ひとりぼっちのきみたちへ。
phase03
自分は、いつだって一人ぼっちだった。
ヒトにも獣人にもなれずに、ただ一人で泣いていた。
そうして泣く度に誓う。
自分たち母子を捨てた父を、決して許しはしない…と。
そうだ、こんな醜い世界なんて滅びてしまえばいい。
もういつから抱えているか分からないこの感情を抱えたまま燻っていた自分に、手が差し伸べられた。
救いという意味では、決してない。分かっている。これは破滅への誘いだ。
シルディアという国の、破滅。
けれど構うものか。自分の居場所などないこの国に愛着などない。あるのは唯憎悪だけ。
消えろ、消えろ。…消えてしまえ。
「そうかい。…この分だと、思った以上に楽に事が進みそうだねえ。」
にたり、とこれ以上ないくらい不快な笑い方。
青白い肌が、余計に彼の笑いを不気味に見せていた。
「それじゃあ、アタシは失礼するわ。あんまり長く留守にすると、城の奴らに疑われるし。」
「ああ、ご苦労だったね。この調子で頼むよ。」
いつ聞いても、耳に残る嫌な声だ。そう思いながらマオはテントを出た。
野営地を突っ切って、シルディアへの道を進む。―――夜空が、綺麗だった。
5分もしないうちに、小高い丘に出る。忌々しいあの国が一望できる、ある意味眺めが最悪の丘。
その丘に、人影があった。こんな時間にこんな場所で。おかしいとは思うが、別段気に留める必要は無かった、はずだった。
けれど、マオは足を止めてしまった。
そして―――その人影が、こちらを、振り返ってしまった。
(―――……、アタシと、同じ…だ。)
その瞳を見て、マオは思う。確信にもにた感情だった。
漆黒の軍服。腰には、彼の体格とは不釣合いな大剣。おそらく、ルーンガイストの兵士なのだろう。
ありふれた茶の髪に、琥珀の瞳。年はおそらく自分と同じくらい。
剣を使うには、痩せているように見える。ちょっと頼りないような印象を受けるのは、そのせいだろうか。
「…ええと…こんばん、わ?」
少し気まずそうに、彼が挨拶をする。こんばんわ、と返すと、また困ったように微笑んだ。
「ガラハッド王子が雇ったスパイって、もしかして君?」
「!…なんで、」
「当たってたんなら良かった。…ぼくが外に出てること、内緒にしといてもらえるかな。」
反応を返してしまってから、しまった、と思う。別段咎めるような態度でないから助かったけれど。
「アタシ、もう帰るとこなんだけど。」
「そっか。…良かった。」
そう言って、夜空を見上げる彼の瞳にマオは思う。先程感じた通り、彼は自分と同じだと。
自分と同じ―――ひとりぼっちなのだと。
「じゃあ…ぼくもそろそろ帰ろうかな。あんまり勝手なことしてると、怒られるし。」
「そ、そう…。じゃあ…アタシも、帰るね。」
…そうして、別々の方向に歩みはじめる2人を、月だけが見ていた。
2人の出会いがこれからに齎す意味を、まだ誰も知る由もなく。
そう、これが始まり。
一人ぼっちの2人の、出会いだった。
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