それは紛れも無く、魔女の愛。
どさり、と戦人が膝をつくのを見とめて、いよいよ魔女が口の端を吊り上げる。
夢見た姿まで、あと少し。まだまだ仕上げが、残ってる。
「それは、妾の存在を認めるってことでいいのかなァ?右代宮戦人ァァアアァ?」
「…、ぅ、ひ、…っう、うううう、うわぁあぁぁぁああぁぁあぁ!!」
何度も、何度も泣きながら床に拳を打ち付ける姿に、ベアトリーチェははしたなくも舌なめずりをした。
己が信念を曲げねばならなくなり葛藤する彼の、何と愛らしいことか。いや、葛藤という言葉は相応しくないだろう。
だって彼はもう決めている!認めてしまっている!屈服を、確信する。感じる。彼の魂が堕ちるのを、感じる。
「さぁさぁ戦人。全てに納得したならば、妾に永遠の忠誠を。」
その言葉に、ぴたりと戦人の動きが止まる。魔法でもかかったかのように。否、実際に彼はもう、魔女の術中にいるに違いなかった。
あれだけぎらぎらした光を宿していた彼の瞳は、最早何も映さない。暗く、暗い。絶望に沈みきった、瞳だった。
そうしてのろのろと、戦人が椅子にふんぞり返るベアトリーチェの足元まで這う。
その姿のみっともないことったら!あぁあぁなんてだらしなくて不甲斐なくて可愛らしいのだろう!!
組んでいた足を差し出すと、彼は無言のままにその靴に―――口付けた。
魔女の、哄笑が響く。高らかに、高らかに。それが魔女の、勝利宣言であった。
「それでは今からお前は妾の家具よ。さぁ、服を脱げ。お前はもはや人に非ず。思考を止めた愚かな家具に、着衣なぞどうして必要か?」
その言葉に家具の目が微かに見開かれる。何かを言おうと口を開くが、ひゅう、と掠れた音がしただけで言葉とはならなかった。
縋りつくような視線を魔女がにべもなく振り払うと、とうとう諦めたのか彼は主の最初の命令を実行し始める。
…片翼の鷲が刻まれたジャケットが、音も無く床に落とされた。
所々で止まりそうになる手を、視線だけで制する。そうしてネクタイが落とされ、ベストが落とされ、シャツが、ベルトが、ズボンが。
人としての尊厳を、薄皮を剥いでいくように殺ぎ落とされるこの行為に、涙こそ流していないものの、彼は確かに何処かで泣いていた。
その手が、下着にかかったところで、止まる。怯えきった表情に、魔女はとてもとても満足そうに口を歪めた。
「なぁにを躊躇ってるんだよぉ。それもお前には必要ないもの。あぁそうか、全部脱げとは言ってないから期待してるのかぁああぁ?
これは許してもらえるッてぇえ?はン!甘いんだよぉ戦人ぁあぁあああ!脱げっつってんだ全部だよほらほら手を動かせよぉおおぉ、
思考を止めたお前に出来るのはそれしかないんだからなぁぁあぁあ!くきゃはははははははっははは!」
狂気を煮詰めた笑い声の中、そうやって人としての彼は”殺された”のだった。
一糸纏わぬ姿の家具を、足元へ呼びつける。素直に命令に従った家具の頭を、至極優しい手つきで撫でてやる。
「くっひっひっひひひ、よぉく出来ましたぁ。じゃあイイコのお前に、これをやろう。」
ベアトリーチェが宙に差し出した手に、一匹の黄金の蝶が止まり…それが爆ぜて別のものへと変わる。それは、首輪であった。
鎖が付いているが拘束を目的としたものではない。ただただ純粋に、『これ』が己の所有物であると、見せしめるためだけのもの。
「喜べよォ家具ぅ。これから妾がずぅっとずぅっと繋いで、愛してやるからなァ。」
「ありがとう、ございます。…ベアトリーチェ、様。」
無機質に紡がれた言葉に、魔女は再び哄笑した。手に入れた!やっとやっと、手に入れた!!
かちゃり、と微かに金具の鳴る音がして、愛は家具の首へと納まった。
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あとがき。
なんで今更EP2かって?アニメで大変なことになってたからに決まってるジャマイカ。あぁいい尻だった。実にいい尻だった。
うみねこ部屋は今までしんみりとしたお話を書いてきましたが、本来はとさんはこういう文章を書く人です。こっちが本性です。
あぁ、俺もベアト様に首輪で繋がれたい。
(2009.09.11)