欠けたパズルのピースが、かちりと合わさる音。
ああ自分はこの人を求めていたのだと自覚して、思わず涙が出そうになった。
「ねこさん、ねこさん、どこからきたの?」
「るび?」
中庭に迷い込んできた、小さな精霊。紫の体躯に大きな紅い目の、何とも可愛らしい精霊だった。
少女の問いに小首を傾げて小さく鳴く。その仕草に少女は「かわいい!」と、きゃらきゃら笑った。
傍にいたハネクリボーが、不機嫌そうに鳴く。主を取られるとでも思ったのだろうか。
「おおい!ルビー!ったく、どこいっちまったんだよ〜!」
突然中庭に響く、鷹揚な声。声のほうを見ると、見知らぬ青年が一人。
青年は少女の姿を見止めると、酷く驚いた顔をした。
「え?あれ?は?……覇王…じゃないよな?あれ?」
「だあれ?にいさまのおともだち?」
そう少女が返すと、ああ、と。ようやっと納得がいったようだった。
「噂で、妹姫がいるらしいってことは聞いてたけど。へぇ、そっくりだなぁ。」
青年が方膝をついて、屈み込む。座っていた少女に、真っ直ぐ目線を合わせるようにして。
「お初にお目にかかります、姫。ヨハン・アンデルセンと申します。…以後、お見知りおきを。」
淀みなく紡がれた挨拶に、琥珀の瞳がぱちくりとまたたく。
ヨハンと名乗った青年の翡翠の瞳をじぃっと、見つめて。そうして徐に、瞳と同じ色の髪に手を伸ばす。
「ひ、姫?」
無遠慮に蒼色の髪が掴まれる。きりりと痛みを感じたものの、まさか振り払うわけにもゆかず。
戸惑いをもって眼前の少女を見つめていると、唐突に少女が笑った。
「すごおく、きれいないろ!かみのけも、おめめも、すごくきれいなうみのいろ!」
―――まさに、大輪の花が咲く様そのままのような笑顔に、言葉を忘れる。
髪の痛みも何もかも、その瞬間に全部彼方へ吹っ飛んだ。
目の前の琥珀から、目が離せない。理屈も理由も無いけれど、己はこの人と出会う為に生れ落ちてきたのだと思えた。
予感などという曖昧なものではなく、確信として。
「…何をしている。」
永遠に続くかとも思われた時間は、昏い黒い声に壊された。不機嫌極まりない声に振り向くと、少女と瓜二つの顔。
「王城とはいえ、この国には敵が多い。…あまり不用意にうろつき回らないで頂きたい。」
「いやぁ、ルビーが突然どっか行っちまって…って、そう睨むなよ覇王!分かってる悪かったって!」
ふん、と至極詰まらなさそうにヨハンを一瞥し彼…覇王は少女の手を恭しい手つきで取り、立たせる。
白地のそこここに淡いピンク色のリボンが付いたドレスが、所作に倣ってふわりと揺れた。
「にいさま!にいさま!おしごとおわった?おわった?あそんでくれる?」
「ああ。もう少ししたら時間が空くから。それまで部屋で待っていろ。…できるな?」
「うー!わかった!まってる!」
笑顔で応えた少女に、覇王が薄く微笑む。そのままごく自然な動作で、そっと額に口付ける。
…けれどそこでヨハンはふと眉を寄せる。二人の間に流れる空気に違和感を感じるのは…気のせい、だろうか。
幸せそうに駆けて行く少女の後姿に、愛しさを。
それを見つめる、出会ったばかりの友人の横顔に、戸惑いと不安を。
―――こうして、歯車が動き出す。
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あとがき。
というわけでヨハ十出会い編だぜ。
覇王様の登場の仕方が長兄様登場編と被ってるって?気にしたら負けだ!(気にしろ)
俺的に覇十は額(or髪)、ヨハ十は手の甲、ヘルヨは足の甲キッスが萌え。
(2008.10.05)