たとえ一瞬でも。その時空は確かに、黄金色なのだ。





「…夜明け、ねぇ。随分ロマンチックなタイトル付けたじゃない。いいんじゃないの。あたしは好きよ。」
「そりゃどうも。」
そっけなく、ただ一言だけ。以前ならばもっとおどけてみせるか、キャンキャンと煩く噛み付いてきただろうに。
味の無い反応に、ラムダデルタは僅かに瞳を細めた。甘い甘いキャラメル色をした瞳が、途端に剣呑な色を宿す。
「なによぅ、珍しく褒めてあげたっていうのに!」
唇を尖らせて抗議してみても、彼はやはり動じない。それどころか目を逸らしてわざとらしく溜息まで吐いてみせた。
ますます気を悪くしたラムダデルタが更に子供のように頬を膨らませたところで、ようやっと戦人が口を開いた。
「あんたのことだから、大事なのはゲームの中身だって真っ先に言うと思ってた。」
静かな、とても静かな呟きだった。それはまるで夜、気付かない内に降り始めた雪のように。…とても静かな、呟きだった。
「…そうね。勿論そうよ。決まってるじゃない。」
でもね、とそこで一旦言葉を区切って。ラムダデルタは可愛らしい顔つきをにこりと歪めた。
「外見とか見てくれだって大事よ?例えばケーキ。いっくら良い材料を使ってたって、見た目がぐちゃぐちゃだったら食べる気も失せるわ。」
「…まぁ、尤もだな。」
「でしょう?あんたも少し見てくれに気を遣ったら?もっとこう、キュートでポップでときめくような…つまりもっと魔女らしくしたらどう?ってこと!」
腰に手を当てて挑発するように覗き込んでくるラムダデルタの視線に耐え切れず、戦人は再び目を逸らす。
あまりのテンションの高さに、今度は溜息を吐く気にもならない。
どうしてこいつは、こう、人の気持ちを汲み取るとか、気を遣うとかそういうことができないのだろう。…あぁそうか魔女だからか。
そこまで思考が至ったところで、今の自分は彼女と同族であるという事実に酷く愕然とする。

―――俺もこんな風に、残酷に貪欲にゲームを楽しむようになるんだろうか。

そんな考えがふと頭を過ぎって。打ち消すように頭を振る。違う。違う違う違う。
そんな風にはならない。ベアトを甦らせて、ちゃんとした形で終わらせる。幻想に終止符を打って、そうして縁寿の元へ帰る。
その為に、謎を全て理解したことを提示する。その為の力。その為の魔女の位。
だから、この性悪どもと同じようには、絶対にならない。…なって、たまるか。

思考から浮き上がって、そこでラムダデルタがにやにやと己を見つめていたことに漸く気付く。
長い睫に縁取られた、ミルクティーのような甘ったるい瞳に、引きこまれそうな錯覚を覚える。
「ねぇ戦人。あたし、あんたには期待してるのよ。頑張って、良いゲームにしてよね。」
「お前の”良いゲーム”の定義と、俺の”良いゲーム”の定義が重なるとはとても思えねぇがな。」
吐き捨てるようなその言葉に、けれど絶対を冠した魔女は笑う。蔑むように、あるいは哀れむように。…あるいは、愛おしむように。
「そうね。きっとあたしとあんたはどこまでいっても重ならない。噛み合わない。…だからお近づきの印に、これを。」
そう言ってラムダデルタが両の手を戦人の肩辺りに伸ばし、何かを羽織らせるような仕草を見せた。
瞬間、戦人の背に眩い何匹もの黄金の蝶が折り重なり、光が弾けて漆黒のローブになる。
「…あぁ、良く似合うわ。…これでゲームが終わる頃には、きっと完璧よ。」
その言葉が意味する色に気付いて、知らず戦人はローブの襟元を握り締める。
「ベルンはとても手ごわい相手だもの。あたしも後見人として出来る限りサポートしてあげるわぁ。…ベアトにしたみたいに、ね?」
首を微かに傾げて見上げてくる魔女に、戦人はついに返す言葉を持たなかった。
ただただ目を伏せて、消えていった魔女と妹の姿を思い浮かべる。そうしなければ、引きずり込まれてしまう気がして。





そうして、夜明けを冠したゲームが始まる。





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あとがき。

本日(11/27)発表されたスクショの中の一枚。皆様御覧になりましたか。戦人とラムダが会話してるアレ。
なにをトチ狂ったかはとさんあの一枚からここまで妄想しました。これは酷いgrks妄想だぜ。
そして大ラムダデルタ卿の口調が、EP6が発売されようという今になっても、分かりません。

(2009.11.27)





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