イギリスまで飛んできた(文字通り、飛行機で飛んできた)アメリカは、有無を言わさずイギリスを拉致して、そのまま帰国した。 アメリカが褒めたヒロインは、たしかに美人だったが、取り立てて騒ぐほどのものでもない。やたら目が大きいところと、胸が大きいのが目に付くが、それも内容がホラーサスペンスでは台無しだ。大げさに泣き叫ぶシーンが多すぎる。 雲行きが怪しくなってきたのは、映画の中頃に差し掛かった時だった。 「お前なぁ・・・あんまり無茶するなよ」
Holography
イギリスの反抗はことごとくアメリカの腕の中に消え、結果的にイギリスは今、アメリカの家にいる。
「お前な・・・拉致監禁は、立派な犯罪なんだけど」
アメリカは嬉々としてリビングのテレビをいじくっていた。その後ろ姿に話しかける。
「なに言ってるのさ。俺とイギリスの仲だろう?」
振り返った顔があまりにも楽しそうで、反論を失う。
「・・・俺と、お前の仲って」
小さな呟きは、語尾は更に薄れて消えた。アメリカはそれに気がつかなかったのか、テレビの前を移動して、おもむろに部屋の明かりを落とした。
すでに時刻は夜、深夜一歩前だ。
明かりの落ちた部屋に、テレビ画面の頼りない仄明るさだけが満ちる。
「また映画か」
「今度は、ホラーサスペンスなんだ。君と見ようと思って、我慢してたんだぞ!」
イギリスの隣に、どかりと腰掛ける。ソファが大きく軋んで、イギリスはまた、この男の体重が増えたことを悟った。
「ヒロインがすごい美人でね、それも楽しみにしてるんだ」
アメリカが有名な女優の名前を一つ、二つ羅列する。聞いたことがある名だったが、とっさに顔が思い出せない。
「へえ・・・」
ゆえに返事に力がこもっていなくても、仕方がない話だ。
力のない返事をしたイギリスに、アメリカは一瞬、気まずそうな顔をした。それがなぜかはわからない。
だがその表情は瞬く間に消えて、笑顔でリモコンを押す。
「じゃあ、始めるよ」
予告編のカットされたDVDは、いきなり本編から開始された。
惨殺死体が登場したり、派手なホラー演出があるたびに、アメリカは涙目で叫んだ。叫ぶだけならいいのだが、イギリスにしがみついてくるのが困りものだ。その上、こんなに至近距離で叫ばれたのでは、神経が持たない。
「怖いんなら、やめとくか?」
「なななにを言ってるんだい? 怖いわけがないじゃないか! おっ、俺はヒーローなんだぞ!」
「・・・あー、そうだったな」
アメリカの性格は、正直言って厄介だ。
「でも君が怖いのなら、仕方がないね。だから、こうしてあげるよ」
イギリスの腕を取って、アメリカの方へ引き寄せられる。
「な・・・おい、俺は別に」
アメリカの腕の中に、すっぽりと収まる。イギリスを抱きかかえるアメリカの腕には、妙に力が入っていた。少し苦しい。
「ほら、これで怖くないだろう?」
見上げると、アメリカの顔。アメリカの笑顔が引き攣っているのが、なんだか微笑ましい。
「・・・そうだな」
多少苦しいのは目を瞑るとして、アメリカのわがままに付き合うことにした。これで少しでも叫ぶ頻度が減るのなら、それも悪くない。
主人公とヒロインが、お互いを疑いながらも、なんとか想いを通じ合わせたあたりで、異変が起こった。
ホラーサスペンスと銘打たれているくせに、ラブシーンが長い。そしてその描写が重い。ちょっとこれはいくらなんでも、どうなんだというレベルである。
イギリスはいたたまれなくなって、とてもではないがアメリカの方を見ることができなかった。アメリカはこの女優が好きだと言っていた。さぞかし楽しんで見ていることだろう。
イギリスを抱く腕に、一層力が入る。痛いくらいだ。さすがに耐えられないと思い、アメリカの腕を押し返そうとした。
「ちょ、苦しい・・・」
「イギリス」
腕の力はゆるめられたが、両腕できゅっと抱え込まれる。
耳元でささやく声に、イギリスは思わず、かすかに震えた。
「アメリカ・・・?」
画面では未だに、女優がかん高い嬌声を上げている。バックミュージックは盛り上がるばかりだ。しかしそれらの音はもはや、イギリスの耳を素通りしていく。
「―――ね、いい?」
「は、・・・?」
見上げると、アメリカの顔が近くにありすぎて心臓が跳ねた。そしてその心臓が収まる前に、キスが降ってくる。
「・・・っ」
息すら奪われるようなやり方に、意識が薄れそうだ。くちゅ、という音がテレビから発される音と混じり合って、一層、耳に残る。
「ふ、あ・・・待て、って・・・!」
今日のアメリカはやけに性急だ。余裕なく、イギリスの服の下から手を差し入れてきた。きちんと脱がしている暇などない、とでも言いたげに。
しかも、イギリスがいるのは、アメリカのひざの上だ。
座っているとわかる。アメリカのものが急激に質量を増して、イギリスの太ももの周辺に、しきりに当たっている。
「おま、え」
「だって、イギリスが」
責任転嫁かこのバカ、と思ったが、よく思い出してみれば、アメリカが美人だと褒めたあの女優の髪は金色で、目は緑色ではなかったか?
「・・・!」
アメリカに直接握りこまれて、思わず息を飲んだ。乱雑に脱がされた服が邪魔で、身を引くのも難しい。
「こんなとこでっ」
「他に誰かいるわけじゃないし、暗くてちょうどいいじゃないか」
耳たぶを口に含みながらしゃべられて、背筋がぞくりと震えた。耳が弱いと知っていてやっているのだ、この男は。
誰もいないと言うが、テレビから流れてくる人の声が、どうしても耳をかすめる。キスで意識が朦朧として、なにを言っているのかまでは聞こえない。それでもなぜか、後ろめたい。
「・・・反対意見は、認めないんだぞ」
アメリカがテキサスを外して、もう一度口づけてくる。
「んく、っ・・・あめ、り、か・・・」
キスの合間に、切れぎれに名を呼ぶと、アメリカがかすかに微笑ったような気がした。
イギリスの先走りの液を絡めて、後ろにも指を突っ込んでくる。ここで最後までやるつもりか、と思いあせったが、今更止めようもない。
「ちょ、まて、よ・・・!」
「だから、反対意見は」
半分横向きだったイギリスは、無理やり体勢を変えて、アメリカの正面を向いた。テレビには完全に背を向ける。
「お前が、みえないから」
アメリカはらしくもなく、へにゃりとした笑みを浮かべた。そしてイギリスを思い切り抱きしめた。
「好きだよ。イギリス」
アメリカは嬉しいと、すぐにキスを仕掛けてくる。イギリスは目を閉じて、そのキスを受けた。
もちろんそれで、アメリカが満足したわけではない。
「入れていいよね?」
「ばか! ・・・訊くんじゃねえ」
とはいえ、イギリスがアメリカの上に乗っかっている状況に近いので、アメリカだけではどうにもならない。
「イギリスー」
「う・・・」
ねだるように言われて、イギリスは腰を浮かせた。
「ぅああ、あ、あめりかぁ・・・っ!」
下から半ば無理やりに、突き上げるように入れられて、イギリスは息を忘れた。そして夢中でアメリカにしがみつく。アメリカに抱きとめられて、ようやく息を吐いた。
「おまえ、ほんと、めちゃくちゃだぞ・・・」
「君も今に、めちゃくちゃになるんだよ」
反論したかったが、もはやそんな余裕はない。いつだってアメリカは、簡単にイギリスの反論も反抗も、封じ込めていく。
たとえば、笑顔で。
たとえば、何気ない一言で。
たとえば、イギリスと呼ぶことで。
「だめだぞ、イギリス。一回目は一緒にいくって、決めてるんだからね」
イギリスの張り詰めたものを、根元からつかんでくる。
「や、・・・むり、だっ」
「あとちょっと」
イギリスのくちびるを甘く噛んでから、また舌先が口内に入ってきた。アメリカはキスが好きだ。
「ふ、あぁ」
「イギリス・・・」
意識が、白く飛ぶ。
それから真っ暗な中に落ちていって、いつも気付けば、アメリカの腕の中にいる。
目を覚ませば、いつでもアメリカの隣。
「無茶なこと、なんかしたっけ?」
イギリスはため息をついた。
あれから、映画はとっくに終わってしまったあとで、よろよろしているイギリスをつかまえて、アメリカはもう一度ベッドでことに及んだ。
今度は明かりを消さずにしたいなどと、またわがままを発動して、疲労は何倍にも膨れ上がっていく。
次の日のイギリスは、帰国しなければいけないのに、全身が筋肉痛で睡眠不足だ。
なぜかアメリカは全く平気な様子で、イギリスの手を取って、いつもの笑みを浮かべている。
「体力馬鹿め」
「うん。体力にはかなり自信があるよ!」
「・・・」
意味の違う沈黙が、二人を包み込む。
「じゃあ、俺、帰るから・・・」
イギリスが踵を返そうとしたが、アメリカの手が離れない。
「おい?」
振り返って見上げると、アメリカの顔がすぐ近くにあった。
「また、一緒に映画見ようね」
耳元でまた、この男は。
イギリスの顔が、一気に真っ赤に染まる。
「・・・ばっか言ってんじゃねぇよ!」
アメリカとつないでいない方の手に持っていた、イギリスの小さな荷物を投げつけた。
アメリカはそれを片手で受け止めて、笑顔を更に深める。
「仕方ないなぁ。そんなに言うなら、イギリスまで送っていってあげるよ」
「な・・・」
そんなつもりで投げたわけでは、もちろんなかった。
けれどやはりイギリスの反論は飲み込まれて、つないだ手の熱さの中に、消えていくのだった。
「ゆめのはなし」の雪不見クロ様より相互記念&2万打のお祝いに頂きました!
できればちょっといやらしい感じで…と自重できてないありえないリクエストをさせて頂きましたら、なんとこんなにもえろい米英が!!
素敵過ぎます……大好きです!思わず告白しちゃいますよねこれは
はぁはぁたまりません…イギイギってなんてけしからん子!
とっても可愛い、そしてやらしい二人を本当にありがとうございました!!
これからもじっとりと萌えさせて頂きますのでよろしくお願い致しますv