──アタシのボディソープの中に、媚薬が混入されている。
その事実に気付いたのは、ほんの数日前だ。
真夜中になっても25℃を切らなかったある晩。
あまりの寝苦しさに眠れなかったアタシは、汗だらけの身体をサッパリさせようとバスルームへ向かった。
すると廊下に出た途端、目的のそこから光が漏れているのに気付いた。
「シンジ…?」
誰ともなく、確信めいた呟きをもって中を覗くと、予想通りの人物がいた。
水音のしないバスルームで、半開きになった扉から、蹲って何かしているシンジの姿が見える。
声を掛けることは、直感的に躊躇われた。
気付かれないように近づき、気配を消したまま背後に立って行為を確認する。
驚愕だった。
ここで自慰でもしていれば半ば推測通りだったのだが、それすらも外れた。
この家に2種類あるボディソープのうち、アタシ専用のそれに、何やら小瓶の中身を加えていたからだ。
その効果も目的も、いったい何であるかは分からない。
しかしアタシの中で、稲妻の如く衝撃が駆け巡った。
そして、全てを理解した。
毎晩のようにお風呂場で自らを慰めてしまうのも。
それでも身体の火照りは納まらずにベッドで続きをしてしまうのも。
原因不明の性欲に精神が蝕まれているのも。
全て、この媚薬が元凶なのだと──
今でもアタシは、専用のソープを使っている。
ミサトなんかと同じモノだなんてプライドが許さないし、原因が判明した以上、性欲なんてモノは精神力で押さえられると信じているからだ。
だからこうしてソープが染み込んだスポンジでお肌を磨いていても、いやらしい気分になることもない。
理由さえ分かってしまえば、本能的な欲望なんて頭で制御できる。
理性だけでどうにかなる部分なんて、ハッキリ言って問題ではないのだ。
──そう、問題は別のところにある。
毎日少しずつ擦り込まれる媚薬が、肉体の方に変調をもたらしているのだ。
「は…ん…うん…あ…」
泡立てたスポンジが素肌を擦るたびに、アタシのカラダの最奥が疼く。
皮肉にも真相を理解してしまったことで、より感度が上昇してしまったらしい。
やがて全身が泡に包まれる頃には、直に両胸を揉みしだいてしまっていた。
時折強く揉み込んで刺激を与える。
それでも全然満足には至らない。
するすると撫でられるように、アタシの手がより強い快感を得ようと敏感な個所へ伸びる。
すでに十分濡れていたそこは、物欲しそうにおつゆをいっぱい垂らしていた。
胸を揉む左手は決して頂点には触れず、秘所にある右手は周りをなぞるだけで中には入れようとしない。
それは自らを焦らしているワケではなく、ただ恐いだけ。
あまりにも高められた性感が、どれほどまでの奔流をもたらすか、アタシにはとても想像もできないから。
それでも、じわりじわりと近づく指は止められない。
ふいに、顔を覗かせていた陰核を、滑らせた右手で触れてしまった。
「ぃや、ぁ、んんんーっ!!」
予想していなかった衝撃に、たちまちアタシは絶頂を迎えてしまう。
弾ける快感。
それでも声は漏らさぬよう、必死に押し止める。
すると強張った左手が、すんでのところで止めていた頂点を摘み上げてしまった。
「ひっ、ひぁ、あああっー!!!」
2個目のスイッチによって、防ぎきれなかった叫びが浴室で響き渡る。
一度高みに連れていかれたのに、さらなる場所へ昇らせられた。
激しく目の前がスパークして、頭の中も真っ白になる。
背骨は反り返って、視点は虚空を彷徨ったまま。
雫の滴れる天井も、まったく認識できない。
身動きはできなくとも、脚の付け根から流れる愛液は止まることを知らなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
しばらくして意識が戻ると、あれだけの快感にも満たされていないアタシがいた。
一度頂点を極め、なお敏感になった身体は、意志とは関係なしに動き回る。
固い弾力となった頂きを潰すように摘み、いきなり2本の指をナカへ差し入れた。
先のような戸惑いもなく、ただ我慢ができなかっただけ。
「あ…ん…むぅ…ぁ…」
自分では無い、誰か違う他人の手。
その相手ははっきりと見えないけれど、イメージするだけで感覚が一層鋭敏になる。
“女” というものを知らないその手は、恐る恐る内壁をまさぐっていた。
まさしく手探りで、かき回すだけでは当然反応は鈍い。
先端へ千切れんばかりに噛み付く指も、与えるのは痛みのみ。
無理矢理感じさせようとする意志は、次第に乱暴な動きとなってアタシを翻弄する。
アタシのことなんて見ていない、完全に自分本位な暴行。
アタシは虐げられていて、本当は許すことのできないはずの行為なのに “アイツ” だと思うだけで痛みも快感へ変わる。
「んぁっ、や…だ……」
ようやく聞こえた甘い喘ぎに、どうやら機をみたらしく身を離した。
暴風雨のように薙ぎ倒す愛撫も、止んだのはさらなる嵐の予兆だったのか。
一旦視界から消え、屈めたかと思うと “ソレ” はきた。
「んぐぁっ、ぃぎゃああああああーーーー!!!」
激痛。
それは決して結ばれた喜びなどでは無く。
しばしば例えられる、引き裂かれるような痛みなどでは収まらない。
ホントに引き裂かれた方がどれほど楽か。
幸せという余韻に浸る逃避さえ許されない。
生まれて初めての圧倒的な痛覚の前に、落ちようとする意識も強引に引き起こされる。
「あ゛っ、が、ぐ、いぎぃっ!!」
ヒトらしい発音さえ一瞬にして忘れてしまった。
かなわないはずのタイルに爪を立て、嵐が過ぎ去るのを待つ一匹の獣。
ゴーゴーと猛威を奮う風に囲まれ、子供たちにはひと月眠りは訪れない。
狂う、狂う、狂う。
このままではイカレてしまう。
恐い、それは恐い。
アタシがアタシで無くなってしまう。
いやっ、それはイヤッ!!
たすけて、シ──
……ずっと鳴り止まない暴風に身体の方が危機を察したのか、ガタンと誰かがブレーカーを落としてくれた。
目が覚めたそこは、先程と何の変化もないバスルームだった。
猛烈な痛みが “あった” 場所を確かめる。
一際深く、膜を破る間際まで指を突き入れていた。
それでも傷つけてしまったらしく、僅かながら鮮血が滴っていた。
熱病に煮立った思考で、すっかり乾いてしまったソープをシャワーで洗い流す。
疑似的にも体験したカラダの結合は、既存の常識を全て押し流してしまった。
そこにはアタシの意志はなく、発情したメスの本能だけがあった。
ろくに水も拭かず、全裸のままそこを出た。
足は勝手に、人の気配がするキッチンへ進む。
夕飯の洗い物をしているシンジの後ろ姿。
単にそれだけのはずなのに、今のアタシは欲情を感じてしまう。
しばらく眺めていると、ようやく終わったのか、手を拭いながらこちらを振り返った。
「ア、アスカ…!」
何をそんなに驚いているの?
アタシをこんなにしたのはアンタじゃない。
ご計画通り、淫らになってあげたんでしょ。
どうして目を逸らすの?
見て、アタシを見て。
食い入るように見つめなさいよ。
純情ぶって顔を真っ赤にするのはやめて。
まるでアタシが勘違いしてるみたいじゃない。
あの夜シンジが入れてたのは、ただの香料だったなんてやめて。
今更もう後戻りはできない。
抱いて、お願い。
隠そうとしても見える、そのおっきなシンジでアタシをメチャクチャにしてよ。
どうせミサトだって加持さんと楽しんでるんだろうし、アタシ達も楽しみましょうよ。
今日の夜はまだまだ長い。
イヤラシイ笑みで目の前の男を誘う。
何回イかされるだろうと思い描いていたら、獣のような目をしてシンジが襲い掛かってきた。
その場で押し倒されて蹂躙される。
初めてを奪われたのはそのとき。
股間に生じる痛みと、それ以上の悦楽でぐったりしている身体を、シンジのベッドへと運ばれた。
そのまま夜中ずっと犯され続けて、無理をした肢体が悲鳴を上げる。
それでもアタシは貪欲に求めた。
意識は虚ろ、味覚もとうの果てに絶え、度重なる凌辱で白濁を溢れさすヴァギナが赤く爛れようとも。
「好きだ…」
と、シンジの口から発せられるその一言を。
end.