そして、誰も生き残れはしない。





あっという間に13人が死んだ。
幻想と血に塗れたその死に様は正に筆舌に尽くし難いといった風だった。
それこそ、魔女の仕業だと言われたら信じてしまいそうなくらいに。
…そこまで考えて、拾代は首を振った。魔女などと、そんなものがいる筈が無い。それよりも今すべきは、先程から姿の見えない息子を探すこと。
「ったく、どこ行きやがったあの馬鹿息子…勝手な行動はすんなってあんだけ…!」
今のこの状況で、単独行動はあまりにも危険だ。尤も、誰かと一緒であったところで、イコール安全には繋がらないだろうが。

屋敷中をくまなく探し、玄関ホールまで辿りついた拾代の目に、異質なものが映る。
ふわり、ふわりと舞う黄金の蝶。しかも一匹や二匹ではない。夥しい数の蝶が、重さを感じさせない動きで踊り狂う。
視界さえ埋め尽くしそうなそれらが、唐突にざあ、と道を空ける。太古の預言者にそうしたように。
(お招きってわけか。)
一歩、一歩と階段を昇る。そう長くない筈のその階段は、けれどまるで無限回廊のようにも感じられた。
階段の上に待っているのは血みどろの死体か。それとも待ち伏せする犯人か。しかしながら待ち受けていたのは、そのどちらでもなく。
「!…十代!!」
探しに探した息子は、ドレス姿の少女の前に跪いていた。何か許しを請うかのように。
涙は流れていないが泣きはらした痕がくっきりと残っていて、そのくせ瞳は虚空を見つめたまま、何も映してはいなかった。
応えない十代の代わりに、ドレス姿の少女が口を開いた。
「ハジメマシテ、だな、遊城拾代。魔女のゲームはお楽しみいただけたかな?」
肩ほどまで伸びた髪は、ニンゲンにはありえない翡翠の色。瞳も同じ宝石で彩られていて…酷く、冷たい色だった。
淡い紫の髪飾りに、黒の豪奢なドレス。童話の中のお姫様はこんな感じなのだろうか。否、彼女らはこんな獰猛な表情はしないだろう。
「ゲーム…だと…?お前、一体…!?」
「分かってる癖に!黄金の魔女!島の夜の主!わざわざ肖像画まで飾って崇めてた癖に!」
「魔女なんざ崇めてンのは、あのじいさんだけだ。俺は魔女なんざ信じちゃいねぇ。」
そこで初めて、彼女の背後にある肖像画と、彼女の容姿が瓜二つであることに気が付いた。
夢でも、見ているのか。だったらこの惨劇も、全て、全部夢であればいいのに。
…けど、夢であっても。目の前の息子を放り出すことなぞ、出来るものか。

「今此処でお前の正体について問答する気はねぇ。…十代に、何しやがった。」
その問いに、魔女は一瞬きょとんとした表情を浮かべ、次ににたりと、顔に似合わずとても下品な笑みを浮かべた。
「何って!やっと素直になってくれただけさ!俺の存在も、魔法の存在もぜええぇんぶ認めてくれたんだ!俺に心を捧げて、
 ずっと俺のものでいるって!俺だけの家具になるッて誓ってくれたんだよ!!そうだよなぁあああ、十代ぃいい!?」
至極ご満悦なその声に、はい、ヨハン様、と十代の無機質な声が続く。感情をごっそり取り上げられた、淡白な声だった。
…ちりりと、言い知れぬ感情が胸を焼く。当てはまる言葉を探して、探して…見つけた。…嫉妬、だ。
ライフルの銃口を向ける。たった2.2キロのそれが、今、とてつもなく重い。
「…そいつは、俺のガキだ。お前なんかにやってたまるか。」
「ハン、でけぇ口叩いてられんのも今の内だぜ。さぁさおいでなさいな地獄の使者達!最後の晩餐の時間だぜぇぇぇええぇ!?」
背後に異質な気配を感じて、視線だけ向けると人影が見えた。黒尽くめにサングラス、土色の肌をした男が何人も、何人も、何人も。
一応人の形をとってはいるが目の前の魔女と同じで中身はどんなものが詰まっているか分かったものじゃない。
男の一人が口を開く。
「如何様になさいますか、ヨハン様。」
「ん〜?喰うなり犯るなり好きにすればぁ?どっちにしても最後の贄だ、ド派手に遊んでやれよ。」
「…悪趣味だな。」
男との会話に口を挟むと、魔女は見せ付けるように十代の頬を両手で包み、あやすように唇を寄せる。
「魔女は楽しむためなら手段を選ばない。さぁさぁ見せておくれよ、そんな隙の多い銃一丁で、どこまで太刀打ちできるのか!くっくくく!!
 尤も、一発打ってリロードする前に齧り付かれるのがオチだろうけどなぁああああぁあぁ!くきゃーっははははは!きゃーっきゃっきゃっきゃ!」
高笑いを打ち消さんとするかの如く、幻想満ち満ちたホールに銃声が響く。
放たれた銃弾は魔女の頬を掠め、背後の肖像画―――絵の中の魔女の心臓に穴をブチ開けた。

男にしては細い手がゆっくりとレバーを引き、次弾を装填する。
一拍遅れて、空の薬莢が床を叩く。こぉん、と澄んだ音が、何故だかやけに滑稽だった。
射抜く視線は、橙と緑のオッドアイ。とてもニンゲンらしからぬ虹彩が、けれど魔女を否定する。
目の下を微かに引き攣らせながら、魔女は無理矢理に口の端を上げた。
「……い〜い、度胸だ。…楽に死ねると思うなよぉぉおぉおおおぉおお、遊城拾代いぃいぃいいいい!!」
激昂した叫びに呼応して、黒尽くめの男達が襲い掛かる。


響く咆哮は銃声か、魔女の哄笑か、心を捧げた筈の少年の絶叫か。
―――それはうみねこすらも知り得ない。





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あとがき。

実はというか何と言うか二十代様祭に投稿したやつです…初っ端からこれとか!はとさん自重!
因みに名前出してないけど山羊さん役はT氏です。黒ずくめ、サングラス…で分かる…よね?
最初がこれだったせいか、以降投稿したやつもヨハンが引き続いてハイテンションになってしまったという…。
魔女様楽しいよ魔女様…。

(サイトアップ09.04.10)





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