もし空が紫色だったら、
color 03
「なんだぁ、テメェは?」
「ここはお嬢ちゃんのような子が来る所じゃないぜぇ?ガキはさっさとお家に帰んな!」
下衆びた視線。言葉。神経を逆撫でしてくるそれらに、思わず口より先に足が出た。
攻撃してくると思わなかったのか、それとも元から反応が鈍いのか。それとも両者か。まあいい。
全く無抵抗のまま倒れた見張りの一人に、もう片方はひいっ、と引きつった悲鳴を上げて後ずさる。
ああ、下らない。
廃ビルの一室。
元は事務所だったのだろうか、ぼろぼろになった机と椅子と書類がちらほら。
出てきたのは五人。…さっきの見張りは援軍を呼びに行っただろうか。
…来たら来たで倒すだけだから別に構わないのだけど。
問答無用でナイフを手に斬りかかってきた奴は一旦後ろに飛んでかわしてから、側頭部に蹴りをおみまいする。
体勢が崩れたところに二撃目、回し蹴りの要領で同じところに叩き込む。
おもしろいくらいに吹っ飛んで、机に強かに身体を打ちつける。
…まだ立てるのか。…しぶといな。
「…紫の目。…成程、お前が最近噂の、ボスのじゃじゃ馬娘か。」
「だから何。」
「アンタを本部まで連行できればボーナス貰えるって、上からのお達しなんだ。」
「やれるもんならやってみなさいよ、雑魚が。」
じり、と遠巻きに囲まれる。四人皆が銃。…近距離はさっきの一人だけか。面倒くさい。
しかけるタイミングを窺う。
けれど痛いほどに満ちた場の沈黙は、銃声でも悲鳴でもなく呑気すぎる声によってぶち壊された。
「はいは〜い、そこまで〜。」
…聞き覚えの、ある声。否、忘れる筈ない。
こんな所で、出会うとは。
ぱんぱん、と手を打ち鳴らしつつ現れた男に、五人が反論する。
「空也さん!?」
「だって空也さん、コイツは…!」
噛み付く部下を、視線だけで黙らせる。変わらない、その目の強さ。
「だぁれが、相手しねぇつったよ?…下がってろ。コイツは俺の獲物だって、四年も前から決まってんだよ。」
低く、唸るように吐かれたその言葉に、一様に後ずさる。
かつり、かつり…五歩程進み出た所で、男…空也は口に凶暴な笑みを佩いた。
「久しぶり、だな。…まぁ随分と可愛げが無くなったもんだ。」
「余計なお世話だわ。」
返答には鼻で笑い、彼は腰の得物を取る。
片端にはやや小ぶりの鉄球、もう片端には鎌。
…鎖鎌。やはり変わらない、彼の得物。
「いや?俺は今のが好みだぜ?…いい目だよ。修羅になることでしか得られない、至高の輝きだ。」
「……。」
「さぁ、始めようか、紫翠ちゃん。四年前の、あの戦いの、続きを!」
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(2007.12.13)