願ったものは
泣かないでください。
本当は誰よりも優しい人だからあんたはご自分を責めるでしょうけど、これでいいんです。
最初はちゃんとわかっていたつもりでした。先輩はあの人だけがいて誰も代わりに何てなれないんだと。
だから側にいられなくてもあんたが幸せならそれでいいのだと自分に言い聞かせていたんだ。
でも実際にあの人が目の前で殺されそうになったとき
「あぁ、これであんたは俺を見てくれるかもしれない」
と思ってしまった自分が許せなかった。あんたが幸せならそれでいいと言いながら、本当はあの人の死を望んでいた醜い自分が許せなかったんだ。
だからいいんです。あの人を庇ったことは後悔してないんです。
あんたの横にはあの人が居ることで、あんたが笑っていてくれるならそれで俺は良いんです。
褒めてくれるときに「作」って呼んでくれる優しい声が好きだった。
怒らせると恐いけれど、たまに見せてくれる笑顔も頭を撫でてくれる大きな手も、あんたを構成する全て好きだった。
その気持ちが恋慕であったと気がついたときにはあんたにはあの人がいたけれど、それでも諦められないくらい好きだったんだ。
今になって想いを告げておけばよかったと思ってる自分がいるんですよ。
きっとあんたは困った顔をするだろうけど、それでも「ありがとう」とあの大きな手で頭を撫でてくれたはずだから。
隣に立つことは出来なかったけれど、側に入れて俺は幸せだったんです。
だからそんな顔しないでください。あの人を守ることであんたの笑顔が守れたのならいいんです。
ねぇ、先輩。
代わりといってはなんですが、俺の最後のお願い聞いてくれませんか。
「わら・・・て・・・くだ・・・」
そこから先の記憶はなく、覚えているのは俺を抱きしめてくれたあんたの腕の暖かさだけ。
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