<TO MAKE THE LAST
BATTLE 1 〜 地上>
「――<ダイヤモンドの騎士>の装備が奪われただと!?」
ジークフリード公爵は、部下からの報告に絶句した。
「はい。リルガミン市営博物館は何者かの侵略を受け、壊滅状態です」
「だから、あんな場所に貴重な魔品を置くことに反対したんだ!」
それ見たことか、と言えるような状況ではなかった。
現在、リルガミン城は襲撃を受けて臨戦状態にあった。
姿が見えぬ相手から突然の奇襲に、パイクマンやクロスボーマンなどの正規兵団は一瞬にして壊滅した。
「――その上、<ダイヤモンドの騎士>の装備までもか!」
<コッズ・アイテム>はリルガミンを救った伝説の武具であり、最強の装備でもある。
身に付けただけで一国の軍隊にも匹敵する力を持つ魔品が奪われたということは、恐るべき事態だった。
「一体、誰が……」
市営とはいえ、強力な護衛を置く博物館の最深奥から<コッズ・アイテム>を盗み出した相手は何者であろうか。
城への襲撃と同時にそれが行われたということは、敵は組織だった存在であるようだった。
公爵は歯噛みした。
「……騎士団との連絡は取れたか?」
「――フォルハルシュタン騎士団は、麾下の三分隊とともに全員死亡。月桂樹騎士団も全滅。
ペリカン騎士団は、マスターステファンの死体を確認しました。
蘇生は不可能とのこと。残りの五人は行方不明です」
「男爵たちは?」
「……全員殺されていました。こちらも蘇生不可能なまでに死体が破損されています」
「恐ろしく抜け目のない敵だな」
「四大騎士団のうち、虎の子騎士団は無傷のようですが……」
「あんな子供たちを戦いに投入できるか! かえって足手まといだ、安全なところへ避難させろ!」
「<バラの貴婦人>たちが、現在その対応中です」
「ええい、無事な実力者は、我々と彼女たちだけか」
公爵はいらいらと爪を噛んだ。
「……キャリアドック公は評議会館に向かっているとのことだな。――合流する」
ジークフリード公爵は立ち上がった。部下があわてて反対した。
「外は危険です、閣下!」
「この非常時に、騎士が危険を恐れてどうするというのだ!」
公爵は部下をどなりつけた。腰に帯びた剣をすらりと抜き放つ。
刀身が冷え冷えと冴えわたった逸品――<カシナートの剣>だ。
これさえあれば、竜も悪魔も敵ではない。
<公爵の会議>の六人は、リルガミン最強のロードでもあるのだ。
「護衛はいらん。貴様らはここで他の公爵との連絡を続けろ」
言い捨てた公爵は、館から離れた。
城内の惨状は予想以上であった。
兵士たちが折り重なって倒れ、あちこちで火の手が上がっている。
しかし、この期に及んで敵の姿が見えない、ということが公爵を戦慄させた。
(あるいは、裏切り者がいたのか──)
長い間、王が不在のリルガミンは、公爵の会議を筆頭とする評議会によって治められている。
その体制に不満を持つ貴族たちがいてもおかしくはないだろう。
しかし、よほどの実力者が集まらなければこんな芸当は不可能だし、そいつらが足並みをそろえる理由が分からない。
大義がなければ、クーデタを起こしても失敗することは目に見えているからだ。
あの<僭王ダバルプス>でさえも、王家の血を引くことが支配の大義名分になっていた。
貴族とは、騎士とはそういうものだ。
「……っ!」
ジークフリードは頭の中の疑問を捨てて飛び下がった。
正面、――曲がり角の向こうに誰かがいる。
相手もこちらの気配に気がついたようだ。
公爵は油断なく剣を構えながら、誰何の声をかけた。
「まあ、そこにいるのは、あなたですの?」
返事に、公爵は肩の力を抜いた。
現れたのは、<バラの貴婦人>の一人、ワンダ公爵婦人――彼の妻だった。
青銀の鎧に身を包んだ美女は、夫の姿を確認すると、憂い顔にぱっと喜色を浮かべた。
「ご無事で──」
「そっちも無事だったか。――よかった」
公爵は、彼女が傷を受けている様子がないことを確認して頷いた。
「敵が何者なのかがわからない。君も出会わなかったようだな」
「ええ。敵には会いませんでした。あるのは騎士団や兵士たちの死体ばかり」
公爵婦人は小さく頷いた。
夫の左側、一歩下がった位置について一緒に歩き出す。
右利きの剣士にとって最大の死角を守る形――夫婦は、いつもこうして並んで歩いていた。
むろん、鎧を着ているときだけだが。
「――<ソフトーク・オールスターズ>との連絡も取れませんわ」
「くそっ、あの冒険者たちも行方不明か! せめてホークウインド卿だけでもいてくれれば……」
<生ける伝説>はリルガミンの守護神だ。
何があってもリルガミンに忠実な、最強の忍者。
それまでもが行方不明と言うことは、事態はあまりにも深刻だった。
「どうやら、無事なのは我々公爵と君たち<バラの貴婦人>たちだけらしい」
「……それと<虎の子騎士団>の子供たち」
「そうだ、あの子たちは?」
公爵は、騎士団――というより騎士見習いの一団のことを思い出しながら尋ねた。
リルガミン貴族の次世代を担う少年少女たちの中には、ジークフリード公爵の縁戚にあたる者もいた。
子供のいない夫妻は、彼を我が子のように可愛がっていた。
名門侯爵家の跡取りでなければ養子にしていたところだ。
「アリソンなら無事でしたわ。他の子供たちも。
――今、<貴婦人>たちに連れられて評議会館に向かっています」
「評議会館に?」
「ええ、今の状況で、確実に無事な場所はあそこくらいしか考えられないですから……」
「――それもそうだな。さすが、カディジャール婦人は頭が回る。我々もそこで合流できるだろう」
<バラの貴婦人>の司令官の美女の名を口にすると、ワンダは大きく頷いた。
「あの方に任せておけば、何事も安心ですわ。――きっと、アリソンも」
「我々も、戦いに出ます!」
<虎の子騎士団>隊長のペトリは顔を真っ赤にして叫んだ。
六人の中で唯一、マスターレベルにまで達している最年長の少年としてはもっともな主張だが、
ここまで彼らを護衛してきた<バラの貴婦人>、カディジャール婦人は、首を振った。
「あなたがかなりの使い手であることは認めますよ、ペトリ。
けれども実戦となれば話は別です。
それにあなた以外の者はそれ以上に未熟で、とても戦場に出せはしません」
その指摘は的確だった。
不安げな表情を浮かべる他の五人の騎士見習いは、とても戦士とはいえない子供だ。
「では私一人だけでも──」
ペトリは意気込んでいった。
わずか十六歳にしてマスターの称号を得た少年には、天才剣士としての自負があった。
「だめです。実戦経験がないのはあなたも同じ。
……それに<虎の子騎士団>を率いる責任はどうするのです?」
ぴしゃりと言った婦人に、ペトリは言葉を詰まらせた。
この美しい女ロードの指摘は正しい。
「……それに、あなたたち<虎の子>は、リルガミンの明日を担う人間。軽々しいことはできないのよ」
これも正しい言葉だ。
ペトリを含めて騎士団の人間は、六人の公爵に次ぐ家柄の次期当主である。
とくに、彼のすぐ後ろに並んでいるアリソンとミッチェルの実家は、侯爵位を持つ大貴族だ。
彼らを市内でみすみす戦死させるようなことがあれば、
<公爵の会議>に賛同している彼ら大貴族たちの結束は崩れ去るだろう。
「……」
ペトリは唇を噛んだ。
カディジャール婦人は、優しく微笑んだ。
少年の初々しい気負いは、大人の女性にとっては好ましく見えるものだ。
青銀の鎧を身に付けているとはいえ、婦人の美しさはいささかも失われていない。
華やかなドレスを着て舞踏会に出ているときと変わらぬ美貌に気がつき、ペトリは急にどきどきした。
<騎士の純潔>の誓いにのっとって、若い騎士は年上の女性―貴族の奥方にプラトニックな精神的奉仕を求められる。
今ではすたれた風習だが、古風な少年はひそかにそれを自分の中で実行していた。
相手はもちろんこの奥方――カディジャール婦人である。
彼にとって、年上のこの女性は、まさに女神だった。
ドアが開いて、四人の女ロードたちが入ってきた。
非常時だというのに、それだけで部屋の中がぱっと明るくなったような華やかさ──まさに<バラの貴婦人>だ。
「……階上は?」
カディジャール婦人は部下たちに報告を求めた。
「無事、終了いたしました」
「そう……、その様子じゃ、アクバー公とキャリアドック公は私たちの提案に賛同してくれなかったようね」
「はい。仕方がありません。結局、ヴィセバルド公ら残りの公爵と同じお考えでした」
「あとはジークフリード公だけね。あの方はワンダの旦那様だから、私たちに賛同してくれるといいのですけど……」
<虎の子騎士団>の子供たちは、顔を見合わせた。
今戻ってきた四人の女ロードと、会館の上の階にいる公爵たちとが長らく話し合っていたことはわかっている。
たぶん、これからの戦略についての打ち合わせだっただろうが、
現在、彼らの保護者になっている<バラの貴婦人>とリルガミンの最高指導者である<公爵の会議>が、
今後の方針で対立しているという話は、あまり良い知らせではない。
「……ジーク叔父さんのことでなんかもめているの?」
アリソンは隣の少女にそっと聞いてみた。
「しっ! ――ちゃんと聞いてなかったの? 私の伯父様の話も出ていたのよ」
少女――ミッチェルは、少年をきっとにらみつけた。
この少女は、ほんの少しだけ年齢もレベルもアリソンより低いが、気が強くて口やかましい。
ワンダ叔母さんみたいな素敵なレディになれるかどうかは、とてもあやしい。
黙ってさえいれば、プラチナブロンドの髪が可愛い少女なのだが。
何よりもいちいち彼に突っかかってくるのが、アリソンにとってはどうにも苦手だ。
(こんな子が許婚なんて、やだなあ)
おっとりとしたところがあるアリソンは、いつもそう思っているのだが、周りの大人は婚約解消を許さない。
アリソン少年がジークフリード公爵の甥ならば、ミッチェルはキャリアドック公爵の姪。
どちらの実家も六公爵にも匹敵する裕福な侯爵家で、両家が婚姻すれば公爵級の大貴族がもう一つ増えるとも言われている。
……でも、嫌なものは嫌だ。
「――階上へ行きましょう、子供たち」
カディジャール婦人は四人の部下たちに頷きながら立ち上がった。
リルガミンを統べる公爵との会談に、<虎の子騎士団>の六人は緊張した。
「大丈夫、怖いことは何もないわよ」
<貴婦人>の一人、マーラ伯爵婦人が微笑んで言ったので、男の子たちはどぎまぎした。
ブルネットの美女はひどく色っぽいので、年若の少年たちにとってはちょっと苦手で、すごく憧れな存在だ。
アリソンが婦人の微笑に頬を染めたのを見て、ミッチェルが目を吊り上げた。
普段、彼のことなど眼中にない、と公言しているのに。
侯爵家の跡取り息子は、顔の右側にすさまじい数の見えない針が突き刺さるのを感じた。
ものすごい理不尽な仕打ちだ。
しかし、階段を登り、豪奢なドアをくぐり抜けた瞬間、アリソンはそれを忘れた。
……おそらくは、ミッチェルも。
公爵の会議室――そこには誰もいなかった。血まみれの二つの死体をのぞいて。
「……アクバー評議長!」
「……キャリアドック伯父様!」
ペトリとミッチェルの悲鳴を耳にしながら、アリソンは呆然と立ち尽くした。
「……恐れることはないわ、子供たち」
静かな声が上がった。
カディジャール婦人だ。
「二人の公爵は、リルガミンの新たな……いえ、本来の支配者に忠誠を誓うことを拒みました。
だから、私たち<バラの騎士団>が粛清したの。
リルガミンの王に忠誠を誓うのなら、あなたたちは何も恐れる必要はないわ」
そう言った婦人は、少年たちが知っている人物とはまるで別人のようだった。
清楚で上品な貴婦人の美貌には、いまや妖艶この上ない微笑が浮かんでいる。
他の四人の貴婦人たちにも。
彼女たちが呼吸をするたびに、血なまぐさい空気も忘れるかぐわしい香りが部屋に満ちる。
「――見なさい、あの旗を」
婦人が壁を指さした。そこには、ずたずたに破られた公爵会議の旗の上に、新たな軍旗がかけられていた。
──<狂王トレボー>の軍旗が。
「――伯父様!」
あまりの衝撃に少年たちは立ち尽くしていたが、紅一点の少女は感情を爆発させた。
椅子にもたれかかった死体に駆け寄ろうとするが、ダイアナ公爵婦人にあっさりと腕をつかまれて止められる。
「あら、反逆者に同情するの? よくないわね」
「何が反逆者よ! トレボー王なんて百年も昔の王様じゃない!」
涙にぬれた目で伯爵婦人をにらみながらミッチェルは叫んだ。
「ふふふ、陛下は今まさに復活なされたわよ。王が帰還する以上、すべてのリルガミン貴族はその下僕。
王に忠誠を拒むならば、爵位も生命も剥奪。それが貴族の掟ではなくて?」
「そんな……」
少女はあえいだ。
「納得いかないようね。……まあ、いいわ。
どうせあなたは<ペリカン騎士団>の娘たち同様、陛下のハレムに入るのですもの。
ここで騎士としての忠誠の論議をする必要はないわ。……そこでおとなしくしていなさい」
不気味な宣言をしたダイアナは、彼女の腕を怪我をさせないように注意深くねじり上げ、
壁に打ちこんだ鎖につなぎとめた。
軍旗をかける際に、用意していたらしい。
少女は手足をきつく拘束され、もがくこともままならない。
「……」
アリソンは思わず前に出ようとしたが、<貴婦人>の一人にさえぎられた。
「さて、残りの男の子たち。――貴方たちはリルガミンの正当なる王に忠誠を誓いますか? それとも反逆?」
いたずらっぽく微笑んでクネグナンダ公爵婦人は、アリソンたちを見回した。
「――誓います」
即座にペトリが答えた。
<虎の子>たちは呆然とした。
「だ、団長……?!」
「……ご婦人方の言うとおりだ。リルガミンの騎士である以上、王に忠節を尽くすのが至高の大義」
「その通りよ。――さすが私のペトリ」
カディジャール婦人はにっこりと微笑んだ。
妖艶な微笑を向けられて<虎の子騎士団>の団長は陶然となった。
──何かがおかしい。
──何かが違う。
アリソンは頭の片隅で警鐘が鳴っているのを自覚した。
カディジャール婦人をはじめとする<バラの貴婦人>たちは、今までとはまったく違った人間に思える。
少年たちにとって<貴婦人>たちは、女神のように気高い存在だった。
美と正義の守護女神。
しかし、今の彼女たちは、淫らで妖しい雰囲気に包まれている。
それは激しく官能的で、魅力的だった。
最初、ペトリの返事に驚いた少年たちは、気が付けば口々にトレボー王への忠節の誓いを立てていた。
アリソンは黙っていた。婦人の一人が彼を凝視したが、まだ何も言わなかった。
「……我らはリルガミンの正当なる王に忠誠を誓い、玉座を取り戻す戦いに参加することを誓います」
ペトリが頭をたれて誓言した。
<貴婦人>たちは、もう名門貴族の支持を失う懸念からの反対はしなかった。
しかし、<貴婦人>たちは、彼らが未熟という点はやっぱり譲らなかった。
「そう、うれしいわ。――でも、あなたたちはやっぱり戦場には出られないわ」
「な、何故です!?」
カディジャール婦人はあでやかに笑った。
「――戦いに赴くことが出来るのは、一人前と認められた騎士だけ。<大典範>にそうあるでしょう?」
礼法をまとめた書物は、騎士の生き方を決める絶対的な法則だ。
「そ、それはすでに騎士になっている者から認められることで、新たな一人前の騎士として……」
「では、私たちが認めないから駄目ね、ペトリ君」
クネグナンダ公爵婦人がくすくす笑って返事をした。
ペトリたちはうろたえた。
「……ど、どうすれば僕たちを一人前と認めてくれるんですか?」
竜や悪魔を倒したり、聖遺物の探索によって騎士位を認められた冒険譚を思い出し、<虎の子>たちは不安になった。
「あらあら、そんなに心配しなくてもいいわよ。一人前になる試練は、それほど難しいことではないもの」
「わたしたち<バラの貴婦人>が課す条件はたった一つ……」
「<まだ筆おろしの済んでいない男の子は、一人前の男とみなさない>、それだけよ」
──アリソンは、自分を捕らえていた違和感の正体を悟った。
──<貴婦人>たちは美の女神であることにちがいはない。
──ただし、美と淫楽を司る女神となってしまったのだ。
「そ、そんな、……では、どうすれば」
ペトリがうろたえきった表情で視線をさまよわせた。
生真面目な団長は、まったく打開策が浮かばないらしい。
かえって年下の少年たちが、あることを想像して顔を見合わせた。ごくりと唾を飲み込む。
「まあ、私のペトリったら、本当にお馬鹿さんね」
カディジャール婦人はくすくすと笑った。
笑われたことより、優しく揶揄されたことより、
先ほどから二回も「私の」と呼びかけられたことに少年の頬が染まる。
だが、婦人の次の一言は、頬を染めるくらいで済むものではなかった。
「……童貞の男の子が駄目なら、この場で筆おろしを済ませてしまえば良いのはなくって?
あなたの目の前にいる女にも、ちゃんと性器は付いているのですよ。
──それとも年増女は嫌い? したくない?
私のほうは、あなたに童貞を捨てさせるくらいのことはできる<女>のつもりでいたのですけどね」
ペトリは驚愕に凍りついた。
空気を求めてあえぎながら崇拝の対象だった婦人を見つめる。
「…そ、そんな……。奥方様は、……人妻で…旦那様がいて…私にとって<女性への奉仕>の対象で……」
「<精神的奉仕>の風習より、<大典範>のほうが優先されます。
たとえ不倫を犯しても、騎士なら戦うべきときに戦場に出なくては!!」
混乱して引け腰の<虎の子>団長に、<貴婦人>の領袖はぴしゃりと言い切った。
後ろでクネグナンダ公爵婦人がくすり、と笑う。
――カディジャール婦人は、正確に言うと、今は人妻ではなく未亡人だ。
トレボー王への忠誠を拒んだ夫を、つい先ほどわが手で粛清したのだから──クネグナンダ婦人と同じく。
しかし、お気に入りの少年をより深く篭絡するのに、今はあくまでも人妻のふりをするべきと計算したらしい。
……あるいは婦人は、今回の騒動がおさまれば、この少年と再婚するつもりかもしれない。
もちろん、この男の子たちがいったん王のハレムに入り、
気まぐれな王に責め殺されることなく下がることができたらの話だが。
(――なかなかいい手ね。私も使おうかしら)
先ほど殺した三十も年上の前夫よりも、十歳も年下の少年の方が、ずっと魅力的な伴侶になるだろう。
性技が未熟な分は、自分がたっぷりと教え込めばいい。
「……あなたが私のことをずっと慕っていたのは知っていましたよ。
それは私にとって、女として一番嬉しいことでした」
カディジャール婦人は、アンバー伯爵婦人に鎧を外してもらいながら少年に呼びかけた。
その周りでくすくす笑いながら、他の貴婦人たちも互いの鎧を外していく。
大胆な淑女たちは、当たり前のように鎧下の胴着も脱いで、肌着だけになった。
同じ女性貴族の軍団と言っても、嫁入り前の娘からなる<ペリカン騎士団>とちがい、<バラの貴婦人>は全員既婚者だ。
二十代後半から三十半ばまでの成熟しきった女が五人、
薄布一枚で並ぶ姿を目の前にして、アリソンたちはガチガチに緊張した。
<貴婦人>たちは少年たちの視線をとがめず、むしろ進んでなまめかしい肢体をさらした。
「――私のペトリ。私はいつも心の中であなたをそう呼んでいましたよ。
もしできるなら、あなたを私のものにしたいと思って。
……あなたが、私を想像しながら自慰をしていると知ったときから。ね」
婦人のことばに、ペトリは真っ赤になって立ち尽くした。
指摘は事実だった。
年下の部下たちの前で生き恥をかいた──この場で自害したいくらいの屈辱だ。
しかし、淫らな女神は、意地悪ではあるが、それ以上に優しく恩寵深かった。
「気にすることはないわ、私もあなたのことを想って自慰に耽ったことがありますもの。
それも、あなたと同じくらいの回数を……」
「――!!」
「あなたを一人前の騎士に……いいえ、一人前の男にするのは私の役目。ずっとそう思っていました。
私の夫のことは、今はお忘れなさい。……<精神的奉仕>も、<大典範>も。
その上で、あらためて問います。――ペトリ、私と交わりたいですか?」
「――はい、奥方様……」
ペトリは、霞みきっているが迷いのない瞳で婦人を見上げ、ゆっくりと頷いた。
高潔な騎士になれたはずの少年が、淫らな女神の魅力に堕ちた瞬間だったが、本人だけは気づかなかった。
<虎の子騎士団>団長は、婦人が目で命ずるまま、鎧を脱ぎ始めた。
肌着まで脱ぎすてて、全裸になる。
ペトリの男根はこれ以上にないくらいにそそり立っていた。
「まあ、私を抱きたくてそんなに……。――嬉しいわ、私のペトリ」
自分の美と性的魅力への忠誠心を雄弁に証明している少年に、婦人は優しく微笑んだ。
「さあ、私の下着も脱がせて──」
カディジャール婦人はペトリに命じた。
少年は緊張のあまりぶるぶる震えながら婦人の下着を外した。
もう他の少年たちに見られていることなど意識にない。
性器を包む布きれを下ろすと、むっとするような匂いがあがった。
不快な匂いではない。
成熟しきった雌の、発情した匂い──若い雄にとってはこの上なく蟲惑的な香り。
「あ……」
婦人の性器がすでにしとどに蜜液を吐き出し、下着を脱がす際に糸を引いたことにペトリはごくりと唾を飲んだ。
「ふふ、わかる? もうこんなに濡れてしまっているのよ。――あなたが私に抱かれると言ってくれたから」
ペトリの理性がはじけた。
婦人の許可も得ず、その前にひざまずくと、女性器に顔を近づけてむしゃぶりついた。
カディジャール婦人の性器を舐める──これこそがペトリが心の奥底で最も望んでいた「奉仕」だった。
「ふふふ、おいしい?」
たっぷりと舐めさせた後で、婦人は手を伸ばして夢中で舐め続ける少年の髪をすきながら言った。
「は、はい、とっても」
口のまわりを婦人の蜜液でいっぱいにしながらペトリが答えた。
快楽にたがが外れた天才少年の表情は、今にも泣き出しそうなくらいに感極まっている。
「そう。後で私もたっぷりあなたにしてあげるわ。でも、今は筆おろしを先に済ませたほうがいいわね。
もう我慢できないぐらい苦しいでしょう? ――おいで、私のペトリ」
婦人は豪奢な会議机の上に横たわり、大きく下肢を広げた。
あからさまになった未亡人の秘密の場所を目の当たりにして、爆発寸前の男根がさらに膨張する。
「そう、ここが私の入り口よ。ゆっくり身体を沈めて……男におなりなさい、私のペトリ」
少年を誘導し、しっかりとその先端をくわえ込んでからカディジャール婦人はペトリの頭を抱え込んだ。
「お、奥方様……っ!」
「いいのです、そのままお出しなさい」
ペトリは少女のような泣き声を上げながら激しく射精した。
カディジャール婦人はそのすべてを受け入れた。
「……あちらはお盛んなこと。――さて、他の坊やたちはどうするのかしら?」
繋がったままで再び交わり始めた<貴婦人>団長と<虎の子>団長を横目で見ながら、クネグナンダ公爵婦人が問いかけた。
「……」
少年たちは赤らめた顔を互いに見合わせた。
ペトリとカディジャール婦人の性交は、童貞の少年たちには刺激が強すぎた。
壁に繋がれた仲間の少女や、公爵の死体がもはや気にならないくらいに。
「あの……」
副団長のクリーシャが意を決して声を出した。
「僕も……いいですか?」
「――いいって、何が?」
クネグナンダの微笑が濃くなった。
この婦人はカディジャール婦人と同じくらい美しく淫らだが、意地悪だ。
「その…ふ、筆おろしを、する…のを……」
「あら。坊やは私としたいの?」
「は、はいっ!」
「ふうん。――それはいいけど、何をしたいのか、もっとはっきり言ってもらわないと、よく分からないわね」
公爵婦人はにやにやと笑った。
年下の男に卑猥な言葉を言わせ、自らも口にすることを楽しむのが彼女の性癖だった。
「……その…」
「はっきりおっしゃいな、騎士は言葉を濁さぬものよ。
──『僕は奥方様のおま×こで童貞捨てたいです。
カチカチの包茎ち×ぽを突っ込んで、童貞ザーメンをびゅくびゅくと奥方様の中に出したいです
奥方様が旦那様のいる人妻なのは知ってます。でもどうしても奥方様のおま×こに射精したいです。
騎士の純潔の誓いを破って、神聖なる他人の妻、しかも身分が上の奥方様の子宮に、僕の子種を出させてください』
男らしく、これくらいは言ってもらわないと、ねえ……」
下層民の娼婦が使うような性器の呼称などを織り交ぜて話し、公爵婦人は舌なめずりをした。
クリーシャはそれを何度も表現を変えて復唱させられたが、おかげでその懇願どおりの事をしてもらうことができた。
「――ふふふ、可愛い包茎おち×ぽだこと」
最年少のルーク少年の相手を務めるマーラ伯爵婦人は、クネグナンダ公爵婦人に比べるとずいぶんと優しかった。
キスの後にささやいた卑猥な言葉も、他の少年の耳に聞こえぬように配慮している。
「ほら、こんなに恥垢がいっぱい。女の子に嫌われますよ。――わたくしは全然気にしませんけども」
確かに嫌そうどころか、楽しげな表情で、少年の性器を舐め上げる。
唾液をたっぷり塗りつけてすり上げ、恥垢を丹念にこすり取ってやる。
包皮にたっぷりと唾液が染み渡った事を確認すると、先端をくわえ込んで口の中で皮をむいた。
「あっ……」
小さな痛みとそれをはるかに上回る快感に驚いた少年が腰を引くと、マーラはにっこりと笑った。
「ほら、これで君もお子様を卒業。――まあ、立派なおち×ちんですこと!、すごく素敵!」
最後が大きな声になったのは、他の少年に聞かせるためだ。おかげで最年少の少年はおおいに面目を施した。
一番年下のくせに、立派にむけている。
しかも、伯爵婦人が手放しで褒め称えるほどの一物だ。
「さ、これで<男>になりましょうね。……大丈夫、いくら早くてもいいのよ。
初めてのときはそんなもの。私と交わることにそれだけ興奮している証拠ですもの」
少年は伯爵婦人が導くまま突き入れた。
マーラは大きな声を上げて反応し、少年の男根と性技をほめたたえてすすり泣く。
ひとしきり悶えた後、射精し終えた少年が腰を引くと、マーラは自分の性器から逆流してくる精液を見つめて声を上げた。
「――すごい、たくさん出したのね。私の中、あなたの精液でいっぱいよ」
年かさの少年たちは、伯爵婦人の相手が巧みなだけでなく精力も強いことに三度驚いた。
伯爵婦人に絶賛されながら、ルークはこそばゆい気持ちだった。
実は、少年は三度も絶頂を迎えてマーラの中に放っていた。
三回分の精液なら量も多いのも当然だ。
伯爵婦人は小声で指示を出し、励ましながら上手に身体を動かして、まるでそれが一回の性交であるように見せかけた。
おかげで最も未熟な少年は、もっとも巧みな男という認識を年上のライバルたちに植え付けることに成功した。
マーラはにんまりと笑った。
自分の男に、出来る限りの面目を施させること、それが彼女の愉しみ方だった。
「あなたはどうするの? ――アリソン?」
ダイアナ公爵婦人は侯爵家の跡取りに視線を向けた。
享楽の坩堝にとびこんだ少年たちの中で、アリソンだけがただ立ち尽くしている。
「僕は……」
明確な答えがないまま、アリソンは口ごもった。
壁に貼り付けられているミッチェルを見る。
伯父の死体を見せられた上鎖で縛られた彼の婚約者は、精神的にも肉体的にも消耗しきったらしく、うなだれたままだ。
「……彼女を離してもらえません……か?」
勇気を振りしぼって交渉してみたが、公爵婦人は見事な金髪で覆われた頭を振った。
「それはだめね。――この娘はトレボー陛下のハレム行きなの。
陛下にはたくさんの女が必要なのよ。あなたとの婚約も今日で解消」
(――陛下は男もたくさん必要なので、あなたたちもまずはハレムに入ることになるんだけどね)
ダイアナはその真相は口にしなかった。
<貴婦人>たちの盟友、<ソフトーク・オールスターズ>のタック司教が
彼らの支配者について調べ上げた伝承についてを、
生まれて初めての愉悦にひたっている少年たちに、今は教えないでおくのは彼女なりの優しさだった。
アリソンは押し黙った。
王権と公爵たちへの忠誠、突然の婚約解消、目の前の虐殺と快楽の饗宴。
──どれも優柔不断の少年を困惑させるできごとだ。
「……本来なら、すぐに忠節を誓わない人間は即座に粛清なんだけど……」
ダイアナは形の良い唇に人差し指を当てながらつぶやいた。
「あなたについては、私でなく、他の<貴婦人>の管轄なのよね。童貞を奪ってあげるのも彼女の仕事。
──まあ、事が上手くはこんだら、彼女ではなくて私がお相手してあげることになるんだけども」
アリソンは、ダイアナの、不気味な要素を含む独り言に気づかなかった。
すぐ後ろの戸口で、大声が上がったからだ。
「これはっ……評議長っ!?」
アリソンの叔父、いまや最後の公爵となったジークフリード公が、部屋の惨状に愕然としているところだった。
「これは、一体どういうことだ!!」
ジークフリード公爵は怒鳴った。
「見てお分かりになりませんか? ――ここはトレボー王軍に占拠されました」
ペトリの股間に顔をうずめ、熱心にフェラチオに励んでいたカディジャール婦人が顔を上げて答えた。
妖艶な声が妙にくぐもって粘っこいのと、その前の数秒間ペトリがうめき声を上げ、身体を震わせていたことで、
今、貴婦人の口の中に何がたまっているのかは明白だった。
「トレボー王……!?」
壁に掛かる軍旗を見つめ、ジークフリード公は愕然とした。
同時に、聡明な公爵は事態の真相を悟った。
「王政復古の反乱……か」
「反乱ではありません。――<公爵の会議>はもともと王の不在の期間の暫定政権にすぎませんわ、閣下。
トレボー陛下が御復活なされた今、リルガミンの主は、あの御方を除いて何者も存在しません」
喉を鳴らして口中のペトリの精液を飲み干し、婦人は滑らかになった声で返事をした。
「……しかし、これほどの虐殺と悪辣は、許されるべきではない」
公爵は苦悩の表情で同僚の死体を見つめた。
「――許す、許さないは、トレボー陛下がお決めになられることですわ。閣下が決めることではありません」
立ったままの姿勢でコーマックカイルと交わっているアンバー伯爵婦人が釘を刺した。
背が低い少年は、伯爵婦人の大きな胸の辺りで顔を真っ赤にして快楽に耐えている。
公爵は伯爵婦人に反論しようとしたが、妖艶な婦人は議論よりも少年の反応に興味が移ったようだった。
「もう、出そう? ――いいのよ、私の中にいっぱい出しなさい」
許可のことばを聞くや否や、少年は声を上げてのけぞった。
アンバー伯爵婦人は少年を抱きかかえて支え、密着した腰を小刻みに揺らした。
目を閉じて自分の内部で脈打つコーマックカイルの分身の動きを愉しむ。
少年は、自分のすべての精液を年上の女性の子宮に捧げた。
最後の一滴まで射精し終えた少年ががっくりと力を抜くと、
婦人はその頭を抱え込んでキスを与え、耳元で優しくささやいた。
「ん……いい子ね。私の命令どおり、たくさん出したこと。これであなたも一人前の<男>と認めてあげる」
荒い息をついた少年が潤んだ瞳で婦人を見上げる様子を、公爵は最後まで見届けなかった。
「これが……こんな破廉恥が、リルガミンの支配者がすることなのか!
──王が認めようとも、私は認めん!
剣を拾え、<貴婦人>たち! ――鎧を着けるまでは待ってやる」
公爵と<バラの貴婦人>は、レベル的には互角。
体力で公爵たちがやや勝り、また常に男を立てる<貴婦人>の風習から、
爵位だけでなく騎士としても公爵たちが上位にあるが、
その差が絶対的なものでないことをジークフリード公は知っていた。
完全武装の<貴婦人>五人を相手には、自分が勝利できないことは承知の上で、正々堂々の決闘を申し込む。
「裸の女相手には本気になれないと言うのですね、古風なこと。
……そういうところが好ましかったのですが」
ペトリを抱きながらカディジャール婦人はつぶやいた。
しかし、公爵の要求に応じて傍らの剣や鎧に手を伸ばすそぶりを見せない。
まるでその必要がないかのごとく。
「……では、私がお相手いたしますわ。――あなた」
背後からあがった応戦の声に、公爵は愕然として振り返った。
彼の妻―ワンダ公爵婦人が、彼に刃を向けていた。
「……」
公爵が動揺したのは一瞬だった。
「……お前も、トレボー王の側についていたのか……」
「リルガミン貴族なら当然の選択でしてよ。あなたもそうしてくだされば良かったのに……」
「――お前はそういう女だったよ、ワンダ」
公爵はあらゆる感情を殺し、無表情で呟いた。
彼の妻は、貞淑と淫乱を同時に満たす稀有な女性だった。
彼にとっては最高の伴侶だったが、それはつまり、彼女の本質が、権力と快楽に従順な女と言うことだった。
公爵がリルガミンの支配者であるとき、彼女は彼にすべてに従ったが、
王が帰還するならば、そちらにすべて従う。
トレボー王は、公爵よりも強い権力と、おそらくは大きな快楽を彼女にもたらすのだろうから。
最後の最後の裏切りを、ジークフリード公はむしろ納得して受け入れた。
「――お前だけは、斬っておく」
決然として公爵は剣を構えた。
剣技は互角。
――ワンダは恐るべき使い手だが、一騎打ちならば体力の分だけ公爵が有利だ。
この戦いの後に残りの五人になぶり殺しにされてもかまわない。
公爵は全力で斬りかかった。
夫の鋭い連撃に、婦人は防戦一方になった。
公爵は、防御をまったく考えていなかった。
どの道、死は覚悟していたし、たとえ、反撃を受けてもこの女一人を殺すまでの体力は自分にはある。
だから、婦人の最初の反撃が肩口に伸びても、
鎧で受けてダメージを最小限に抑えるだけですぐに攻勢に戻ろうとした。
――その一撃が、公爵の鎧を紙のごとく切り裂き、肋骨を切り下ろして肺腑に、心臓にまで達するとは!
「こ、これは!?」
血反吐を吐いてよろめきながら、公爵は自分を切り裂いた婦人の剣を見た。
「……<オーディンソード>。一撃必殺の魔力を持つ、至高の剣ですわ。
トレボー陛下が<地獄>よりお持ちになった魔品のほんの一振り」
「……っ!」
公爵の瞳が急速に光を失った。その長身がひざから崩れ落ちる。
ワンダ公爵婦人は夫の死体をしばらく見つめていたが、やがてにっこりと笑って振り向いた。
――アリソンのほうを向いて。
「ふふふ、私、未亡人になっちゃった。……ねえ、アリソン、傷心の女を慰めてくれないかしら?」
――叔母とも慕っていた婦人の手でズボンと下着を脱がされて、アリソンはがくがくと震えた。
ジーク叔父さんが目の前で殺されたことも、その殺戮者が妖艶な笑みを浮かべて迫ってくることも彼を混乱に陥れた。
アリソンは頭を振った。
壁にミッチェルの姿を求める。
ミッチェルはこちらを見ていた。いつの間にか、ダイアナ公爵婦人が彼女に猿轡をかませている。
婦人は少女のおとがいに手をかけ、これから彼女の元婚約者に起こる出来事をみせようと顔を上げさせている。
侯爵の跡取り娘はいやいやと首を振って逃れようとするが、婦人は強固に押さえつけた。
「ミッチェルのことが気になるの? ――私よりも」
ワンダは弄うような表情で子供のように可愛がっていた少年を見つめた。
「あ…いえ……」
アリソンは小さな声で否定しようとして、それを言えずに飲み込んだ。
「優柔不断な子ね。でも、そこがあなたの可愛いところよ。
――いいわ、筆おろしの前にちょっと楽しませてあげるから、その間に決心なさい」
ワンダ公爵婦人はアリソンの縮こまった性器に顔を近づけた。
人妻――いや未亡人がためらいもなく少年のものを口に含んだ。
少年はのけぞった。見る見るうちに男根が大きくこわばる。
「ふふ、さすが、若いわね。――あの人のよりも立派よ」
無念の表情を浮かべている夫の死体を一瞥して、夫人は舌技に熱を入れ始めた。
アリソンの体が海老のように何度も跳ねる。
「どう? ミッチェルに見られながらしゃぶってもらうのは気持ちいいかしら?
……それとも、元婚約者のために操を立ててみる?
百数えるまでの間、私のフェラチオに耐えられたら、彼女を自由にしてあげても良いわよ?」
ダイアナがにやりと笑った。
気にしていない風でいて、ワンダは相当怒っているようだ。
ワンダは、容赦しなかった。
夫にも使ったことのないとっておきの技をおしみなく投入して性交経験のない少年をなぶる。
ダイアナが十を数えるまでもなく、アリソンは婦人の口の中に射精してしまった。
「あらら、残念。――あなたの元彼氏、あなたのために頑張る気がなかったみたいね」
金髪の公爵婦人はくすくす笑いながらミッチェルの顔を覗き込んだ。
少女は涙を流して顔を背けた。
「ああ、おいしかった。
――アリソンったら、私に飲ませるためにすごく濃いのを出してくれたのね。……可愛い子」
勝ち誇った微笑を浮かべたワンダは立ち上がった。
唇の端から滴る精液を上品に舐め取る。
無残な表情で自分から顔を背けるミッチェルをみて、アリソンの胸は慙愧の思いでいっぱいになった。
――そのとき、翼を持つ蜥蜴が一羽窓から飛び込んできた。
部屋中を飛び回って六人の<貴婦人>たちの耳もと次々に何かを吹き込む。
「……そう。陛下のハレムに、男の子はいらないのね」
タック司教からの緊急連絡にカディジャール婦人は顎に手を当てて数秒考え込んだ。
ペトリが彼女の上に覆いかぶさって必死に腰を振っている。
目をつぶり、快楽を振り絞っている少年は蜥蜴が飛び込んできたことも認識しなかったようだ。
婦人はにっこりと笑うと、手を伸ばし、少年の睾丸を掴んだ。
――自然な動作で、そのまま握りつぶす。
ペトリは悶絶してのけぞった。
人生最後の射精を婦人の膣でなく、空中にむなしく跳ね上げながら後ろに倒れこむ。
床に転がったとき、もうペトリはショックによる死亡反応が始まっていた。
他の<貴婦人>たちもつぎつぎに情交の相手の睾丸を握りつぶしていく。
「……残念ね、坊や。陛下はこれ以上味方の貴族は要らないんですって」
クリーシャが泡を吹いて悶え苦しむさまを見下ろしながら、クネグナンダはつぶやいた。
「……せっかく大人になったのに、かわいそうな子」
聖母のような優しい微笑を浮かべながら、痛みとショックに跳ね回るルークを眺めたマーラが言った。
「……あら、運がよかったのね、あなた」
苦しむことなく一瞬で死んだコーマックカイルに投げキッスを与えてアンバーが笑った。
<貴婦人>たちが仲間を虐殺していく様を目の当たりにして、
アリソンは金縛りにあったように動けなくなった。
ワンダに射精させられた姿勢のまま、石の床にぺったりと座り込んでおろおろと周りを見渡す。
目の前にすらりとした足が立った。
視線を上げると、公爵婦人が彼を見下ろしていた。
「……優柔不断のせいで、あなただけとうとう童貞を捨てられなかったわね。
――次に生まれてくるときは、決断を早めにする男におなりなさい」
ワンダが片足を上げた。
石床の上のアリソンの男根と睾丸の上に乗り、踏み潰す。
アリソンは白目をむいて転がった。
自分の与えたショックと苦痛が、十分に死に至る深さであることを歴戦の戦士の経験から確認し、ワンダは振り向いた。
「――!!」
猿轡の下で声にならない悲鳴を上げてアリソンの死を見つめる少女に、優しく微笑む。
「さあ、これで貴女の過去もすっかり清算できたわ。頭を切り替えて陛下にご奉仕しなさい。
――そんな顔をしないで。上手くいけば、貴女、女王になれるかもよ。そのときは私たちに感謝してね」
そして<貴婦人>たちはいけにえの少女を抱え上げると、彼らの主君のいる迷宮に向かうべく、リルガミンを後にした。