「あなたが犯人です。八城十八さん。」





ヱリカが口にしたその名に、生き残りの皆がざわめく。そして、すぐにそのざわめきは、一点に収束する。
まるで人形のように窓際で静かに佇む、一人の青年に。
「………。…”私”ではありません。」
「犯人としてそれを言わないとミステリが盛り上がらないのは分かります。けどトリックも証拠も出揃ったこの状況じゃウザいだけですので、
 さっさとゲロっちゃってください。」
オブラート如きでは幾重に包んでも隠せない鋭利な棘を乗せた言葉に、十八はしかし身動ぎすらしない。
ただ普段よりもほんの少し強張ったその表情から、珍しく余裕がないのだと伺い知れる。
「というかそもそもアレですよね。あんな難解なトリックを、この頭の固い凡人どもが考えつくわけがない。そういった意味でもこの一連の殺人は、
 あなたじゃなきゃ無理ですよ。ミステリ作家の、あなたじゃなきゃね。」
にやにやと質の悪い笑みを浮かべながら紡がれる探偵の言葉に、容疑者はひたすらおし黙る。
いつも彼が貼り付けている控えめな笑みはそこにはない。不気味なほどの、ぎこちない無表情。
「反論もなしですかァ?興ざめもいいところです。反論が無いならさっさと犯人らしくホワイダニットでも吐いて終わりにしてください。
 あぁ、手短にお願いしますね。興味ないので。」

…そこで初めて、十八の表情が変わる。苦悶だろうか。恐怖だろうか。何が彼をそこまで苛むのかと思うほどに、彼は顔を歪ませ、頭を抱えていた。
一人が「十八さん、」と心配そうに声を掛けたところで彼の中の何かが化学反応を起こしたかのように、びくり、と一度彼の身体が大きく痙攣する。
よろりと一歩後ずさり、続けて二度、三度とまた身体が跳ねた。異様な光景に何人かの息を呑む音が聞こえる。
彼の身体の痙攣は未だ治まらない。否。そうではない。彼は―――笑って、いるのだ。
皆が顔を蒼白にする中、ヱリカただ一人だけがつまらなそうに腕を組みながら見守っていた。

くつくつという噛み殺したような笑い声が、不意に哄笑へと変わる。狂気の滲み出るような笑い声は、最早八城十八のそれではなかった。
「いやぁご名答ご名答!流石自分で名探偵とか言っちゃう痛いガキは違うぜ!いっひひひ!」
「…成程。先程の十八さんの”私ではない”とはそういう意味でしたか。」
どういう意味だ、と周りから声が上がる。怯えたようなその声を掻き消すように、再びの哄笑。
「ド雑魚がッ!自分で考えろよばぁーか!いっひひゃひゃひゃ!」
「………解離性同一性障害。所謂多重人格ってヤツでしょう?で?あなたのことは何とお呼びすれば?」
「…。戦人。あいつはそう呼ぶぜ。」
にやりと口の端から八重歯を覗かせて『戦人』が笑う。
十八のときには可愛らしいチャームポイントだったそれは今、猛獣の牙のように恐ろしいものに見えた。


「あの根暗はさ。悪い意味でミステリ馬鹿なンだ。だから自分で考えたトリックを試したくて仕様がねぇんだよ。書くだけじゃ足りないわけ。
 このトリックはちゃんと筋が通るか。穴がありはしないか。それを”実戦で”確かめたいわけ。以上、手短なホワイダニット。」
「単なる好奇心ですか。これまた単純な。しかも外は嵐で豪華な屋敷に探偵。うずうずきちゃったわけですね。」
「そうそう。うずうずきちゃってる癖にアイツはそういうのを毛嫌いして認めようとしない。で、しょうがないから『俺』を作って全部押し付けてるんだ。
 そんでもって自分で作った癖して『あんな殺人鬼自分じゃない』とか言いやがる。勝手な話さ。」
あまり表情の動かない十八と違い、『戦人』の表情はコロコロと変わる。話している内容が違えば無邪気な幼子にも見えたかもしれない。
ネクタイを緩め、両手をポケットに突っ込んで。姿形は八城十八であるにも関わらず、それを微塵も感じさせない。
「その言い様だと他にも余罪がたくさんありそうですね?まったく世の中無能だらけで困ります。」
「いっひっひー、そう言ってやるなよ。アイツああ見えて結構なひねくれものだからなァ。」
世間話でもするようににこやかに談笑する二人に、その場の誰もが声をかけられない。付いていけない。
「まぁでもその好奇心もここまでですね。どのみち明日になれば迎えも来るわけですし。」
「そりゃ困るな。まだ試してねぇトリックが山ほどあるンで………名残惜しいがこの辺でお暇させてもらうぜ。」
そう言って、ごくごく自然な動作で背後の窓を開ける。それには流石のヱリカも驚いた。
馬鹿な。ここは3階だ。死ぬ気か。いくつかの単語が頭を過ぎる間に、彼は既に窓枠に足を掛けていた。



「じゃあな名探偵。いいトリックがあったらまた会おうぜ。シーユーアゲイン、ハバナイスデイ。」





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あとがき。

ロンパの某キャラが強烈に俺の嫁すぎたのでうっかり戦人さんと十八さんで妄想。なので名残が戦人さんの台詞にあります。
クリアした人だけ分かってください。
元ネタに忠実にガイアさえ跪く超オサレな自作のハサミでジェノサイドな戦人さんにしようかとも思ったけどやめた 俺だって命は惜しい

(サイトアップ:2011.02.18)





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