黄金中毒






 

        1


  その名前も知らない片思いの相手のことを「トワレの君」と呼ぶことに決めた。
 私は十七才。血液型はO型。乙女座。とある私立の、全寮制の学校に通っている。私の名前は渚京子という。ルームメイトは双子の姉の桃子。在籍している学校は私立のいわゆる「お嬢様学校」だが、私自身はごく普通の家庭に生まれて、ごく普通に育ってきた。汚いものに囲まれて遊ぶのが好きで、特徴といえばそれくらいの、いたって普通の女子高生だ。
私の恋が始まったあの日、寮の一階のトイレに入ったときのことは今でもよく覚えている。月曜日の朝礼のすぐ後、授業が始まる前に寮に忘れ物を取りに行ったついでに、私はトイレに寄ったのだ。奥から二番目の個室だった。私の入っている寮は、シャワーは各部屋についているが、トイレは共同なのだ。トイレは各階にあるが、女子寮なので女子トイレしかない。
その個室に入った瞬間、誰かが出ていったばかりだということが私にははっきりとわかった。匂いだ。その匂いで、私はやられてしまったのだ。個室に漂うほのかな、というにはあまりにも個性の強すぎる、まるで天国への道しるべのような香りだった。その香りが私の鼻腔の粘膜に触れた瞬間、私は恋に落ちたのだった。
顔も知らず、話もせず、声も聞かず、糞便の匂いだけで恋に落ちるなんて、そんなことが本当にあるのか、と思うだろう。自分でも信じられなかった。だが逆に言えば、信じられないということはそれはもう決定的に恋という感情がそこに存在している、ということなのだ。そこにないものが信じられない、などというのは文にすらならない矛盾なのだから。そうして私は恋に落ちた。
私は昼夜を問わず学校中のトイレを嗅ぎ回って、あの日と同じ香りを探し回った。一学期のすべてを費やしてわかったのは、私の恋の相手は朝礼が終わってすぐかあるいは朝礼中に、寮のトイレを使う習慣があるということくらいだった。毎週月曜日の朝、私が最初にあの香りと出会ったあの個室で、彼女は用を足しているのだ。
ひとつ問う。あなたたちは、世界を美しいと感じたことはないだろうか。私は、ある。体じゅうに黄金を塗りたくって床の上に転がり、金色の水流を頬に浴びているとき。胃の中でとろとろに溶けたおいしさの素で肌をパックし、感じる微かな電流に身を委ねるとき。汚物に浸された脳味噌で世界を見上げている私からすれば、痺れた頭で認めるもののすべてが、いいようもなく美しい。私が汚ければ汚いほど醜ければ醜いほど、それと反比例して世界は強く美しく輝くのだ。



夏休みが明けたばかりの、まだ十分に暑い蒸し窯のような講堂に、七百人ばかりの生徒たちが整列している。彼らはみな同じ制服を着て汗のしずくを垂らしながら、ほぼ直立不動で校長先生の訓話を受け続けている。
私がめぐみの制服の中に手を入れ、腰から背中にかけてそっとなでてやると、彼女は少し身をよじって、もどかしそうな素振りをした。すでに彼女の肌は熱くじっとりと汗ばんでいる。
朝礼に集められた生徒たちの中には桃子の顔もあった。桃子は二年一組の学級委員なので、二年生の列の一番前に並んでいる。暑さに頬を上気させて、朝から疲れ切った表情をした生徒たちの間で、桃子だけは凛とした相貌を一筋も崩さずにいた。
「ん……っ」
口に含ませた足の人指し指と親指で、めぐみの舌を強くつまんでやる。床に伏したまま声を洩らしためぐみの背に、煙草の灰を落とす。灰にはまだ少し火が残っていたらしく、それを素肌で受け止めた桃子は小さく体を跳ねさせた。
めぐみの肌に滲んだ汗で火が消えるジュという音が聞こえるのではないかと思うくらい、講堂はとてもとても静かだった。生徒に訓話を与え続ける校長先生の声だけが朗々と響いている。
足を口から出してやると、めぐみは床にこびりついた鳩の糞を舌で舐め取りだした。白く固まった部分を唾液で溶かし、舌で拭き取れない部分には歯も使いながら、丁寧に掃除していく。ときたまその腰がひくひくと痙攣するように波打つ。さっき施した浣腸がそろそろ限界なのかもしれなかった。
私たちがいるのは、朝礼が行われている講堂の舞台の真上だ。照明や音声を操作する機械が設置されている小さな部屋。たかが朝礼に大がかりな設備など利用するはずもなく、文化祭の前後以外はこの部屋の存在は皆に忘れられている。私たちと同じようなことを考えた生徒が他にもいたらしく、部屋の隅には煙草の吸殻が詰まった空き缶やら使用済みのコンドームやらが散らばっている。窓にかかっている暗幕の隙間からは講堂の様子を見下ろすことができた。
「……ダメ」
 黒い瞳を潤ませて、めぐみが私を見上げる。その声は掠れていた。
「なにが?」
「音がでちゃう」
 めぐみはちらりと自分の尻の方を見た。白いショーツが限界を示すように震えていた。
「いいじゃない。聞かせてあげなよ。みんなに」
「いや、そんな……。気付かれたら」
「大丈夫だってば」
私は足でめぐみの顎を蹴り上げると、その体を仰向けにした。彼女の上に覆い被さり、ショーツの中に手を入れる。豊かな茂みを撫で、濡れそぼった恥肉をひと掻きして、その向こうにある菊門へと指を伸ばす。苦しげな呼吸を繰り返している星型の穴に中指を突きたてると、私の耳元でめぐみがうめき声をあげた。
「だめ……。も、もう……」
 めぐみの中は腸液であふれかえっていた。私は突きたてた中指を曲げて、その入り口を広げてやる。めぐみの腕にしがみつかれながら、さらに力をこめて中指を手前に引き寄せた。
 めぐみが私の唇を求めてきた。さっきまで鳩の糞を舐め回していた舌を吸い上げながら、私は指を動かした。
「んぅ……」
 ぎりぎりのところで我慢し続けるめぐみに苛ついた私は、口の中でぬめる舌を捕まえ、手加減をせずに噛んだ。
「んぎっ!」
 驚いためぐみが悲鳴をあげる。口の中に温かい鉄の味が広がって喉の奥に染み込んでゆく。めぐみの中に差し込んだままの中指に固形物が触れた。
「あ…………」
 たちまちのうちに直腸内に温かい泥が満ちて、私の中指と肛門の隙間をこじ開けてあふれ出した。その奔流は止まることなく氾濫し続け、豚が鳴くような音をたてながら私の手のひらを満たし、ショーツの中に泥山を作り出した。私は、手首まで包んでいくその熱に目を細めた。
 音は講堂まで響いているだろうが、それが何の音かまで気付いた者はおそらくいないだろう。
 めぐみは恍惚とした表情を浮かべて、唇の端から涎を垂らしている。汗に濡れた頬に髪の毛が張り付き、その頬は快感に緩んでいる。脱糞はまだ続いていた。
 私は瞼を下ろして、暗幕がかかった窓の向こうに広がっている講堂の様子に耳を澄ませた。校長先生の訓話はまだ終わらないようだ。静かな講堂に立ち尽くす生徒たちの中に、彼の話を真面目に聞いている者がいったい何人いるだろうか。彼の声は低く太く、頭頂部が薄くなり始めた年齢にしてはよく響いている。彼はきっと真剣に、誠実に話をしているのだろう。正しい道を一歩も踏み外すことなく生きてきた彼の何十年かを象徴するかのように、毎週行われるこの朝礼の訓話にしたって、真面目に。
 私はショーツの中に広がった温かい泥をかき回して、めぐみの尻たぶにぬりつけてやった。それからゆっくりと手を引き抜き、しっかりと匂いがつくように恥肉にも塗り込め、陰毛の間へも擦り込んでやる。ショーツの端からはみ出たブラウンの油絵具を指先ですくい取って、めぐみの頬を飾りつける。唇にも、その唇の中へも、色をつける。
このめぐみという名前のばかばかしくてくだらないマゾヒストは、絶頂を感じたのか小さく痙攣をしていた。仰向けになった彼女の腹には腹筋の形が浮き上がって、玉の汗が体中から吹き出ている。
私は半開きになっているめぐみの唇に舌をねじ込み、口内を舐め回した。私が噛んだ傷口から流れ出す血液と詰め込んだ大便と豚の唾液とをまとめて混ぜて味わう。彼女の体内を流れていたものたちの味と匂いが、私の中へと吸い出されてゆく。
柔らかな黄金に混じって紅茶色になった液体が、めぐみの股間から流れだして広がっていった。彼女は自分が失禁したことにすら気付かず、黄色い湯のなかでうっとりと雌犬の愉悦に心を委ねている。
 外では蝉が鳴いていた。その声を遠く背に感じながら、私の感覚はこの部屋の外へ、講堂を飛び越えて屋外へと馳せた。学校のすぐ外の道を通るトラックの熱気が陽炎を生み出し、木々の緑葉と向日葵を揺らめかせている。空は青く、朝九時の陽光を遮る雲はなかった。黒いアスファルトが熱を蓄え始めていて、ゴムの焼けるような匂いが漂ってくる。
今日もまた暑くなりそうな予感がした。



寮に戻り、体を洗ってシャワールームから出る。濡れた体からマットの上にしずくを落としながらバスタオルを探し、体を拭いて、服を着る前にもう一度髪と手をにおってみた。やっぱりまだ少し匂いが残っている。めぐみの愛液と大便の匂いだ。
部屋はひどく蒸し暑かった。エアコンはなるべく使わないように言われている。日当たりの悪い部屋に二段ベッドと戸棚、冷蔵庫、小さな机を置いたら、それでもうスペースはほとんど無い。
濡れた髪からカーペットにしずくが落ちた。私は髪が乾くまで服を着ないことに決めて、二段ベッドの脇にある棚から香水を物色する。
「京子」
 部屋のドアが開いて、桃子が入ってきた。私は取り出した香水を手首につけながら応えた。
「おかえり、桃子」
「あなた、なんで朝礼さぼったのよ」
 私は棚に香水を戻す。
「いいじゃない、べつに」
「よくないわよ。私が怒られるんだからね」
 桃子は私の双子の姉だ。顔も体も声も同じ。鏡に映る自分が意思を持って勝手に喋りだすことを想像してもらいたい。気持ち悪いと思わないか?
 桃子は部屋に入ってくるなり、いつものように説教を始めた。
「ちょっとあんた、また濡れたままで歩き回ったでしょう。いつまで裸でいるつもり? すぐ授業が始まるのよ。それにそれ、私の香水じゃない。借りるときは一声かけてって言ってるでしょ。ていうか学校は香水とか禁止よ」
「ああもう、うるさいなあ。わかってるわよ。いま着るとこだったんじゃない。急にドア開けないでよ、外から見えるでしょ。ノックくらいしてよ、ノックくらい」
「見られたって気にしないくせに。どうして自分の部屋に入るのにノックしなくちゃいけないのよ。だいたいあなた、今朝は私より早く起きたくせに、どこでさぼってたの? 探したんだからね」
「うるさいなあ。どこだっていいじゃない。私だってね、どうしても外せない用事くらいあるのよ。あんたにはわからないでしょうけど」
「へえ?」
 しまった、と思った。
「もしかして、男でもできた? そういえばあなた、最近ちょっとおかしかったもんね。ほとんど部屋にいないし、しょっちゅうシャワー浴びるようになったし、今だって香水なんかつけてるし、さ」
 嫌なことばかり言っていても、桃子の顔はきれいだ。不思議だ、と言い換えてもいい。どうしてこんなに嫌なやつがこんなに清らかで真っ直ぐでこの夏の太陽のように輝いているのだろう。私と同じ歳、同じ顔、同じ親から生まれたはずなのにな。
「ねえ、どんな人よ?」
 外出が増えたのもシャワーを浴びるのも香水が必要なのもぜんぶめぐみのせいなのだが、恋人、と言われてまず私の頭に浮かんだのはトワレの君だった。片思いどころか、まだ顔を見てすらいないのに。
 まだその顔を見てもいないトワレの君。私のあこがれの君。まるで私のためにあつらえたような大便をするひと。
「まあいいわ。どうせあなたの恋人なんて、不埒でいやらしい人に決まっているのだから」
「は?」
「今日だってそいつと何をしてたもんだか、知れたことじゃないわね」
 私は私の手の震えに気付いていた。は?
「悪いことはいわないから、そんな不純なことはやめておいたほうがいいと思うわ。まあ、言ってもそんなこと聞きやしないのでしょうけれど。高校生の恋愛なんていずれ破綻するに決まっているのだし、その相手だってどうせ大した……」
 私はその震える手を拳にして机に叩きつけた。
 桃子が黙る。机の上に乗っていたシャープペンシルが飛び跳ね、プリントが二枚床に落ちた。そして静かになる。
 続いて私の口から出た声は、自分でもびっくりするくらい低くて太い、獣のような声だった。
「殺すぞ」
 耳元で一度、弾けるような音がする。鳴ったのは私の頬だった。私は驚いて頬に触れて、桃子が私の頬を叩いたのだと理解してもういちどびっくりした。
 日当たりの悪い窓から差し込む弱い光はこの部屋を灰色と水色の二つのエリアに分け、桃子の顔を灰色に区分していた。静かなまま数秒の時間が経過すると、部屋の外からはアブラゼミの鳴く声が聞こえだした。灼熱の太陽に作られた木漏れ日の中で、夏を歌っているのだろう。私にはそれは今日もまた騒がしい一日が始まることを告げているように思えた。離れた校舎から生徒たちのざわめきが届いてくる。
 私は暗い部屋の中で桃子の瞳が光るのを見つめて、ただ、ばかみたいに立ち尽くしていた。



          2



 トワレの君に対する感情が恋と呼ばれるものであることに気付いたのは、個室を出て洗面台の前に立った時だ。ほんのりあかく頬を染めた自分の表情をみた時、ごくごく客観的に、私はそれが恋する乙女の顔だとわかってしまったのだ。心臓の縁にロウソクの火を点けたような、なんともむず痒い感覚が胸に生まれていた。もしこれが恋でなかったなら、私の人生にはもう二度と恋などというものは現れないに違いない。
  性的興奮とアルコールでダルマのように赤くなっためぐみが私の下で喘いでいる。シーツには汗と涎と愛液とめぐみの小便とで灰色の染みが広がっていた。
  学校からはそう遠くない場所にある繁華街のホテルを、私とめぐみはよく利用していた。この前めぐみを抱いたのが月曜日だから、六日ぶりだ。
  私はめぐみの股間に顔を差し入れ、その下にあるシーツを口に含んだ。前歯で噛んで、染み込んだ小水をちゅうちゅう音を立てて吸い取る。と、めぐみが脚を閉じて私の顔を太股で挟んできた。
  私はシーツを口から出し、目の前に突き出されためぐみのアナルを舌先で舐めた。
「ひうっ……」
  菊門はイソギンチャクのように収縮して、小さく声を洩らした。私はそのまま蟻の門渡りを舌で辿り、熱く火照ったアケビに口を開けてかぶりついた。軽く歯を立てて大陰唇をマッサージしてやると、発酵した匂いの液体が割れ目から滲み出てきた。私は割れた実の果汁を啜るようにジュルジュルとそれを吸った。
「あ……ん」
  口で息ができないため私の鼻息は自然と荒くなり、鼻先にまとまっている陰毛がひどくくすぐったかった。私はめぐみの股間から顔を離し、指でその黒い雑草を一束ねじりあげた。そのまま一気に力を込め、土手から引き抜く。
「いあぁっ!」
  叫び声とともに、すでに十分赤く充血しためぐみの目から涙が零れた。毟りとった陰毛が私の指の隙間からすり抜け、はらはらとめぐみの腹に落下していく。頂点から生ゴミがはみ出ているめぐみの黒い三角コーナーには針で突いたような血の玉がいくつもできあがった。
  部屋のテーブルに置かれた二つのグラスにはビールとブランデーが入っている。午前二時。照明を落とした薄暗い部屋の空間の中で、その透明なガラスに納まった二種類の液体はそれぞれ琥珀色と金色の宝石のように小さな輝きを放っていた。ビールのグラスには水滴が飾りをつけ、光の屈折を複雑にしている。私は眼でもってその細やかな光を追う。
「ほら……また」
  仰向けになったまま上を向いてめぐみが言う。
「……違うこと考えてる。最近。いつもそうよね。……ねえ、誰のこと考えてるの?」
  照明の色によって部屋の空気は琥珀色、いや桃色に近い。ビールの水滴が大きくなって落ちる。透明なグラスと空気との縁を辿り、他の水滴と混ざり合って、さらに大きくなって下に落ちる。それはテーブルクロスに吸い込まれて染みになった。
  私は視線を下ろし、ちらりとめぐみの体を見た。そしてベッドのスプリングで軽く反動をつけてめぐみの顔をまたぎ、シックスナインの体勢をとる。
「ほら、あなたが欲しいものをあげるわ。お口を開けて受け取りなさい」
  細く息を吐いて腹筋に力を入れる。括約筋が緩み、肛門を押し開けて私の体から汚物が生まれ出ていく。褐色のペーストがめぐみの顔の上に落ちる湿った音が背後から聞こえる。
  黄金をすべて出し切ってしまうと、私は身を起こし、めぐみの顔の上に尻を乗せた。ブラウンクリームが尻肉の下で潰れ、生暖かい感触が広がる。私はめぐみの顔にそれを擦り込むように腰をグラインドさせた。
「んっ……はむぅ、かはぁ……」
  息ができず、苦しげな声が私の肛門にむかって吐き出される。
  私は立ち上がり、テーブルに置いてあるブランデーの瓶をとった。
「ぷはぁ……はぁ……あぁ……」
  ようやく息ができるようになって大きく喘いでいるめぐみの顔に、その中身を上からぶちまけてやった。泥パックされためぐみの顔がアルコールで洗われていく。大便とブランデーのカクテルがめぐみの口に流れ込み、彼女が咳き込む度に喉を下る。
  私は瓶を持ったままめぐみの傍らに寄ってその肩をつかみ、うつ伏せにした。足の方を向いて背中に馬乗りになる。片手を臍側に差し入れてめぐみの腰を浮かせた。
  突き出された尻の谷間にある醜穴にブランデーの瓶を突き入れるが、緊張と痛みで肉の門はなかなか開こうとしない。
「や……、それ、はぁ……」
  力任せに押し込むと、ブチッという感触とともに入り口が裂けて血が滲んだ。
「ひぎぃ!」
  相当痛かったのだろう、めぐみが本気の悲鳴をあげた。私が瓶を捻じったり揺らしたりすると、それにあわせて声をあげる。
「いっ!  あっ……!  ひぃぅ!」
  激しい揺れで瓶の中身がかき回され、少しづつその量が減っていく。
  それが三分の一ほどになったところで瓶を抜くと、だらしなく開いた菊門から血とブランデーと腸液とが斑になってあふれ出した。
  トワレの君と豚とを比べることは侮辱だ。なぜならばトワレの君は私にとって代替のきく消耗品などではなく唯一無二の憧れであり、求め続けていた理想の存在だからだ。私はトワレの君をなら愛せる。彼女の、薔薇の花弁に隠されたクリトリスのような香りにもういちど触れたい。
  私は瓶を逆さまにして、穴から吐き出される血とブランデーと腸液とをまとめて洗い流した。裂けた肉門に指を突っ込み、爪で掻くようにして洗う。いくら洗っても後から後から赤い汚れは滲み出てきた。
  瓶の中のブランデーが無くなってしまうと、私の指はやがて真っ赤になってしまった。
  それをめぐみに舐めとらせようと後ろを振り向く。めぐみはもうぐったりとして声も出せないようだった。呼吸だけが荒い。
  私はめぐみの髪で手を拭うと、ベッドの下においてあるバッグからカッターナイフを取り出した。
  刃を出し、犬のように早い呼吸をしているめぐみの背中をその先でそっと撫でていく。背骨を上へ。肩甲骨から肩をたどり、首筋にそって横を向いた頬へ。
  めぐみの頬に赤く細い筋ができた。
  私は乱暴にめぐみを仰向けにした。めぐみはもう何の抵抗もしない。ベッドに腕を投げ出した。
  私はめぐみの、右の乳首をつまんで上に引っ張り、その付け根からカッターナイフで切り取った。
「あああああっ!」
  目が覚めたのか、ただ痛みに反応しただけなのか、叫び声はあげたものの動こうとはしない。私は同じようにして、左の乳首も切り取った。
  真っ赤な母乳を噴き出して、めぐみはびくびくと痙攣した。私がめぐみの乳房をもみしだく度に、新鮮な母乳が噴き出し、めぐみの声が響く。
「ぎっ!  あぃっ!  いいっ!」
  鉄クズの味だ。
  私はめぐみの、乳首のあった場所を口に含みながら、右手を下へと動かしていった。
  禿げた茂みをかき分けてその奥にある肉の門へとたどり着くと、私は指に挟んでいたカッターナイフの刃をいっぱいまで伸ばした。
  いやに水っぽいと思ったら、めぐみはまた小便を漏らしていた。私が肉襞の中心に刃を挿入してピストン運動を開始させると、そこが血で濡れ、さらに滑りがよくなっていくのがわかった。私は激しく、膣内をかき回すようにして刃を動かす。
  背中に回されためぐみの爪が食い込んで痛い。挿れた刃が動くたびにめぐみはよがり声をあげ、断ち割られた鮑から噴水が零れる。
「ひぃ!  あぁぅ!  ぐぁっ!  あああぁっ!  ひあああああぁぁぁっっ!」
  桃子は怒るだろうか。ふとそんなことが頭をよぎった。
  いま私の下で喘いでいる豚とは、趣味は確かに合う。楽しいし、そのようなセックスフレンドは貴重だ。でも何度この女を抱いても、どのようなセックスをしても、やっぱり何かが違うのだ。マンネリ化しているというのとも少し違う。例えるならめぐみはスペードのジャック。トワレの君はハートのエースかクイーン、もしかしたらジョーカー。私の欲しいのはスペードじゃない、近いんだけど何か違う。でも何が違う? 私はトワレの君と、どのようなセックスをしたい?
  めぐみは泡を吹いて気絶していた。
  私はめぐみの体から顔をあげた。時計の秒針のように、心臓が時を刻んでいた。上の階で水が流れている。ゆっくりと目を瞑ると、部屋のエアコンの音、冷蔵庫の音、隣の部屋で何かが動く物音、そしてこのホテルの外で繁華街の人々がさんざめく喧騒、夜中の道を走る車のエンジン音が、耳に染みいるように聞こえてくる。
  血流が冷め、汗がひいていった。最後に、こんな街中でもやはりどこかには生きているのか、虫の声が私の脳味噌に滲んできた。



  自分の部屋で朝のシャワーを浴び、私は洗濯機の蓋を開けた。服やタオルと一緒に、昨夜のホテルで汚した下着が入っている。部屋には誰もいない。月曜のこの時間、学級委員である桃子は先に教室に行くことになっているのだ。
  あの後、私は失神したままのめぐみをおいてホテルを出た。少し街をぶらついて、七時過ぎに寮に帰ってきたら桃子はもう部屋を出たあとだった。
  部屋に張ったロープに洗濯物を干していると、部屋のドアが開いた。桃子だった。桃子は私を見て一瞬だけ表情を変えたが、無言で靴を脱いで部屋に入ってきた。
「あら桃子どうしたの?  忘れ物?  それとも、朝帰りの妹が心配で、戻ってきちゃったとか?」
  揶揄する私の前を無言で通り過ぎて、桃子は机の引き出しを開けた。怪訝に思った私は、少し語気を強めた。
「ねえ」
  それでも桃子は振り向かずに、私の方を向かないまま返事をした。その短すぎる言葉は奇妙なほど、普段とまったく変わらない桃子の高さとリズムだった。
「なに?」
  私はなぜだか急に動揺して、目を伏せてしまった。
「なんでもない」
  桃子は何も言わず、引き出しから何枚かのプリントを出した.シャープペンシルでそれに何か書いているようだ。
  シャワーを浴びる前に入れておいたコーヒーが机の端で冷めかかっている。桃子は紅茶派、私はコーヒー派だ。まだ砂糖もミルクも入れていないコーヒーのほろ苦い薫りが、部屋に漂っていた。ほんのりと暖かい朝の光の中に、その薫りの流れが見えるような気がしてきた。
「私、これからすぐ職員室にプリント出しにいって、そのまま朝礼の準備にいかなきゃならないから。部屋のカギは閉めていって」
  桃子はそう言いながらシャープペンシルを机に置き、プリントを束ねて部屋を出て行こうとする。
「え、あ、ちょっと……」
  靴を履く桃子の背にむかって、私は思わず声をかけた。
  おかしい、こんなのいつもの桃子じゃない。
「何?」
  桃子の表情が私のほうを振り向く。今日もまたこんなに暑い日が始まろうとしているのに、その顔はとても冷たかった。まるで心の内側から強い力でもって無理やりに凍りつかせてしまったようだ。玄関の青い陰の中にその顔を見た時、私は自分の胸がずきんと何か重いもので締めつけられるのを感じた。
「なんでもない。ごめん」
「そう」
  桃子は部屋を出てドアを閉めた。
  どうして?  どうして桃子は怒らないのだろう?  私の知っている桃子なら、今朝みたいな時は烈火のごとく怒って、私に罵声の嵐を投げつけるのに。説教のひとつもしないなんて。私の皮肉も無視したし。無視?  怒って、ない?
  部屋の隅で電話が鳴り出した。
  ……あきれられてしまったのだろうか。あきれられて、見放されてしまったのだろうか。もう好きにしろ、お前なんか知らない、と。どうでもいい、と?
  部屋の隅で電話が鳴っている。
  ばからしい。だからなんだっていうのだ。私は桃子が嫌いなのだ。そう、とても嫌いなのだ。むこうから嫌われたからって、それがなんだっていうのだ。のぞむところじゃあないか。そのはずじゃないか。
  私は首を振った。そうだ、電話が鳴っている。受話器をとらなければ。
  私は受話器をとる。
  電話は、ホテルから病院に運ばれためぐみが死んだことを告げた。



  どうしてトワレの君を好きになってしまったのだろうか。顔も知らない、声も知らない、口をきいたこともない。いや、そんなことは問題じゃない。糞尿の匂いさえ知っていれば、そんなことはたいした問題じゃない。問題なのは、私はトワレの君のことを知っているが、トワレの君は私のことを知らないということだ。
  私は、いつからトイレに隠れて煙草を吸うような女になってしまったのだろう。
  紙筒の先から立ち上る煙は白髪のように白い。煙は音もなく空気の隙間をすり抜けて個室の灰色の壁を伝い、汚れた天井のタイルを舐めて換気扇に吸い込まれていく。
  いつもならこの時間は、めぐみと一緒に講堂の二階にある機材室にいたはずなのだったが、めぐみのいない今となっては一人で機材室に行っても仕方ないし、かといって今さら糞真面目に朝礼に出る気もない。
  私とめぐみは知り合う前から朝礼をさぼりがちで、めぐみなどはまともに出た回数の方が少ないくらいだったという。桃子はまだ一度も欠席したことがない。学級委員で優等生の桃子はいつも私より早く部屋を出て、そのまま部屋に戻らないで教室に行ってしまう。トワレの君は他の生徒と同じように今ごろ講堂で並んでいるだろうか。それとも、私と同じように朝礼を抜け出してさぼっているのだろうか。
  トワレの君がこの個室を使うのは前の日の夜から一時限目の授業が始まる前までのいつかだ。今は朝礼中だが、まだトワレの君がここに来た形跡はない。だから、授業開始の予鈴が鳴るまでここにいれば、トワレの君に会うことができる。
  四つある個室のうち、ここと一番奥の個室は和式トイレだ。白い陶器の便器は所々黒く汚れ、茶色いものが端にこびりついている。
  トワレの君はここで何をしていたのだろうか。便器の端についている茶色いものがトワレの君のものでないことはわかる。だがトワレの君も、浣腸をすればこれと同じものを肛門からひりだすのには違いがない。醜い豚の鳴くような音を立てて、眉を歪めて垂れ流すのだ。私は両手を捧げてそれを受け取るだろう。コントでパイを投げるようにトワレの君の顔にぶちまけてやってもいいし、猫の背を撫でるようにやさしく尻に塗ってやってもいい。
  だが実際のところ、トワレの君と私とが結ばれる可能性はほぼ皆無だ。トワレの君は私が恋をしていることどころか、私という人間がいることすら知らない。気持ちを受け入れてもらえるかどうかという以前の話だ。
  どうやら朝礼が終わったようだ。講堂から寮へ、あるいはそのまま校舎へと移動する生徒たちの声が壁のむこうからかすかに届いてくる。
  ああ、恋というものは、こんなにもつらいものだったろうか。遠すぎる。手に入れるまで、いったいいくつのいばらを踏んでいけばいいというのだろう。
  トワレの君はいつも授業が始まるまでにはここに来る。朝礼が終わったということは、もう、いつここにトワレの君が現れてもおかしくないということだ。トワレの君が、ここに。
  私は煙草を便器の中に放り込んだ。小さな音とともに最後の煙が水際から立ち、それきり何の音もしなくなった。便器の中には吸殻と一緒に灰の塊がいくつか沈殿し、水を茶色く汚している。
  だいたい半分ほどの生徒は朝礼が終わるといったん寮に戻り、残り半分の生徒は直接教室へ行く。
  遠くから聞こえてくるざわめきが半分に分かれ、少しずつ近くなって、ひとつひとつの声がはっきりと判別できるようになってくる。
  ふと桃子のことが頭の中をよぎった。桃子はどうしているだろうか。まだ講堂にいるだろうか。講堂から校舎へと続く渡り廊下を他の生徒たちと一緒に歩いているのだろうか。それとも、もう教室に着いて授業を受ける準備でもしているのだろうか。
  しばらく待つあいだに、何人かの話し声と足音がトイレの前を通りすぎていった。換気扇はただ無意味に回り続けている。煙草の煙はもうとっくに消えてしまった。
  私は水を流し、個室から出た。
  校舎の方角から予鈴が聞こえてくる。結局、トワレの君が現れることはなかった。
  手洗い場の鏡に、いまにも泣き出しそうな私の顔が映っていた。



          3



  渚桃子。十七才。血液型はO型。乙女座。とある私立の、全寮制の学校に通っている。ルームメイトは双子の妹の京子。在籍している学校は私立のいわゆる「お嬢様学校」だが、彼女自身はごく普通の家庭に生まれて、ごく普通に育ってきた。幼少のころから生真面目な性格で、道徳やマナーに反することをひどく嫌う。予習と復習を地道にやっているおかげか、成績はトップクラス。今期は学級委員も務めている。
月曜日、午前九時十分。学校に付属している寮の彼女の部屋。二段ベッドと戸棚、冷蔵庫、小さな机を置いたら、それでもうスペースはほとんど無いような、日当たりの悪い部屋。その部屋で唯一、日の光が差し込んでいる、窓際。
振り返った桃子はとてもおだやかな顔をしていた。なんだか、まるで一晩中泣いて泣いて泣き明かして、そうしてついに開き直って迎えた朝のような、清々しさと静謐さをその顔に湛えていた。
もうほとんどの生徒は寮を出て教室へ行ってしまったのだろう、部屋はとても静かだった。部屋だけでなく、寮中から音が消えてしまったようだ。
「どうして……。……ここに、いるの?」
  桃子が立っている窓際は明るかった。レースのカーテンが舞い上がってその暖かな光の模様をゆっくりと変えた。
  桃子は優しく微笑んで言った。
「……おかしい?」
「だって……。……だって」
  私の声は小さくなって光に包まれて消えた。
  だって、この時間にあなたがここにいるわけないじゃない。もう、予鈴も鳴ってしまったのに。
  音のない風に再びカーテンが舞い、微風が私の体をそっと撫でていった。やわらかな光が桃子を包んでいる。
  桃子の表情は静かで、優しく、清らかで、何より綺麗だった。その美しい顔で、薄く微笑んでいる。
  漂うのは、ほのかな、というにはあまりにも個性の強すぎる、まるで天国への道しるべのような香りだった。薔薇の花弁に隠されたクリトリスのような香り。例えるなら彼女はハートのエースかクイーン、もしかしたらジョーカー。
  私は嫌いだった。鏡の向こうに自分と正反対の自分が映っているみたいで、我慢ならなかった。そう、私は桃子が嫌いだった。大嫌いだった。そのはずじゃないか。嫌いだった、はずじゃあ、ないのか。
  風が止み、舞い上がったカーテンが元の位置に戻る。この光に固められてしまったかのように、この部屋には動くものがひとつもない。
「ねえ」
  桃子は答えず、表情も変えない。女神のように優美な笑みを一筋も崩さず、その端正な顔をこちらに向けて私を見つめている。
「アナルの匂いを嗅がせてくれないかしら」
  桃子は微笑んだまま、黙って後ろを向き、着ているものを脱ぎ始めた。
  生まれたままの姿になっても、桃子の凛とした雰囲気は一筋も崩れることはなかった。その白い肌には瑕ひとつ染みひとつなく、その裸身は清らかで真っ直ぐでこの夏の太陽のように何一つ恥じることなく輝いていた。
  そうして、彼女の肛門は私の前に現れたのだった。
  あどけない純潔に覆い隠された獣としての本性、汚れのない産着の中にひそむ醜悪な瞳。清楚でありながらこの上もなく浅ましい。そんな香りだった。
  トワレの君。



          4



  きっと、私は認めるのが怖かったのだ。桃子という鏡の存在を認めるのが怖くて、それで嫌ったふりをしていたのだ。私と同じ姿をした彼女が、私と正反対の生き方をしているのを見る度に、私はいいようのない焦燥感にかられた。桃子を許すということは負けを認めることだった。私は桃子の影にすぎない。鏡に映る虚像は桃子ではなくて私のほう。堕落してしまった私だ。
  桃子の形の良い眉は八の字に歪む。額には汗が玉になって、髪の毛が数本、張り付いている。頬がピンク色に上気していた。
「トワレの君は、あなただったのね」
「……なにそれ」
  私は桃子の黄金を喰らう。ついさっき桃子がその麗しいアナルからうめき声とともにひり出した宝物が、私の手のひらに舞い降りたのだ。
  なんという芳香!  私を獣にする、すべての至福がそこにあった。あの月曜の朝のトイレ、あそこにあったものの続きが、今ここにある。
  うだるような臭気のなか、桃子は艶やかに笑った。
「めぐみ、っていうんですってね。あの娘」
  ああそんな奴もいたな、と思う間もなく、私は桃子に両膝を捕まえられ、まんぐり返しの形にされてしまった。
  黒い森の向こうに桃子の顔が見える。桃子はがぶりと、私の尻肉に牙をたてた。
「あっ……」
  それから、桃子は珍しそうに私のアナルを見つめると、ゆっくりとそこに舌を伸ばした。唾液をたっぷりとつけて、小さな窄まりの周りをマッサージしている。私は自分のアナルがほぐれて、柔らかくなっていくのを感じた。
  次は指だった。口を開けた丸門はぬめりとともに簡単に飲み込んでしまう。
  私の頬に水滴が落ちた。その匂いに驚いて見上げると、なんと私の肉貝はもう、すすり泣くように汁をこぼしているのだった。
「わかるんだから。あなたが外で何をしているかくらい。私を悲しませた責任はとってもらうわ」
  直腸まで挿入された指が動く。
「あんっ!」
  私の心臓はすでに壊れそうなくらい激しく跳ね回っている。興奮のあまり息が震えるのを自覚して、私は笑い顔を作ろうとした。もちろん、うまくいかない。
  桃子は指を抜くと、私に見えるようにその匂いを嗅いでみせてから、口へともっていった。
  汚物をしゃぶりながら笑う。私は、めぐみを責めるとき自分はこんな顔をしていたのだな、と思った。悪くない。とても、魅力的な笑顔だ。
  桃子は指を深く、自分の口の中に突き入れた。そして私の顔を見下ろしてもう一度笑うと、滝のように激しい嘔吐をした。
「うげげげげげげええええええええええっっ!」
  双子だからこそわかる阿吽の呼吸というものがある。桃子が私をみた時点で、私は桃子が何をしたいのかその瞳から読み取ることができた。大きく口を開けて、桃子の体内で作られたジュースを受け取る。
  桃子は鏡に映った私だ。私は桃子が嫌いだった。でも、よくよく考えてみれば鏡に映るものはすべて裏返っているのだ。好きは嫌い。嫌いは好き。好き好き大好き愛してる。
  めぐみを苛めても全然おもしろくなかった。なぜなら、私が一番好きなのは苛めることじゃなくて苛められることだったからだ。苛められたい、責められたい、痛めつけられたい、汚されたい、辱められたい、堕とされたい。私はそういうセックスがしたい。
  顔中を桃子の吐瀉物が流れていく。酸っぱい汁をごくごくと飲みながら私は嬉しくて笑った。顔中が胃酸に痺れている。
  鼻を突く匂いの中、ぼやけた視界の向こうに桃子の顔が見えた。桃子も笑っている。
  私は起き上がり、口移しで桃子にもミックスジュースを飲ませた。もともと彼女の体の中にあったものに、私の唾液と、さっき私が食べた彼女の黄金を加えて。
  私たちは激しく抱き合った。互いの腕と腕が、乳房と乳房が、腹と腹がこすれ合って、汗と涙と愛液と糞とゲロとを介して混ざり合った。
「好きよ」
  その言葉を口にした瞬間、私はもう自分が戻れないことを知った。本当に裏返ってしまったのだ。トワレの君に告白してしまった。桃子を好きになってしまった。とても嬉しかった。
  桃子の手が私の秘裂へと伸びる。
  私は小便を漏らした。桃子はそれを手ですくって、私の顔を拭った。私の髪はべっとりと皮膚に張り付いていた。
  それから桃子は私を横たえ、桃子の聖水をかけてくれた。金色のシャワーは暖かく美味で、私はそれを全身で心ゆくまで味わった。
  桃子は私の顔を踏みつけにした。私は唇に触れた桃子の親指を舐めた。少ししょっぱい味がした。
  私がひり出した汚物を、桃子は体中に塗りたくった。私の体にも、桃子の体にも。そうして桃子は、まるでローションプレイをするように体中を使って二人の体に黄金を塗りたくった。
  桃子は私の顔の上に尻を乗せた。体重をかけられると、私の唇と桃子の肛門が密着する。私は口を開けた。
  桃子は言う。
「私も好きよ」
  ぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぃっっ!
  絶頂の刹那。
  まるで光の楽園に召されたような気がした。
  頭に浮かんだのは整然と並んだ教室の机。そういえばもう昼休みも間近だ。生徒たちは教室から出て、思い思いの場所で昼食を摂るのだろう。ひとりで、友達と、好きな人と。太陽はいま一番高い位置からアスファルトを焦がしている。湿気の多い空気の中で陽炎が揺れ、樹の影でアブラゼミが鳴く。どこからか、排気ガスの匂いが漂ってくる。向日葵は、太陽のほうを向いて育っていた。
  やがて、ぼんやりと白濁した私の耳に、なんだかひどく遠くからチャイムの音が聞こえてきた。



  静かな光が、瞼の向こうから染み込んでくる。緩やかで微かな息づかいが耳に届いている。
  私が目を開けると、隣には桃子がいた。
  どうやら、私は失神していたらしかった。どれくらいの時間、気を失っていたのだろう。辺りはいやに静かで、心なしか光に琥珀色が混ざっているような気がする。
  桃子は優しげな顔で、隣の私を眺めていた。
  桃子の顔は泥遊びをした子供みたいに茶色の絵具で汚れていた。髪はところどころ固まり、金やら食べ滓やらがくっついている。
  私はなんだかとてつもなく恥ずかしくなって、隣に座っている桃子の肩に顔を埋めた。
  桃子はそんな私を見て少し笑いながら言った。
「私、初めて学校さぼっちゃった」
  もう授業は終わってしまったのだろう。昼間は騒がしい教室にはもう誰もいない。ただ主のいない机と教卓とが寂しく並べられ、次第に暮れてゆく赤紫色の空と電柱から伸びる黒い線が窓に映るだけだ。
  私たちの体には黄金がまだ乾かずに、しかしもう冷えきってくっついている。胃酸で肌が少しひりひりする。甘酸っぱい匂いが、二人を包んでいた。
  桃子は私の頭をそっと抱き寄せた。
「じゃあ、今日はもうずっと、一日中二人でいられるわね」
  私がそう言うと、桃子の微笑みが肌を通して伝わってきた。
  もう蝉の声は聞こえなかった。日暮らしの声が夕暮れの光を彩っている。家に帰る子供の声。一日はこれほどゆっくりと暮れてゆくのだ。太陽が静かになり、騒がしかった昼は徐々に終わってゆく。
  私の呼吸は沈殿し、血流は静かな湖畔のように沈黙した。臓物が落ち着きを取り戻すと、五感は鋭くなる。体液が沈んでゆく。たましいが、広がる。
  私たちは抱き合い、長い長いキスを交わした。
  ひとつ問う。あなたたちは、世界を美しいと感じたことはないだろうか。
私は、ある。胃液で脳髄まで溶かされ、小便の染み込んだ頭で私はそう思うのだ。こんなにも醜くてあさましくて、獣のように堕落を窮めていて、ああ、自分はもう、こんなにもどうしようもない人間になってしまったのだな、と絶望する。そうして排泄物を口にし、床に落ちた唾を舐め取り、何度も何度も絶頂の彼岸に打ち上げられ、そこで何気なく世界を振り仰いだ。
  そのとき、世界は美しかった。





                                                       終わり


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©有賀冬馬  2007

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