遠い遠い、どこかのカケラで。
「ど〜ぉ?ベルンん。素敵なゲームでしょぉお?」
「そうね。数百年ぶりに楽しめそうな盤だわ。」
ゲーム盤の構成をしげしげと眺めながら、ベルンカステルが常の無表情で呟く。
確かによく作りこまれている。魔女たちの観劇に充分耐えうる出来だ。カケラを渡っていてもここまでのものはそうそう見つからない。
興味を示した様子のベルンカステルに、ラムダデルタが嬉しそうにきゃらきゃらとはしゃぐ。
「さてベルン。ここからが本題よ。」
席に着き、梅干紅茶を啜るベルンカステルに、にやぁ、っと笑いかける。嬉しそうに。本当に嬉しそうに。
「こうしてまた素敵なゲームに巡り会えたんだから、一回だけじゃ寂しいわよね?もっとずっと長ぁく、楽しみたいわよねぇ?」
「………。…呼んだのね。」
途端、剣呑な光を宿したベルンカステルの瞳をすら愛するかのように、ラムダデルタは笑みを深くする。
「無限を生み出すのに、これ以上の人選はいないでしょう!?さぁさおいでなさい!」
そうしてベルンカステルの真向かいの席に、”彼”が姿を現す。
それは遥か遠い昔に閉じられた、あのゲームの光景に、よく似ていた。
「…お久しぶりです、ベルンカステルさん。」
「久しぶり。本当に久しぶり。まさかあなたが来るとは思わなかったわ、………十八。」
目の下を微かに引き攣らせたベルンカステルに、十八と呼ばれた青年はけれどにこりと微笑む。
柔らかい春の日差しのような、暖かな笑み。
「お二人には”弟”が随分とお世話になってしまいましたからね。その”お礼”も兼ねて。」
「飼い犬は飼い犬らしくおとなしくしてなさいよ。」
「確かに犬は猫と違って主に従順な生き物です。けれどずっと飼い主の傍にいるわけでもない。」
猫と違って、の部分を少しばかり強調すると、ベルンカステルの眉が不機嫌そうに跳ねる。
それに気付かないふりをして、十八は笑みを崩さず言葉を続ける。
「自由時間というわけですよ。飼い主に禁じられているようなことでなければ何をしたって構わない。庭を散歩してもいいし、昼寝をしたっていい。
…或いは、気に食わない猫を虐めてみたりしてもいいわけです。」
「上等だわ。」
一切の揺らぎを見せないその笑顔に、ベルンカステルも笑う。可愛らしい顔を歪めて、獰猛な本性を露にする。
「…私が相手を?それとも”弟”が?」
「冗談じゃない。無能の相手なんてもう金輪際ごめんだわ。」
「その無能に完膚なきまでに叩きのめされたのは何処の野良猫でしたっけね?」
あからさまな侮辱の言葉に、ばちりと火花が散る。
何だか違う戦いを始めてしまいそうな二人の間にラムダデルタがつとめて明るい声で割って入る。
「はぁい、そこまで。続きはゲームを観劇しながらやって頂戴。」
彼女の言葉に、二人はとりあえず矛先を収める。彼らにとって何より大切なのは、彼らを蝕む病から如何にして逃れるか。
ゲームはその為の、最上級の特効薬。ケダモノならば涎を垂らして飛びつくくらいの、ご馳走。
「楽しいゲームになりそうね?」
「そうですね。やはり紅茶を飲むのなら、」
「「魔女とに限る。」」
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あとがき。
次回作まさかこんなことにはならないだろうという希望を込めて。
因みに”弟”=幻想戦人さん 作中でフォローしろよこの駄鳥
(2011.01.16)