きれいな、きれいなお人形。
その琥珀の瞳は、酷く人を狂わせる。
荒涼とした大地。死と血の匂いが満ちた戦場に、覇王はいた。
同盟を結んでいた隣国の侵攻に驚きはしたが、己に歯向かうというのなら容赦はしない。
「覇王様、別方向より単騎にて突破を試みている者がいるとの報告でございます!」
「ほう?愚かな命知らずもいたものだ。」
「矢にて応戦しましたが、悉く謎の突風に跳ね返されていることからおそらく、精霊使いではないかと。」
精霊使い、というキーワードに覇王の眉が微かに動く。…ならばおそらく、彼しかいない。
「いかがいたしますか?」
「いい。ここまで通せ。…それは俺の獲物だ。」
愚かな彼に、今一度思い知らせてやらなければ。分相応という言葉の意味を。
手出しをするなと、部下を下がらせた。自分一人の本陣。
馬の嘶き…砂を踏む音。来る。奴が、来る。
「よう、覇王。」
片手を挙げて、ここが戦場でなければ友達にするような軽い挨拶。
けれどその口に佩いた笑みは日常とは程遠い…狂気を宿した笑み。
「…ヨハン。」
「わざわざ敵の大将を本陣まで通した上に一騎打ちか。覇王らしいや。」
はは、と笑う姿に、やはり今までの彼の面影はない。…否、これが彼の「本性」。
「貴様、何が目的だ。前王を暗殺し、国を乗っ取って、同盟を破棄してまでこの国に攻め込む真意は。」
「………。」
そのだんまりに、やはりそうかと悟る。本当は問わずとも分かる…彼の欲しいものなど。
「…やはり、十代か。」
にたりと、一層不気味な笑みが返される。
元より容赦などするつもりはなかったが、目的が十代だと分かった今、尚更完膚なきまでに叩きのめさなければならない。
柔らかな微笑が脳裏を過ぎる。…あれは、自分だけのものだ。
「これ以上の被害は、いっくら覇王だって望まないだろ?」
唐突に、ヨハンが口を開く。
「俺が欲しいのは、十代だけなんだ。彼女を渡してくれたら、俺は潔く兵を引く。もうこの国にも手を出さない。」
小首を傾げて、いっそ憎たらしいくらい可愛らしくヨハンが問う。
それは覇王がその取り引きには決して応じないと分かった上での、馬鹿にしきった態度だった。
「そうして十代を手に入れて、十代がお前に心を許すとでも?」
「許すさ。…そうなるように、じっくり、ゆっくり…教えてあげれば、ね。」
「…もう少しマシな男だと思っていたがな。俺の見込み違いだったというわけだ。」
地に突き刺してあった己の剣を取る。常人ならば、見るだけで戦意を喪失しそうな大剣。
数多の命と未来を奪ってきたそれにも、ヨハンが見せるのはやはり笑み。
「沢山の臣下や民より、たった一人の妹を取る…か。王としては失格だね。」
「貴様が言えたことか。」
「俺は王座なんていらないよ。ただ一人の人間として、男として、ヨハン・アンデルセンとして十代が欲しいんだ!」
凶暴な笑みを湛え、ヨハンはいっそ清清しいほどに、言い切ってみせる。
「俺だったら十代を幸せにしてあげられる。閉じ込めて、でもお人形みたいに愛して、愛して、可愛がってあげるんだ。
双子の兄妹なんて禁忌の関係よりも、俺のほうがずっといいに決まってる!」
「黙れ。」
何故こんな男に否定されねばならない。この男に自分と十代の繋がりを否定する権利などありはしない。
十代は自分のもので、自分は十代のもの。どちらかが欠けては意味がない。二人で、一つの命なのだから。
それを、たかだか数年の付き合いの男に。こんな狂った男に、彼女を渡してなるものか!
「戯言の続きは剣で言え。…最も、最後まで言わせはしないが。」
「ふん、なら最後まで聞かせてやるよ。俺の愛の深さをね!」
言うが早いか、ヨハンが地を駆ける。鉄と鉄がぶつかり合う、悲鳴にも似た音。
渡さない、渡さない、渡さない!他の誰にも、渡しはしない!!
―――それは、琥珀の瞳に魅せられた二人のお話。
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あとがき。
いろいろぶっ飛びすぎだと思うんだぜ。
覇十←ヨハで王国モノパラレル。しかし十代が出てこない!wwしかもさりげなくにょた!苦手な方サーセンwwww
でも出てこないからいいよねwww(そういう問題じゃあない)自分でも何故にょたにしたのか分からない。手が!手が勝手に!!
そして戦闘シーンも入れようかと思ったが、きっと残念なことになるのでぶった切った。
覇王様→カラドボルグ、ヨハン→日輪烈光(か、エクセリオン)な戦闘シーンをいつか書きたい。
けどやっぱり残念なことになるからきっと書かない。
(2008.01.13)