例えば服の上からは見えない痛々しい注射痕と手術痕や、
まともに日の光を浴びられなかった事を示している白い肌、
髪を切る余裕が無かったからこそ保たれている、少女の長い髪がそうである。
(今日も裕一、おかしかったな〜〜‥‥)
寝る体勢を整えつつあるはベッドの中で、今日一日あった事を一つ一つ思い返していた。
寝付けないせいか、それとも楽しいのか、自然と彼女は身体をもぞもぞっとベッドの中で動かす。
(ちょっ―――普通の身体で普通に学校や会社に通う人なら、眠くなったら愉しい事を考えながらベッドに入り、
朝起きれば当然の様に朝の太陽を見て、自分の行くべき場所に行き、
一日の大半をそこで過ごして家に安息を求めて帰るという生活を何も考えずに繰り返せる。
そこそこに楽しい事があって、そこそこにつまらない事がある日常を送る事が出来る。
しかし、この少女の場合は完全にそうでは無かった。
(確か明日は、久しぶりに検査があって……)
少女にとっては明日見る町の景色が、太陽が、月が、愛する人の顔が、
この世で最後に見た景色になるかも知れないのだ。
だから彼女は毛布にくるまれて思い返す。裕一の事を。
平等かどうかはわからないけれど、少しでも長くいたい世界で、最も愛おしいその人を―――
彼の姿形や言葉を思い出す度に、少女の鼓動が病気の発作を起こさない程度に高まった。
(ゆういち……)
その少年の背格好、仕草、喋り方が、目を閉じた少女のまぶたの裏に鮮やかに描き出される。
そして段々とその映像が、徐々に少女が想う光景に移り変わっていく。
(……裕一だって‥‥どうせ私でヘンな事考えてるんだからお相子だよね?)
とからかったらムキになっちゃってさ……)
少女は先ほどまで身体を転がしてくねらせていたが、
しまいに布団から上半身を出して、絹の様に白い腕を徐々にサイズの小さい胸の辺りに回していく。
少女の白い両手の平が、小さい胸を覆ってサイズを計るようにした。
(……私、胸小さいかな? ………裕一、もっと大きい方が好きなのかな?
 結構スケベだし……)
少女の腕が彼女自身の胸をパジャマ越しにさする事に、可愛い声が漏れた。
(だって、あんな量のエロ本持ってたんだもんね……)
いじましく、初々しさを感じさせる手つきで何度もさすったり揉んだりしている。
「んっ…‥‥」
少女は見かけによって健全なもので、乳首とかダイレクトな所は責め倦ねて、
はっきりとしないむず痒い快感のような感覚を感じる。
「っ………ぁ」
これが少年の手だったら、どんなに幸せだろう?
少女の脳裏にそんな想いが滲んできたが、そんな事をあのヘタれ男には全く期待出来なかった。
(……裕一って、元々私に頭上がらないもんね……)
そんな事を考えていた少女は、ぎこちないなりに自らパジャマのボタンを外すと、
小振りだが形の良い胸が生温かい外気に晒す。
次に両手でその胸を、ふにふにと揉みしだく。
元々昂ぶってはいたので、すぐに乳首が硬くなってきたようだ。
「ふぅ……」
赤くしこりたってきた乳首の内、右乳首を少女はぎゅっと掴んで弾いてみた。
少年にこうされてみたいと思ったからだ。
「ひゃっ」
ピンという感覚と、自分の妄想が少女の精神に電撃を走らせ、思わず目を瞑ってしまう。
そんな愛撫を繰り返している内に少女は、更に自分の顔や身体が火照り、
それどころか口に出しては言えないような部分まで熱を帯びているのを感じ取っていた。
同時に自分の心の中でとても淫らな、妄想に近い光景が夢のように浮かんでは消えて行く。
「はぁ…‥はぁ……」
あの少年に両胸を弄ばれている自分がいる。丸裸になった鼓動を両手で掬い取られる。
あの少年に耳を責められている自分がいる。熱く甘い吐息が漏れるが、抵抗せずに身を任せる。
あの少年に前から貫かれている自分がいる。身体のどんな奥深くまでも、優しくしかし乱暴に入ってくる。
あの少年に身体も心も全て投げ出して捧げる事がこんなに心地良いなんて。
どの自分も少年も、全く悦びに酔いしれていた。
そして今の本当の自分は、身体中に汗をかき、息が荒くてどうしようも無く身体の奥が疼いている。
(……胸だけじゃ、おさまらないよぉっ………)
彼女は自分の昂ぶりを解消する為に、自らの右腕をパジャマのズボンの更に奥、
誰にも触れられた事の無い、口に出しては言えない様な秘められた部分に接触させていった。
壊れ物を触るかのような手つきで右手の指が何本か、ある部分に触れた時、くちゅっと水音がした。
「‥‥ひゃっ!……えっ……やだ‥‥こんな……」
自分の昂ぶりと行為によって漏れ出た淫らな音と蜜に少女は少し躊躇するが、
それでも右腕は動きを止めず、左腕は胸を弄り続けている。
「……や……っん……」
少女の秘部は昂ぶりに応じてかなりの量の蜜を垂らして、右腕での自慰を容易にしている。
ショーツが濡れて張り付いて気持ちは悪かったが、
やや薄い恥毛が自分の愛液に濡れて指に触れる感覚は、背徳的な快感だった。
 くちゅ‥‥くちゅくちゅ……くちゃっ……
何度目かの水音が鳴った時、ふと少女の視界に半月が入る。
少女は自分の視界に半月が入った時、また少年の事をはっきりと思い出して顔がカアッと熱くなるのを感じた。
(ああ……私、裕一の事が大好きなんだな……)
――――初めて病院で芥川龍之介の本を持った少年に会った時は、
こんなことになると少女は露ほども思っていなかった。
死神がいつも隣にいるような自分の病状を知らせれば、少しずつ距離を置いていくだろうと思った。
けれど一層少年はいつも自分を気にかけるようになり、
どんなに酷いわがままを言っても、意地悪をしても言うことを聞くようになった。
それどころか、色々な危険を冒してまで自分の思い出の場所に連れて行ってくれたのだ。
少年のおかげで、少女の中の覚悟が変わったのだ。
この少し頼りない男の子と、もう少し生きてみたいと。
その後、少年がもの凄い量のエロ本のコレクションを所持しているのが発覚したり、
思いがけず一日だけ学校に行かせてもらったりもした。
いきなり少年が窓から入ってきたことなど、忘れたくても忘れられない。
少年と過ごした日々の記憶は、まるで宝石のように輝いている。
そして、その二人のかけがえのない日々はこれからも続いていく。
(裕一……ゆういち……!)
少年も、他にどんな犠牲を払ってでも少女と一緒に生きると誓ってくれた。
伊勢から出て行くという夢までも、なんら躊躇わずに潰してくれた。
そして少女も『いのちをかけて君のものになる』と、
今はもうこの世にいない、大好きな父親と同じプロポーズの言葉で愛を誓った。
この人生を、自分にとってかけがえのない生きる力、無償の愛を注いでくれる少年と共に生きようと決意した。
―――だから今は、少年に夜這いなんてかけてもらえなくとも、こうやって我慢しよう。
少女の左手はさっきから右胸と左胸を行ったり来たりして、摘んだり揉んだりを繰り返していた。
更に想像の中では、大好きな少年の太くはない指が何本か、
今まで誰も自分自身でさえも、全く触れた事の無いクリトリスの包皮を剥き上げようとしている。
それに合わせて、自分の右手で敏感な包皮を少しでも剥こうとすると、
全身に電流が流れるような感覚が走り、自分の理性を丸ごと刈り取られてしまいそうになるのに少女は耐えた。
「ふぁっ‥‥くぅっ……!」
なんとか包皮を剥き終わった彼女は、艶めかしい色の肉真珠を
右手の人差し指と親指で摘みあげると同時に、残りの指と左手で一気に愛撫を始めた。
先ほどの壊れ物を触るかのような手つきはもはやなく、
今までより一層大きく声と水音が部屋に漏れ出し、昂ぶりも絶頂に近づいていく。
 ぐちゃ‥‥くちゅくちゅっ……くちゃっ……ぐちゅっ!
(も、もう……!)
デリケートな部分が指で痛まないように、蜜を秘裂から掬って両手の指に纏った少女は、
最後に一回艶めかしい色の肉真珠を右手の人差し指と親指で摘みあげると同時に、
残りの指と左手で一気に愛撫を始めた。
ほどよく愛液で濡れてほぐされた穢れのない秘裂に、ぐちゅっと思い切りよく突っ込んだ。
(裕一っ……!)
その時、少女の身体が弓なりになり、目を思いっきり瞑って高みに達する。
少女の秘裂から、ぴゅっと僅かに蜜が飛び散って布団を汚す。
左手は強く右胸のしこりたった乳首を掴んだままだ。
……本当はこの高みを少年と共に迎えたいのに、奥手な少年は未だに自分を抱こうとしてくれない
時折、自分が求められていないのでは無いか、女として魅力が足りないのかと不安になる。
いや、少年が自分を好きでいてくれている事は良く知っている。
きっと少年はただの意地悪か意気地無しのどちらかなのだろう。
「あぅ……はああぁ………」
少女は自分の中の熱と感情が少しずつ冷めて行くのを感じると同時に、
漏れ出して来た愛液にショーツもズボンもかなり濡れてしまっているのにも気付く。
特に意味もなく、ソレをそっと右手で秘裂から掬ってみて、指を開くと糸を引いていた。
熱に浮かされたような意識のまま、ふと口に運んでみると少し生温かい、変な味がする。
(まずっ……)
………だいぶ自分のもので寝具やパジャマを汚してしまった。
けれど、今すぐに処理はしない。
少女はもう少し心と体の底から、この余韻に心の中と少年と共に浸っていたかった。
「はあ……はあ……はぁ……ぁ‥‥」
息を荒くした少女がふと窓に目をやると、また半分の月が視界に入った――――
主が服を整えて穏やかな眠りについてしまった暗い部屋を、
さっきとは少し角度を変えた半月が……半分の月が照らしていた。
数ヶ月前、砲台山の頂上で少女と少年を祝福してくれた半分の月。
心から結ばれた少女と少年に、これからどんなに辛い事があっても、もしくは楽しいことがあっても、
きっと、半分の月はいつもそこにある。

終わり


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