嗚呼、お願いだから、動かないで、抵抗しないで、拒まないで!
壊したいわけじゃ、ないんだよ!



小さい頃。ヨハンは、家のリビングにある鳩時計がお気に入りだった。
正確には鳩時計というよりも、その中に住んでいる鳩が。
純白の身体に、ルビー色の小さな目。可愛らしい声で時を告げるその鳩の人形が、ヨハンは大好きだった。

けれど、ヨハンには一つだけ不満があった。
時計の中からその鳩が出てくるのは、3時間に1回。そしてほんの数秒鳴いてまた時計の中に戻ってしまう。
(あんな狭い所にずっといて、息苦しくないのかな?)
(好きな時に出てきて、好きなだけ鳴けばいいのに)
(あれじゃあ、可哀想だ!)

まだ幼かったヨハンは、突き上げるような衝動に身を任せて鳩時計の扉をこじ開けたのだ。
そうして、時計の中から鳩の人形を取り出して、鳩を檻から解き放ってあげたような気になっていたヨハンだったが。
改めて手の中の鳩を見つめて…そこでようやっと、もう鳩が鳴けなくなってしまったことに気付いたのだった。

ヨハンは泣いた。あんまりにも号泣したので、親は大して叱りもせずに許してくれた。
鳩時計に、ぽっかりと空いた空洞。
それを見てヨハンは、もう、こんな過ちはしまいと、心に誓ったのだ。


けれど、今またヨハンは過ちを繰り返そうとしている。
「な、せ!!離せって!ヨハン!!」
嗚呼、お願いだから、動かないで、抵抗しないで、拒まないで!
あの鳩みたいに、壊したいわけじゃない。
自分の傍で笑ってくれて、他愛もない話をしたり、時間が経つのを忘れるほどデュエルしまくったり。
そんな、そんな十代のまま。手に入れたいのだ。
動かない十代なんて、笑わない十代なんて、話さない十代なんて!そんな十代を傍に置いて、何が楽しい!!
「っ、ヨハン!」
「…十代。俺は、お前が、大好きなだけなんだよ。」



嗚呼、お願いだから!
俺にお前を壊させないで!!





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あとがき。

4810祭投稿作品ダイヨンダァ!
まず最初にこれだけは言わせてくれ、実体験ではない。うん確かに鳩時計俺の部屋にあるし、その中の鳩大好きだったけど!
でもこんな暴挙には出てないから!
部屋の片隅に今もある、動いてない鳩時計を見ながら書いた作品。

(サイトアップ:08.06.01)





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