レビュー

 

ウィザードリィ・サーガ 

 上:狂王の血脈

 中:大帝の魔都

 下:隻眼の吸血鬼

(野間逸平・伏見健二著、ログアウト冒険文庫)

 

原作は、佐木飛朗斗(……たぶん)

原題は『疾風(かぜ)伝説 特攻(ぶっこみ)のフリン』(……だと思う(笑))

 

 

物語は、名作ゲームをモチーフにして読者数をとりあえず確保、

世界観や固有名詞を説明する労力を削減してオリジナル物語を書きましょう、

という和物ライトファンタジーならではの省エネ執筆手段を踏まえています。

その分、「ひ弱な王子様が冒険で成長。魔族に操られた父王と決別し、女がらみでブチ切れ覚醒して、

父とその黒幕をブッ倒してめでたしめでたしっ」っていうストーリーに全力が注がれて……いるかどうかは定かではありません。

わりかし読みやすくて、脇役も外さないタイプが出てくるので損はないか、と思われますが油断は禁物です。

特に巻頭の挿絵ではなぜかコミカルなチビキャラで描かれているけど、上巻・中巻では

大活躍のサキュバス・ララーシュカ嬢はなかなかによろしい。

あとがきで、中堅サークル同人誌のゲスト対談みたいなノリかましている作者二人は、

ヴァンパイアロードのギルバルス君がお気に入りらしいですが。

 

ああ、主人公の王子様はフリンと言いますデス、よろしくデス。

 

……正直この作品について言えば、そういうコトは二の次。

なんなら全部忘れてもよろしいのデスよ。

この作品の魅力は、全篇随所に溢れる、『特攻(ぶっこみ)の拓』テイストなのですから。

 

 

 

なにせ、この世界の冒険者は、絶対全員暴走族(ゾク)上がり。

 

『「ナンだと……こら?」

「誰が誰に生かしてもらってるってぇ? 喧嘩してのか、おん?」

「暴れてえなら、監獄亭(ジェイルハウス)が喧嘩ァ買うぜ……?」

「ナニ? 喧嘩しちゃうか? 死んじゃうか? ネェ……?」』

                    (上巻71ページ)

 

『「今のは凄(スゲ)かったな、少年!?

 ぽんとその肩を叩き、アラーシャが片目をつぶった。フリンとそう違わない長身である。

「一対一でやるなんて目立っちゃうぞ、このタイマン小僧(コゾー)!」』

                    (上巻129ページ)

 

『「聞いたかよ!?、地下三階(チカサン)でだってよ? もう、あいつらマジ、グシャグシャだって」

「おれの完全鎧(フルプレート)、ベルトの反応悪くってよォ……。誰か予備の持ってねえ?」

「ちっくしょお……。あのハナクソ野郎(ヤロー)、絶対(ぜってー)コナゴナにしてやんからよ!?

「ナンつったて侍(サムライ)だよな。それっかネーんだ、俺……」』

                    (上巻177ページ)

 

……佐木飛朗斗センセイ以外に、

語尾に「おん?」とか、「凄(スゲ)かった」とか、「タイマン小僧(コゾー)!」とか

いうコトバを使う作家さんがこの世にいるとは驚きです。

 

「完全鎧のベルトの反応」って、この世界のフルプレートには単車の部品でも組み込まれているんでしょうか。

……私は、この冒険者たちがたむろってる酒場について、どう考えても深夜のファミレスか、

一般客が寄り付かない地下喫茶店しかイメージが沸きません。

 

きっとこの人たち、ダンジョンに潜るときに特攻服に鉄パイプ持っていくに違いありませんね。

ボルトつきの鉄パイプは+1です。でも兜(ヘルメット)は被らないからAC高いだろうな。

隣国と戦争など起ころうものなら、騎士団長は「今すぐ俺のZU(ゼッツー)持って来い!!」って一年坊、

いや、小姓にブチ切れながら命令するものと思ってよろしいでしょう。

謀略戦でも密偵への指示は「そいつ、拉致って俺の目の前に連れて来い!!」とか。

 

 

まあ、そういう会話も無理無いところでして、

実はこの世界、グレーターデーモンもヴァンパイアロードも暴走族(ゾク)出身で、

素手のタイマンで勝負を決めることになっています。

 

『「次はてめえを轢()き肉にしてやる……! インダール!」』

                    (上巻143ページ)

 

『「いーんだぜ、おれはテメーとタイマン張ってもよ!?

 右足が音を立てて前へと出、右の拳をぐっと握りしめる。

 ギルバルスの右眼が、ギンと音を立てそうなほどにぎらついた。

  眼を切ったのである。気合の入った眼であった。

「魔族いつでも上等(ジョートー)だからよォ……!」』

                                  (中巻216ページ)

 

『「ほう、いきなり拳で脳天を殴りにくる……。本気だな」

拳が疾(はし)り抜けていった時に触れたインダ−ルの髪が、こげ臭い嫌な臭いを放つ。

「あったりめえよ! おれはジャンケンでだって最初にグーを出すぜ!? 気合の拳(コブシ)よ!」』

                   (下巻202ページ)

 

『「へへっ、どうやら凶運(ハードラック)と踊っちまったようだぜ」』

                   (下巻204ページ)

 

地上での覇権を賭けた暗黒の君主二人の暗闘は、武器も魔法も使いません。

“アタマ”同士、正々堂々、素手のタイマンでケリをつけます。

格闘技経験もへったくれもないのです。

こいつらは「インパクトの瞬間に拳を握り締めて破壊力を増す」ようなスポーツの女々しいテクニックなど使ってません。

「気合のノッた硬いコブシが一番強ぇーんだよ」的ド突き合いに終始してます。

 

文中一言の説明もありませんが、おそらくティルトウェイトやマダルトといった呪文は、

このような超高レベル同士の戦いにおいては、暗誦が間に合わないので故意に使わないのでしょう。

コブシと、蹴りと、建物の壁に相手のドタマぶつけるような攻撃こそが、世界最強の武器なのです。

 

ここまで凄い佐木節全開なセリフ群が乗っかっていると、もう正直、他のシーンは霞みまくりです。

はっきり言って「ウィザードリィの」小説としては果てしなくどうでもいいのですが、

『特攻の拓』ファンの人なら新品注文してでも見る価値あるんじゃないかと思います。ぜひ御一読ください。

 

しかし、この作品に関して私の一番の関心ごとは、今も昔も

「このセリフとかって、佐木先生ご公認なんでしょうか?」という点だけです。

3巻併せて12ページ分も載ってるあとがきにも、これについて一言も触れていないので、

伏見先生と野間先生のスタンスを聞きたくてしょうがありません。

 

 

 

ここまで来ると、ラストで出現阻止されたマイルフィックって「魍魎の武丸さん」とかなんじゃないかと思います……。

 (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル



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