その国を治めているのは王でも民でもなく、魔女でした。
千年を生きるその魔女は遥か昔にこの地に流れ着き、配下の悪魔たちを使い瞬く間に国を乗っ取ってしまったのだとか。
それはこの地に生まれ落ちたニンゲンが必ず耳にし、そして忌み嫌う御伽噺。
いえ、御伽噺だったならどれだけよかったのだろう。魔女は変わらずこの地を支配し自分たちニンゲンを虐げ続けている。
魔女の行った悪行は書き出せばキリがないが、その中でも殊更嫌われている悪癖があった。
…可愛らしい子供を気紛れに浚っては遊び尽くした末に壊してしまうという、とんでもない、悪癖が。
がしゃん、がしゃんと耳障りな金属音が聞こえる。それは逃げ出そうと足掻く子供の悲鳴なのかもしれなかった。
そういえばそんな音も随分聞いていなかった。ここのところ連れてきた子供は皆諦め、逃げ出そうともせず許しを乞うだけ。
それでは。それでは面白くないのだ。閉じ込められ、戒められ、辱められてそれでも尚諦めず抗って。
そんな子供を叩き折り屈伏させ絶望に堕とすのが何より退屈に効く薬。
…あぁ、今度の子は楽しめそうだ。珍しい毛色をしていたからそれだけで拾ってしまったが、いやいやどうしてこれは当たりかもしれない。
はしたなく舌なめずりをして、ベアトリーチェは捕らえた子供のいる部屋へ足を踏み入れた。
現れた己を見るなり、子供は苛烈な視線を向けてきた。まるで手負いの獣のようだ。尤も彼に爪も牙もありはしないが。
随分と長いこと暴れていたのだろう。肩で息をしながら此方を睨みつけてくる様は、身体の芯を熱くさせる。
普通は全裸に剥いて首輪で繋いでベッドに放り投げておけばおとなしくなるものだが、それでも逃げようとしたのか。
まだ細い腕は後ろ手でしっかりと拘束されていた。
表情をよく見ようと歩み寄り顎を掴み取れば、すぐさま顔に唾が飛んできた。そうこなくては。
とりあえず仕置きに平手で鋭く頬を打つ。それでもまだ睨みつけてきたので首を掴んでベッドに押し倒す。
手の自由が利かない彼の身体は簡単に倒れこんだ。鮮やかな赤い髪が白いシーツに散って綺麗だ。
「子供。名は何という。」
「てめぇなんぞに名乗る名前は無ぇよ。」
可愛らしいアルトがけれど攻撃的な言の葉を紡ぐ。ベアトリーチェはとりあえずは満足そうに微笑んで、煙管の煙をわざとらしく彼の顔に吹きかけた。
「素直でないのは大いに結構だが。あんまり度が過ぎるようなら妾にも考えがあるぞ?…あん時横にいたの、ありゃ妹か?
あいつも連れてくるかぁァ?いいんだぜぇ妾は遊ぶ相手が一人でも二人でも。さぁ、どうする?」
いっそあざとい脅迫に、子供は砕けるのではないかと心配になるくらいに歯を食いしばった。
「良い表情だ。それ、どうしたら良いか分かってんだろォ?妾は名を問うたぞ?」
「…………、…っ、………戦人。」
視線を外し、苦虫を噛み潰したような顔で子供がぼそりと答える。子供の小さな屈伏に魔女は高らかに笑った。
未だ逃れようとする子供の首筋に唇を寄せる。すると子供は目に見えて震えだした。快楽にではない。何をされるか分からないという恐怖にだ。
キスはまだ。身も心も屈伏し従順になったら教えてやろう。自分から舌を噛まれにいくほど酔狂ではない。
「やめろ、…っやだ、いやだッ、触るな変態魔女!」
「変態魔女とは!くっくくく、妾にそんな口をきいたのはそなたが初めてであるぞ。あぁ、ますますに気に入ったッ!安心しろよ戦人?
お前はこれからその変態魔女に童貞奪われて気持ち良くなっちまうんだぜェ?楽しみだなぁあ?あっひゃひゃひゃひゃはははははぁ!」
告げられた内容に、子供がゆるゆると首を振る。何を、言っているのか、分からない。理解したくない。
けれど現実は残酷だ。震える戦人のことなぞお構いなしに、魔女が子供の性器へ手を伸ばす。
皮を被ったままの小さなそれに、ベアトリーチェは口の端を上げた。
「おや。自慰もまだか。たまんねぇなぁあ、お前のハジメテ全部、妾のものになるんだぜぇ?」
「ひ、ぃ…っぁ、……や、…い、たい……!」
魔女の手が子供の性器を玩ぶ。刺激から逃れようと身体を捩る戦人の首を掴み片手で押さえ込む。
震えながら、けれどそれでも睨みつけてくる子供に、にんまりと微笑んで。力を込めて容赦なく包皮を押し下げる。
衝撃に、身体を仰け反らせ声にならぬ声で絶叫する様に魔女の頬が上気する。
モノを、壊す、快楽。それは千年を生きるベアトリーチェを魅了してやまない、毒であり薬。
未だ痛みの残滓に震える子供の身体の上で、魔女が焦らすように、ゆっくりとゆっくりと夜着を脱いでゆく。
男ならば釘付けになるであろう豊満な胸も艶かしい肢体も、けれど子供には恐怖でしかない。
見せ付けるように自らの指を唾液で濡らし蜜壺を掻き回す。卑猥な水音に子供が顔を赤くしたのをみとめて、魔女が再び子供の性器を手に取る。
思いつく限りの制止と罵倒の言葉を並べ立てる子供に、殊更優しく微笑んで自らの内に彼を招き入れる。ゆっくりと、ゆっくりと。
溶けそうな灼熱と、食い千切られそうな締め付けに子供が哀れに呻く。
抵抗しようにも足はシーツの上を彷徨うばかりで、両の腕は彼の身体の下で拘束されたままで。逃げられない。逃げられない…!
「…、っ、小せぇから、締め付けるのにも、一苦労だぜ…。ふふ、これからに期待、って、とこだなァ。まぁでかくなんなかったら、ッ、
それは、それで…後ろに突っ込まれる悦びってヤツを、…ん、っ教えて、やるからなぁぁア?」
魔女が妖しく腰を揺らめかせる度に子供が悲痛な悲鳴を上げる。それは魔女を喜ばせるだけだったけれど。
いやだ、いやだと繰り返す戦人をあやすようにベアトリーチェは彼のこめかみに啄ばむような口付けを落とした。
初めて味わう快楽に朦朧としはじめた子供に、魔女は優しく囁いた。母が子へ寝物語を聞かせるかのように、甘く、優しく。
「これからじっくりと、妾好みの家具に仕上げてやるからな。…せいぜい足掻いてみろ。妾を、退屈させてくれるなよ…?」
あとがき。
蟲より苦戦したとかそんな馬鹿な
(2010.09.26)