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陣内家を訪れてから二日後。
応接間兼居間では、一人の少女が探偵たちと向かい合っていた。
彼女は陣内アリスと名乗った。「今度は何だよ…」
面倒くさそうに欠伸をした吾郎は、泰造手製のクッキーを無造作に二枚口に入れた。
探偵の様子を気にすることもなく、彼女は口を開いた。
「我が家でお預かりしているネックレスの話は、聞いておられますね?」
「あ?あぁ…」
深いため息をついたアリスは、ぎゅっと唇を噛んで顔を上げた。
「実は…ネックレスを探していただきたいのです」
「は?」
「え?」
彼らは顔を見合わせた。
「昨日、箱を開封しましたら中身が消えていたんです」
「えっ」
「昨日、婚礼のドレスが届いて『支度の間』に運んだん です
…そうしたら、ネックレスが入った箱が床に落ちていました。テーブルの上に置いてあったはずなのに」
「封印は?」
彼らの目の前でソフィアは封蝋を施していたのだ。
「ありました。破られていなかったんです」
「…それで?」
「中身を確認しようって、姉が父に鍵を貰いに行きました。
その間、部屋には執事とメイドと私がいましたが、誰も箱には触っていません」
「姉?」
「えぇ、先日こちらにお伺いしたのは、私の姉のソフィアです」
「似てねぇな」
「…失礼だよ。吾郎君」
「それで?鍵を貰ってきて開けたのか?」
「えぇ」
「誰が開けたんだ?」
「姉です。箱を開けたら中には何も入っていませんでした」
「…」
アリスはドレスの生地を握りしめた。
ソフィアが身に着けていたドレスよりも上等の生地に皺が寄る。
「昨日は屋敷中を探して…それでも見つからなくて。
姉も酷く落ち込んでいるし、何より結婚を楽しみにしている従妹に申し訳なくて…」
「まだ言ってないんですか?総督や婚約者の方には」
「えぇ…とりあえずは当方で探してみようということになって
…父はどうしても抜けられない会合があるので、私が代わりに伺いました」
「ふぅん…」
ガシガシと髪をかき回した吾郎は、息を吐いて立ち上がった。
「じゃ、行くぞ」
「え?」
いつもの腰の重さが嘘のように、手早く上着を羽織るとドアへと向かう。「この俺が証人になったものが消えたんだ。コケにされて堪るかってんだ」
ニヤリと笑った顔に、事態も忘れて高 鳴った胸を押さえて寿也も慌てて上着を手にした。
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