アスカを起こしたのになかなか起きて来ないから、仕方なく一人で朝食を食べていた。
ミサトさんは松代に出張とかで、朝食も食べずに行ってしまった。
どことなく味気ない。
トーストをコーヒーで流し込んでいると、のっそりとアスカが現れた。
「うー、キモチワルイ」
寝巻きのタンクトップとホットパンツ姿のまま。
髪もぼさぼさだ。
いかにも気分の悪そうな顔をしている。
「えっと…大丈夫?」
「大丈夫じゃないわよ。生理よ、セ・イ・リ。今日は学校休むわ」
僕の正面に座ると、そのままテーブルに突っ伏した。
女の子がはっきりと生理なんて言うのはさすがに抵抗があったけど、既にこんな日は何回か経験してるので耐性がついてる。
「クスリはこれでいいんだっけ?」
戸棚の奥から鎮痛剤を取り出して、コップに水も汲んでアスカに手渡した。
アスカは「さんきゅ」っていうと一気に薬を飲み込み、また突っ伏した。
休んでるアスカをそっとしておいて、僕は自分の部屋にカバンを取りに行った。
「じゃあ僕、学校に行くから。先生には休みだって言っておくよ」
丸まった背中に声をかけると、う〜と唸り声を上げながら、薄目でこちらを睨んだ。
「…シンジ。アンタ、今日学校休みなさいよ」
「えっ?」
「おなか痛い。あたま痛い。動けない」
「…えっと、何いってるの?」
「アタシは病人なの。だから、アンタは学校休んで看病しなさい」
「そ、そんな…」
「それともアンタ、痛い思いをしてるアタシを一人残して、学校に行くっていうんじゃないでしょうね?」
同情に訴える作戦に出た。
卑怯だ。
僕がそういうのに弱いって知ってるくせに。
ふぅ、と一つため息を吐いて、カバンを床に置いた。
ネルフがあるから学校は結構行ってないし、いまさら休むのには抵抗がない。
諦める決心がついたところで、アスカが小声で何か言っているのが聞こえた。
「………」
「痛いの? なにか持ってくる?」
痛くて苦しいのかと思って、背中をさすりながら尋ねてみた。
どうしてほしいのか分からないのは、男の僕には悩ましい。
それでも聴き取れなかったので、口元に顔を寄せた。
「どうしたのっ……んむ!」
何が起きたのか、何をされたのかも分からなかった。
その瞬間だけ、時間が消し飛んだみたいだった。
気づいたときには、またアスカは腕を枕に突っ伏していた。
僕の唇は、ただ、ひたすらに熱くなっていた。
呆然とする僕を突き放すように、でもちょっと弱々しくアスカは言った。
「本気にすんじゃないわよ。早く学校行きなさいよ」
さっきとは違ってクリアに聞こえた。
けど、僕の頭の中は別のことでいっぱいで、そのまま反対側の耳から突き抜けてしまった。
「じゃ、じゃあ行ってくるね」
なんとか復帰してダイニングを出るとき。
いってきますの挨拶とともに一度だけアスカのことを振り返った。
乱れた髪から覗く耳。
それが真っ赤に染まっていたのは、僕の気のせいではなかったかもしれない。
end.