緋牡丹 四
シーツが汚れるという事を理由に、ベッドに行く事すら許されなかった。薄い寝間着越しに背に当たる固いフローリングが、痛い。
「こーやって見ると、血ってのもナカナカやらしいモンだね」
胸に散った血をねっとりと掌で広げながら、カカシが笑う。その感触にわななく白い胸に、噛み付くような口付けを落とす。
治癒速度が上がっているというのは事実で、カカシの付けた首筋の噛み痕は、とうに消えていた。
カカシの目が、獲物を見下ろす肉食獣の光を帯びる。細工物のような鎖骨をなぞっていた指先が、肩口にぎりりと爪を立てた。焼け付く痛みに、ナルトは身を竦ませる。
けれど、その血の滴る傷さえも、シュウシュウと白い煙を上げ、癒えて行く。
「便利だね。……何でも、好きな事出来ちゃう」
「ふ、う……っ」
力無く首を振って涙を零すナルトに、カカシは嘲笑のような笑みを浮かべた。
「別に、ただいたぶろうとか思ってるわけじゃないから、安心しなさい。ただ、優しくはしてあげないけど?」
力の抜けた身体を膝へ抱き上げ、カカシは先刻歯を当てた場所に、軽く唇を押し当てた。その時の痛みを思い出したのか、身体を強張らせるのに小さく笑い、空いている手で、ゆっくりと脇を撫で上げる。繊細な愛撫に、僅かに強張りが解ける。
くすくすと笑いながら、カカシは、白い貝殻のような耳朶へ舌を這わせた。
「なあに? ハヤテのシカタと、ちょっと似てた?」
「なっ、そんなこと、な……ぁっ」
薄い胸をなぞり上げた手が、胸の頂を摘む。指先で捏ねるようにされて、ナルトは息を呑んだ。
「ここ。好きなの?」
甘い声を吹き込まれ、思い切り首を振る。カカシは喉の奥で笑い、固く勃ち上がったそれから手を放した。そのまま、するりと下肢へと指先を滑らせる。
「!」
「脚、開いてよ」
反射的に膝を閉じたナルトに、カカシは平静な声をかけた。
「別に、いいけどね。ここでやめても」
言外に含む命令の響きに、ナルトは声もなく啜り泣いた。こみ上げる嗚咽を飲み込んで、震える膝を、ゆっくりと開く。閉じた脚の間にカカシの膝が割り込まされ、ナルトは脚を閉じる術を失った。
半ば勃ち上がりかけている幼い性器を、長い指が包み込む。やんわりと握り込まれ、ナルトは身体を硬直させた。
強張った肩を抱き締め、カカシが耳元に囁いて来る。
「いつも……どんな風に、して貰ってたの。ハヤテに」
惨い問いに、ナルトは激しく首を振る。カカシはくつくつと笑い、ナルトのものに絡めた指を蠢かせた。
ただ性感を煽り立てる事のみを意識した、性急な動き。
「やぁ……やっ、あっあっ!」
唐突に与えられる鋭い快感に、ナルトが怯えて声を上げる。あっという間に雫を零し始めたそれは、カカシの手の中でくちゃくちゃと卑猥な音を立てた。
もがく身体を力ずくで押さえ込み、カカシは円い肩に歯を立てた。固い感触に、びくりとナルトの身体が跳ねる。
「ヒッ……や、あ、痛いっ」
愛撫と言うには粗雑に過ぎる動きに、苦鳴を上げる。だが、構わずカカシは先端に軽く爪を立て、一気にナルトを追い上げた。
「や……あっ、ふぁ……」
だが。ひくり、とナルトの身体が極まる気配を見せた瞬間、カカシは不意にその動きを、むしろナルトの熱を堰き止めるようなものに変えた。高処から突き落とされた苦しさに、ナルトの身体がのたうつ。
「ふくっ……やぁ、センセ……なんでぇっ……?」
「お前ばっか快くっちゃ、不公平でショ? オレもそろそろ、愉しませて貰おうと思ってね」
たった今まで、ナルトのものを嬲っていた手を外し、カカシはその指先でナルトの唇をなぞった。眉をひそめるナルトに、表情一つ変えず、言い放つ。
「舐めて。……因みに、ちゃんとしないと辛いのは、お前だから」
その言葉に、これから自分が何をされようとしているのかを悟り、ナルトは諦めたように目を閉じた。目尻に溜まっていた透明な雫がその弾みに零れ、白い頬に銀色の筋を描く。
僅かに赤い舌を覗かせ、ナルトは、突き付けられた指を口へ含んだ。小さな咥内には含みきれない大人の長い指へ、懸命に唾液を絡ませる。
「んくっ……ん、んうっ……」
カカシは、その唇を奪えぬ腹いせのように、指先で薄い舌を弄った。時折、わざとその喉の奥まで指を侵入り込ませる。苦しさに涙を滲ませる子供に、暗い愉悦を覚えた。
必要以上に長い時間、舌を使わせ。ナルトが顎が攣りそうだと感じ始めた頃、カカシは漸くナルトを解放した。やっとありつけた新鮮な空気に、ナルトは喘いだ。
「う、げぇっ……けほっ、はぁっ……」
「フン……上手いもんだね。ハヤテに仕込まれたの?」
「っく……なこと、言わないでっ……」
「ま、いいけどさ。腰、上げてよ」
無慈悲な言葉に、ナルトは泣きながら、不安定な姿勢で腰を上げた。酸欠の所為でふらつく身体を、怯えながら、最低限カカシの肩に縋る事で支える。
脚の間に、冷たくぬるりとした指があてがわれれる。もたらされるであろう苦痛を覚悟したその瞬間、一息に、容赦なく数本の指に、身体を押し開かれる。
「ヤ──ッ!」
激痛に、今度こそナルトは悲鳴を上げた。体内で遠慮無しに動く指に、断続的に、苦痛の訴えを上げる。
「あれ? 今ので切れなかったの。結構丈夫だね。それとも、単に慣れてるだけ?」
「ッ……う……」
「泣いてるの。いいケドね、別に。なんか、強姦してるみたいで、燃えるし……」
「みたい」ではなく、事実上紛れもなく強姦である事を忘れたかのような口振りで、カカシは嘲笑った。白い頬に伝う涙を、舌先で味わうように掬い取る。
慣らすつもりもないような乱雑な指の動きに、それでも、せめてもの九尾の力の賜物か。ナルトの声に、微かに、苦痛以外の色が混じり始める。
それを耳聡く感じ取り、カカシは乱暴に指を引き抜いた。その刺激に、ナルトが苦痛と悦びの入り交じった声を上げる。
「ねぇ」
ほんの一時、責めから解放されて息を吐くナルトに、カカシは冷めた声をかけた。
「支えててあげるからさ。自分で、挿れて見せてよ」
その言葉に、すうっとナルトの顔から血の気が引いた。何か言いたげに口を開きかけ、諦めたように閉じる。この男には何を言っても無駄であると、漸く悟ったらしい。
控えめに、カカシの肩へ手をつき、言葉に従おうとする。だが、カカシに形ばかりでも縋ろうとした手は、無情に払われた。
「違う。そっち向いて、やって」
より困難な要求をされ、泣きそうになるのを懸命に堪える。そうして言われるまま、カカシに背を預けるように、向きを変えた。
言葉通り、確かにしっかりと支えてくれているカカシの手に僅かばかりの安堵を感じ、そろそろと腰を下ろす。まともに慣らされていないとば口は、指とは比べ物にならない質量に悲鳴を上げた。だが、これならばどうにかなると息を吐いた、その時。
不意に、予告無しに、カカシが支えの手から力を抜いた。息を吐いていた事で多少ダメージは小さかったものの、それは何の慰めももたらさなかった。
「──ッ!」
文字通り身体を裂かれる痛みに、ナルトは最早声にならぬ悲鳴を上げた。乾いた血の匂いに麻痺していた筈の鼻を突く、鮮血の匂い。ここ数日で嫌でも見慣れた色の筋が、白い太腿を伝って行った。
「ツゥ……強烈。ああ、ごめんネ。あんまり快過ぎて、ガマン出来なかった」
背後から痙攣している脚を抱え上げながら、カカシがとぼけたような口調で言う。その行為によってより深くまでカカシを受け入れさせられ、ナルトは白い喉を仰け反らせた。ただ、懸命に息を吐く。
「は……ッ、い、やァ……」
「流石、ハヤテが独り占めしたくなるの、解るね……動くよ?」
一方的に言って、カカシはナルトの腰を掴んだ手に力を込め、小さな身体を揺さぶり始めた。未だ、衝撃を受け止め切れていないナルトは、ただ、それに耐えて切れ切れに悲鳴を上げる。
だが。死期の近付いた幼ない子供への、最後の憐れみとでも言うのか。狂った九尾の力が、また、自分の宿主を助けた。程無く癒えたナルトの貪欲なそこは、やがて、ナルトに純度の高い快感を伝え始めた。
「ふわ……う、ん、っく……や、ア……センセ……」
今までに犯された事のないような、身体の奥まで犯されて、それでも快楽を叫ぶ、幼い肉体。「先生」という言葉に眉をひそめ、言葉を封じるように唇へ這わせたカカシの指に、躊躇いもなく舌を絡める。
チッと舌打ちの音が、背後でした。耳元に、侮蔑したような声が、吹き込まれる。
「淫乱」
それにはっと我に返った瞬間、カカシを身の内へ受け入れさせられたまま、ナルトは前に突き飛ばされていた。
反射的に顔を庇い、腕を床につく。必然的に、腰を高く掲げた、獣じみた姿勢を取らされる状況に陥った。
「や……ッ!? あ、ああっ」
羞恥に声を上げる間もなく、そのまま容赦なく腰を使われ、開いた口がそのまま悲鳴を上げる。苦痛と溶け合わぬ過ぎた快感に、涙が溢れた。
「はっ、あ、う……や、あっ……もう、ヤ……」
先刻途中で放り出されたままの幼い牡が痛い程に張り詰め、先端から透明な雫を零している。終わりのないようなこの責め苦から逃げ出したい一心で、半ば無意識に、ナルトは自身のそれへ、そろそろと手を伸ばした。
だが。
情けを知らぬ鋼のような手が、それを遮った。
「あぁ……」
「駄目だって、言ったでショ。一人だけ、先にイくなんて……オレが、許すと思う?」
耳元に、ひどく優しげな声が吹き込まれる。その裏に隠された剃刀のような冷たさに、ナルトは鳥肌を立てた。
「ヤ……ご、めんなさッ……」
「許さないよ」
いっそ明るくさえ聞こえた声と同時に、頭上で戒められていたナルトの手の甲に、灼熱の源が埋め込まれた。
「──ッ!?」
あまりの事実に、一瞬、何をされたのかが理解出来なかった。だが、次の瞬間、そこを中心に電気的な激痛が全身を駆け巡り、ナルトは呻いた。
「あ……ッ、や、痛い……痛いぃ……」
一体、どこから取り出されたものか。
一本のクナイが、ナルトの右手を、深々と床に縫い止めていた。
どこかの神経を傷付けているらしく、少しでも動く度、痺れるような痛みが腕にまで走る。クナイを引き抜くことも出来ずに力無く左手を添え、ナルトは泣いた。
「くっ……すっごい、締まる。ホント、殺しちゃうの勿体ナイくらいだね、ナルト」
「ふ……う、あ……」
クナイの衝撃で半ば萎えかけていたナルトのものに、カカシの手がかかる。前後からの刺激と、クナイを突き刺されたまま故に癒える事の出来ない傷の激痛に、ナルトはただ、泣きながらもみくちゃにされた。
「や……イク……」
嵐のような、愛撫とも言えない愛撫に、急速に追い上げられる。
ほとんど消えかけた意識の中で、それでもナルトは掠れた声で呟いていた。
「ハヤテ……せん……」
漸く、この拷問から解放されると思った、その瞬間。
達するのと同時に、ナルトは声を失った。
代わりに、目の前を埋め尽くす、一面の赤。
それが何かを理解するより早く、ナルトは、ハヤテと見ると約束をした、牡丹の花を思い出した。
後数日で開き始める筈だった、大輪の花達。どれ程綺麗だっただろう。まして、隣に誰よりも愛しい人がいたのなら。
約束を破ってしまった事に、叫びたい程の哀しみを感じながら、それきり、ナルトの意識は赤い闇に溶けて行った。
事切れる瞬間に、凄まじい力で締め付けて来た子供の内部で、カカシは今までに体験した事のない絶頂を味わった。
そうして、ただの骸と化したそれからゆっくりと自身を引き抜き、からりと、その細首を掻き切ったクナイを床へ放り出す。
九尾の力の残滓が、音を立てて、ナルトの命を奪った傷を癒していた。だが、それも粗方の傷口が閉じた所で力尽きたのか、やがて白煙が消え、全ての音が、室内から消えた。
唯一の音が、自分の呼吸のそれであると気付くまで、カカシは血の海に伏したナルトを見つめていた。
まるで、泣き疲れて眠ってしまったかのような、その死顔。そっと手を伸ばし、血や汗でその額に貼り付いた前髪を、掻き上げる。
「……可哀相にな」
ぽつりと呟く。それはまるで他人の声のように、カカシには聞こえた。
「お前は、何も悪くないのにな。お前が九尾の封印なのも、オレがお前を嫌いだったのも、お前がハヤテの事を信用出来なかったのも……お前が、こんな風に死ななきゃいけなかったのも、みんな。お前の所為じゃ、ないのにな」
当然のように、ナルトは応えない。その頬に残る涙の跡を、カカシは丁寧に拭う。
「なのに、みんなから恨まれて。最後の最後まで、オレにまで、こんなに苛められて……」
段々と声に涙が混じって行くのを、カカシは感じた。震える、小さな手にクナイを突き刺した手と、同じ手でもって。痛みを極力感じさせないようにそっと、動きを永遠に止めてしまった手から、クナイを引き抜く。
消えてしまった生命の分だけ軽くなったような気さえする、ただでさえ軽い身体を、そっと抱き締める。
「ごめんな」
頬を、涙が伝った。歯を食いしばって、それでも決してナルトを抱く腕には力を込め過ぎないようにして、カカシは泣いた。
「ごめん……ごめんな」
確かに、激しく憎んだ時期もあった。大好きだった人を殺した、化け物の器を。今でもその憎悪は消えていない。けれど。
最初は、あの人の面影に惹かれて。それから、その笑顔や、何ものにも屈しない勁さや、脆さ。深く澄んだ瞳に、心を奪われた。
愛していたのだ。初めに憎んだのと、同じ強さだけ。或いは、それ以上に。
けれど、自分でもどうしようもない程に屈折してしまった心は、それを表に出す事を許さなかった。
その結果が、この醜態。カカシは、涙を流しながら、自らを嘲笑した。
「愛してるよ、ナルト。……愛してたんだ。ずっと」
もう少し自分の心が歪んでいなかったら、この結末は、変わっていただろうか。
どこか遠い場所でそう思いながら、カカシはたった一度だけ、許される事の無かった口付けを、小さな唇へ落とした。
最初で最後の口付けは、舌を焼く鉄錆の味がした。
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ナルトお疲れさまでした。ここで彼は退場です。舞台裏でゆっくりハヤテ先生に慰めて貰っている事でしょう。
実はこの話を書いている最中、風邪から来る体調不良も重なって眼がやられ、ずっと授業中等々に手帳に書いていたのですが。このシーンを見ると、余白に「ビバ鬼畜」「ビバショタ」に始まって最後には大きく「鬼畜マンセー」の殴り書きが。
一遍死んで来い、俺☆
カカシの謝るシーンを書きながら、生まれて初めて小説を書きながら目頭が熱くなるという経験をしました。
貴重な体験をありがとうって感じですが。でもカカシは幸せになれません。
だって私はハヤナラーだから。
五へ
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