寄り添う二人を、引き裂け。
勢い余って体勢を崩した朱志香に、突然物凄い速度で何者かが襲い掛かる!
「お嬢様!」
庇った嘉音の肩口を掠り、壁を幾度か跳ね返りながら、”それ”は戦人の傍で止まる。
”それ”は、杭だった。ごてごてと装飾の施された、いかにも黒魔術やら何やらの怪しい儀式で使われそうな。
「サタン。マモン。」
戦人が名を呼ぶと、杭が光とともに弾けて人の形を取る。
「憤怒のサタン、ここに。」
「強欲のマモン、ここに!…ねぇ戦人君!私女の子がいい!いいでしょ?」
「こら!ちゃんと戦人様とお呼びしなさいよッ!ベアトリーチェ様の代行者なんだからっ!!」
怒鳴り散らすサタンに、マモンはんべっと舌を出す。がるるるる、と戦人を挟んで睨みあう姉妹に、戦人はこめかみを押さえ盛大に溜息を吐いた。
抉りあいでも始めそうな勢いの二人を、ぱんぱんと手を軽く打って止める。
「はいはいやめやめ!どっちがどっちでも構わねぇよ。早い者勝ちだ。時間をかけて甚振る必要はねぇぜ。ベアトが喜びそうなカンジに殺しとけ。」
「承知ッ!!」
二人の声が重なる。再び姿が弾けて杭になったと思った瞬間、その姿は掻き消える。
狭い倉庫の中を、悪魔の杭が縦横無尽に飛び回る。甲高い金属音を立て跳ね返りながら、寄り添う二人を包囲する。
嘉音が腕の中の朱志香を抱えながら、必死に向ってくる杭を避ける。
その度に彼の身体には赤い筋が一つ、二つ。次第にぼろぼろになってゆく嘉音に、朱志香は悲痛な声を上げた。
こんな悔しいことがあるか。父さんや母さん達を殺した犯人はすぐ目の前にいるのに!仇を取るどころか、
大好きな人を傷つけられても、手も足もでない!せめて…せめて彼は守りたいのに!
正面の壁を反射して、悪魔の杭が向ってくる。
強くなる嘉音の腕の力を愛おしく思いながら…半ば無意識に、朱志香の身体は動いた。
「お嬢様!」
深々と朱志香の背に刺さる、杭。咄嗟に身体を反転させて、嘉音を庇ったのだ。
ゆっくりと崩れ落ちる朱志香を、嘉音は呆然と抱える。…段々と、熱と色を失ってゆく彼女。
―――ひきつった声が、絶叫に変わる。
雨の音しか聞こえなくなった倉庫に、人ならざる影が三つ。
「これで、第二の晩。…ご苦労様だったな、サタン、マモン。」
生贄を冷たく見下ろしながら、戦人は姉妹の労をねぎらった。
「一先ずここまでは順調ね。」
「きっとベアトリーチェ様もお喜びだわ!」
サタンとマモンの言葉を嬉しく思いつつも、戦人は苦笑する。
「どうだかなぁ。ベアトはこういうことには手ぇ抜かねぇからなぁ。きっと、『60点といったところか!』なぁんて笑ってるに違いないや。」
がしがしと頭を掻いてから、そこで一旦笑みを消す。
まだ序盤戦が終わったところ。油断は禁物だ。生き残りが自衛を固めるここからが、本番なのだから。
「さぁ、行こうぜ。まだまだここからが面白いところなんだからな。」
さぁ、彼の瞳に映る次の生贄は、だぁれ?
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