考えるのは君のことばかり



たまたま聞いてしまった左門の独り言から両思いだと気がついて、そのまま思いを告げて恋仲になったのが一月ほど前。
その後はなかなか二人きりになることもなく、たまに顔を合わせれば二人とも素直になれず憎まれ口ばかりで、委員会時は言葉を交わすこともそうそう出来ずにここまできてしまったことを三木エ門は悩んでいた。

(恋仲、僕たち恋仲なんだよな。なのにこの一月足らずの間にちゃんと会話出来たことがあったか?)

二人の間には甘い雰囲気なんてものは皆無だが、たまに目が合ったときにこちらから微笑んでみれば顔を赤らめて微笑み返してくれるし、あれが夢だったということでもないらしいが少し不安が残るのは事実。
二人で町へ出掛けようにもあの決断力バカの方向音痴はひどいものだし、いくら子供とはいえこの年で男同士で手を繋いでいるのも不自然だろうしと悩んでいたところ、同じ方向音痴と付き合っているという滝夜叉丸が二人で町へ出掛けたという話が耳に入った。どうやら滝夜叉丸が女装をしたらしい。
(その手があったか!)
どちらかが女性であれば手を繋いでいても問題はないし、不自然に思われることもないだろう。
ただ問題は自分たちの場合どちらが女装をするかということぐらいであろうか。
(まぁ最悪自分がしても良いし、とりあえず今日の委員会帰りにでも誘ってみよう)

何とか這々の体で委員会を終え、徹夜にならずに良かったと喜ぶ団蔵達に今日の左門の送りは自分がすると左門の手を引っ張りながら三年長屋を目指す。
(考えたら初めて誘うんだよな。何だかどきどきしてきた)
心臓の音が手を繋いでいる左門に聞こえやしないかと後ろをちらっと目をやれば、嬉しそうに笑っている左門が目に入る。
(あぁ、なんでこいつはこんなに可愛いんだ!)
二人きりで出掛ければ、もっとこんな笑顔が見られるかもしれない。
そう思う気持ちに後押しされた三木エ門は少しどもりながら左門に誘いをかけた。
「あ、あのな左門。こ、今度の休みに一緒に町に行かないか?」
「えっ!?」
どうやら左門には先約があったらしく、まさか断られると思ってもいなかった三木エ門はがっかりはしたが、まぁ急だし仕方がないと諦めた。
「気にするな。だけどその次の休みは空けとけよ。」
「あ、あの本当にごめんなさい。せっかく誘って貰ったのに・・・。」
(自分を優先してくれれば嬉しいけど、心が狭いだなんて思って欲しくないしな)
「いいって、喜八郎あたり誘って行ってくるからさ。」
「綾部、先輩と?」
心の狭いところは見せたくないと三木エ門はことさら明るく振る舞っていて左門の表情が曇ったことには気がつかなかった。
「あぁ、あれでいて喜八郎はなかなか良い店を知っているんだ。」
穴掘りに夢中で他のことにはあまり興味を示すことがない綾部だが、意外にも町の旨い店を熟知しているのだ。ただ自分で情報を集めるということはしなさそうだから、情報源は立花先輩かタカ丸さん辺りだろうと三木エ門は聞かれもしないことまで話していて、左門が何か言い足そうにしていることに気がつかない。
そして俯いてしまった左門をみてもう眠いのかと判断し
「遅くに引き留めて悪かったな。」
「・・・いえ、大丈夫です。僕のほうこそすみません」
(本当は接吻の一つでもしたいけれど、誰が通るかわからないしな)
せめて髪ぐらい触っても許されるかなと三木エ門は左門の頭を撫でつつ、少し乱れていた髪をなおしてやる。
(あぁ、サラストだけあって手触りがいいなぁ)
左門は俯いたままされるがままだ。
「じゃあ、おやすみ」
名残惜しいが左門も限界だろうとと三木エ門が部屋に戻ろうと踵を返したところで、後ろから袖を引っ張られた。
「左門?」
「――っ!」
俯いていた顔を上げた左門の目元はうっすらと赤くなっており、瞳が少し潤んでいる。
(あれ、もしかして泣きそうになっているのか。何で??)
何か自分はしてしまったのかと三木エ門は考えたが特にこれといって思い当たることがない。
「なんだ、断ったことを気にしてるのか?急に誘ったほうが悪いのだし、そんな顔するなよ。」
それ以外に左門がこんな表情をする理由がわからず気にしないよう告げるが左門は首を振って否定し一言も話さずに俯いたまま今にも泣き出しそうに見える。
「左門?本当にどうしたんだ」
少し屈んで左門の顔を覗きこむように三木エ門が話しかけたところ、勢いよく左門が抱きつきとうとう泣き始めた。何とか泣きやませようと左門を抱きしめ背中をさすってやるが左門の涙の勢いは増すばかりで、三木エ門の頭も少し混乱していたところ目の前の障子が勢いよく開き、中から次屋と富松が出てきた。
「「先輩、なに左門泣かしているんですか」」
「僕にだって理由がわからないんだ!!」
目の据わった二人には三木エ門の叫びは届かず、気がつけば左門と引き離され目の前の障子は閉まっていた。
「一体、何がなんだっていうんだ・・・」
突然のことに思考はついていかず、最後にみた左門の泣き顔が頭から離れずない三木エ門は呆然とその場に佇むことしかできなかった。



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