つい最近までは平和な、いつもと変わらない日々が続いていた。
 ――でも今日は違う。
 のんびりいつもの様に過ごすわけにはいかない、テストや宿題などよりも大事なものを今日完成させなければならない。
 今日は3月14日、この日には海の日とかクリスマスとかと同じように別名がある。
 その名もホワイトデー、義理にも本命にも平等な三倍返しを行わなければならないバレンタインチョコのお返しを送る日。
 バレンタインデーにはチョコをあげるという決まりがあるのに対して、ホワイトデーに相手に何を送るかは不思議な事にちゃんと決められていないらしい。
 同じようにチョコだとか、ホワイトだからマシュマロだとか、クッキーだとか、財布に余裕のある奴なんかはとんでもなく高い貴金属類を送ったりするらしい。
 ホワイトデーのことを司の家で話題に出したら、あいつは律儀にも毎年手作りクッキーを配っているといった。
 司はあれでかなり女子には人気だ。
 一回司にチョコを渡す為に群がる女子の集団を見かけた事もある、きっとそれだけホワイトデーのお返しが期待出来る品なのだろう。
 モテることは羨ましいけど山の様にお返し作らなければいけないと思うと、正直同じようにモテたいとは思えなかった。
 それでも司はお返し作りを楽しんでいるというから、僕はある意味司を尊敬した。
 そんな司に対して僕の方はホワイトデー当日だというのに未だに悩んでいる。
 司に手伝ってもらって僕もクッキーを焼くという事はもちろん出来る、でもそれじゃなにかいまいちしっくり来ない。
 なにせ里香には大見栄張って、
「三倍返しといわず、十倍返しで返してやるよ!」
 なんて言ってしまった。
 今思うとまるで子供が言う様な馬鹿みたいな事だが、それほど里香からチョコを貰った事が嬉しかったんだ。
 だからそのとき僕は里香をもっと喜ばせてやろう、そう思ったんだ。
「裕一、どうしたの? 」
「え? い、いやなんでもないけど?」 
 悟られちゃいけない、まだプレゼントが決まっていないなんて事を絶対に悟られるわけにはいかない。
 もし、バレたらどうなるか。両手でぽかぽか叩かれて土下座されられる位ならいくらでもする。
 でも絶対にそれだけで済むわけが無い。里香の機嫌が直るまで何があっても無視され続けられるか、逆に顔を合わせる度にその事をちらつかせてくるか。
 それとももう会ってすらくれなくなるんじゃないか。いや、でもバレンタインのお返しをしなかったくらいでそこまでは……あるかもしれない。
 とにかくバレたら何があるか分からない、とにかく良い考えを、それも里香をあの時の十倍は喜ばせられる様なアイデアを。
 当然何も考えていないというわけじゃない。これまでにも何個かは作戦を考えていた。
 一応マシュマロやクッキーなども考えたし、里香が好きそうな本を送る事や、少しだが我慢して貯めていた小遣いを使って服や指輪、なんて事も考えた。
 でもどれもいまいちしっくりこない。そもそも里香はそんな高かったりするものを送るだけで喜ぶだろうか。
 そりゃ里香だって女の子だから服や指輪なんかをプレゼントすれば喜ぶに違いないし、好みの本や普通にお菓子をプレゼントしても喜びはするだろう。
 何故だか、どれも本当に喜んでくれるかはいまいち自身が無い。
「裕一本当に大丈夫? さっきからどんどん顔が青くなっていってるけど」
「え? あ、あはは大丈夫だってば! ほら早く行こうぜ、遅刻しちゃうしさ」
「うん、そうだね」
 まだ僕の心の中を察知していないだろう里香は、本当に僕の事を心配してくれていたようで、上り坂では自転車から降りて一緒に自転車を後ろから押してくれた。
 それが僕は嬉しくて、そして少しばつが悪かった。
 里香の喜ばせる為に絶対凄いものを用意してやろう。
 僕は決意を確認するように自転車を押す手に力を込めた。
 自転車のグリップがその力を同じように返してきた。


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