考えるのは君のことばかり



 なんでこうなってしまうのか。
 もう溜め息も何回目だろうか。せっかくユリコと散歩をしているのに気分が晴れない。
 昨日も委員会では左門と言い合いになり、潮江先輩にげんこつをくらってしまった。
 左門が喧嘩腰で話してこなければなんて思っても、結局それに乗ってしまったのは自分なので仕方がないとはいえ、本当あの先輩は止めて欲しい。
 
  自分に対して笑って欲しいとおもってもいつもそんな調子なのに、食堂で同学年に囲まれている左門は自分にむける態度とは違い幼く素直だった。
 富松に対しては言い合い元になった口を開いている癖を注意されていたのに「いつも注意してくれてありがとな。」だなんて笑っているし、僕に対する態度を違いすぎて嫉妬で目眩がしそうだった。

 苛々している僕を労ってかタカ丸さんはお浸しをくれ、綾部は「僕が食べさせてあげよう」と箸をとられそうになったが、気持ちだけ受け取っておいた。

 富松より僕の方が成績優秀だし背だって高いし格好いい。
 もしかしたら手先の器用さでは負けるかも知れないが火器に関しては僕の方が優秀だ。
 あぁ、もう少し素直に僕の話を聞いたり笑顔を見せてくれれば僕だって左門に優しくして笑いかけられるのに。
 ユリコよりもサチコV世よりも春子や鹿子よりも好きなのにどうしてアイツには伝わらないのだろう。


 そろそろ長屋に戻らないとと思うが、ここから自分の部屋に戻るには左門の部屋の前を通らなきゃいけない。
 左門は声が大きく、部屋の前を通る際に同室の富松や次屋に甘えている声が時折聞こえてきたりと、あまり精神上良くないことがある。
 今日聞こえてきたら流石に自重できなくて怒鳴ってしまいそうだ。
 もう遅いし、流石に寝ているとは思うが通りたくなくないなぁと思ったところで気がついた。
 そういえば、滝夜叉丸が今日の夜は体育委員会があると言っていたな。ということは同室の次屋も委員会に出掛けていないわけで・・・

 もしかしてこれはチャンスなのかもしれない。

 委員会以外で顔を合わせることも少なく、二人きりなんて部屋に送り届ける時ぐらいで互いに意識朦朧とした状態であることが常だ。一度何とか思いを告げようとしたが肝心の左門は「僕は寝てない、寝たない・・・」と繰り替えずばかりで話を聞ける状態じゃなかった。
 想いを告げてもいい返事がもらえるとは思わないが、意識してもらうきっかけぐらいにはなる筈だ。

 「よし、行くぞ!」

 ちょっと声をだして気合いを入れる。
 このチャンスを逃さず、今日こそ喧嘩腰にならずにこの気持ちを左門に告げるのだ。
 この学園のアイドル三木エ門の甘い笑顔と声で左門を魅了してみせようじゃないか。


 三木エ門は知らない。
 実は左門も同じ想いを抱えていることを。
 三木エ門が左門の独り言を耳にして顔を真っ赤にしながら左門に想いを告げるまであと少し。




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