この手が届かなくなる前に。
「……、ヨハン…。」
「どうした?十代。」
愛しい人が、己を呼ぶ声。それだけで、満たされていく自分がいる。
「頼む…もう、やめてくれ……。こんな、ことしたって……俺は…、」
豪奢な椅子に雁字搦めに縛り付けられた姿に、かつての彼の面影は無い。
虚ろな琥珀。乾いた唇。日に当たらないから、幾分か肌も白くなったような気がする。
「じゃあ、ずっと傍にいるって言えよ。ヨハンだけのものになるって。」
「ど、して…分かって、くれないんだよ……!無理、なんだ…だって、俺は……!」
途切れ途切れに紡がれる言葉はどれもこれも拒絶。
いらないいらないそんな言葉はいらない俺をいらないなんてどの口が言うのかなそんな悪いお口は縫って塞いでしまおうか!
「…十代。」
低い声で名を呼ぶと、ひっ、と小さく息を呑んで怯える彼。
鎖に絡めとられてどこへも行けないというのに、必死に逃れようと身じろぎする様が可愛らしい。
首を、胸を、腰を、腕を、足を、全身これでもかというくらいに縛ってあげてるのに、お前はまだ逃げるつもりでいるの?
「それはこっちの台詞だよ、十代。十代こそ、どうして分かってくれないの?」
「ヨハン!」
「俺は、十代が大好きなの。大好きだからずっと一緒にいたいって思うのは、当たり前だろ?」
優しく諭してあげても、やはり彼は首を横に振るだけ。
馬鹿だなあ。素直に受け入れてくれれば、こんな風に縛り付けておかなくてすむのに。もっともっと、大事にしまっておいてあげるのに。
どうしてこうも意地っ張りなのかなあ。そこもまた、可愛らしいといえば可愛らしいのだけど。
お前が辛いだけじゃないか。分かってるだろう、そのぐらい、さ。
「こんな、風に…無理矢理、縛って…!こんなの、愛って言わねぇんだよ…!!」
「愛なんだよ、十代。だって俺は十代に、ずっと傍にいて欲しいんだ。でも十代はほっといたらどっかいっちまうだろ?」
彼は、風だ。前触れもなく現れて、ざあっと瞬き一つのうちに消えていってしまう。
だから、捕まえておかなきゃ。吹き抜けていってしまわないように、扉も窓も全部締め切って。
風に乗れないように、その羽も毟り取ってしまわなきゃ。
そうしてお前をここに留め置いても、それでもまだ不安なんだ。飛び立ってしまわないかと…これはもう、不安というよりは、恐怖。
十代自身の口から聞きたい。どこにも行かないと。俺だけの傍にずっといてくれると、その誓いの言葉が聞きたい。
だから今日も、俺はお前に問うんだ。
「ねぇ十代。言ってよ、俺だけのものになるって。」
プラウザバックで戻ってください。
あとがき。
ほうろさん宅の茶での宿題「羽毟りヨハ十」。
別に比喩でもその辺の解釈は各人自由に〜とのことだったので、おもっきし比喩になりました。
最近こんなヨハンがうちのサイトのデフォになってきたような…。うぅん、ヨハンはもっと恰好いい筈なのにな…。
そして気付くと十代が口悪くなってる…。何でだ…十代は意外と言葉遣い良い子なのに。
口悪いのはヨハンなんだよ!分かってるのになんで逆になるかなぁ。それっておかしくないかなぁ。
(2008.03.20)