望んだのは





 「伊作、俺は間違えていたんだろうか。」 

 一瞬のことだった。
 戦場で敵味方関係なく治す僕は狙われることは多々あった。
 手当をしようと側に消毒薬を取り出そうとした瞬間相手は僕に斬りかかり、下を向いていた僕は咄嗟に剣を受け止めたが後ろから飛んできた小刀には反応出来なかった。
 あぁ、これでやっと終われるのかもしれないと思った瞬間、目の前で散った赤は僕のものではなかった。

 「側でお前が壊れていくのを、ただ見ていることが出来なかった。」

 あの学園の中、人を殺すための術を学びながら人を助けることを優先する僕は異端だった。
 命は大事だと後輩に教えながら人を殺す矛盾が僕をほんの少しずつ、穴が解れて広がっていくように浸食していることに仙蔵も文次郎も小平太や長次すら気がついていなかった。

 「お前より大事なものがありながら、それでも選んだのは俺だ。」

 誰よりも優しい君は僕を見捨てられなかった。
 本当は誰よりも忍びに向いていないのは君だったというのに、その優しさ故に僕の側にいてくれた。
 君を守るために初めて人を殺した僕に責任を感じていると知っていたけど、それでも良かったんだ。君が側にいてくれるのなら理由は何だって。

 「なぁ、作。お前がいないのに俺は笑う事なんて出来ないんだ。」

 僕が望んだのは君が隣にいてくれること。
 君が望んでいたのは彼が幸せであること。
 彼が望んでいたのは君が笑っていてくれること。

 僕らが望んでいたのはこんな終わりじゃなかった。

 ああ、僕らはどこで間違えたんだろう。
 僕は君が大切で、君も僕を大切に思っていてくれていただけなのに。
 君は彼が大事で、彼も君の笑顔を守りたかっただけなのに。

 今の僕にわかるのは、もう二度と君の笑顔が見られないということだけだった。





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