ぽつり、ぽたり、だった音が急に激しくなる。
やかましい雨音は、まるで今のヨハンの心境を表しているかのようだった。





「十代って、どういう泣き方するんだ?」
「……は?」
カードをシャッフルする手を止めて、胡乱げな目で十代はヨハンを見つめる。まあそりゃそうだ。いきなりこんな質問されれば。
「翔だったらうわーん、って子供みたいに大泣き。剣山だったらうおおん、って男泣き。明日香は…やっぱり、ぽろりって静かに泣くイメージかなあ。」
「ヨハン、意味分かんねぇ。」
静かにツッコミが入る。こういう時の十代は、意外とノリが悪いとヨハンは最近知った。否、まだ知り合っていくらも経ってないのだけど。
元気、呑気、快活…陽の部分のみを凝り固めて作られたかのような彼。けれどそれは何か違うと、ヨハンの本能が囁いていた。
一日中デュエルしまくって、一緒の部屋に泊まったり…ヒルのように張り付いて、ようやっとその「何か」が見えてきたような気がしていた。
端々に見え隠れする、彼の側面。知りたい。もっと知りたい。彼の全てを、知りたい。巧妙に隠されたその裏側を、覗いてみたい。
「いや、ちょっとさ。気になったから。十代は、どんな風に泣くのかなって。」
本当はちょっとどころじゃない。物凄く気になっているのだが、あえて隠してヨハンは問うた。
「分かってねぇな、ヨハン。」
にかっ、と眩しい笑みを浮かべて、十代は言い切った。
「ヒーローは、泣かないもんなんだぜ!」
その台詞に、ヨハンの背筋を寒いものが走った。違う。違う、違う、…違う!
得体の知れない強烈な違和感に身を任せて何かを口にしようとした、その瞬間。
だだだ、という物凄い音。それまで小降りだった雨が、急に激しく降り出したのだ。
レッド寮の古い屋根に、大粒の雨が容赦無く叩きつけられる。
「うっわ、すげぇ雨!」
先程の話題にはもう目もくれず、十代は窓際へ駆け寄った。

降り頻る雨を見つめる十代の背中を、さらにヨハンが見つめる。
「…十代、」
「どうする、ヨハン。今日泊まってくか〜?止みそうにないぞ、これ。」
ヨハンの言葉を遮って、いつもの調子で十代が言う。
けれど、逃がさない。…逃がすものか。

彼の体の両脇に、手を付く。己の腕と目の前の窓でもって、十代を閉じ込める。
「…ヨハン?」
彼の首筋に顔を埋めて、耳元で低く囁く。
「はっ、ふざけるなよ。」
「何…何がだよ。」
耳元で喋られるのがくすぐったいのか、十代が微かに身を捩る。
瞳と同じ…さらりと流れる琥珀の髪が、酷く頬に心地よい。
「泣かない人間なんていやしねぇ。有り得ねぇんだよ。だから十代。『泣かない』じゃなくて、『泣けない』の間違いだろ?」
「分かんねぇ…ヨハン、意味分かんねぇよ。」
今日2度目の台詞。けれど今度のものにはもっと深い困惑と、何かを隠そうとする姿勢が確かに感じ取れた。
お前の仮面を、剥ぎ取ってやる。全部見せて。
否、見るだけじゃ足りない。咀嚼して、飲み込んで、丸ごと己の一部にしてしまいたいんだ!
「ほら。泣いてみろよ、十代。」
半ば挑発するようにヨハンが言う。
しかし窓に映った十代の顔は、泣き顔などではなかった。きつくきつく、睨み付けるような、真っ直ぐな視線。
こちらを射殺さんとするようなそれに、自然ヨハンの顔も厳しくなる。
「…。…いきなり泣けっつわれたって、そりゃ無理か。…まぁいいさ。今日のところは、な。」
窓から腕を離し、腕(かいな)の檻から十代を解放する。
けれど勘違いしてもらっては困る。お前は本当の意味では俺から逃げることなんて出来ない。俺は意外としつこい性格なんだ。
「絶対、泣かせてやるかんな。」



乱暴なほどに吹き荒れる雨は、まだ止みそうにない。





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あとがき。

4810祭投稿作品ダイイチダァ!はとさんの暴走は全てここから始まった…。
何か書こうとしたら、突然ものっそい雨が降り出して、そしたら何でかこんな話になった。
そしてこの話で一番迷ったのは、ヨハンの台詞で「ほら」と「ほれ」とどっちにするかでした。細かすぐる爆笑。
はとさんはどうでもいいとこで悩みすぎだと思うんだぜ。

(サイトアップ:08.06.01)





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