いらない、いらない。
俺の傍にいないお前なんて、いらない。




「まさかここまで来るとは思わなかったよ。…まったく、しつこい奴らだ。」
心底うんざりしたように吐き捨てる。
その姿に、かつての面影は感じられない。…けれど、間違いなく、彼なのだ。
「ヨハン、お前…一体何をしようというんだ。…十代を、どうするつもりだ!」
ヨハンの背後…玉座のようにも見える椅子に、十代は眠るように静かに座っている。
微かに開いている目は虚ろで、背筋に冷たいものが走るのをエドは感じた。

エドの問いに、ヨハンは馬鹿にするかのように微笑んで。
「何を言うかと思えば。俺の願いはただ一つ…十代とずっと一緒にいたい、ただそれだけの事さ。」
しかしこんなものが彼の願い―――愛情だとでも言うのか。
傷ついて、傷ついて…果てはあんなふうに人形のようになってしまった十代を手元に置いておくことが。
「…十代があんなふうになっているのも全て…お前の願いだと?」
「当たり前じゃないか。”あの”十代じゃ…俺のことを受け入れてくれなかったんだ。」


―――ごめん、ヨハン。
俺、ヨハンのこと、好きだぜ?…でも、きっとヨハンと同じ”好き”じゃない。
…だから、ごめん。


「だから壊すんだ。壊して、壊して、壊して…そうして、俺だけを見てくれるように。」
最後の一言は、十代の方を向いて。
異常としか思えないその台詞に滲むのは、けれど深い深い愛情だった。
「…お前、正気か!?」
「お喋りはここまでにしようぜ。もう分かってるんだろう、俺がこの騒動の黒幕だ、って。」
問いにはディスクを作動させることで返す。
それを見てヨハンはそうこなくちゃ、と嗜虐的な笑みを一層強くする。
そのままディスクを作動させるかに思えたが、次に彼がとった行動は。

「十代、おいで。」

今まで何にも反応を見せなかった十代が、動く。
出来の悪いマリオネットのように、ぎこちない様子で一歩、また一歩。
ヨハンの傍まで来て、歩みを止める。…変わらずに焦点を結ばず、光を宿さぬ琥珀。
「左手を出して。」
その一言と、ヨハンが己の腕にはめていたディスクを十代の腕に付けるのを見て、彼の思惑を知る。
この状態の十代に、デュエルさせようというのか。

「十代、アイツはね、俺を殺しにきたんだって。」
背後から十代の肩を抱き、耳元で囁く。
「ねえ、守ってくれる?…十代。」
酷く酷く、愉しげに。
「…っ、ヨハン、お前…!」
「何を怒ることがあるってのさ。お前らだって、そうしてきたろ?十代一人立たせて、守ってもらってた癖に。」


「…、…な、きゃ…、」
「十代?」
「まもら、なきゃ・・・まもらなきゃ、まもらなきゃ・・・!」
三度、懇願にも似た呟きを残して、ディスクを作動させる。

勝たなければならない。十代にも、その背後で嗤う彼にも。そうしなければ救えない。
救わなければならない。かつて十代は自分も親友も救ってくれたのだから。
―――今度はボクの番だ、十代。




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あとがき。

あ、あれ?予想以上にエド十…?
攻めが受けを背後から抱きしめるというシチュに萌える。耳元で囁いてくれるとなお良い。
受けがそれに何も反応しないで空ろだと完璧。(…)

(2007.12.18)






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