そうだ。もっと恐れろ。もっと憎め。もっと絶望しろ。
お前の闇を、俺に寄越せ!





始めのうちは己のすることに嫌悪し、抗議の声をあげていたが最近は随分とおとなしくなった。
否、反応が無さ過ぎてつまらないくらいだ。
うずくまる十代の髪をひっ掴んで、顔を上げさせる。
憔悴しきった顔。あらゆる感情に疲れ果て、感情を放り投げたかのような。
心を放棄してしまえば、何を感じることもない。恐怖も、憎悪も、あらゆる負の感情から逃れられると。
「…それで俺から逃れたつもりか?十代。」
揶揄するような問いかけにも、十代は答えない。薄暗い金の瞳は沈んだまま。
閉じこもろうとする十代も可愛らしい。けれど少し、物足りない。

耳元にそっと、口を寄せる。
そうして、吹き込む。言霊を、『奴』の声で。
「十代。」
瞬間ぐらりと揺れる、彼の瞳。
心を開く鍵が『奴』だということは気に食わないがまあ、利用できるものは利用させて貰おう。
「…十代。」
「………よ、……よは、」
優しく名を呼ぶ声に、蒼を探して視線が彷徨う。
縋るようなその表情にひとつ、笑みを落として……突き落とす。
「お前のせいだ。」
びくりと、肩が強張る。あ、とかう、とか、引き攣ったような声が彼の喉から漏れる。
寒さでもこんなに震えないだろうというぐらいに、ガタガタと震えだす十代。歯の鳴る音さえ、愛おしい。
十代の恐怖は、絶望は、そう彼のありとあらゆる負の感情は、イコール己の力。
誰のものでもない。自分だけのもの。
そうして力を得て、己は『表』へと出た。けれどまだだ。まだ、まだ、足りない。
己の、お前に対する飢(かつ)えが、この程度で満たされるとでも?…甘く見られたものだ。

蒼い声で、覇王は更に十代を堕とす。
「お前のせいで、俺も、皆も、死んだんだ。」
その言葉にいよいよ十代は絶叫した。断末魔のような、何故だか酷く心に染み入る声。
隠された耳を甘く噛んで、最後にまた一つ。
「…全部、お前のせいだ。」
零れる涙さえも、渡さない。べろりと頬を伝うそれを舐めとる。
とてもとても塩辛くて、けれど極上に甘い、彼の絶望の味。



そうだ、もっと恐れろ。もっと憎め。もっと絶望しろ!
…お前の全てを、俺に寄越せ!





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あとがき。

近頃ヨハ十ばっか書いてたから、原点に戻ってみようと書いてみた。
本編でもこれぐらいしてくれても良かったんジャマイカとか思う俺はいっぺん吊ってくるべき。

(08.06.22)



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