<コズミックキューブ 地下2階>
「どうぞ──<ブラッディ・マルグダ>です」
トマトジュースを基調としたカクテルは、
正当なる王位を主張してリルガミンを支配した僭王ダバルプスに挑んだが、
弟を裏切って僭王の妻になったあげく、
最後はその夫と愛憎の果てに心中した<血まみれ王妃>にふさわしい色合いだった。
グラスを置いたバーテンは、どんな物事も完璧にやってのけるが、この種のカクテルについては完璧以上だ。
青い礼服に身を包んだ男──ヴァンパイアロードは。
「しかし、大将、──いつまでここで飲んだくれてるんでさあ?」
ワードナの横で道化服の小男が退屈そうにあくびをした。
悪の大魔術師は、フラックの問いかけに答えなかった。
黙ってグラスの中の<ブラッディ・マルグダ>の紅い水面を見つめる。
地獄の道化師は、頭を振った。
「こんなところに洒落たバーまで作ってまで、まあ」
地下2階の一角は、闇と、その中に光る魔法のともし火との陰影が、
これまた魔法の金属で作られた迷宮によく映え、最高級の夜の雰囲気をかもし出している。
上下の階層をつなぐ魔法のシャフトさえ、調度品のように洒落たデザインに思えてくる。
ワードナが命じ、ヴァンパイアロードがいかなる手段かを用いて即座に作り上げた<バー>だ。
悪の大魔術師は、スツールに腰掛けて、無言のまま身じろぎもしない。
フラックは退屈そうに辺りを見回した。
向こう側の通路にたたずむ影を見て、眉をしかめる。
「どうも、奴さんたちがいると空気が窮屈でしょうがない」
道化師の視線の先にいるのは、巨大な竜と、トーガに身を包んだ四足獣、それに甲冑を纏った聖者だった。
ル´ケブレス。ララ・ムームー。ゲートキーパー。
召喚陣が呼び出せる最強の魔物──というより亜神たちは、闇の入り口で静かに待機していた。
「奴さんたち──いや、あのお歴々が、俺っちより強力な存在と言うのはわかるんでさあ。
でも、まあ高尚過ぎて、どうにも、こっちまで粛々となっちまう。これが息苦しいってやつかねえ?」
フラッグはバーテンに話を振って見せたが、青い礼服の美丈夫は苦笑しただけだった。
たしかに、不死者の王ヴァンパイヤロードに、呼吸についてあれこれ問うのは愚の骨頂だ。
──そこが道化師の真骨頂でもある。
ワードナは、古くからの下僕たちの会話(もっとも喋っているのはフラックだけだったが)に参加せず、グラスを見つめていた。
当然のことながら、血をイメージして作られた紅色のカクテルは、本物の血液を連想させる。
そして、リルガミンにはマルグダよりも、もっと血がふさわしい女王がいた。
<血まみれ王妃>よりもはるかに美しく、はるかに強力で、はるかに血にまみれた生涯を送った女。
──<狂王トレボー>。
悪の大魔術師は、はじめて彼/彼女に会った日の事を思い出した。
──リルガミン王からの召集に答えたのは、気まぐれだった。
先代の王とはそれなりの付き合いもあったし、
研究中の<アミュレット>に関しての援助や相互協力もあった。
新王が、どうやら父親を謀殺したらしい、という裏の噂もそれほど気にならなかった。
むしろ、即位と同時に近隣の反抗的な都市を二つも滅ぼしたやり手の王がどんなものか、
顔を見ておくのも一興だとさえ思った。
リルガミンの新たな支配者は、恐ろしく傲慢で、恐ろしく美しいとも聞いていた。
ただ、その王、トレボーの事を<王>と呼ぶ者もいれば、<女>と呼ぶ者もいることは少し気にかかった。
――トレボーは決して自分の事を<女王>と呼ばせなかったからだ。
結局、<狂王>という呼称に落ち着いたが、そのやりとりは興味深いものとしてワードナの記憶に残った。
(王と呼ばれたがる女か、──面白い)
悪の大魔術師が、だから何度目かの<狂王>からの召集に答えたのは、実際のところまさに興味本位からだった。
「──お前が大魔道師ワードナか」
謁見は最悪のものだった。
多くの戦争奴隷を使い潰して建てられたばかりのリルガミン城<天守閣>最上階は、悪徳の楽園と化していた。
二つの都市から狩り集められた美少年と美少女が、ある者は全裸で、ある者は扇情的な薄布をまとい、
恐怖と魔法薬と快楽に溺れる阿鼻叫喚の図は、まさに背徳の都であったが、
しかし、その主はその美貌のどこにも微笑のひとかけらも浮かべることがなかった。
玉座に腰掛ける不機嫌な王の瞳を、ワードナはまっすぐに睨みつけた。
「跪け、下賎の者」
「断る」
間髪いれずに答えた悪の大魔道士に、トレボーは一瞬言葉を失った。
まわりの奴隷たちが二人の間の空気におびえた表情になったが、遅滞は一瞬で、また主人への奉仕を再開した。
トレボーは全裸で玉座に腰掛け、その巨大な<サックス>を少年と少女が二人ずつでかわるがわる愛撫していた。
「……今、なんと言った?」
数瞬の後、<狂王>は無礼極まりない相手に地の底から湧き上がるような声で質問した。
ワードナは答えもせずに指を鳴らした。
謁見の間の中央に、巨大な玉座が出現した。
トレボーのそれは、金銀宝石で飾られた豪奢なものだったが、
ワードナが生み出した玉座は魔界の金属で作られた飾り気のないものだった。
ほぼ同じ大きさ、おそらくはほぼ同じくらいの価値、しかしどこまでも対照的な玉座に腰掛け、
<狂王>と<魔道王>は無言でにらみ合った。
拮抗を崩したのは、トレボーの股間で奉仕をしていた少女だった。
魔人の間の張り詰めた殺気に耐え切れなくなったのか、
リルガミンに滅ぼされて今はもうない都市で、姫と呼ばれていた少女が嗚咽の声を吐いた。
いったん嗚咽を漏らすと、少女は、声を抑えることもできず、啜り泣きを始めた。
向かい合わせの少女にそれは伝染し、さらに二人の少年にも飛び火した。
「──」
トレボーの目が光った。両手を伸ばし、まず二人の少女の頭を掴んだ。
プラチナブロンドと、漆黒の直ぐい髪が美しい頭が一瞬にして柘榴のごとく握りつぶされた。
目の前1フィートの距離で虐殺を見せられた少年たちが声を上げる前に、
その手が翻って彼らにも同じ運命を与える。
四人の、世にも美しい首なし死体を作成した独裁者は、
まるで「お前のせいだ」といわんばかりに魔術師を睨んだ。
「──たいした握力だ」
ワードナは、髭をしごきながら呟いた。
まるで感情がこめられていない声に、<狂王>は目を眇めた。
<狂王>が何を考えたのかは分からないが、結局、その場はそれで済んだ。
どころか、トレボーはワードナを歓待する胸を付け加え、宴席すら張った。
隣国の大使の首を、謁見するや否や跳ね飛ばして城門に飾った王にしては、あまりにも珍しい対応だった。
もっとも歓待の宴に<狂王>は出ることはなく、
その高官(これも短期間で粛清による入れ替わりが激しい)たちと
もっぱら酌婦によって歓迎が成り立っていたが。
芸術性と淫らさを両立させた異国風の踊りを披露した踊り子は、
一流の酌婦であり、しかも超一流の公娼でもあるようだった。
夜がふけると、当然のように客人の寝台にもぐりこんできた酌婦を、魔術師は拒むことはなかった。
乳腺と筋肉と脂肪がたっぷりと女の重量感を生み出している乳房。
蜂の化身のごとく引き締まった腰。
男をひきつけ、子を産むための女の甘い肉がみっしり詰まっている臀。
踊りと性交のために特化した肉体を作るために、女は何年間美を磨き続けなければならなかったのだろうか。
酌婦は、それを、惜しげもなく客人に捧げた。
<狂王>の客人は、それをぞんざいに扱った。
大きく引き締まった臀を背後から責めながら、老魔術師は息一つ切らせていない。
「ああ──もうっ……」
豪奢なベッドの上で、若さと成熟とが交わる妙齢の女は小動物のように震えた。
「こんな、こんな……」
魔道士が普通の人間でないことは覚悟していた。
魔と闇を操る人間は、常人の考えも及ばない快楽の術にも長けていると聞いている。
しかし、これほどとは──。
<魔道王>は淫魔も呼び出さなかったし、妖しげな魔法薬を取り出すこともなかった。
しかし、娼婦が驚愕するほどにその交わりは巧みだった。
主──トレボーの気まぐれで、十人の男娼と同時に交わらされたこともある。
同じ数の低級淫魔にもてあそばれたこともある。
しかし、こんな快楽は初めてだった。
「ふん、──合格といったところか?」
四つん這いの女体を責める老人がひどく乾いた声を上げたことに気付き、踊り子は愕然とした。
「──ふん。どうかな」
ワードナの声に、同じくらい乾ききった、だがこちらはどこまでも美しい女の声が応じた。
客室のドアが開き、鎧を身にまとった女が一人で入ってきた。
「きょ、<狂王>陛下……」
公娼は、悲鳴寸前の声を上げた。
命じられた仕事を行っているとはいえ、慈悲のかけらもない主人を身近にした奉公人が抱く恐怖心だ。
トレボーは耳障りな音を立てた相手をじろりと睨んだ。
ワードナが僅かに身をゆすった。
「あっ!?」
公娼はかすれた声をあげてのけぞった。
性器──否、全身から襲い掛かる快楽の波は、<狂王>への恐怖すら束の間忘れさせた。
「──ほう」
トレボーは驚いたようにそれを見つめた。
「やりおる。さすが、魔道王──の人形」
「──得体の知れぬ女を抱く趣味はなくてな」
今度の声は、部屋の片隅から聞こえた。
トレボーと公娼の視線の先に、机の上の魔道書にしおりを挟み、閉じるところだった老魔術師がいた。
「?!」
背後の魔術師が、老木でできた木偶人形と化した瞬間、公娼はバネ仕掛けの人形のように飛び上がった。
どこをとってもセックスのための肉しかないはずの身体が、重さを感じさせぬ動きで天上に張り付いた。
一瞬の後、疾風よりも速く、それは落下した。──トレボーの頭上に。
「──ふん」
自分の使用人──奴隷が暗殺者と化して飛び掛ってくる姿に対して、
リルガミンの独裁者は一瞥も与えなかった。
机に向かうワードナをまっすぐに見据えたままで、
女忍者の繰り出したクナイの一撃を手首ごと掴んで受け止める。
わずかに力をこめるだけで、暗殺者の骨は折れた──どころか粉々に砕け散った。
いかなる治療法をもってしても二度と使い物になるまい。
もっとも、次の瞬間に女忍者の頚骨も同じように粉微塵となっていたから、その心配は全く不要であったが。
「──いつから気付いていた?」
公娼が暗殺者であることを、だ。
「貴様は、いつからだ?」
<狂王>の質問に、質問で返す者は、この大魔術師しかいないであろう。
「──最初からだ。我は、何者も信用せん。数年前、どころか数十年も前、この女が生まれる前から
リルガミンに隣国のスパイが送り込まれ暗殺者として育てられていたとしても驚くべきことではないわ」
「少しは利口なようだが、──まだまだだ」
ワードナの視線が暗殺者の死体に注がれていることに気がつき、トレボーはすらりと美しい眉根を寄せた。
次の瞬間、驚くべき瞬発力を発揮して、死体から飛び離れた。
妖艶この上ない死体が、爆ぜるようにして新たな血しぶきを上げたのはまさにその次の瞬間だった。
「ほう、妖虫か。古風な手を使う」
女忍者の胎内から青黒い触手がと奇怪な節足が何本も生えてきたことを見取って、ワードナは冷笑を浮かべた。
剣の柄に手をかけて身構えるトレボーのほうは見向きもしない。
どころか、異界の妖虫のこともその瞳は移していなかった。
「田舎魔術師が。──疾く、去ね。地獄へ」
攻撃のための呪文を唱えることすらせず、<魔道王>は手を振った。
妖虫の動きがぴたりとやみ、どこかの闇の中で女の苦鳴と恐怖の声があがった──ように聞こえた。
「む、女だったか」
術者と同様に命を失った虫の死骸を見下ろし、ワードナは一人ごちた。
相手の実力は完璧に分析していたが、男か女かまでは考えもしなかった。
女だからどうする、という気は全くなかったが。
「やるな……」
トレボーの声には、感嘆の様子は含まれていなかった。
だが、ワードナは振り返った。
──何かに気がついたごとく。
声は無関心を装う事に完璧に成功していたが、その目は本心を隠すことができなかった。
薄暗がりでぎらぎらと輝く蒼い瞳を客人に向け、<狂王>はあくまでも気のないそぶりで誘いの言葉を口にした。
「我の寝室へ──とは言わぬ。しばらく<天守閣>にでもつきあわぬか?」
意外な言葉に、<魔道王>はちょっと考え込み、驚くべきことに頷いた。
夜更けの風は冷たく、爽やかだった。
今ばかりは血なまぐさい支配者の君臨する都にも、涼しげな空気が流れている。
たとえ、夜明けとともに、今、目の前の女の号令で地上の地獄が再開するとしても。
<天守閣>上層のテラスで、トレボーは長らく無言だった。
「──貴様は、どういう人間なのだ?」
やがて、半陰陽の独裁者が口を開いた。
「知らんな。貴様が勝手に判断するがいい。──貴様に同じ質問をしたとして、どう答える気だ?」
「……今の貴様のように返答するだろう」
<狂王>は、<魔道王>を睨みつけながら答えた。
忌々しげな表情は、生意気な魔術師ではなく、おろかな質問をした自分へのものだった。
美貌の独裁者は、また外へ、リルガミンの街へと視線をそらした。
「我は……異形の者だ」
静かな声は、今までのものとはまったく異質の響きを持っていた。
「我は生まれつき、男と、女の両方の生命を持っている」
先ほど謁見室でさらしていた全裸を見るまでもなく、
<狂王>は、完璧な乙女の身体に禍々しいまでの男根を備えていた。
その力も、人の身でありながら、巨人族をもしのぐ怪力であり、
その頭脳は、どんな軍師よりも勝っている。
人間と言う種の持つ、極限の能力を備えて生まれてくる者──天才は数多かれど、
ここまで多くの、しかも強力で異質な力を同時に兼ねそろえた人間は、
天才ではなく「異形」と呼ばれる。
トレボーは、まさにそうした人間であった。
「そして、お前も、そうした異形の人間ではないのか、<魔道王>よ?」
そろり、と試すように投げかけられた質問に、ワードナは答えなかった。
また、長い沈黙が降りた。
風が強くなったことに気付いたワードナは、
先ほどの<狂王>のようにリルガミンを見下ろし、視線を戻した。
そして、トレボーが、じっとこちらを見つめ続けていたことに気がついた。
「──どうやら、我は貴様を気に入ったらしい」
そうした言葉を吐くのが、<狂王>にとって初めての経験であることは、誰の目にも明らかだったことだろう。
トレボーの頬には、いつもの驕慢な嘲笑ではなく、はにかみを抑えるための不機嫌さでいっぱいだった。
「我とともに歩まぬか、ワードナ?」
「わしとともに何処へ行こう、と言うのだ?」
ワードナは、トレボーの変貌に戸惑いながら言った。
質問を質問で返すのは、挑発の場合のほかに、こうした対処しづらい状況を切り抜ける場合もある。
「まずは、世界征服だ」
あまりに古典的な答えに、<魔道王>は声を上げて笑った。
それには失望も多分に含まれていた。
「おろかな答えだな、傲慢な君主よ。どれだけの王がその陳腐な野望を抱いたと思う?」
「我以外の者はそれを実行する力がなかった。ゆえに、ただの妄想で終わった」
あくまでも驕慢に言い切ったことばに含まれる事実を悟って、ワードナの嘲笑が止まった。
この神にも等しい天才君主ならば、あるいはエセルナート全土の征服もあるいは不可能でないかも知れない。
「だが、真の目的は、それではないぞ、ワードナ」
トレボーは、静かにことばを続けた。
「世界をこの手にした後は、――すべての人間を殺し尽くす」
<狂王>の宣言に、<魔道王>は目をむいた。
「我は長らく、人間の下劣さ、弱さに飽いてきた。
全てを支配し、全てを殺し尽くす事を考えてきた。
──だがその一歩を踏み出せなんだ。
愚かしいことに、我一人が生き残る事を恐れていたのかも知れん。
その気になれば、我一人で子供を作ることすらできる<完全な人間>であるというのに。
……それは我の中の男と女の比率が等しくなく、女が圧倒的に強いということも理由かも知れん。
おそらく、我がこの歳まで「女」として性交をしたこともなく、
<サックス>の快楽のみを追及したのも、そのせいだ」
淡々とした告白は続いた。
「……しかし、今日、我は貴様を知った。
我と同じくらいに異形の魂を持つ闇の王を。
しかも、おあつらえ向きに貴様は「男」だ。
我とともに歩むことに何の問題もない。
ああ、ワードナよ、全ての人間を殺し尽くした後、
「男」の貴様と、「女」の我が一人ずつ残る。
……素晴らしいとは思わんか?」
<魔道王>は、異形の女王のことばに、沈黙を続けた。
トレボーはかまわず、身のうちの欲望を舌に乗せて声にした。
「女を殺し尽くそう、ワードナよ、トレボーのために。
貴様の抱く女は我ひとりでよい。
男を殺し尽くそう、トレボーよ、ワードナのために。
我を抱く男は貴様ひとりでよい。
全てが終わったら、我はこの<サックス>を切り落として貴様に捧げ、
他に生きるもののない荒野で貴様の花嫁になろう」
曙光の中での告白を終えると、<狂王>は微笑を浮かべた。
生まれて初めて自分と同格の相手を得た少女の微笑みは、天使よりも邪気のないものだった。
ワードナは無言でその場を去り、そしてリルガミンの地下に篭城した。
自分を拒絶した<魔道王>に対して、トレボーは激怒した。
世界征服の手を休めてまで突如として創造された地下迷宮への攻撃を行い、
それがうまくいかないと見て取るや、ワードナの首に懸賞をかけた。
多くの冒険者たちが集まり、リルガミンはいつしか世界征服の王の拠点ではなく、冒険者の都となった。
迷宮で流れた多くの血は、どこまでも紅かった。
そう、今飲んでいる<ブラッディ・マルグダ>よりも、紅い。
ふと、ワードナは視線を上げた。
バーテン──ヴァンパイアロードが、黒大理石のテーブルの上に、
何かを滑らすようにして差し出してきたのに気がついたからだ。
「どうぞ。お探しのものが見つかったようです」
木の箱に入った、古びた骨──聖遺物を見て、追憶に霞んでいた悪の大魔術師の顔がしゃんとなった。
食い入るようにそれを見つめるワードナの視界で、
二人の女の笑顔が浮かび、――やがて片方だけが残った。
「……旦那?」
フラックが声をかけようとして、言葉を飲み込んだ。
ワードナは片手を振って三人の亜神を異界へ還すところだった。
代わりに、新たな三体の魔物を呼び出す。
──グレーターデーモン、マイルフィック、ドラゴン。
ル´ケブレスたちよりははるかに弱い魔物に過ぎないが、彼らを呼び出した真意はバーテンと道化師にはすぐに通じた。
「──行くぞ」
どこへ、何をしに?、とはフラックは聞かなかった。
代わりにスナップを聞かせて指をぱちんとさせた。
「そうこなくっちゃ!」
魔女は、うろうろと薄闇の中をさまよっていた。
足取りはしっかりとしているが、時々立ち止まってはあたりを見渡したり考え込んだりする姿は、この女には珍しい。
「……探し物は、みつからない」
歌うように呟く声を聞く限り、それほど深刻そうな様子ではなかった。
「<あれ>が見つからないとなると、手持ちの武器は、この<魔女の杖>と少々の術式。
それに──この胸に溢れるばかりに貰った、わが殿からの愛」
目をつぶって豊かな胸元に手を当てた魔女は、闇の中で微笑を浮かべた。
夫にたっぷりと愛されているという、ゆるぎない確信を持っている若妻の微笑だった。
……だが、目を見開いてその後に続けた言葉を聞いたものがいれば、魔神でさえも戦慄を覚えたであろう。
「それさえあれば世界の全てを敵に回してお釣りが来るけど、今回の相手には勝算が薄いわね」
ふと、魔女は立ち止まった。
柳眉をしかめて、正面の闇を見つめる。
「あらら、ずいぶんと早いご到着で──」
のんびりとした声に、地の底から響くような声が答えた。
「見つけたぞ、我が宿敵。──ワードナの首をはねる前に、貴様との決着を、つける」
闇の中から現れたのは、黄金の巻き毛を揺らめかす美女だった。
銀に光る装備──<コッズ・アイテム>に身を固め、黒い大剣を手にした地獄からの使者を前にして、
魔女はわずかな動揺も見せなかったが、しかし、トレボーの剣には注目した。
「<裏オーディンソード>。……なるほど<私>が斬られたのも無理はないわね」
「──妖刀村正の中に、さらに呪われ、さらに強力な<裏村正>があるように、
聖剣オーディンソードにも、呪われ、さらに強力な一振りがあった」
「噂には聞いていたけど、実在するとは思っていなかったわ」
「……むう」
<狂王>は不審げに眉間にしわを寄せた。
「……?」
魔女は柳のような眉をわずかに上げ、不思議そうな表情を作った。
「──貴様、本当にあの女と同一人物か?」
トレボーが言う「あの女」とは、地下4階の魔女のことに違いない。
「もちろん。どうして?」
「あの女はこの剣のことを予測していたどころか、対策まで考えていたぞ。──おかげで手間取った」
「まあ、さすが<私>」
魔女は涼やかに笑った。
「貴様は、予想もせなんだか」
「うーん」
法衣姿の美女はこめかみに手を当てた。
同性すらどきりとするような仕草だった。
「……まあ、私のほうがあっちより若い──はず、だから。色々と違うのよ」
同一人物か、別人なのかは、当人たちしか知りえぬ事情があるのだろう。
そういえば、魔女は、自分=地下4階の魔女が敗れて首をはねられたことについて一言も触れない。
「小娘が物知らずなのは、年長者の余裕で我慢してね。──百年ぶりに目覚めたおばあさん」
ころころと笑って続けた魔女に、トレボーの瞳が怒りに燃え上がった。
「なるほど、別人らしいな。──あの女は敬意に値する敵だったが、貴様は違う。
あの女は斃すまでに半日もかかり、我も敗れる可能性すらあったが、貴様は──」
「長くても半刻といったところかしら?」
怒りの塊のような<狂王>の言葉を、タイミングだけですっとさえぎる。
──挑発に関しては神業だ。
夫の好みに合わせてどんどん自分を変えてきた女は、
敵に対しては無慈悲で冷酷なままだ──むしろそれが増してさえいる。
魔女がトレボーの背後を凝視ながら言葉を発したことに気づき、トレボーは嘲笑を浮かべた。
「……気になるか、<ソフトーク・オールスターズ−1>が?
貴様の分身は歯牙にも掛けなんだぞ?」
たしかに地下4階の魔女は、トレボーが舌を巻くほど強力で狡猾な魔術師だった。
最強の冒険者たちでさえ、たとえ主君から傍観を命じられなかったとしても、
あの戦いに割って入ることは不可能だったろう。
しわがれ声の美女は「その他大勢」を傲然と無視し、冒険者たちもまったく動けなかった。
しかし、目の前の魔女は、彼らの存在が気になるらしい。
冒険者たちもそれを感じ取ってフォーメーションを組んで対峙する。
相手の技量を軽視してはいないが、歴戦の戦士たちに、
目の前の女と同一人物にすくみあがった面影は微塵も無い。
魔女と地下4階の魔女との差──雰囲気あるいは人間的迫力の差というべきものか。
「──そこの人たちは、やっぱり、いないほうがいいわよね」
魔女が動いた。
すっと片手を上げた瞬間、<ソフトーク・オールスターズ−1>の前に青い光が走る。
「テレポーター!?」
シーフのモラディンが驚愕の声を上げた。
高レベルの冒険者にとって、迷宮の中でもっとも恐ろしいのは呪文攻撃でもドレイン攻撃でもない。
それらは魔法の品々で防ぐことが可能であるからだ。
だが、宝箱に仕掛けられたトラップ……その中でもテレポーターは発動してしまえば防ぎようが無い。
それゆえにもっとも厄介な、恐ろしいものとされている。
だが、時間を掛けて準備し、巧緻な発動体を仕込むことができるトラップと違い、
呪文によってその効果を生み出すことは不可能と言われる。
味方に掛ける<マラー>の呪文と違い、転移を望まぬ敵を、無理やり転送するのはそれほどに難しい。
かろうじて、ある種族のモンスターを消し去る呪文や、城の決められた一区画へ送還する術式など、
不完全なテレポートのみが可能とされている。
だが、魔女が無造作にかけた呪文は、――まったくテレポーターと同一の効果を挙げていた。
「はい、行き先は石の中──ではなくて、地上にしておいたわ、安心なさいな」
魔女はにっこりと笑って、光に包まれて転送される冒険者に軽く手を振った。
本物のテレポーターでさえも座標は指定できないのに、
その気になればこの女は<消滅>よりも確実な滅びを自分達に与えることができた。
──そのことを悟って冒険者達が戦慄した瞬間、彼らは地上へと転送された。
「……」
もはやあたりに他の人影はなく、ただ<狂王>と魔女だけが静かに対峙していた。
「なにか? 不思議そうな顔をしているけど?」
トレボーは無言で魔女をにらみつけている。
「──<コズミックキューブ>は<マラー>の呪文を通さないわ。
あの五人が戻ってくるためには自分の足を使うしかない。
最短距離を最速で来るとしても半刻はかかるわ。
貴女と決着をつけるにはたぶんそれくらいで良い、はずよ」
「……わからぬな。それほどの力を持ちながら、貴様は何故あやつら如きを恐れた?
それに、たやすく殺せるのに何ゆえ殺さなんだ?」
「恐れてはいないわ。なぜ転送したのかは──そのうち判るわ」
魔女はにっこりと笑い、風を巻いて跳躍した。
トレボーは驚愕した。
まさか、魔術師であるこの女が最強の君主である自分の懐に飛び込んでくるとは!
一瞬反応が遅れたが、かろうじて黒の大剣が間に合った。
火花が散り、魔女の杖が妨げられる。
だが、魔力と加速がついた杖の運動エネルギーはそれだけでは止まらなかった。
ガッ。
トレボーの頭上でいやな音がした。
「おお……」
<コッズ・ヘルム>と金の豪奢な巻き毛の下から、血がひと筋、眉間を流れた。額が僅かに割れたのだ。
「あら、残念。初手で貴女の頭蓋を割ることができたら最高だったのに」
魔女は冷たい微笑を浮かべた。
──彼女の夫は生涯見ることがないであろう、この女のもう一つの笑顔。
トレボーは無言で大剣を振るった。
至近距離だが、この異形の女王の技量ならば、相手を真っ二つにすることも容易い。
しかし、トレボーが全くの不意を疲れた一撃を最小のダメージで防いだと同様に、魔女も<狂王>の一撃を避けていた。
ふわりと飛び下がる法衣は、しかし、次の瞬間、胸元を大きく切り裂かれていた。
「さすが──」
傷は負っていないが、肩からみぞおちの辺りまでの斬撃は、
わずかでも避け損なっていたら致命的な一撃であったことを物語っていた。
「決着まで半刻──嘘はないようだな。」
自分が尊敬の念さえ抱いた地下4階の魔女とはほとんど別人格だが、
今対峙している女が同等以上の実力を持っていることをトレボーは素直に認めた。
魔女がこれほどの覚悟で全力でぶつかってくれば、それくらいの時間で──どちらかが死ぬ。
「……む」
改めて覚悟を固めた悪の大君主が、魔女を睨みつけようとして、言葉を失った。
「何? ──あ……」
魔女は自分の体を省みて、<狂王>の視線の意味を悟った。
先ほどの斬撃で、魔女の法衣は切り裂かれ、そこから下着がのぞいていた。
見た者全てが息を呑むような美貌──清楚さと妖艶さを兼ねそろえた女にふさわしからぬ一品。
絶世の美女と何の変哲もない地味一辺倒の下着の組み合わせには、
怒り狂ったトレボーすら一瞬唖然とするものがあった。
「──随分と、無様な格好だな……」
「そう? 暖かいし、肩が凝らなくていいのよ、これ」
色合いどころか、デザインもあまりにも野暮ったい。
コルセットこそしていなかったが、法衣からのぞく下着は、魔女の大きな乳房をすっぽりと覆っている。
肩紐も幅広く、がっちりと上半身を固めているような下着だった。確かに保守的この上ない。
むろん、布越しですら息を呑むような美しさと色気が漂っていたが、
妖魔の女王もかくやと思われる美貌と、<狂王>が戦慄する実力を持つ魔女のものとしては違和感がないでもない。
この女は、法衣の下に、見た男全てがその場で射精してしまうような下着を身につけている、
──そんなイメージを、トレボーは漠然と抱いていた。この女の美貌に接したときから。
「──ちなみに、下の方は、おへそまであるやつよ。お尻もすっぽり」
妙齢の女同士の会話としては、ある意味敗北宣言に近いセリフを魔女はためらいもせず口にした。
毒気を抜かれた風に、トレボーが魔女を見つめる。
魂さえ掛けて悔いぬ決戦であったが、突き詰めれば、
そこには一人の男を奪い合う(たとえ殺すつもりであっても、だ)
という女としての戦いの要素が色濃く流れていたはずではなかったのか。
魔女は、そうした戦いは放棄しているのだろうか。
──だが、魔女は、恋敵の複雑そうな表情を見て笑った。
あでやかに、意地悪に。
「──お馬鹿さん。主婦が一人でお出かけするのに勝負下着なんか着るものですか。一体誰に見せるというの?」
「!!」
「私が凝った下着を着るのは、わが殿といっしょのベッドに入り込むときだけでいいの。
それ以外のときは、こういうもので十分。
わが殿が大好きな、私のおっぱいとお尻──それを守ることが最優先。
──それに、女はお腹を冷やさないほうがいいのよ。
特にこれから妊娠する予定の既婚者は、子宮を大切にしなきゃ」
魔女は胸を張った。
「夫の昔の恋人」に対して、傲慢この上ない妻の言葉だった。
(女としての戦いにはもう勝負がついている。今更同じ高さに下って争う必要を認めない)
トレボーが抱いた一瞬の勝利の幻想を粉みじんに打ち砕く、冷酷な嘲笑だった。
<狂王>はわなわなと震えた。
これほどまでの侮辱を受けたのは──ワードナに求婚を拒否された時以来だ。
「殺す──前に犯し尽くしてくれるわ、魔女め」
「それはご遠慮していただきたいわ。──私、夫がおりますもの」
普通の返事が、もはや相手の精神にやすりを掛ける挑発の言葉になっていることを、魔女は十分自覚している。
トレボーは無言で篭手を外した。兜も、鎧も。
宿敵が身を守る<コッズ・アイテム>を脱ぎ去るのを、魔女は黙って、見つめた。
やがて、異形の女王の完璧な裸体が現れた。
股間の<サックス>は怒張しきっている。
人生最大の怒りと憎しみに加えて、地味な下着とはいえ、
絶世の美女の半裸を前に、欲情が男根を熱くたぎらせていた。
「我が<サックス>の餌食としてくれるわ、あばずれめ。
──突き刺し、引き裂き、喰らい尽くしてやる」
「女の勝負はあきらめたの? 賢明ね。
──でも男としても中途半端。そのお粗末なもので何をしようと言うのかしら?」
魔女は鼻先で笑った。
トレボーは、ほとんど茫然自失になるまでの怒りに目をむいた。
史上最悪の暴君として、あらゆる罵りの言葉を受けてきた女だ。
しかし、これだけは経験がない。──この<サックス>をお粗末と言われることは。
「あら、失礼。殿方はお持ち物をあれこれ言われるのが一番失礼だったわね。
──でも私が知っているたった一本は、貴女のご自慢のものよりずーっと素晴らしいもの」
魔女は先ほど<狂王>を撲殺し損ねた<魔女の杖>を握りなおした。
見る間に木の棒が形状を変えていく。
トレボーの異形の男根より、大きさは小ぶりで、形も通常の範囲内だが、
一般的なものから考えればたしかに見事な逸品だ。
「……それが、あやつの男根か」
<狂王>は、はじめて見る「それ」の正体を看破した。
「そうよ。だけどこれはそれを型取ったただのおもちゃ。──貴女を地獄に返すにはこれで十分」
「面白い。──我が得意とするものが殺戮だけと思ったか」
魔女の意図を悟って、トレボーが大剣までも捨てた。
「──本当は、女性がお相手と言うのも好きじゃないのだけど」
魔女は夫の男根を擬した木の棒に口付けしながら呟いた。
本音を言えば、男も女も人も人外も、
夫以外の存在はジャガイモかカボチャと同類項、と笑わない瞳が雄弁に語っている。
「でも、まあ同性が相手なら、ぎりぎり不貞にはならない──かしら?
この女を滅ぼす非常手段と言うことで許してもらいましょう。
もちろん、わが殿には今晩うーんと埋め合わせすることとして」
「我を女と呼ぶな! この<サックス>に掛けて、我は──」
「まだまだ未熟な可愛い女の子よ。そうね、恋に恋するお年頃。
いらっしゃい、お姉さんが大人の愛を少しだけ教えてあげる。
──それを知ったら、地獄にお帰りなさい」
魔女は愛おしげに舐めあげた男根にかぐわしい息を吹きかけた。
<魔女の杖>で作られたワードナの男根が、複雑な術式と魔力を蓄え、生身のごとく脈打つ。
力強い脈動を手の平に感じた魔女は、それを持ち上げてうっとりと頬ずりした。
「……この男根でいかされたら、貴女はその場でこの物質界からさようなら、よ。亡霊さん」
「面白い。では我の<サックス>で貴様を貫いたら──」
「それは完全な不貞行為になるわね。どんな形であっても夫を裏切ったことになる以上、私は自害しますわ」
水のように静かな表情で凄まじい誓約を口にした魔女に、<狂王>が息を呑んだ。
この女が宣言した以上、それは嘘ではありえないことをトレボーはどんな宣誓よりも確実と悟った。
「それは──貴様のほうが不利ではないのか?」
「それくらいのハンディキャップはあげなければならないでしょうね、予定していた物が欠けている以上は。
そうでもしないと、貴女を斃すほどの魔力を埋め合わせできないわ」
宿敵との邂逅までに探していた<あれ>が見つからなかったことが、影響を及ぼしているのか。
「なるほど、我の知らぬところでルールは公平と言うわけか。──ならば容赦はせん」
全裸の乙女は、半裸の若妻に飛び掛った。
そして、世にも妖しく美しい魔人同士の戦いが始まった。
<ソフトーク・オールスターズ−1>は闇の中を走っていた。
魔女の手で地上に飛ばされた後、すぐに地下4階に<マラー>の呪文でテレポートした。
「──地下4階のあの女ならともかく、先ほどの魔女ならばどこかに我らが付け入る隙もあろう」
それがどれほど間違った認識であるかを、彼らは知らない。
表面上はどこか甘く柔らかな雰囲気の若妻を相手に、今彼らの主君が地下4階の魔女を相手にした時以上の
戦慄と畏敬を以って対峙しているところだ、ということも。
おそらくは、先刻彼らを決戦場から追い払った真の理由とともに、彼らには想像もつくまい。
「この速度なら、二人の戦いが終わるまでに十分間に合う。我らの一手が<狂王>陛下の勝利を呼び込む!」
その傲慢な勘違いの発言をさえぎる影があった。
「──いやあ、その前に、俺っちたちの相手をしてくんなよ」
闇からの声に、最強の冒険者たちは愕然として立ち止まった。
「なんだ、あんた達も一人欠員じゃないか。
──ちょうどいい、俺っち達も今ちょうど一人面子が足りないところでさあ」
道化師は、振り返って背後を眺め、くつくつと喉の奥で笑った。
そこは、先ほど彼の主人が大慌てで目的地に走り去っていった通路だった。
「──何しろ、うちの大将、やっと素直になって重い腰をあげたところでね。
あんたらに邪魔させたくないんでさあ。
あっちの痴話喧嘩が終わるまで、同じ<一人欠け>同士、楽しく遊ぼうじゃないか!
……そっちが<オールスターズ−1>なら、こっちも<オールスターズ−1>。
相手に不足はないと思いますぜ?」
言いたい事を言って<地獄の道化師>が下がると、譲られた場所に新たな影が現れた。
青い礼服を完璧に着込んだ美しい男が、進み出て大仰にお辞儀をする。
完璧なまでに古式の礼法にのっとって。
「Welcome to your doom,fool!!
──冒険者達よ。貴様らの相手は、この<B10F・オールスターズ−1>だ!」
マイルフィック。
グレーターデーモン。
ブラックドラゴン。
フラック。
そしてヴァンパイアロード。
かつて<ワードナの迷宮>の最下層で、冒険者たちを恐怖と死の深淵へと突き落とした伝説の魔物たちが、
最強の冒険者たちの前に立ちふさがった。
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