鏡よ、鏡よ、鏡さん。
世界で一番残酷なのは、だぁれ…?
小さい頃から、鏡を見るのが苦手だった。
何時からだろう。何故だろう。ただ漠然と、鏡の中に、得体の知れないものが映りこんでいる気がしてならなくて。
だからずっと、鏡を見るのが苦手だった。
今日は一日、色んなことがありすぎた気がする。
新学期。留学生。精霊の見える友人!デュエルも楽しかった。明日から、もっともっと、楽しくなりそうだ。
歯磨きをしながら、あれをしようこれをしようと思いを馳せて。
口を漱ぎ…顔を上げて、鏡の中の自分と目がかち合った瞬間。驚愕のあまりに、持っていたマグカップが落ちて、あっけなく砕けた。
「な、んで…!?」
足元に散らばる破片も気にならない。だって、おかしいのだ。おかしい。おかしい。
何故、鏡に映る自分は金色の目をしているのだ!!
「おい、ちょっと待てよ…なんだよこれ…!」
そう言って鏡に付いた両の手が、まるで接着剤でも塗ってあったかのように離れなくなる。
ひッ、と上擦った声が十代の喉から漏れた。
何とか手を引き剥がそうと我武者羅に暴れて、けれどそれは全くの徒労に終わった。
足の裏に砕けたカップの破片が突き刺さって、痛い。でも、そんなこと言ってる場合じゃない。
そうして、不意に見た鏡の中の自分は―――とてもとても、冷たい笑みを、浮かべていた。
「…、…な…、」
『今日という日は楽しかったか?』
鏡の中の自分が酷薄に笑んだまま、語りかける。誰に?決まっているだろう彼はしっかりと己を見据えて話しているのだから!!
『精々楽しんでおくといい。あと少しで、お前の世界は崩れ去る。』
少し低い、けれどまぎれもなく己の声。合わせた掌から凍ってゆくような、そんな錯覚を覚える。
声帯までもが凍りついたかのように、まともに声が出せない。怖い。怖い。
『けれどそれは己が使命も、お前の為に全てを投げ出した友人を捨て去ったお前への罰。』
使命なんて知らない。友人を捨てた覚えなんてない。緩く首を振って否定すると、鏡の中の自分は眉を寄せて。呆れたように、嗤う。
『十代。十代。…無知で哀れで、この世で一番残酷な俺の半身。…故にお前の世界は、崩れ去る。』
「し、知らないっ…お前なんて、お前なんて知らない…!」
精一杯に紡いだ拒絶の言葉を、しかし彼は笑みを崩さず受け止める。嘆くように。或いは、哀れむように。
『いずれお前は思い知る。…そうして、俺という力を求め俺に屈することになる。…楽しみだな?その時が。』
「知らない…知らない知らない知らないぃいいッ!消えろッ!消えろおおぉおぉおおおお!!」
理性をかなぐり捨てて叫び、もがいたその瞬間。両手が鏡から外れ、勢い余って倒れこむ。
喉が。足が。手が。あちこちが、痛い。
それでも何とか立ち上がり、恐る恐る鏡を見れば…そこには酷い表情をしている以外は、いつもの自分の顔。
何の変哲もない、茶色の瞳。
『俺という力を求め俺に屈することになる。…楽しみだな?その時が。』
割れてしまったマグカップ。柄の部分の、比較的大きな破片を手に取る。
脳裏に響いたあの声を掻き消すように、十代は破片を投げつけ鏡を叩き割った。
叩き割れぬ運命の歯車が動きだすまで、あと少し。
あとがき。
去年の覇十の日も突貫工事でしたが、今年はもっと酷かったですね。何せ覇十の日だと気付いたのが9日の23時半過ぎでしたからね。
そっから気合で書き上げました。1時間ちょっとくらいかな?酒とBGMの力を借りたら何故かホラーチックに。何故だ。
因みにBGMはうみねこですね。わーるどえんどどみねーたーですね。無双です。
うおおおお来いよおおおぉお!はとさんを焼き鳥にしたい奴から前へ出ろよぉおお!うぉおおおお!
(2009.08.10)