叶うならば。あの子だけではなく。
雨そぼ降る黄金郷に、今は二人。一人人数の減った黄金郷に、太陽の訪れは未だ無い。
ワルギリアは編み物の手を止め、ふと思いついたように戦人を見遣る。紅茶を淹れ直そうと思ったのだ。
けれど視界に入った彼は眉間に皺を寄せ…左手で黒のルークを、右手でこめかみを押さえたまま、止まっている。
今彼はゲームマスターとして、次の盤の準備をしているところだった筈。何か問題でも起きたのだろうか。
「…戦人くん?」
「………頭が…、痛ぇ。」
その返答にワルギリアはやんわりと微笑み、休憩を促す。戦人もこのままではミスをしかねないと思ったのか。
ルークをとりあえずそのまま置き、長椅子の背もたれにどっかりと頭を預けた。深い長い溜息が、彼の苦痛を物語る。
だから彼女も一旦編み物棒を置き、戦人の隣に移動する。ふわりと、重さを感じさせない仕草で座り、
膝をぽん、ぽんと叩く。目を白黒させながら、え?え?とワルギリアの顔と膝を交互に見つめる挙動は、
…ニンゲンであった頃と、何ら。…変わらない。
やがておずおずと。あるいはびくびくと?彼女の膝に、頭を埋める。
「戦人くんは元々、魔法抵抗力の塊のようなもの。…それが急に魔女の力を受け入れたのだから、体内で何らかの反発が
起こってもおかしくない。…くれぐれも、無理は禁物ですよ。」
「………ん。」
もう既に、まどろみに片足を突っ込んでいるかのような。おぼろげな返事だった。
紅い髪を、さらりと梳く。長さも手触りも全く違うけれど、その仕草は確かに…失われた彼女とのひと時を、否応無く、思い出させた。
「なんか、…すっげぇ、なつか、しい。……むかし…こうやって……かあさん、に………。」
続く言葉は無く、代わりに寝息が聞こえてくる。相当、気を張っていたのだろうか。
妹を喪い。ベアトを喪い。盤上では既に5度ゲームが繰り返され、それと同じだけ親族を喪った。自身すらも…もう幾度と無く、喪った。
そうして彼は、己の意思でもう一度。それを、繰り返そうとしている。
「永遠の淑女は、もういない。けれどあなたはそれでも…登り続けるのですね。」
ぽつりと呟いた言葉は、夢の中にいる彼には届かない。だからこそ彼女は、続ける。続けられる。
さらり。さらり。
固い手触りの髪が、指の間から零れおちる。何も掬えないかのような、錯覚すら覚える。
否。この手に残るものは…確かに、あった。全部ではなかったけれど、けれど、確かに。
「…導きましょう。全てを理解したあなたには、必要ないかもしれないけれど。…それでも、貴方の一歩先を照らすくらいは…させて下さい。」
貴方の母にもなりたいと願った私は、欲張りでしょうか?
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あとがき。
というわけでワルバト。なんか突然、黄金郷の東屋で膝枕なワルバトを書けというお告げを脳内魔女様から頂いたので書いてみた。
いつもありがとうございます脳内魔女様。妄想を執筆欲に変える魔法ですね分かります!
ワルバトなんで増えないんだろう。母子母子した感じがすんごい好きなんだけれど。何でだ。EP3の開眼がいけなかったのか。
それともEP4のギャグキャラ転落がいけなかったのか。
ともかく編み物してるお師匠様は正義。
(2009.09.02)