三木エ門先輩のばぁか。
どうして団蔵や左吉には優しくしているのに僕には厳しいことしか言わないんだろう。
少しでも良く思ってもらいたいのにあまりの態度の違いについつい喧嘩腰になってしまい、昨日みたいに潮江先輩に怒られるのが日常的になってしまった。
入学したての頃はもう少し優しかったのにいつの間にこうなってしまったんだろうか。
きっとこんなことを考えてしまうのもさっき見た光景が原因なんだろう。
三木エ門先輩が同級生に囲まれながら僕には見せてくれない表情で笑って、僕には聞かせてくれない楽しそうな声で話しかけるだなんて、あまりの違いすぎる態度に涙がでそうだった。
そりゃ自分で自慢するぐらいだし、滝夜叉丸先輩は優秀だし綺麗なのは認める。
綾部先輩が誰より可愛いし、穴掘り小僧と言われながらも作法委員らしく優秀なのも知ってる。
忍たまとしての経験・知識は少ないけれど、年上だけあってタカ丸さんが頼れるのもわかっている。
それでも誰より先輩のことを好きなのは僕のはずなのに、誰よりも先輩を見ているのは僕の筈なのになんで先輩にはそれがわからないんだろう。
こんなにも先輩のことが好きなんだから、もうちょっと優しくしてくれたっていいのに。
彼らに向ける何分の一でいいから笑ってくれたらいいのに。
ユリコ達に向ける何十分の一でいいから僕のことをみてくれたっていいのに。
三木エ門先輩はぼくだけを見ていればいいのに。
こんな時は三之助に膝枕をしてもらって愚痴を聞いてもらえばすっきりするのに、肝心の三之助は委員会で呼び出しをくらいきっと夜中まで帰ってこないだろう。
気晴らしに散歩に行きたいけれど、作兵衛に一人で部屋から出るなと釘を刺されているのでそれも出来ない。
あぁ、嫌だ嫌だ。これもそれも先輩が僕のこと見てくれないからいけないんだ。
そう、僕が素直になれないのも先輩のせい。
こんなに嫉妬するのも先輩のせい。
こんなにモヤモヤするのも、苛々するのも全部先輩がいけないんだ。
こんなに好きになって、先輩のことしか考えられないのも全部―――
独り言にしては大きすぎた左門の声がちょうどユリコと散歩中だった三木エ門の耳にしっかり届いており、左門が三木エ門の腕の中に収まるまであと5分。
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