どうしても、どうしても欲しかったおもちゃ。
大切に大切に遊んであげる。大丈夫!壊れてしまっても、ちゃあああああんと、直してあげるから!





ちゃりり、ちゃりりと可愛らしい音が薄暗い室内に落ちる。鈴の音のようなそれは、けれど冷たい縛め。
きらりと光る鎖を、白い手が玩ぶ。指に絡めて、ほどいてみたり。掌の上で、丸めてみたり。
ぐい、と引っ張ったところで、微かなうめき声。そんな馬鹿な。家具はうめき声など漏らさない。では何の声だろう。何だっていいよね。
鎖の先にあるのは、魔女様が今一番お気に入りの家具。
中々折れない姿が、壊しても歯向かってくる様が愛おしくて愛おしくて、欲しくて欲しくてたまらなくて。
長い永いゲームの果てに、漸く彼女は彼を傅かせたのだ。以来彼女は飽きることなく遊んでいる。…かつてニンゲン”だった”少年と。

豪奢な椅子にどっかりと身を沈め、蒼き魔女は静かに独り言つ。
「楽しいなァ。これ以上楽しいことってあるのかってぐれぇ楽しい。楽しくて楽しくてたまんねぇ。ついこないだまであんなにキャンキャン噛み付いてた
 お前がさぁ。こうやっておとなしく俺の靴舐めてるとかさぁ。くっくくく!」
鎖を強引に引っ張ると、のろのろと家具は顔を上げた。虚ろに翳った琥珀は、果たして何を映しているのか。否、何も映していないのかもしれない。
だって彼は、壊れてしまったのだから。疲れてしまったのだから。映るものは身内で疑い合う親族と、残酷な魔女と、凄惨な宴のあと。
今でも宴は続いているけれど、心を殺した彼には見えない。分からない。
「可愛い。可愛いなぁ、本当に可愛い。誰にも渡さない。俺の、俺だけの、俺のためだけのおもちゃ。ずっとずううぅうっと、遊んであげる。」
魔女の細い手が、つう、と頬から首筋を辿る。愛撫にも似た手つきで、ゆっくりと。
その手が、家具の首に嵌められた首輪まできたところで止まる。黒ずんだ、皮の首輪。
元々赤かったそれは、家具が魔女様に遊ばれる度に血を吸ったおかげで、今は見る影もなく黒くなっていた。
「そろそろ、新しいのに変えようか?あぁでも、これのほうが沢山遊んだ!って思い出が詰まってて素敵かなァ。黒も似合うしな、お前。
 勿論、一番似合うのは赤だけどな!」
乱暴に首輪を掴みあげて、そっと家具の耳元に口を寄せる。睦言のような甘い声で、魔女は続ける。
「血塗れになったお前が好き。髪から血が滴ってるのとかも好き。切り刻まれたお前が好き。腕だけでも足だけでも、お前だってだけで愛せる。
 中に詰まってるものも好き。全部ぶちまけてる様とか、ぞくぞくしてくる。なぁ、なぁすげえだろ?俺ってこんなにお前を愛してる。どこ探したって、
 俺以上にお前を愛してる奴なんていやしない。なぁそうだろ、十代?」
「…はい、ヨハン様。」
機械的に紡がれる言葉に、魔女様は口の端を吊り上げた。ああ、ああ。手に入れた。何もかもが、己のものだ!!

「…でも、一番好きなのは。」
言って、魔女様がそっと、額に口付けを落とす。その仕草に、微かに家具が身じろいだ。
大好きで、だから殺してやりたいくらい憎くて。けれど笑って、守ってやると言ってくれたオッドアイが殺した筈の心を過ぎる。
決壊した川のように記憶が流れる。流れて、流れて、溢れ出る。
絶望に溺れた瞳に、魔女様は優しく、彼の髪を梳いた。


「そうやって、絶望する瞳が…いっっちばん、可愛い!」





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あとがき。

hうろさんからまた魔女様コールかかったので書いてみた。茶会中の即興です。1時間くらいかかってるけど遅筆な俺からしたら即興なんだ。
俺「今回は魔女様おとなしめです」→hうろさん「確かにおとなしいけど 相変わらずだなwww」
そうですね相変わらず絶好調ですねwwwはとさんはァ、自重なんて、しませェん☆

(サイトアップ・2009.04.26)





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