電車ごっこ
『無自覚迷子』だなんて山田先生も上手いことを言われたものだと思う。
一本道のはずなのに何でそこで曲がるのか。目の前を走る滝夜叉丸先輩の後に続けばいいだけなのに次屋先輩はいつも途中ではぐれてしまう。
毎回委員会前に先輩に注意されても飄々と受け流し、それでいて自分ではなく僕らがはぐれたんだと言い出すのだから堪ったもんじゃない。
「三之助、最終手段だ。コレをしっかり持って私の後を付けてこい。」
とうとう堪忍袋の緒が切れたらしい滝夜叉丸先輩が縄を持ち出した。まるで電車ごっこのようだがこれには僕も入らなければならないのだろうか。隣の時友先輩をみると
「僕も一緒やってもいいのかなぁ」
なんてワクワクしてるけど何で一緒にやろうなんて思えるんだろう。
僕は絶対嫌だけどな。恥ずかしいし馬鹿にされそうだもの。
「こんな恥ずかしいことやりたくないっス」
「どの口が言うんだ!いつもいつも迷子になっているのは誰なんだ。」
「勝手にいなくなるのはそっちでしょうが。」
うん、恥ずかしいという気持ちはわかりますけど滝夜叉丸先輩をこれ以上怒らせるのは止めて欲しい。
「お前に拒否権はない!!」
滝夜叉丸先輩がすごい剣幕に負けたのかしぶしぶといった感じで縄を持った。
とりあえず巻き込まれないようになるべく離れようとして次屋先輩が滝夜叉丸先輩を見つめているのが目に入った。
前にもこんな顔の先輩をみたことがあるなぁなんて思って、ふと気がついた。
滝夜叉丸先輩が実習でいなかった時は七松先輩に校外ランニングは止めるように自分からお願いしていたし、ランニングをメニューから外してもらえない時は学園に戻ってくるまで時友先輩や僕と手を繋いでいた。
考えてみれば滝夜叉丸先輩がいる時はこうやって言い合いをしながらも楽しそうにしているのに、いない時はも飄々としていて感情の読めないことが多いし迷子になっていないんだ。
ふと視線があった次屋先輩があまりにも楽しそうだったから
「なんだ、金吾もやりたいのか?」」
「はい!」
と思わず七松先輩に返事をしてしまい、解放されたのは二刻ほど後の話。
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